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第二十一章 王様編其の四 ウサギ族の大移動にゃ~
608 実践訓練にゃ~
しおりを挟むウサギ族移住第六弾も終わったある日、ソウの地下空洞で訓練しているリータ達の元へとわしは顔を出した。
「にゃ! 玉藻も侍攻撃できるようになったんにゃ~」
「はぁはぁ……まだまだじゃ」
玉藻がメイバイのナイフを受けていたから修行の成果は出ていると思ったけど、本人からしたら納得がいっていないようだ。神経を使って疲れているようにも見えるので、お茶に誘って休憩させる。
「ふ~ん。五回に一回しか反応できないんにゃ」
「うむ。普通の兵士ならば余裕なんじゃがな。動きが速いと勝手が違う」
「にゃはは。わしが元に戻すの大変だったのが身に染みたにゃろ~」
「誠に……じゃが、これさえ身に付ければ妾が教えてやれるから、次回の関ヶ原はいい勝負になりそうじゃ」
「関ヶ原……にゃ! 西に強い侍が居たから、指南役に雇ったらどうにゃ?」
「なんじゃと??」
わしが後藤銀次郎を紹介したら、玉藻は興味津々。ざっくりとした住所しかわからないが、道場なんてそこしか無いからすぐに見付かるだろう。暇が出来たら立ち合いに行くようだけど、別に闘わなくてもいいのに……
「あ、そうにゃ。遅くにゃったけど、これ、ちょっと試してくれにゃ」
玉藻に白銀の扇をふたつ渡すと目が蘭々。めっちゃ興奮している。
「お……おお! 三種の神器と同じ色になっているぞ!! まさかあの術まで使えるようになったのか!?」
「なるわけないにゃろ。切れ味がいいだけにゃ」
「何か切らせてくれ!!」
「ほい。そうそう。オニヒメにも作ったから、一緒に試すにゃ~」
「うん!!」
オニヒメ用の白い扇を渡すと、大振りのヤマタノオロチの鱗を出して二人に切れ味を確認させる。メイバイも自分のナイフでも切れるかどうか確かめるようだ。
玉藻の扇は、三倍の圧縮作業でパーツの大きさがまちまちになってしまったので、組み立てが上手くいかなかった。なので削っていたら、まばらに白銀となってしまったので、全て削って色を合わせたのだ。
もちろん刃先も綺麗に研いだので、めっちゃ切れる。開いた状態で振れば、あのヤマタノオロチの鱗すら軽々切れているようだ。閉じた状態でも普通の剣よりよく切れる。まさか鱗に四角く穴が開くとは……
オニヒメの扇は、玉藻より少し小振りで二倍圧縮。刃先しか白銀ではない。豪華さでは負けているが、実はこっちのほうが出来がいい。三本目と言う事もあり、パーツが綺麗に嵌ってくれたので、全体を削る必要がなかったのだ。
二倍圧縮で少し重いが、オニヒメの筋力なら問題ないようだ。当然玉藻の扇よりは切れ味が劣るが、鱗が切れているから十分の切れ味だろう。閉じてもけっこう切れるし……
ただ、オニヒメが玉藻の扇のほうを羨ましそうに見ていたので、こそっと「こっちのほうが出来がいい」と教えてあげた。そしたらオニヒメも、「ケバイからいらない」と言っていた。
メイバイの小刀も、玉藻とオニヒメの鉄扇も試し切りの結果は上々なので、お茶をしながら玉藻と話し合う。
「閉じた状態でも危にゃいし、カバーも付けようかにゃ?」
「う~ん。妾は収納できるから必要ない。オニヒメには付けてやれ」
「わかったにゃ。それじゃあこちらが領収書となりますにゃ」
「領収書? ……なんじゃこりゃ~~~!!」
そりゃ、白魔鉱の三倍圧縮の扇が二本もあれば安いわけがない。素材だけで、村の一年分の予算ぐらいは軽くあるに決まっている。金に無頓着な玉藻でも、西の地を旅した今なら、ゼロの多さに驚いても仕方がないのだろう。
「タダじゃなかったのか……」
「にゃんで家族でもない者にタダでやるんにゃ~。払うって言ってたにゃろ~」
「親友特典というわけにはいかんか?」
「手間賃は、親友特典でタダとなってますにゃ」
「なんで畏まって言うんじゃ?」
「金持ちにゃんだからいまさら渋るにゃよ~」
どうやら玉藻は手持ちが無いから出し渋っているようだ。なので、利息のあるローンを組んで払うかとニヤニヤしながら言ったら、解決策が思い付いたようだ。
「そうじゃ! そちの魔法の中に、妾が狩った白い魚が入っておるじゃろう? そこから差っ引いておいてくれ」
「え~!! 借金地獄に落としてやろうと思ってたのににゃ~~~」
「親友を借金漬けにするな!!」
さすがにこの冗談は笑えないらしく、リータとメイバイにめっちゃ怒られた。
冗談だと言っているのに……本気に見えたのですか。気付かなかったら本当に取ると思ったのですか。さすがリータさんとメイバイさんですね。
わしの考えはバレバレ。この機に玉藻に嫌がらせしてやろうと思っていた事はバレていたようだ。なので、適当な白い巨大魚と白銀の扇を交換。
ハンターギルドの査定に当て嵌めるとおそらく巨大魚のほうが高いので、予想の差額を払ったら、なんだか武器をあげた上にお金を取られた気分になって、わしはいまいち納得がいかないのであった。
「あ、そう言えば、三種の神器の解読はどうなってるにゃ?」
「覚えておったのか……」
「教えてくれるって言ってたにゃ~。やっぱりさっきのお釣り、手間賃代にするから返してにゃ~」
「チッ……仕方ないのう。ほれ」
玉藻はお金を返してくれるのかと思ったら、分厚い紙の束を渡して来た。表紙には「三種の神器の研究書」となっていたのでペラペラ捲ってみたが、漢語ばかりでさっぱりわからない。
「にゃにこれ? ちっとも進んでないにゃ~」
「それがのう。解読に手間取っておるんじゃ……」
どうやら玉藻は、三種の神器に浮かんでいた文字を書き写して、列車の旅の暇潰しにしていたらしい。
書き写した文字は辞書を引いて調べたのだが、載っている文字は極一部。帰国した際には、三種の神器の文字とは告げずに専門家にも見せたのだが、読めなかったらしい。
「じゃあ、ほとんど一から解読して行くんにゃ……」
「妾が生きているうちに終わるかどうか……。ちなみにじゃが、書き写した文字も、千分の一、万分の一ってところじゃ」
「にゃん千年かかるんにゃ~~~!」
いちおう玉藻一族が長年掛けて解読していくらしいが、わしの生きているうちにも無理っぽい。なので、まったく成果がないから「やっぱり金を返せ」と言ってみたら、玉藻は話を逸らす。
「そちは三柱を友達のように呼んでおったじゃろ? 聞いたらすぐわかるじゃないか? 本当に話せるならな」
「あいつらは頼ったら面倒なんにゃ~」
「神をあいつらとか言うな!!」
玉藻がわしを馬鹿にするような言い方をしても、本当に面倒だから関わり合いたくない。ただ、わしが神に対して失礼な事を言ったが為に、玉藻にグチグチ言われて、結局「返金はいい」と言わされるのであったとさ。
これが狙いだったのか……
それからも仕事や訓練や昼寝に明け暮れていたら、ウサギ族の移住は八割方終了。
そろそろ実践的な訓練をしようかと思うわしであったが、相手になるのは玉藻しかいない。だが、玉藻は女性。攻撃が出来ないのでは実践訓練にならないから、苦肉の策で、とある白い森に転移した。
「久し振り~!!」
ここは白銀猫家族の縄張り。息子猫のシルコの殺猫タックルは、全力で受け止めて撫で回す。
「ゴロゴロ~。最近ぜんぜん来ないから、お母さんが心配してたよ」
「あ~……縄張りで問題が起こって忙しかったんにゃ。もう大丈夫にゃから、近々リータ達も連れて来るにゃ~」
「やった! ゴロゴロゴロゴロ~」
シルコはわしの心配をしているのかと思ったけど、リータ達のブラッシングを受けたかったようだ。わしが撫でるより、リータの名を出したほうが喉を鳴らしていたから確実だろう。
「そう言えば、前より力、強くなってない? ゴロゴロ~」
「まぁにゃ。いまにゃらちょっとは相手になるかもにゃ~」
「言ったな~? 本気で相手してやろうじゃないか」
「その前に、お母さん達に挨拶させてにゃ~」
いきなり暴れては両親に迷惑を掛けそうなので挨拶に行ったら、雪だるま猫のダイフクは「やれやれ」と背中を押し、母猫のモナカはわしを心配していたので「大丈夫」と言っておいた。
「ちょっと準備があるから待ってにゃ~」
これから本気を出すのだ。人型から猫又に戻って、さらにズル発動。
【単鬼猫】じゃ!
説明しよう。【単鬼猫】とは、わしが短気な猫と言うわけではなく、肉体強化魔法に全魔力の5倍を加えた物。言霊化する事によってチャージ時間を半分ほどに短縮させた魔法なのだ。
ただの肉体強化ではなく、研究していた鬼化。肉体強化魔法では【50倍御雷】を撃った時より制限時間が短かったのだが、言霊化する事によって制限時間が延びたのだ。
もちろん、二倍、三倍と魔力を増やせば、白銀の角も比例して増やせる。ちなみに二倍だと【弍鬼猫】。三倍だと【参鬼猫】と言った三毛猫みたいな魔法名になる。
その上は……いまのところ考えていない。おそらく【参鬼猫】で、ダイフクぐらい強いから必要ないと思っての判断。一度【参鬼猫】を使ったけど、使いこなせなかったので、ほとんど洒落だ。
約3秒ほど掛けて準備をすると、狭い額に白銀のアホ毛がピョンッと立ったので準備完了。わしは気合いの雄叫びをあげる。
「にゃ~~~ご~~~!! 掛かって来いにゃ~~~!!」
「行っくよ~~~!!」
シルコの一撃目は、銃弾を凌駕する速度の体当たり。おそらく、ミサイルと同程度の威力を持った体当たりだろう。
そんな攻撃でも、いまのわしなら余裕で受けられる。両前脚を前に出して衝撃を減らすように受け止めてみた。
しかし10メートルは押し込まれてしまった。
よし! まったく痛みはない。強さ的にはほぼ同じじゃろうから当然か。
「お~。これならどう?」
シルコの次の一手はネコパンチ。それも手数が多いので、千手観音に見える。
「ホ~……ニャニャニャニャニャー!」
千手観音に対しては、キャット百列拳。名前負けはしているが、手数は同じ。喧嘩して前脚を同時にぶつける猫のように見えるのだろうけど、スーパースローカメラでも映るかどうかはやってみないとわからないだろう。
そんな戦いを制するのは……もちろんわしじゃ!
わしは人間。猫とは違う思考を持っている。シルコのネコパンチを後の先で崩し、先の先でネコパンチ。頭にペチコーンと直撃したが、シルコに耐えられてしまった。
「フシャーーー!!」
今まで余裕を見せていたシルコは、怒ってさらにスピードを上げる。だが、わしは冷静に後の先。今度は体勢がなかなか崩れないが、計算して崩してやれば、腹はがら空きだ。
「キャットキャノンにゃ~~~!!」
そこに、わしの必殺技……と、思っているただの頭突き。この攻撃で体が浮いたシルコは、ダイフクの腹に直撃するのであった。
フフン。さすがはツクヨミ印のアホ毛。手も足も出ないと思っていた白銀猫にも負けておらんのう。
侍の勘もほとんど戻ったし、鬼化も慣れて来た。リハビリどころか何倍も強くなったな。これで目的は達成。訓練はほどほどにしてもいいじゃろう。
訓練の成果にウンウン頷きながら白銀猫家族の元へ行くと、シルコは「フシャーッ!」と怒って向かって来た。どうやらわしに吹っ飛ばされた事で、プライドが傷付いたらしい。
なのでしばらく適当にあしらってやったら泣き出した。
「うぅぅ。僕のほうが強いのに……にゃ~~~」
「あらあら。泣いちゃダメよ」
あ……やっちった。あまり痛い目にあわせるのはかわいそうじゃと思ったけど、逃げ回るほうが悪かったか。
モナカに泣き付くシルコを見ていたら、ダイフクが動く。
「まさか息子が負けるとはな。俺の予想を覆すとは面白い。俺が相手し……」
「私がやるわ! 楽しそうなんだもん!!」
いや、ダイフクより前にモナカが出て来た。名文句みたいな事を言っていたダイフクは口をパクパクして恥ずかしそうにしている。
「あの~? もう疲れたから帰りたいんにゃけど~??」
当然、シルコより倍も強いモナカを相手にするのは心の準備が欲しい。てか、あまりやりたくない。
「そんな楽しそうなことをしておいてそれはないでしょ!」
「いや、その……」
「ちなみに断ったら……わかっているのでしょうね?」
モナカは喋りながら前脚を軽く振った。それだけで地面に深い亀裂が入りるので、わしの選択肢はひとつしかない。
「やらせていただきにゃす……」
だって、あの顔はおっかさん戦闘モードの顔で怖いんじゃもん! 殺気だけでちびりそうなんじゃもん!!
「産みの親ともこんなことがあったな~」と一瞬思ったわしであったが、その時と同じくらいの恐怖で、それどころではないのであったとさ。
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