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32 魔王討伐にゃ~
しおりを挟む風魔法【突風】で空を飛び、勇者パーティより先に、空に浮く闘技場のようなフロアに着いていたわし達が皆の勇姿をバッチリ写真に収めてあげたらハルトに怒鳴られたので、申し訳なさそうに玉座に座っている者を指差す。
「怒ってるとこ悪いんにゃけど、あの人が話し掛けたところを止めてるんにゃ。相手してあげてくんにゃい?」
「アレって……魔王じゃないですか!?」
そう。わし達が空を飛んで先回りしたら、直角に曲がった二本の角を頭に付けたデカいマント男が自分のことを魔王とか言いながらわしを勇者と呼んだのだ。
いちおう違うと訂正したけど魔王はペラペラ喋り続けていたので無視していたら「どうだ世界の半分を余と分けないか?」と聞かれたところで魔王は固まってしまったのだ。
「だいたいこんにゃこと言ってたよにゃ~?」
「うんうん。たぶんいまは返答待ちなんだと思うわ」
「もうシラタマさんが倒してくださいよ~」
わしとべティでぺちゃくちゃと説明してあげたけど、ハルトは戦意喪失。四天王どころか魔王まで先を越されているのでは、わからんでもない。
しかしこれは勇者の仕事。わし達は心を鬼にして、ハルト達の背中を押してムリヤリ魔王の前に連れて行くのであった。
「これって、このまま攻撃しちゃダメなんでしょうか?」
「勇者にあるまじきことを言うにゃ~」
魔王が一向に動かないので……てか、わしのせいでハルトに緊張感が無くなるのであったとさ。
『クハハハハ。それが答えか! ならば後悔して死ぬがよい!! クハハハハ』
ハルトがマジで不意打ちしたら、魔王は再起動。ハルトの剣を自身の持つ巨大な剣で跳ね返し、最終決戦が始まった。なのでわしはパシャパシャ写真を撮ってから、後方に下がっていたべティ達と合流した。
「攻撃も否定って意味だったのね」
「一時はどうなることかと思ったけど、バグってなくてよかったにゃ~」
「ホントよね~」
このまま魔王が動かなかったらどうしようと心配していたわし達がのほほんと勇者パーティの激しい戦いを見ていたら、べティは気になることがあるようだ。
「しっかし、なんであそこで止まっていたんだろ?」
「さあにゃ~? ゲームっぽい世界にゃし、にゃんかシステムでもあるのかもにゃ~」
「たしかにゲームの世界に足を踏み入れたみたいよね。アマテラス様は、何を考えて作ったのかしらね」
「アマテラスのことだからにゃ~……どうせたいしたこと考えてないにゃろ。あいつ、アホっぽいしにゃ……ぎゃっ!?」
アマテラスをバカにしたような発言をすると、タライが降って来てわしの頭に「ガィィィーン」と直撃した。
「つつつ……にゃんでタライが……めっちゃ痛かったんにゃけど~?」
「プププ……シラタマ君、目から火花出てたわよ? プププ」
「どれで笑ってるんにゃ~」
謎現象の合わせ技。タライが降って来たことも不思議な意味でおかしいのだが、最強の猫であるわしにダメージを与えるこのタライはおかしすぎる。
それもべティ達は面白いの意味でおかしかったようだが、わしの目から火花が出たことがさらにおかしくって笑っているのだ。
「プププ……大きなたんこぶもできてるわよ? 写真撮ってあげる。きゃははは」
「にゃにこれ!? プッ……にゃははは」
まだまだ続く謎現象に、べティ達の腹筋は崩壊。わしも鏡で見たら我慢できなくなって、大声で笑ってしまった。
「いや、笑ってないで、最終決戦を見ろよ」
わし達が笑い転げていたら、敬語を忘れたアオイに怒られるのであったとさ。
笑い過ぎて涙を拭っていたら、アマテラスも謎現象のことも忘れてしまい、笑いが再燃する前に真面目な戦闘に目を移す。
すると、ちょうどハルトが魔王の胸を勇者の剣で斬り裂くところだったので、わしは慌ててシャッターを切りに走った。
「おお~。楽勝で倒したにゃ~」
「いえ……たぶん次があるはずです……」
わしが楽観視しながら戻って来たら、アオイの顔が強張っていた。
「次ってにゃに?」
「第二形態です……来ました!!」
「「「「おお~」」」」
アオイは緊張しているが、わし達はのん気なもの。ハルトに褒め言葉を送っていた魔王の体は筋肉が膨らみ、ボコボコと隆起して姿が変わって行ったからだ。
『クハハハハ。この姿に恐怖しておるようだな。その顔のままあの世に送ってやろう。クハハハハ』
魔王第二形態は、体がおよそ三倍に膨らんだ筋肉ダルマ。どこから持ち出したのか、巨大な剣の二刀流で構え、喋る度に口から炎が漏れ出している。
その魔王の姿に、ハルト達は顔が強張っているらしいから、わしは素早く回り込んでそこも激写。
「シラタマさん……」
「ハルト君にゃら余裕にゃ~。ファイトにゃ~!」
このままではハルトのやる気を削ぎそうになったので、わしは激励してからダッシュで戻り、べティ達を誘ってやんややんやと応援する。
その声に励まされた……かどうかわからないが、勇者パーティは魔王に向かって行った。
「なんか、勇者君たち荒れてない? シラタマ君が気が抜けることするから~」
「わしは戦場カメラマンなんにゃから、危険を顧みず撮るのが仕事にゃ~」
「いつからそんな職業に就いたのよ」
わしとべティがのほほんと会話している間も、勇者パーティVS魔王の戦闘は激しさを増している。
爆発するような魔王の剣を、勇者パーティは守ったり避けたり。辺り一帯を埋め尽くす炎をハルトが斬り裂き、サトミが治療する。
守るだけでなく、女騎士リンが魔王の攻撃を大盾で止めた瞬間に、ハルトとフェンリルのレオが合体技。氷の剣で魔王を斬り裂く。
妖精モカもサボっているわけもなく、皆の攻撃力を上げたり防御力を上げたり。途切れないように必死に補助魔法を掛け続けている。
そんな勇者パーティを、わしは遠くから写真を撮ったり近付いて撮ったり。できるだけ戦闘の邪魔にならないように、素早く動いてカメラに収め続ける。
そうこうしていたら、思ったより早くに魔王が片膝を突くのであった……
「これで終わりかにゃ~?」
勇者パーティに少し疲れが見える中、魔王はまた何か喋っていたので、わし達も耳を傾ける。
『クックックックッ。これで終わりだと思うな。地獄はこれからだ~!!』
わしが終わりと言ったからフラグが立ったわけでなく、魔王は第三形態に突入。勇者パーティもわかっていたからか補助アイテムをグビグビ飲んでいたので、確実にわしのせいではないはずだ。
それでもべティ&ノルンがわしのせいだとおちょくっていると、魔王の体が小さくなって行き、魔法使いのような出で立ちになったと思ったら、よっつの顔が魔王の近くに出現した。
『今までの余と思うなよ。これで最後だ~~~!!』
魔王が叫ぶと同時に、よっつの顔から属性違いのブレスが放たれる。炎、氷、毒、闇……辺りには猛烈な爆風が吹き荒れるが、勇者パーティはなんとか防御魔法で耐えている。
「【光盾】にゃ~」
当然わし達にも余波は届いているので、わしの魔法で作った光る盾で完全防御。その中で勇者パーティの戦闘をのんびり見ている。
「あのよっつの顔って、四天王よね?」
「だにゃ。今まで近接戦特化みたいにゃったのに、ここへ来て魔法特化の変化球にゃ~。面白くなって来たにゃ~」
「それはさすがにのん気すぎない? 四天王の一体はシラタマ君が倒したんだから、対策が立てられないじゃない」
「四天王で最弱とか言ってたから、勇者パーティにゃら余裕じゃないかにゃ~?」
べティは心配していたが、わしは楽観的。事実、わしが倒した四天王ヘッドは一番最初に勇者パーティに倒されたので、順序よく倒して行けば魔王も倒せるだろう。
しかし、べティには一抹の不安があるようだ。
「アマテラス様が関わっているのに、そう上手くいくものかしら?」
「いまのところ大丈夫そうに見えるけどにゃ~」
「そうだけど……第四とか第五形態なんてあったら、確実にあの子たち死ぬわよ」
「そんにゃ時の為に、魔法少女べティ&ノルンが居るんにゃろ~」
「そっか! ここであたし達の出番なんだ!! ……って、あたし、第三形態でも勝てるかどうか微妙なんですけど~??」
レベルマックスの勇者パーティ全員で挑んでもほぼ互角なのだから、べティ&ノルンの二人では手に余る模様。わしとコリスのように限界レベルを突破していないのでは、それは仕方がないのだろう。
「ま、その時は、勇者パーティと一緒に戦えばいいにゃろ。ピンチに陥ったら助けてやれにゃ」
「あっ! それいいわね! ノルンちゃん、決めゼリフとポーズ考えておこうよ」
「うんだよ! カッコいいポーズで助けるんだよ~」
「勝手にしてろにゃ~」
わしの発言から、べティ&ノルンは決めポーズの練習。そこそこいいのが決まったら、わしとコリスにお披露目。
「もうそれでいいんじゃにゃい?」
「う~ん……なんか違うのよね~」
「べティは光魔法って使えないんだよ? キラキラしたいんだよ~」
「それよ! こういうのはどうかしら?」
何パターンも見せられたわしはげんなり。それでも納得いかないべティ&ノルンは、魔法を使って登場シーンを盛り上げようと、さらにパターンを増やすのであった。
そんな無駄なことをしていたら……
『ぐああああああぁぁぁぁ……』
勇者パーティ全員の思いを乗せたハルトの光る巨大な剣が、魔王の体を斬り裂いた。
「アレ? ピンチは??」
「ちょっとしたピンチはあったけど、見事跳ね返したにゃ」
「え? それじゃあ、あたし達の出番は……」
「このあとどうなるかだにゃ~」
「そ、そうよね。第四形態が出番よね。ノルンちゃん、準備するよ!」
「おうだよ~!」
魔王の体が崩れ行く中、べティ&ノルンはいまかいまかとその時を待っていると、魔王が次の行動に移す。
『クハハハハ。余の負けだ。しかし、ただでは死なん。要塞都市に向かわせた我が配下が、今ごろ全面攻撃をしているはずだ。何も無くなった町に戻り、己の浅はかさを後悔するのだな。クハハハハ』
この言葉を残し、魔王はチリとなって消滅するのであった……
「……てか、どゆこと??」
魔王が消えると、べティ&ノルンが振り返ってわしを見る。
「見ての通り、勇者パーティの勝利だにゃ」
「あたし達の出番は!?」
「せっかく練習したんだよ~!!」
「知らないにゃ~。それよりもっと重大なことを言ってたにゃろ~」
こうして魔王討伐は勇者パーティに成されたのだが、出番を無くしたべティ&ノルンがわしをポコポコするせいで、余韻を味わえないのであったとさ。
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(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
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