アイムキャット❕❕~猫王様の異世界観光にゃ~

ma-no

文字の大きさ
32 / 38

32 魔王討伐にゃ~

しおりを挟む

 風魔法【突風】で空を飛び、勇者パーティより先に、空に浮く闘技場のようなフロアに着いていたわし達が皆の勇姿をバッチリ写真に収めてあげたらハルトに怒鳴られたので、申し訳なさそうに玉座に座っている者を指差す。

「怒ってるとこ悪いんにゃけど、あの人が話し掛けたところを止めてるんにゃ。相手してあげてくんにゃい?」
「アレって……魔王じゃないですか!?」

 そう。わし達が空を飛んで先回りしたら、直角に曲がった二本の角を頭に付けたデカいマント男が自分のことを魔王とか言いながらわしを勇者と呼んだのだ。
 いちおう違うと訂正したけど魔王はペラペラ喋り続けていたので無視していたら「どうだ世界の半分を余と分けないか?」と聞かれたところで魔王は固まってしまったのだ。

「だいたいこんにゃこと言ってたよにゃ~?」
「うんうん。たぶんいまは返答待ちなんだと思うわ」
「もうシラタマさんが倒してくださいよ~」

 わしとべティでぺちゃくちゃと説明してあげたけど、ハルトは戦意喪失。四天王どころか魔王まで先を越されているのでは、わからんでもない。
 しかしこれは勇者の仕事。わし達は心を鬼にして、ハルト達の背中を押してムリヤリ魔王の前に連れて行くのであった。

「これって、このまま攻撃しちゃダメなんでしょうか?」
「勇者にあるまじきことを言うにゃ~」

 魔王が一向に動かないので……てか、わしのせいでハルトに緊張感が無くなるのであったとさ。


『クハハハハ。それが答えか! ならば後悔して死ぬがよい!! クハハハハ』

 ハルトがマジで不意打ちしたら、魔王は再起動。ハルトの剣を自身の持つ巨大な剣で跳ね返し、最終決戦が始まった。なのでわしはパシャパシャ写真を撮ってから、後方に下がっていたべティ達と合流した。

「攻撃も否定って意味だったのね」
「一時はどうなることかと思ったけど、バグってなくてよかったにゃ~」
「ホントよね~」

 このまま魔王が動かなかったらどうしようと心配していたわし達がのほほんと勇者パーティの激しい戦いを見ていたら、べティは気になることがあるようだ。

「しっかし、なんであそこで止まっていたんだろ?」
「さあにゃ~? ゲームっぽい世界にゃし、にゃんかシステムでもあるのかもにゃ~」
「たしかにゲームの世界に足を踏み入れたみたいよね。アマテラス様は、何を考えて作ったのかしらね」
「アマテラスのことだからにゃ~……どうせたいしたこと考えてないにゃろ。あいつ、アホっぽいしにゃ……ぎゃっ!?」

 アマテラスをバカにしたような発言をすると、タライが降って来てわしの頭に「ガィィィーン」と直撃した。

「つつつ……にゃんでタライが……めっちゃ痛かったんにゃけど~?」
「プププ……シラタマ君、目から火花出てたわよ? プププ」
「どれで笑ってるんにゃ~」

 謎現象の合わせ技。タライが降って来たことも不思議な意味でおかしいのだが、最強の猫であるわしにダメージを与えるこのタライはおかしすぎる。
 それもべティ達は面白いの意味でおかしかったようだが、わしの目から火花が出たことがさらにおかしくって笑っているのだ。

「プププ……大きなたんこぶもできてるわよ? 写真撮ってあげる。きゃははは」
「にゃにこれ!? プッ……にゃははは」

 まだまだ続く謎現象に、べティ達の腹筋は崩壊。わしも鏡で見たら我慢できなくなって、大声で笑ってしまった。

「いや、笑ってないで、最終決戦を見ろよ」

 わし達が笑い転げていたら、敬語を忘れたアオイに怒られるのであったとさ。


 笑い過ぎて涙を拭っていたら、アマテラスも謎現象のことも忘れてしまい、笑いが再燃する前に真面目な戦闘に目を移す。
 すると、ちょうどハルトが魔王の胸を勇者の剣で斬り裂くところだったので、わしは慌ててシャッターを切りに走った。

「おお~。楽勝で倒したにゃ~」
「いえ……たぶん次があるはずです……」

 わしが楽観視しながら戻って来たら、アオイの顔が強張っていた。

「次ってにゃに?」
「第二形態です……来ました!!」
「「「「おお~」」」」

 アオイは緊張しているが、わし達はのん気なもの。ハルトに褒め言葉を送っていた魔王の体は筋肉が膨らみ、ボコボコと隆起して姿が変わって行ったからだ。

『クハハハハ。この姿に恐怖しておるようだな。その顔のままあの世に送ってやろう。クハハハハ』

 魔王第二形態は、体がおよそ三倍に膨らんだ筋肉ダルマ。どこから持ち出したのか、巨大な剣の二刀流で構え、喋る度に口から炎が漏れ出している。
 その魔王の姿に、ハルト達は顔が強張っているらしいから、わしは素早く回り込んでそこも激写。

「シラタマさん……」
「ハルト君にゃら余裕にゃ~。ファイトにゃ~!」

 このままではハルトのやる気を削ぎそうになったので、わしは激励してからダッシュで戻り、べティ達を誘ってやんややんやと応援する。
 その声に励まされた……かどうかわからないが、勇者パーティは魔王に向かって行った。

「なんか、勇者君たち荒れてない? シラタマ君が気が抜けることするから~」
「わしは戦場カメラマンなんにゃから、危険をかえりみず撮るのが仕事にゃ~」
「いつからそんな職業に就いたのよ」

 わしとべティがのほほんと会話している間も、勇者パーティVS魔王の戦闘は激しさを増している。
 爆発するような魔王の剣を、勇者パーティは守ったり避けたり。辺り一帯を埋め尽くす炎をハルトが斬り裂き、サトミが治療する。
 守るだけでなく、女騎士リンが魔王の攻撃を大盾で止めた瞬間に、ハルトとフェンリルのレオが合体技。氷の剣で魔王を斬り裂く。
 妖精モカもサボっているわけもなく、皆の攻撃力を上げたり防御力を上げたり。途切れないように必死に補助魔法を掛け続けている。

 そんな勇者パーティを、わしは遠くから写真を撮ったり近付いて撮ったり。できるだけ戦闘の邪魔にならないように、素早く動いてカメラに収め続ける。

 そうこうしていたら、思ったより早くに魔王が片膝を突くのであった……


「これで終わりかにゃ~?」

 勇者パーティに少し疲れが見える中、魔王はまた何か喋っていたので、わし達も耳を傾ける。

『クックックックッ。これで終わりだと思うな。地獄はこれからだ~!!』

 わしが終わりと言ったからフラグが立ったわけでなく、魔王は第三形態に突入。勇者パーティもわかっていたからか補助アイテムをグビグビ飲んでいたので、確実にわしのせいではないはずだ。
 それでもべティ&ノルンがわしのせいだとおちょくっていると、魔王の体が小さくなって行き、魔法使いのような出で立ちになったと思ったら、よっつの顔が魔王の近くに出現した。

『今までの余と思うなよ。これで最後だ~~~!!』

 魔王が叫ぶと同時に、よっつの顔から属性違いのブレスが放たれる。炎、氷、毒、闇……辺りには猛烈な爆風が吹き荒れるが、勇者パーティはなんとか防御魔法で耐えている。

「【光盾】にゃ~」

 当然わし達にも余波は届いているので、わしの魔法で作った光る盾で完全防御。その中で勇者パーティの戦闘をのんびり見ている。

「あのよっつの顔って、四天王よね?」
「だにゃ。今まで近接戦特化みたいにゃったのに、ここへ来て魔法特化の変化球にゃ~。面白くなって来たにゃ~」
「それはさすがにのん気すぎない? 四天王の一体はシラタマ君が倒したんだから、対策が立てられないじゃない」
「四天王で最弱とか言ってたから、勇者パーティにゃら余裕じゃないかにゃ~?」

 べティは心配していたが、わしは楽観的。事実、わしが倒した四天王ヘッドは一番最初に勇者パーティに倒されたので、順序よく倒して行けば魔王も倒せるだろう。
 しかし、べティには一抹いちまつの不安があるようだ。

「アマテラス様が関わっているのに、そう上手くいくものかしら?」
「いまのところ大丈夫そうに見えるけどにゃ~」
「そうだけど……第四とか第五形態なんてあったら、確実にあの子たち死ぬわよ」
「そんにゃ時の為に、魔法少女べティ&ノルンが居るんにゃろ~」
「そっか! ここであたし達の出番なんだ!! ……って、あたし、第三形態でも勝てるかどうか微妙なんですけど~??」

 レベルマックスの勇者パーティ全員で挑んでもほぼ互角なのだから、べティ&ノルンの二人では手に余る模様。わしとコリスのように限界レベルを突破していないのでは、それは仕方がないのだろう。

「ま、その時は、勇者パーティと一緒に戦えばいいにゃろ。ピンチにおちいったら助けてやれにゃ」
「あっ! それいいわね! ノルンちゃん、決めゼリフとポーズ考えておこうよ」
「うんだよ! カッコいいポーズで助けるんだよ~」
「勝手にしてろにゃ~」

 わしの発言から、べティ&ノルンは決めポーズの練習。そこそこいいのが決まったら、わしとコリスにお披露目。

「もうそれでいいんじゃにゃい?」
「う~ん……なんか違うのよね~」
「べティは光魔法って使えないんだよ? キラキラしたいんだよ~」
「それよ! こういうのはどうかしら?」

 何パターンも見せられたわしはげんなり。それでも納得いかないべティ&ノルンは、魔法を使って登場シーンを盛り上げようと、さらにパターンを増やすのであった。


 そんな無駄なことをしていたら……

『ぐああああああぁぁぁぁ……』

 勇者パーティ全員の思いを乗せたハルトの光る巨大な剣が、魔王の体を斬り裂いた。

「アレ? ピンチは??」
「ちょっとしたピンチはあったけど、見事跳ね返したにゃ」
「え? それじゃあ、あたし達の出番は……」
「このあとどうなるかだにゃ~」
「そ、そうよね。第四形態が出番よね。ノルンちゃん、準備するよ!」
「おうだよ~!」

 魔王の体が崩れ行く中、べティ&ノルンはいまかいまかとその時を待っていると、魔王が次の行動に移す。

『クハハハハ。余の負けだ。しかし、ただでは死なん。要塞都市に向かわせた我が配下が、今ごろ全面攻撃をしているはずだ。何も無くなった町に戻り、己の浅はかさを後悔するのだな。クハハハハ』

 この言葉を残し、魔王はチリとなって消滅するのであった……


「……てか、どゆこと??」

 魔王が消えると、べティ&ノルンが振り返ってわしを見る。

「見ての通り、勇者パーティの勝利だにゃ」
「あたし達の出番は!?」
「せっかく練習したんだよ~!!」
「知らないにゃ~。それよりもっと重大なことを言ってたにゃろ~」

 こうして魔王討伐は勇者パーティに成されたのだが、出番を無くしたべティ&ノルンがわしをポコポコするせいで、余韻を味わえないのであったとさ。
しおりを挟む
感想 48

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります

はぶさん
ファンタジー
ブラック企業で心をすり減らし過労死した俺が、異世界で手にしたのは『ポイント』を貯めてあらゆるものと交換できるスキルだった。 「今度こそ、誰にも搾取されないスローライフを送る!」 そう誓い、辺境の村で農業を始めたはずが、飢饉に苦しむ人々を見過ごせない。前世の知識とポイントで交換した現代の調味料で「奇跡のプリン」を生み出し、村を救った功績は、やがて王都の知るところとなる。 これは、ポイント稼ぎに執着する元社畜が、温かい食卓を夢見るうちに、うっかり世界の謎と巨大な悪意に立ち向かってしまう物語。最強農民の異世界改革、ここに開幕! 毎日二話更新できるよう頑張ります!

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

処理中です...