アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~

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第十四章 新婚旅行編其の二 観光するにゃ~

396 一触即発にゃ~

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 シラタマ単独で工場見学をしていた頃、リータ達は朝から寄席に入り、落語や漫才をゲラゲラ笑って見ていた。昨日とは同じネタは何ひとつ無く、見たがっていた「猫皿」はなかったのだが、それでも満足したようだ。
 それからお昼が来ると、客席でドカ弁やおやつを食べて腹を満たし、昼からの演目もゲラゲラ笑う。

 夕刻近くになると寄席を出るのだが、皆、表情筋や腹筋がバカになっているようだ。

「うぅ……笑い疲れました~」
「お腹が痛いニャー」
「私はいま、どんな顔してる?」
「おもしろかった~。ホロッホロッ」

 リータとメイバイとイサベレはお疲れになり、コリスは楽しそうに「ホロッホロッ」と歩いていると、行く手を阻む者が現れる。

「異国の王の従者様ですね。どうかお話を!」

 タヌキ侍だ。シラタマは動き回って居場所が特定しにくいので、寄席に来ていたリータ達に標的を移したようだ。
 リータ達はどうしたものかと考えて、念話の説明をしてから話をする。

「えっと……シラタマ陛下は、明日には暇が出来るので、それまで待ってもらえませんか?」
「それが、城主様が一刻も早く会いたいと申しておりまして、連れて行かないわけにはいかないのです」
「あまりしつこくされるとねるので、逆効果ですよ。それに私達に言われても、決定するのはシラタマ陛下なので、無意味です。お引き取りを」

 リータは優しく受け答えし、タヌキ侍から離れようとするが、それでも引き下がらないタヌキ侍。それどころか、あからさまに不機嫌な顔を見せる。

「男がこれほど丁寧に頭を下げているのだから、女は素直に『はい』と答えんか!」

 タヌキ侍に怒鳴り付けられたリータは、キョトンとしながら質問する。

「あの……急にどうしたのですか?」
「女は男を立てるもの。それすら異国の者は知らないとは、どういう教育を受けているのかが、高が知れるな」

 タヌキ侍達が、ガハガハ笑い出すと、メイバイが不機嫌な声を出す。

「男と女で位が違うとでも言いたいニャー?」
「その通りだ。男のほうが偉いに決まっておろう」
「いい加減にするニャー! シラタマ殿は、女性だからって差別することないニャー!」

 メイバイがタヌキ侍に食って掛かろうとするので、リータは体を抱いて止めに入る。

「メイバイさん。問題を起こしては、シラタマさんに迷惑が掛かります」
「でも……」
「皆さんも、今日のところはお引き取りをお願いします。行きましょう」

 リータはそう言うとメイバイ達を連れて離れようとするが、タヌキ侍はリータの腕を掴んで止めた。

「待て!」
「離してください!」

 リータは軽く腕を振り払う。

 ドーン! ゴロゴロ、ドッシャーン!!

「あ……」

 リータは、自分では軽く振り払ったつもりだが、タヌキ侍は吹っ飛ばされて地面を転がり、壁にぶつかって止まる事となった。

「貴様ら~! 女子おなごだと思って優しくしておれば、いい気になりやがって~!!」

 リータの行動で、タヌキ侍は待ったなし。刀は抜かないようだが、リータ達を囲んで一触即発の事態となった。

「うぅ……軽く振り払ったつもりでしたのに……」
「リータは馬鹿力だからニャー。私も気を付けないとニャー」
「シラタマさんに気を付けろと言われていたのに……」
「まぁやってしまったものは仕方ないニャ。シラタマ殿は殴ってもいいと言っていたし、向こうにも非があるニャー」
「……そうですね。イサベレさん。武器は必要だと思いますか?」
「この程度なら、いらない」
「でしたら、気絶程度で倒して逃げちゃいましょう」

 皆が頷くと、リータはメイバイに挑発するように指示を出して、メイバイは応える。

「女の細腕でちょっと押しただけなのに吹っ飛ぶなんて、この国の男は、こんなに弱いんニャー」
「なっ……」
「どうりでシラタマ殿に相手にされないわけニャー」
「くっ……女子の分際で……お前達、武士に手を上げた現行犯で捕らえるぞ!」
「「「「「おう!」」」」」

 タヌキ侍達は力強く返事をすると、一斉に飛び掛かる。

 リーダー格のタヌキ侍の思惑は、リータ達を無傷で捕らえ、五条城に連行したあとシラタマをおびき寄せて、今回の件は水に流すと言って貸しを作ること。
 先にリータに触れたのはタヌキ侍なのだが、暴力を振るったのはリータが先。捕らえるには正当な権利があるので、捕らえても何も問題ないと思っているのだが……

「う、嘘だろ……」

 タヌキ侍達は、あっと言う間にリータ達にボコられて、一人を除いて地に倒れてしまった。

「やってしまいました……」
「私もニャ……」

 リータの殴ったタヌキ侍は、胸が陥没して肋骨が肺に刺さったのか、血を吐いて倒れている。メイバイが殴ったタヌキ侍は、顔面が陥没して息が出来ないのか、ヒューヒュー音が漏れている。

「コリス! あっちのタヌキをお願い! 私はこいつをみる!!」
「うん!」

 イサベレとコリスは手加減が上手くいっていたらしく、慌てて治療にあたる。イサベレは百年生きた経験から手加減が上手く、コリスはシラタマから習っていたので手加減が上手かったので、気絶程度で倒していた。
 二人は回復魔法を使うが、コリスはシラタマから習っていたから治すのが早い。しかし、イサベレはそこまで得意ではなかったようで、命を繋ぐ程度。コリスが一人を治したあとに代わっていた。

 そうして治療が終わると、あわあわしているリータの代わりに、イサベレが前に出てタヌキ侍に念話を繋げる。

「わかっていると思うけど、死人が出なかったのは、私達がかなり手加減したから。もしもまだやると言うのなら、手加減しない」
「くっ……くそ~!!」

 イサベレの忠告に、タヌキ侍は刀に手を掛けるが、イサベレは柄を押さえて優しく語り掛ける。

「お願い。シラタマはこんな事を望んでいない。おとなしく引いて」

 見詰め合う二人。その時間は数秒で、先に目を逸らしたのはタヌキ侍。膝を突いて、項垂れるしかなかった。

「行こう」

 イサベレが周りを見渡すと、多くの民に見られていたので、戦意を失ったタヌキ侍からダッシュで離れ、池田屋に帰るリータ達であった。


  *   *   *   *   *   *   *   *   *


 わしは工場見学を終え、平賀家で現像を頼み、御所で玉藻と雑談したあと、京の街をブラブラと歩いて池田屋に戻る。
 そうしてご機嫌で部屋の戸襖ふすまを開けたら、ご機嫌でない皆に一斉に見られてしまった。

「にゃ? みんにゃどうしたにゃ?」
「実は……」

 珍しくイサベレが事情を説明するので、少し驚きながら話を聞くと、暗い顔をしているリータとメイバイの頭を撫でる。

「まぁいいにゃ。気にするにゃ」
「でも、シラタマさんに、あれだけ言われていたのに……」
「私も人を殺すところだったニャ……」
「ちょっと強くなり過ぎただけにゃ。わしがみんにゃを焚き付けたのも悪かったんにゃし、お互い反省しようにゃ」
「シラタマさ~ん!」
「シラタマ殿~!」

 リータとメイバイが抱きついて来たので優しく抱き締めるけど、わしにも手加減して欲しい。かなり苦しかったので、ギブアップタップしてしまった。

 二人が落ち着くと、褒めて欲しそうなコリスを褒めちぎり、褒めて欲しそうなイサベレは頭を撫でておく。でも、わしの息子さんに手を伸ばさないで欲しい。コリスがマネするかもしれないから、マジでやめて欲しい。


 そうして反省が済むと、寄席で見て来たという「寿限無じゅげむ」を何度も聞かされ、うっかり間違っている箇所を指摘したら、何席も「寿限無」をやらされてから眠るわしであった。

「「「「じゅげむじゅげむ……」」」」
「も、もうやめてくれにゃ~~~」

 しつこく「寿限無」をやらされたわしは、皆の寝言にうなされるのであったとさ。


  *   *   *   *   *   *   *   *   *


「お、女にやられただと~!!」

 五条城では、タヌキ侍から報告を聞いたタヌキ城主は怒りをあらわにする。

「百歩譲って、女を連れて来る策は良かったが、女ごときに何を負けている!」
「も、申し訳ありません。しかし、私どもが手も足も出ない猛者でしたので、全て王を護衛する者だったかと……」
「女が護衛だと!?」
「はっ! 間違いないかと……いま考えると、あの化け物が渦巻く海を越えて来た者達です。弱いわけがありません」
「言い訳するのか! もういい! 他の者に任せる!!」
「は、はい……」
「処分は追って伝える。覚悟しておけよ……」
「は、はは~」

 タヌキ城主の低い声に、タヌキ侍は冷や汗を垂らして下がって行く。それから今日も、宴に出す予定だった料理をがっつき、他のタヌキ侍に指示を出して、苛立ちのまま眠りに就くタヌキ城主であった。


  *   *   *   *   *   *   *   *   *


 わしは朝目覚めると、皆の「寿限無」に耳を塞いで朝食をいただき、ちょっとランクを落とした正装に着替える。イサベレにはメイバイのスペアを。コリスにはピンクのワンピースを着てもらった。
 着替えが済むと池田屋を出るのだが、いつにも増して、大勢のタヌキ侍が待ち構えていた。

「またお前らにゃ~? もう見飽きたにゃ~」
「今日こそは、城に参っていただけるのですよね?」
「さあにゃ~?」

 わしは惚けて言ってみると、タヌキ侍にジロジロと見られる。

「その素晴らしい着物は、城主様と会うからかと見受けられます。ささ、あちらに馬車を用意しておりますので、どうぞお乗りください」
「にゃ? これから御所に行くから綺麗にゃ着物を着ているだけにゃ」
「え……」
「それともにゃにか? 天皇陛下との謁見えっけんよりも、城主と会う事を優先しろと、わしに言うつもりにゃの?」
「い、いえ……」
「じゃあ、道を開けろにゃ~~~!!」

 さすがに、この国で一番偉い天皇の力は絶大で、タヌキ侍からの追求は無く、綺麗に道を開けてくれた。
 その道を、わし達はズカズカと歩き、真っ直ぐ御所へと向かうのであった。


  *   *   *   *   *   *   *   *   *


「なんだと!? 今日は暇だと言ってたくせに、御所へ行っただと!!」

 タヌキ侍から報告を聞いたタヌキ城主は、朝から機嫌を害して叫ぶ。

「はい。天皇陛下と謁見するとおっしゃっていまして……」
「くっ……またしても、宴の準備が台無しだ……」

 今日も座敷を用意し、今か今かと待っていたタヌキ城主は、苛立ちを抑える為に宴の料理をかっ食らう。
 三日連続の暴飲暴食で、タヌキ城主の腹はまん丸。元の姿から、さらにでっぷりとなったタヌキ城主は、それでも食べ続けてお昼前……

 タヌキ侍が座敷に駆け込んで来た。

「何事だ!!」

 礼儀をわきまえずに入って来たタヌキ侍に、一喝するタヌキ城主。タヌキ侍は慌てて土下座をし、申したてまつる。

「火急の知らせの為、申し訳ありませんでした!」
「火急だと?」
「天皇家の牛車がこちらに向かっております」
「どうせいつものように素通りして行くのだろう。城内の者を並ばせて、頭を下げさておけ。しかし、これのどこが火急なのだ……」

 タヌキ城主はいつもの指示を出したあと、全然急ぎではなかった事に気付き、タヌキ侍を睨む。

「それが、その後ろに馬のいない馬車が動いていまして……」
「馬車? 電車じゃなく、馬車なのか?」
「おそらくは電車のような乗り物なのでしょうが、そのような珍しい乗り物ならば、もしかすると……」
「異国の者が乗っていると……」
「如何いたしましょう?」
「う、宴の準備だ! それと侍達を全員で出迎えに向かわせろ!!」
「はっ!!」

 タヌキ城主の命令を聞き、五条城では急展開で宴の準備が始まり、城の門に多数のタヌキ侍が整列するのであった。


 シラタマが乗るバスが五条城の門に横付けされると、リータ達からバスを降りて入口に並び、リータとメイバイがカンニングペーパーを見ながら口上を述べる。

「シラタマヘイカのおナ~リ~」
「ミナのモノ、ヒカエおろうニャー」

 二人の口上のあとに、堂々とバスから降りる白い猫が現れる。

「にゃはは。わしが天下のシラタマ王にゃ。頭が高いにゃ~。にゃははは」
「「「「「はは~~~」」」」」

 こうしてシラタマは、多くのタヌキ侍が頭を下げる中、五条城に到着したのであった。
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