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20 ワイバーンの巣に襲撃にゃ~
しおりを挟むトカゲ魔物の群れを倒したべティ&ノルンは、右目にピースを持って行って決めポーズ。
「「マジカルべティ&ノルンの勝利よ~!」」
「わし達のパーティ名は、マジカルウイッチにゃろ~」
「もう何個かパターンを試しておこっか?」
「うんだよ!」
「いいからアイテム拾い手伝えにゃ~」
「「マジカル~。ビクトリー!」」
べティ&ノルンは決めポーズの練習で忙しいらしく、わしの苦情は聞いてくれない。なのでコリスと一緒に拾って餌付け。ノルン達には無しだ。
「魔力使いすぎてお腹ペコペコなんだよ~」
「にゃ? ノルンちゃんは必殺技使ってなかったよにゃ??」
「この杖に自分の魔力を入れて長時間維持してたんだよ」
「よけいなことするにゃよ~」
連続して魔法が撃てたのは杖の効果とノルンの魔力量。ひいては、わしが補充する魔力のおかげだ。
「つぎ、無駄に使ったらごはん抜きだからにゃ~」
「ネグレクトは極刑なんだよ。リータ達に必ずチクるんだよ」
「ごはんは三食やってるにゃろ~。てか、その言い方だと、リータ達が処刑官みたいにゃ~」
「違うんだよ??」
「ただの人妻にゃ~~~!」
いっつも王妃のリータとメイバイにわしが怒られているから、ノルンは勘違い。罰も撫でられるだけなので処罰にも見えない。
それに二人はわしの妻。べティが「猫妻じゃないの?」とか聞いて来たが、わしは猫だけど言い間違いじゃない。普通は夫の配偶者を人妻と言うのだ。
それからもべティ&ノルンが魔物や魔獣を倒しつつ、わしが「にゃ~にゃ~」文句言いながら進んでいたら、ワイバーンの巣に近付いたので少し様子を見る。
「わんさか飛んでるけど……いけそうにゃ?」
「ちょっと魔力が不足気味かも……」
「ノルンちゃんもお腹ペコペコなんだよ~」
「だから飛ばしすぎにゃ~」
ノルンはわかり切っていたのだが、けっこうな魔力量を保持するべティがすっからかんになるなんて、よっぽど魔法少女になれたのが嬉しかったのだろう。
これでは戦えないので、わしは二人にドクターストップを言い渡すしかなかった。
「シラタマ君の魔力ちょうだいよ~」
「お腹ペコペコで死にそうなんだよ~」
「自業自得にゃ~」
スタミナ配分もできないヤツは連れて行けないので、わしとコリスで行こうとしたら、二人が「浮気をバラす」と脅して来た。
「わし、妻一筋にゃから、浮気なんてしてないにゃ」
「王女様にスリ寄ってたじゃない?」
「サトミの膝の上で撫でられてたんだよ」
「持ってけ泥棒にゃ~!!」
「チョロッ……」
「チョロイんだよ……」
撫でられただけで浮気認定されるんだからチョロくない。たんなる自己防衛だ。
わしはノルンに指をむしゃぶられながら、べティには魔力で作った土の玉を吸い取らせるのであったとさ。
「そんじゃあ、作戦通り行くんにゃよ~?」
「「「にゃっ!」」」
「え? それって掛け声??」
「アオイさん、喋ってたら舌噛むにゃよ~?」
コリス達がいい返事をしてくれたのだが、この返事はわしも納得していないのでアオイの言ってる意味は痛いほどよくわかる。しかし説明は面倒くさいので、コリスに乗った皆を守りながらわしは走るのであった。
先頭を走るのは、もちろんこのわし。地上に居るワイバーンを斬り捨てながら、穴だらけの山肌を直進する。続くは、コリスに乗ったアオイとべティと、べティの頭に乗ったノルン。
べティ&ノルンで空に魔法を放ち、迫り来るワイバーンを次々と撃ち落としている。
そうこうしていたら、巣のド真ん中に到着。わしとコリスが少し距離を空けて背中合わせに立ち、その中央にアオイとべティ&ノルンがコリスから飛び下りた。
「じゃあ、時計回りで行くからにゃ~?」
「「「にゃっ!」」」
「に、にゃあぁ~」
「言いたくないにゃら言わなくていいにゃ~」
アオイが変な返事をするので締まりが悪い。元々変な掛け声のせいで締まらないけど……
ちなみに作戦の概要は、巣の中央に陣取って、向かって来るワイバーンを一匹残らず殲滅しようとする命知らずな作戦。もちろんアオイに止められた。
地上は基本的にわしとコリスが担当。わしの斬撃はオーバーキルなのか、斬った瞬間にワイバーンがチリになって消えるので、勢いを付けて飛んで来ても誰も巻き込まない。
コリスはというと、リスパンチと尻尾薙ぎ払い。コリスも強いが、わしほど攻撃力がないのでオーバーキルにはならず。しかし、どんなに質量と勢いがあっても弾き返せている。
基本わし達は防御役に徹して、攻撃はべティ&ノルン。わし達が時計回りに動く中、隙間からワイバーンを狙い撃ち。真上もべティが対応してくれている。
もしも二人の手数が足りない場合は、わしとコリスが風魔法で一掃。体勢を立て直している間に、ノルンがわしの魔力を奪いに来る。
ちなみにアオイの出番は無し。いちおう武器は構えているが間合いに入るワイバーンが居ないので、ずっとキョロキョロしてるだけ。
こうしてマジカルウィッチの……わし達の大活躍でワイバーンの数が減り、近付くワイバーンも居なくなり、辺りにはドロップアイテムの山が作られるのであった。
「う~ん……」
わしがアイテムの山を眺めていたら、べティが不思議そうに顔を覗き込んだ。
「どうしたの? とぼけた顔なんてして」
「難しい顔してるんにゃ~」
べティ以外にもわしが難しい顔をしているのは伝わっていなかったのだが、難しい顔をしている理由を語る。
「にゃんだかにゃ~……倒したあとに死体が残らないってのは、罪悪感が薄れてにゃ~」
「あ~……たしかに。獣だと命をいただいている実感があるのに、ここだとまったく感じないわね」
「こんにゃ世界で、人々は命の大切さはわかるのかにゃ~?」
「ここだと殺すことに慣れてしまいそう……調子に乗る若者とか心配ね」
わしとべティがこの世界の不安を語っていると、この世界の案内人であるアオイが話に入って来る。
「命の大切さは、嫌と言うほどわかっています。毎年、魔物被害が起こり、親の居ない子供も多いんですよ」
「そんにゃに被害があるんにゃ……ちにゃみにだけど、人が人を殺すケースはどれぐらいあるにゃ?」
「そうですね……そこまで多くはないですけど……場合によっては……」
「あ、アオイさんに聞くのはマズかったにゃ~。忘れてくれにゃ~」
城でアサシンなんてやっているアオイなら、何人も殺している可能性を考慮し忘れていたわしの失敗。殺した人の顔を思い出させてしまったかもしれない。
「ところでにゃんだけど、この世界で人間が死んだら体は残るにゃ? これだけは聞かせてくれにゃ」
「はい。人間は残ります……」
「それだけ聞けたら十分にゃ~……にゃ?」
わし達が喋っていたら大きな影に飲み込まれたので、全員上を見た。
「ワイバーンキング!? ここのボスよ!!」
するとアオイが慌て出したので、わしはべティに声を掛ける。
「いけるにゃ?」
「ボスが居るなんて聞いてないよ~」
「ノルンちゃんもお腹ペコペコなんだよ~」
「じゃあ、わしがやるにゃ~」
べティ&ノルンは魔力不足なので、わしは大ジャンプ。大口を開けてわしを食べようとしたワイバーンキングは、空中で滅多斬りにされてチリに変わるのであった……
「ワイバーンキングがあっと言う間に……」
アオイが呆気に取られている間に、ドロップアイテムの山は次元倉庫に。コリスがお腹すいたと噛もうとして来たので、高級串焼きをポイポイ投げながらテーブルセッティンク。料理が並んだらランチを始める。
アオイはなかなか食べようとしないので、コリスに食べられるぞと脅し、食事が終わるとワイバーンの巣の調査。適当な穴に入ってみた。
「おっ。剣とか鎧があるにゃ~」
「宝石もいっぱいよ~」
そこは、宝の宝庫……と言うには少ないが、冒険者ギルドに持ち込めばそこそこの値が付きそうなので全て回収。ベティはこっそり宝石をポケットに入れるな。
「この卵はどうしよっかにゃ~?」
「壊すに決まってるでしょ!」
大きな卵はどうしようか悩んでいたら、アオイ曰く、ワイバーンの巣の殲滅って依頼が出ているほど危険な物なので、壊すのが常識らしい。
「卵って食材に使えないかしら?」
「あ~……これでゆで卵をしたらお腹いっぱいだにゃ~」
「壊したら食材アイテムでドロップするから!」
べティの案はナイスアイデアに聞こえたが、卵も魔物扱いでドロップアイテムに変わるらしいので、郷に入れば郷に従え。巣穴巡りをして、お宝とドロップアイテムを回収するわし達であった。
「子供ぐらい大きかったのに、ラグビーボールぐらいになっちゃったにゃ~」
とりあえずワイバーンの卵は茹でてみたが、ドロップアイテムになると小さくなるらしいのでコリスが残念そうにしている。
「ま、ニワトリの10倍はあるから、これ一個でオムレツが五人前ぐらいになるわよ」
「それはいいにゃ~。コリス用に、十人前ぐらいおっきいの作ってにゃ~」
「いいわよ。シラタマ君が手伝ってくれたらね」
「やった~! ホロッホロッ」
「わしが作るの忘れてたにゃ……てか、いまにゃらおっきにゃフライパン振れないかにゃ?」
「う~ん……やるだけやってみるけど、無理ならシラタマ君がやるのよ??」
「無理でも頑張ってにゃ~」
リータもメイバイも居ないのででは、大きなフライパンを振れるのはわししかいない。コリスが喜んでいるのでは、これは決定事項。
帰ってからも仕事があるのは嫌なので、わしはなんとしてもベティに作らせようとするのであったとさ。
ワイバーンの巣を潰したわし達は、目的であった太陽の雫のありかへと向かう。聞いた話では、ワイバーンの巣を越えた辺りにあると聞いていたのだが、案内板もないので少し手間取った。
「これだにゃ」
ようやく見付けた太陽の雫は、ヒマワリのような花。引っこ抜いたら、輝くヒマワリの頭だけの姿となった。
「思ったより楽勝だったわね」
「本当だにゃ~。これがAランクの依頼なんにゃ~」
「そういえば、この上ってどうなってるんだろう?」
「山の頂上にゃ? う~ん……そこに山があるにゃら登っとくにゃ??」
「まだ夜には時間もあるし、登山しとこっか」
わしとべティの間で方針が決まったが、アオイは青い顔をして止めて来た。
「ダ、ダメです! この山の頂上には、ドラゴンの最上位種が住み着いているんですよ!!」
「「「「ドラゴンにゃ~??」」」」
「あ……行くんですね……」
アオイ、痛恨のミス。ドラゴンと聞けば、わし達が倒しに行かないわけがない。わし達の妖しい笑みを見て、アオイも諦めるしかないのであったとさ。
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