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第十三章 新婚旅行編其の一 東に向かうにゃ~
355 決着したのだが……
しおりを挟む「【青龍】×2にゃ~!」
わしが放つは、氷で作られた龍。普段は10メートルぐらいで使っていたのだが、白クワガタは二匹居るので、少しケチって5メートルで統一した。
二匹の氷の龍は飛ぶ軌跡を凍らせ、白クワガタに突撃する。
10メートルほどの白クワガタは、六枚のハサミの刃を同時に閉じて攻撃しようとしたが、【青龍】はスルリと擦り抜けて首に絡み付いた。そうすると、白クワガタは【青龍】を振り払おうと暴れ出す。
20メートルオーバーの大白クワガタに向かった【青龍】も、八枚のハサミの刃を避けようとしたが、残念ながら素早さを見誤って挟まれてしまった。
だが、【青龍】は生き物ではない氷で作られた龍。砕かれた体を使い、ダイヤモンドダストの如く吹き付けた。
二匹の白クワガタが【青龍】に戸惑っている内に、わしは変身魔法を解いて猫又に戻る。そして、肉体強化魔法で身体能力を跳ね上げ、大白クワガタに向かって走り、頭を下からネコアッパー。
少し浮いたが、ひっくり返るにはまだまだ浅い。なので、跳び上がってネコパンチネコパンチネコパンチ。大白クワガタの体を、地面から45度の角度にまで持って行く。
もう少し続ければひっくり返るかと思えたが、大白クワガタは羽を広げようとする。
このままでは飛ばれてしまうので、作戦変更。空気を蹴って、腹に突撃。一瞬で十発のネコパンチを入れて、ぶっ飛ばしてやった。
大白クワガタは地面と平行に飛び、黒い木を薙ぎ倒しながら遠くに吹っ飛んだので、この間に白クワガタの処理。
白クワガタは【青龍】を振り払おうと暴れているので、三発の【三日月】を飛ばして傷を負わす。脚を切り落とすつもりで放ったが、関節から外れてしまい、切断とはいかなかった。
だが、二本の脚は今にも千切れそうなので、動きが鈍るのは必至。トドメに移行する……が、大白クワガタが戻って来てしまった。
大白クワガタは空を飛び、【風の刃】を放ちながら戻って来たので、わしは大きく横に跳んでかわす。それでも大白クワガタは、【風の刃】を放ちながらわしを追い掛け、白クワガタから遠ざけられてしまった。
なので、標的を空を飛ぶ大白クワガタに変更。【鎌鼬】で牽制しつつ近付こうとするが、横からも白クワガタの【風の刃】が飛んで来て、接近戦に持ち込めない。
なかなかのコンビネーションじゃな。どちらか片方を潰したいんじゃが、接近させてくれん。避けた瞬間、間髪入れずに【風の刃】が来るから、大魔法を使う余裕も無いし……
「シラタマ殿~~~!」
わしが白クワガタの猛攻を捌いていると、メイバイの声が聞こえて来た。どうやら黒クワガタは、ほとんど戦闘不能に追いやったようだ。
わしはその声に視線だけ送り、無茶な行動に出る。
大白クワガタの魔法は痛そうじゃから……。ぐぅ……
大白クワガタの【風の刃】を避けたわしは、白クワガタの【風の刃】を甘んじて受ける。そして【鎌鼬】を白クワガタに放って駆ける。
白クワガタは、わしの行動を見て【風の刃】を立て続けに放ち、【鎌鼬】の威力を削いで消し去る。当然、【鎌鼬】が消えるとわしに【風の刃】が当たるが、歯を食い縛り、痛みに耐えて突撃。
白クワガタのハサミがわしを挟む前に、頭突きを入れてやった。
すると白クワガタは、凄い速度で吹っ飛び、メイバイ達が居るであろう方向に向かって行った。
ふぅ……ちょっと怪我したか。まぁわしの毛皮の防御力なら、かすり傷程度で済んだな。
メイバイ達に送った白クワガタは強いけど、ダメージもあるし、四人がかりなら、時間を稼いでくれるじゃろう。
さあてわしは、大白クワガタをどつき回してやる!
わしは気合いを入れ直し、大白クワガタに突っ込むのであった。
* * * * * * * * *
シラタマが大白クワガタに向かった直後、リータ達は白クワガタの前に立っていた。
「まだシラタマさんのダメージが残っています! いまの内にダメージを稼ぎましょう!」
「はいニャー!」
「ん!」
「うん!」
リータの指示に、メイバイ、イサベレ、コリスは四方に散らばり、フラフラしている白クワガタに最大攻撃を繰り出す。
リータは白クワガタのボロボロの脚に、拳をぶつけて千切ってしまう。その隣にある脚も、千切れないかと殴り続ける。
メイバイとイサベレは、リータとは逆に動き、脚の関節の隙間に、ナイフやレイピアから伸ばした光の剣を、滑り込ませて斬り落とそうとする。弱点であっても太い脚を斬り落とすには、時間が掛かる事となった。
コリスはこの中で一番強いので、一番危険な場所。頭に飛び乗り、リス百烈拳でボコボコに殴って白クワガタの回復を遅らせる。
そうして皆でボコボコにしていると、白クワガタの動きが変わった。
「撤収です!」
リータの合図で、皆は白クワガタから離れ、一ヶ所に集まる。
「こちらは二本、脚が使い物にならなくなったと思います」
「こっちも一緒ニャー」
「ん。戦えてる。でも、移動方法は他にもあるみたい」
「はい。先に羽を潰したかったですね」
「背中は硬いから、贅沢は言えないニャー」
「ですね。シラタマさんが戻るまで耐えましょう。もしもチャンスがあれば、羽を狙いますので、覚えておいてください」
これより、リータ達に空から【風の刃】が降り注ぎ、避ける事に集中せざるを得なくなる。避け切れない場合はリータの盾に隠れたり、コリスの【鎌鼬】で相殺させ、防戦一方となるのであった。
* * * * * * * * *
リータ達が防戦を繰り広げている中、わしは大白クワガタとの決着を急ごうと、空中戦を繰り広げていた。
空気を蹴り、【風の刃】を掻い潜り、接近戦に持ち込もうとするが、脚で薙ぎ払われ、ハサミで攻撃され、上を取れない。
接近してから【三日月】を放つが、大白クワガタは思ったよりも機動力があり、凄い速度で飛び回ってかわしてしまう。
くっそ~……なんちゅう飛び方をしよるんじゃ。縦横斜め、自由に行き来するから動きが読めん。もしかしたら、鳥より飛ぶのが上手くないか?
背中に乗りさえすれば王手なんじゃが、それをさしてくれん。向こうも必死か……
ならば……。【爆弾蝶】×10! 行け!!
わしが放つは風魔法で作られた蝶。ただし、胴体部分は圧縮した空気で出来ているので、触れれば爆発を引き起こす。
その蝶を、大白クワガタの四方八方に配置し、チャンスが来るのを待つ。
【三日月】を放ち、空を駆け、ハサミを避け、脚を受ける。わしと大白クワガタは熾烈な戦いを繰り広げ、数分が過ぎた頃、それは起こる。
大白クワガタの羽が【爆弾蝶】に触れたその瞬間、爆発が起こり、大白クワガタの動きが一瞬止まった。
来た! 残りもくれてやる!!
わしはチャンスとばかりに、九匹の蝶を一斉に突撃させる。四方八方から迫る蝶は間隔を狭め、大白クワガタの逃げ場を無くし、接触して爆発音が鳴り響く。
しかし、その爆発は小規模。大白クワガタの硬い甲羅には傷すら付かない。だが、一匹の蝶が羽の付け根に当たり、大白クワガタはガクンと落ちる。
その瞬間を見逃すわしじゃない。蝶を操作した直後、空を駆けていたわしは、楽々大白クワガタの背中に飛び乗った。
王手じゃ! 【光一閃】!!
わしは爪から光の剣を伸ばし、まずは片羽を切り落とす。
まだまだ~!
そして、引っ掻き引っ掻き引っ掻き。猫が家の柱を爪で引っ掻くように、長い光の爪で甲羅の内側を掘り進める。
そうして腹まで貫通すると中に戻り、頭に向かって掘り進める。
むっ……硬い……頭まで来たかな?
わしの予想は大外れ。掘った穴は右に曲がり、首にも届いていない。
念の為、新光魔法……【針千本】じゃ~!!
【針千本】とは、なんの事はない。【光一閃】を自身の体から数十本、突き出しただけの魔法。ちょうど体内に居たので、指切りの「針千本の~ます」からいただいた魔法名だ。
しかし、体内でそんな攻撃をされた大白クワガタはたまったものじゃない。体内から数十本の光の槍が飛び出し、そこから体液を吹き出す。
腹に大穴を開けられ、体中を穴だらけにされた大白クワガタは落下に抗えず、地面に激突して、轟音と共に砂煙を撒き散らすのであった。
大白クワガタの体内で大きな衝撃を感じたわしは、掘った穴を戻り、モソモソと外へ出る。
ふぅ……体液まみれじゃ。このままでは気持ち悪いし、シャワーを浴びておこう。身だしなみに気を付けられるとは、わしは出来る猫じゃ。
そうしてわしが水魔法で体を洗っていると、頭の中で声が聞こえた。
なんじゃ?? ……大白クワガタの念話か?
その内容に、わしは愕然として大白クワガタに走り寄り、回復魔法を使うのであった。
* * * * * * * * *
遠い昔、大白クワガタは小さな、それは小さな白いクワガタだった。その小さなクワガタには大きな父がおり、昔話をしてくれていた。
「いいか。この場所は、俺の父親が……お前のじいさんが、一匹で敵から奪い取った場所だ。だから守っていかないといけないぞ」
「ふ~ん……おじいさんは、どこにいったの?」
「凄い戦いだったからな。地は裂け、森は焼け、この辺一帯は住めるような場所じゃなくなったんだ。その時の傷で死んでしまった」
「すめない? 木もいっぱいあるよ?」
「長い時が過ぎて、立派な木が生えたんだ。だから、じいさんの残した場所を、俺は守っているんだ」
「へ~。じゃあ、ボクもまもる~」
「その意気だ! ただし、白くて丸い、尻尾の二本ある奴には気を付けるんだぞ。小さいが、それが強いじいさんを倒した奴だからな」
「うん! みつけたら、ボクがやっつけてやる~」
その百年後、父は縄張りを守って亡くなり、息子は跡を継ぎ、大きな白いクワガタとなって、縄張りを守り続けたとさ。
* * * * * * * * *
待て! 死ぬな!! ……ダメじゃ。わしの回復魔法では、虫は治せん。人間や動物と構造が違い過ぎる。
くっそ~! ああ……死んでしもうた……
わしは息を引き取った大白クワガタを見つめ、先ほど聞こえた念話の内容を思い出す。
わしがじいさんの仇じゃと? 有り得ん! ……と言いたいところじゃが、可能性がひとつある。わしの先祖じゃ。
白い猫又……もしかすると、わしの先祖は白いクワガタと戦って、怪獣大戦争をやったんじゃなかろうか? そうなると、舞台はこの近く……
わしのルーツを知れる絶好のチャンスじゃったのに、わしの手で消してしまった。もっと早く、こいつが念話を繋いでくれておれば……
結果論じゃな。こいつは最初から、わしを殺しに来ておった。話し合う余地もなかった。
まぁ他人の空似って可能性もデカイか。白くて丸い二尾なんて、コリスだってそうじゃもんな。見たところ、五、六百年生きているじゃろうし、様々な獣と出会っているはずじゃ。
そんな奴の言葉を真に受けるのは、時間の無駄じゃろう。
「シラタマさ~ん」
「シラタマ殿~」
「モフモフ~」
「ダーリ~ン」
わしが大白クワガタを見つめ、様々な思いを抱いていると、リータ達の嬉しそうな声が聞こえて来るのであった。
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