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第一章
18 管狐 好物が出来る
しおりを挟む俺は管狐。
ピクニックの昼食の際、レベルアップして家族に見えるようになってしまった。
「ヨウコちゃんはモフモフして、触り心地がいいわね」
見えるようになっただけでなく、触る事まで出来るのか。
本当に俺の体に何が起きているんだ?
「ヨウコちゃん。ひよりを助けてくれてありがとう。あなたのおかげで、ひよりが死なずにすんだわ」
礼は受け取るが、大袈裟だ。
迷ったのは、林の中と言っても数分のところだ。
動かなければ、すぐに見付けられたはずだ。
「そうだ! ヨウコちゃんのお弁当もあるのよ。ヨウコちゃんの大好物のいなり寿司。お口に合うといいわね」
そんな事、一言も言っていない。
そもそも、お嬢ちゃんの家で厄介になってから一ヶ月、食事というものを貰った事すらない。
当然だ。
俺は管狐。
お嬢ちゃんから漏れる霊気を吸って生きているからな。
「はい。召し上がれ~」
だから、無理だ。
ご主人様の所に居た時ですら、物を食べた事がない。
「ヨウコも食べなよ~。おいしいよ~」
お嬢ちゃんの命令なら仕方がない。
食べれるかどうかわからないが、努力してみよう。
まずは手を合わせてだったか?
「ヨウコちゃんは、お行儀もいいのね~」
一通りの作法は見ていたからな。
そして、この三角形の物に噛み付けばいいのか。
ガブッ!
これは……うまい!
ジューシーかつ、甘い物が口の中に広がる。
そして、さっぱりする口当たり。
お嬢ちゃんの霊気も美味しいが、これはこれで、違う満足感に満たされる。
「あら? 気に入ってくれたみたいね。もう食べ切ってしまったわ。まだまだあるから、好きなだけ食べてね」
うまい、うまい。
これで五個目だ。
しかし、この体のどこに入っているんだ?
食べた量は、体の半分ぐらいいったかもしれない。
「ヨウコ。おいしい?」
ああ。うまい。
こんなにうまい物を食べさせてくれて、お嬢ちゃんに感謝だな。
このままお嬢ちゃんに主人になってもらうか?
いやいや。
俺を呼び寄せたのはご主人様だ。
裏切る訳にはいかない。
しかし、うまいな。
俺用に用意されたいなり寿司が、俺の腹に消えてしまった。
お嬢ちゃんのは、まだ余っているな……
「ダメ! これは私のなの~!」
そうか。貰えないのか……
まぁ初めての経験で食べ過ぎてしまったかもしれない。
少し体が重くなった気がするけど、気のせいだろう。
「「ごちそうさまでした」」
おっと。
作法だから、俺も手を合わせよう。
「お粗末さまでした」
「もう少しヨウコと遊んで来る~」
「今度は絶対に遠くに行っちゃダメよ。ヨウコちゃんも止めてね」
わかったが、お嬢ちゃんも、二度も叱られるような事はしないだろう。
「うん! もうしないよ~。ヨウコ、行くよ~」
と、言いながら、チョウチョを追いかけるな!
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