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33 要塞都市に急行にゃ~
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33 要塞都市に急行にゃ~
「ゼェーゼェー。聞いてましたか!? ゼェーゼェー」
べティ&ノルンが出番が無いと怒ってわしをポコポコ叩いていたら、血相変えた勇者パーティが走って来て、わし達の前で倒れ込んだ。
「うんにゃ。急がないといけないにゃ。でもその前に、全員休憩にゃ。怪我もわしが治してあげるにゃ~」
「そんなことより! ゼェーゼェー」
「わかっているにゃ。それでも今は心を落ち着かせることが先決にゃ。じゃにゃいと、助けられる命も助けられないからにゃ。それに要塞都市には、強そうにゃ王様が居るんにゃから、ちょっとぐらい遅刻しても大丈夫にゃ~」
「はい……」
魔王の最後っ屁。魔物が要塞都市に押し寄せて絶体絶命のピンチでは、勇者パーティの心が乱れても仕方がないこと。しかしこの状態で行っても、活躍どころか足を引っ張り兼ねないので、わしは強制的に休ませた。
そうして治療と15分ほどの休憩で勇者パーティが落ち着いた頃に、次の問題が起こる。
「にゃんかめっちゃ揺れてるんにゃけど、これってひょっとして……」
「ですね……魔王を倒したから城の崩壊が始まったようです」
「にゃんですと!?」
今度はわしの心が乱れるが、わしには関係ないことなのですぐに真面目な顔に変わる。とぼけた顔をしてるからあんまり変わらないけど……
「とりあえず、ここから出なきゃだにゃ~」
「ですね。帰還玉を使って、転移玉を使えば……あっ!」
「どうかしたにゃ?」
「これって、パーティでしか使えません! どちらも一個しか買って来てないから、ひとパーティは必ずここに……」
ハルトが暗い顔をするが、これもわしには関係ないこと。
「じゃあ、先に戻っているにゃ。わし達はすぐに追い付くにゃ~」
「いえ! 疲れの残っている僕達よりも、シラタマさんが戻るべきです! 僕達の代わりに、要塞都市を守ってください!!」
ハルトは何故かわしの両手を強く握って来たので不思議に思ったが、その時わしの頭の上に特大の電球が現れた。
「にゃ!? 死なにゃい死なにゃい。わし達そんにゃヤワじゃないにゃ~」
「はい??」
「帰る術があるからいらないと言ってるだけにゃ。わし達がここが崩れた程度で死ぬと思われてるのは心外にゃ~。これ、自己犠牲とかそんにゃんで言ってるわけじゃないからにゃ? マジだからにゃ??」
「そういえば……僕もシラタマさんが死ぬ姿がまったく浮かびません」
ハルトがポカンとした顔をしているので、わしは笑う。
「にゃはは。だろうにゃ~。わしこそ、最強の猫王シラタマにゃ。にゃんだったら、元の世界で魔王って呼ばれるぐらいにゃ~。にゃははは」
「なんですかそれ……あはははは」
ハルトだけでなく勇者パーティ全員に笑顔が戻ったところで、わしはハルトの胸に真ん丸の拳をトンッと当てた。
「さあ、勇者パーティよ……さっさと帰って要塞都市を救えにゃ~!」
「「「「「にゃ~~~!!」」」」」
こうして勇者パーティは帰還玉を床に打ち付け、わし達より先に要塞都市に向かったのであった。
「いまさらにゃけど、フェンリルさんまで『にゃ~!』って言ってるんにゃけど~??」
「シラタマ君の口調が移ったのね」
「そんにゃことってあるにゃ!?」
「あのオオカミ、普通に喋ってたじゃない」
まさかオオカミみたいな生き物まで「にゃ~!」とか言うとは思っていなかったので、わしがベティを見たらうっかりミスに気付かされたけど、やっぱり納得いかないわしであったとさ。
「それよりさあ~……このあとどうすんの?」
わしが「にゃ~にゃ~」愚痴っていたら、緊急事態ということもありべティが遮った。
「デッカイ浮遊石を回収してから帰ろうかにゃ~っと……」
「はぁ~。そんなことだとは思ったわよ」
「とりあえず、飛び下りよっかにゃ?」
「ここから!?」
「ショートカットにゃ~!!」
本来ならば崩れ行く城の中をドタバタ走って出るのが普通だろうが、そんなのわしは面倒くさい。なので、魔王城、最上階からの紐無しバンジーに挑戦。
「押すな押すな」と言うべティとアオイの背中をわしとコリスで押してあげて、飛び下りるのであった。ノルンは羽があるから怖がりもしない。
風魔法【突風】を横から下から当てまくって魔王城から少し離れた橋の上にわし達は無事着地。
「なんでシラタマ君が一番大声で叫んでるのよ」
「怖いものは怖いんにゃ~」
「じゃあやるな!」
わしだって怖いのを我慢して飛んだのに、べティはうるさい。チビってたクセに……
「チビってませ~ん!」
「心を読むにゃ~」
こんなことをしていても魔王城崩壊は進んでいるので、コリスにうるさいべティと紐無しバンジー初体験で腰を抜かしているアオイを安全な場所まで運んでもらったら、わしは魔王城に向かう。
「【超大鎌乱舞】にゃ~~~!!」
そして、巨大な風の刃を飛ばして魔王城のぶつ切り。この中で浮き上がる物があれば少しずつ削り、一軒家ぐらいある四角い物質を回収したわしであった。
「あわわわわわわ」
皆の元へ戻ったら、アオイがまだ腰を抜かしてガタガタ震えていたので、紐無しバンジーの恐怖が抜けていないと思われる。
「あんだけデカイ城を簡単に切り分けるシラタマ君に怯えているのよ。なんでわからないのよ? 人の心ないの? ああ。猫だったわね」
「そのツッコミはわしに取っておいてにゃ~」
べティがアオイの怯えの正体を教えてくれたが、早口でノリツッコミまでするので言い訳のしようもない。どうもべティは、わしの魔法の威力に嫉妬しているようだ。
「さってと……浮遊石も手に入れたし、ハルト君達の応援に行かなくちゃにゃ~。集合にゃ~」
今日もアオイはコリスのモフモフロック。尻尾で拘束と目隠しまでされたら、わしは転移魔法を使うのであった。
転移先は、いつも贔屓にしていた宿屋の屋根。要塞都市の外では、マーキングした場所に魔物が居る可能性があったので、街中へ一気に移動したのだ。
「コリス~。こっちにゃ~」
「は~い」
わしがベティ&ノルンを背負い、コリスがアオイを背に乗せたら西に向かってピョンピョン屋根を飛び交い、外壁の上に着地。しかしそこは、てんやわんやのお祭り騒ぎ。
外壁に突撃する魔物を弓で射貫いたり魔法で倒したり瓦礫を落としたり。矢を運んだり支援物資を運んだり人がひっきりなしに動き回り、怒号が飛び交っていた。
「わ~お。わんさか居るわね」
その先には、蠢く絨毯。万単位の魔物が隊列を組んで向かって来ているので、べティも気持ち悪そうにしている。
「おっかしいにゃ~……」
「何がおかしいの?」
「ハルト君が戻ってるはずにゃのに、混乱しまくってるにゃ。普通、魔王を倒したと聞いたら、士気が上がるものじゃないのかにゃ~?」
「たしかに変ね……誰か偉い人に聞いてみましょう」
一平卒では話にならないので、偉そうに大声を出している人を探していたら、ここ要塞都市を束ねる武闘王シンゲンが指揮を取っているのが目に入ったので、わしとアオイで後ろから近付いた。
「にゃあにゃあ? ハルト君たち知んにゃい??」
「うおっ!? ……シラタマか。ビックリさせるな」
たしかに音も無く近付いたけど、そんなに驚かなくてもいいのに……
「何か用か??」
「だからハルト君にゃ。勇者パーティはわし達より先に戻っているはずなんにゃけど、知らないにゃ?」
「勇者が?? 何も報告を受けてないのだが……魔王はどうしたんだ?」
「魔王は……わしの口からは言えないにゃ。でも、悪い結果ではないとだけ教えておくにゃ」
「お……おお! そうかそうか。そういうことなんだな」
シンゲンは察してくれて皆まで聞いて来ないのは助かるが、勇者パーティの情報も一切出て来ない。
「それで……誰か勇者パーティを見た人は居ないのかにゃ?」
「戻っていたら、必ず俺の耳に情報は入るはずなんだが……」
「転移玉で帰ると言ってたんにゃけどにゃ~。遠いと時間が掛かるのかにゃ~?」
「いや、長くても物の10秒程度だ。ん? 転移玉ってことは……マズイ!!」
「にゃ~~~??」
シンゲンは焦りながら外壁の一番端まで走って行って、身を乗り出して下を覗き見るので、わしとアオイは何をしているのかと近付いた。
「にゃにがマズイんにゃ?」
「あの玉の転移先は町の外なんだ。それも、よっつの門のどれかが指定されているんだ」
「てことは~……西門だったら、かにゃりマズイにゃ~」
「そういうことだ……居た!!」
「にゃんですと!?」
残念ながら、勇者パーティは中に入れてもらえず単独で戦闘中。おそらくだが、魔物と戦いながらノックしたり大声を出しているのだろうが、如何せん、魔物は絶えず押し寄せているからその声で掻き消されているのだろう。
「わ、わしが食い止めるにゃ! 勇者パーティだけ入れてやってにゃ~」
「し、しかし……」
「勇者パーティは魔王戦で疲れてるんにゃ。急げにゃ! アオイさんも、マジカルべティ&ノルンの出動って伝えて来てにゃ~!」
「は、はい!」
「とお~うにゃ~~~!!」
シンゲンからの返事は無かったが、アオイは返事をしてくれたのでなんとかなるはず。わしはそう信じて、低い声を出しながら飛び下りたのであった。
キャット空中何回転かしてからオークの頭に着地して潰したわしは、上から降り注ぐ矢や魔法をすり抜けながら魔物も斬り裂き、虫食い穴のような道を作りながら進み、西門に到着した。
「大丈夫にゃ!?」
魔物を一気に斬り飛ばし、勇者パーティを背にして声を掛けると、ハルトとサトミが答えてくれる。
「はぁはぁ……危なかったです」
「いきなり囲まれていましたもんね。はぁはぁ」
「もう大丈夫にゃ。すぐに門が開くから、一旦引いて休めるからにゃ」
わしが勇者パーティを守りながら安心させようとしたが、ハルトは悩んでいる。
「僕達が戦わないと、皆さんが続かないと思うのですが……」
「それは違うにゃ。誰も勇者パーティが帰って来てるにゃんて知らないから、ここで戦い続けても意味ないんにゃ」
「うっ……だから入れてくれなかったんですね」
「ハルト君の仕事は、あとはみにゃを鼓舞するだけにゃ。魔王を倒したと教えてあげたら、みんにゃは凄い力を出してくれるはずにゃ~」
わしは戦いながらハルトを説得していたら、正面が「ドッカァァーン!」と爆発して、暴風が吹き荒れた。
「「……!!」」
たぶんマジカルべティ&ノルンだ。声は聞こえないが、決めゼリフを言っていると思われる。そしてさっきの爆発は、べティの爆裂魔法【エクスプロージョン】。
「たぶん合図にゃ。門が開いたら、飛び込んですぐに閉めさせろにゃ」
「でも、シラタマさんが……」
「にゃん度も言わすにゃ。わしが死ぬわけないにゃ。とりあえず、この辺の魔物を一掃したら開くと思うから、すぐに飛び込めにゃ~」
「はあ……」
ハルトはまだ納得していないが、わしは大魔法で迫り来る魔物を押し返す。
「【四獣】にゃ~~~!!」
火の鳥【朱雀】、風の虎【白虎】、土の亀【玄武】、氷の龍【青龍】。【玄武】の20メートルを最大に、残りは10メートルもある魔法生物の召喚。
【朱雀】は魔物を燃やし尽くし、【白虎】は魔物を斬り裂き、【青龍】は魔物を一瞬で凍らせ、【玄武】は魔物を否応なく踏み潰す。
「いまにゃ! 飛び込めにゃ~~~!!」
これだけのチャンスを作ってやったのだから、勇者パーティは余裕を持って中に入れるはず。わしは焦りながら指示を出した。
「あ~……シラタマさんも来ません? 余裕で間に合いますよ??」
「……だにゃ。行こうにゃ~」
【四獣】の大活躍で、西門一帯どころか、1キロ先までの動く魔物は皆無。焦る必要もなく、わしと勇者パーティはトコトコと歩いて中に入り、要塞都市の扉は堅く閉ざされたのであった。
「ゼェーゼェー。聞いてましたか!? ゼェーゼェー」
べティ&ノルンが出番が無いと怒ってわしをポコポコ叩いていたら、血相変えた勇者パーティが走って来て、わし達の前で倒れ込んだ。
「うんにゃ。急がないといけないにゃ。でもその前に、全員休憩にゃ。怪我もわしが治してあげるにゃ~」
「そんなことより! ゼェーゼェー」
「わかっているにゃ。それでも今は心を落ち着かせることが先決にゃ。じゃにゃいと、助けられる命も助けられないからにゃ。それに要塞都市には、強そうにゃ王様が居るんにゃから、ちょっとぐらい遅刻しても大丈夫にゃ~」
「はい……」
魔王の最後っ屁。魔物が要塞都市に押し寄せて絶体絶命のピンチでは、勇者パーティの心が乱れても仕方がないこと。しかしこの状態で行っても、活躍どころか足を引っ張り兼ねないので、わしは強制的に休ませた。
そうして治療と15分ほどの休憩で勇者パーティが落ち着いた頃に、次の問題が起こる。
「にゃんかめっちゃ揺れてるんにゃけど、これってひょっとして……」
「ですね……魔王を倒したから城の崩壊が始まったようです」
「にゃんですと!?」
今度はわしの心が乱れるが、わしには関係ないことなのですぐに真面目な顔に変わる。とぼけた顔をしてるからあんまり変わらないけど……
「とりあえず、ここから出なきゃだにゃ~」
「ですね。帰還玉を使って、転移玉を使えば……あっ!」
「どうかしたにゃ?」
「これって、パーティでしか使えません! どちらも一個しか買って来てないから、ひとパーティは必ずここに……」
ハルトが暗い顔をするが、これもわしには関係ないこと。
「じゃあ、先に戻っているにゃ。わし達はすぐに追い付くにゃ~」
「いえ! 疲れの残っている僕達よりも、シラタマさんが戻るべきです! 僕達の代わりに、要塞都市を守ってください!!」
ハルトは何故かわしの両手を強く握って来たので不思議に思ったが、その時わしの頭の上に特大の電球が現れた。
「にゃ!? 死なにゃい死なにゃい。わし達そんにゃヤワじゃないにゃ~」
「はい??」
「帰る術があるからいらないと言ってるだけにゃ。わし達がここが崩れた程度で死ぬと思われてるのは心外にゃ~。これ、自己犠牲とかそんにゃんで言ってるわけじゃないからにゃ? マジだからにゃ??」
「そういえば……僕もシラタマさんが死ぬ姿がまったく浮かびません」
ハルトがポカンとした顔をしているので、わしは笑う。
「にゃはは。だろうにゃ~。わしこそ、最強の猫王シラタマにゃ。にゃんだったら、元の世界で魔王って呼ばれるぐらいにゃ~。にゃははは」
「なんですかそれ……あはははは」
ハルトだけでなく勇者パーティ全員に笑顔が戻ったところで、わしはハルトの胸に真ん丸の拳をトンッと当てた。
「さあ、勇者パーティよ……さっさと帰って要塞都市を救えにゃ~!」
「「「「「にゃ~~~!!」」」」」
こうして勇者パーティは帰還玉を床に打ち付け、わし達より先に要塞都市に向かったのであった。
「いまさらにゃけど、フェンリルさんまで『にゃ~!』って言ってるんにゃけど~??」
「シラタマ君の口調が移ったのね」
「そんにゃことってあるにゃ!?」
「あのオオカミ、普通に喋ってたじゃない」
まさかオオカミみたいな生き物まで「にゃ~!」とか言うとは思っていなかったので、わしがベティを見たらうっかりミスに気付かされたけど、やっぱり納得いかないわしであったとさ。
「それよりさあ~……このあとどうすんの?」
わしが「にゃ~にゃ~」愚痴っていたら、緊急事態ということもありべティが遮った。
「デッカイ浮遊石を回収してから帰ろうかにゃ~っと……」
「はぁ~。そんなことだとは思ったわよ」
「とりあえず、飛び下りよっかにゃ?」
「ここから!?」
「ショートカットにゃ~!!」
本来ならば崩れ行く城の中をドタバタ走って出るのが普通だろうが、そんなのわしは面倒くさい。なので、魔王城、最上階からの紐無しバンジーに挑戦。
「押すな押すな」と言うべティとアオイの背中をわしとコリスで押してあげて、飛び下りるのであった。ノルンは羽があるから怖がりもしない。
風魔法【突風】を横から下から当てまくって魔王城から少し離れた橋の上にわし達は無事着地。
「なんでシラタマ君が一番大声で叫んでるのよ」
「怖いものは怖いんにゃ~」
「じゃあやるな!」
わしだって怖いのを我慢して飛んだのに、べティはうるさい。チビってたクセに……
「チビってませ~ん!」
「心を読むにゃ~」
こんなことをしていても魔王城崩壊は進んでいるので、コリスにうるさいべティと紐無しバンジー初体験で腰を抜かしているアオイを安全な場所まで運んでもらったら、わしは魔王城に向かう。
「【超大鎌乱舞】にゃ~~~!!」
そして、巨大な風の刃を飛ばして魔王城のぶつ切り。この中で浮き上がる物があれば少しずつ削り、一軒家ぐらいある四角い物質を回収したわしであった。
「あわわわわわわ」
皆の元へ戻ったら、アオイがまだ腰を抜かしてガタガタ震えていたので、紐無しバンジーの恐怖が抜けていないと思われる。
「あんだけデカイ城を簡単に切り分けるシラタマ君に怯えているのよ。なんでわからないのよ? 人の心ないの? ああ。猫だったわね」
「そのツッコミはわしに取っておいてにゃ~」
べティがアオイの怯えの正体を教えてくれたが、早口でノリツッコミまでするので言い訳のしようもない。どうもべティは、わしの魔法の威力に嫉妬しているようだ。
「さってと……浮遊石も手に入れたし、ハルト君達の応援に行かなくちゃにゃ~。集合にゃ~」
今日もアオイはコリスのモフモフロック。尻尾で拘束と目隠しまでされたら、わしは転移魔法を使うのであった。
転移先は、いつも贔屓にしていた宿屋の屋根。要塞都市の外では、マーキングした場所に魔物が居る可能性があったので、街中へ一気に移動したのだ。
「コリス~。こっちにゃ~」
「は~い」
わしがベティ&ノルンを背負い、コリスがアオイを背に乗せたら西に向かってピョンピョン屋根を飛び交い、外壁の上に着地。しかしそこは、てんやわんやのお祭り騒ぎ。
外壁に突撃する魔物を弓で射貫いたり魔法で倒したり瓦礫を落としたり。矢を運んだり支援物資を運んだり人がひっきりなしに動き回り、怒号が飛び交っていた。
「わ~お。わんさか居るわね」
その先には、蠢く絨毯。万単位の魔物が隊列を組んで向かって来ているので、べティも気持ち悪そうにしている。
「おっかしいにゃ~……」
「何がおかしいの?」
「ハルト君が戻ってるはずにゃのに、混乱しまくってるにゃ。普通、魔王を倒したと聞いたら、士気が上がるものじゃないのかにゃ~?」
「たしかに変ね……誰か偉い人に聞いてみましょう」
一平卒では話にならないので、偉そうに大声を出している人を探していたら、ここ要塞都市を束ねる武闘王シンゲンが指揮を取っているのが目に入ったので、わしとアオイで後ろから近付いた。
「にゃあにゃあ? ハルト君たち知んにゃい??」
「うおっ!? ……シラタマか。ビックリさせるな」
たしかに音も無く近付いたけど、そんなに驚かなくてもいいのに……
「何か用か??」
「だからハルト君にゃ。勇者パーティはわし達より先に戻っているはずなんにゃけど、知らないにゃ?」
「勇者が?? 何も報告を受けてないのだが……魔王はどうしたんだ?」
「魔王は……わしの口からは言えないにゃ。でも、悪い結果ではないとだけ教えておくにゃ」
「お……おお! そうかそうか。そういうことなんだな」
シンゲンは察してくれて皆まで聞いて来ないのは助かるが、勇者パーティの情報も一切出て来ない。
「それで……誰か勇者パーティを見た人は居ないのかにゃ?」
「戻っていたら、必ず俺の耳に情報は入るはずなんだが……」
「転移玉で帰ると言ってたんにゃけどにゃ~。遠いと時間が掛かるのかにゃ~?」
「いや、長くても物の10秒程度だ。ん? 転移玉ってことは……マズイ!!」
「にゃ~~~??」
シンゲンは焦りながら外壁の一番端まで走って行って、身を乗り出して下を覗き見るので、わしとアオイは何をしているのかと近付いた。
「にゃにがマズイんにゃ?」
「あの玉の転移先は町の外なんだ。それも、よっつの門のどれかが指定されているんだ」
「てことは~……西門だったら、かにゃりマズイにゃ~」
「そういうことだ……居た!!」
「にゃんですと!?」
残念ながら、勇者パーティは中に入れてもらえず単独で戦闘中。おそらくだが、魔物と戦いながらノックしたり大声を出しているのだろうが、如何せん、魔物は絶えず押し寄せているからその声で掻き消されているのだろう。
「わ、わしが食い止めるにゃ! 勇者パーティだけ入れてやってにゃ~」
「し、しかし……」
「勇者パーティは魔王戦で疲れてるんにゃ。急げにゃ! アオイさんも、マジカルべティ&ノルンの出動って伝えて来てにゃ~!」
「は、はい!」
「とお~うにゃ~~~!!」
シンゲンからの返事は無かったが、アオイは返事をしてくれたのでなんとかなるはず。わしはそう信じて、低い声を出しながら飛び下りたのであった。
キャット空中何回転かしてからオークの頭に着地して潰したわしは、上から降り注ぐ矢や魔法をすり抜けながら魔物も斬り裂き、虫食い穴のような道を作りながら進み、西門に到着した。
「大丈夫にゃ!?」
魔物を一気に斬り飛ばし、勇者パーティを背にして声を掛けると、ハルトとサトミが答えてくれる。
「はぁはぁ……危なかったです」
「いきなり囲まれていましたもんね。はぁはぁ」
「もう大丈夫にゃ。すぐに門が開くから、一旦引いて休めるからにゃ」
わしが勇者パーティを守りながら安心させようとしたが、ハルトは悩んでいる。
「僕達が戦わないと、皆さんが続かないと思うのですが……」
「それは違うにゃ。誰も勇者パーティが帰って来てるにゃんて知らないから、ここで戦い続けても意味ないんにゃ」
「うっ……だから入れてくれなかったんですね」
「ハルト君の仕事は、あとはみにゃを鼓舞するだけにゃ。魔王を倒したと教えてあげたら、みんにゃは凄い力を出してくれるはずにゃ~」
わしは戦いながらハルトを説得していたら、正面が「ドッカァァーン!」と爆発して、暴風が吹き荒れた。
「「……!!」」
たぶんマジカルべティ&ノルンだ。声は聞こえないが、決めゼリフを言っていると思われる。そしてさっきの爆発は、べティの爆裂魔法【エクスプロージョン】。
「たぶん合図にゃ。門が開いたら、飛び込んですぐに閉めさせろにゃ」
「でも、シラタマさんが……」
「にゃん度も言わすにゃ。わしが死ぬわけないにゃ。とりあえず、この辺の魔物を一掃したら開くと思うから、すぐに飛び込めにゃ~」
「はあ……」
ハルトはまだ納得していないが、わしは大魔法で迫り来る魔物を押し返す。
「【四獣】にゃ~~~!!」
火の鳥【朱雀】、風の虎【白虎】、土の亀【玄武】、氷の龍【青龍】。【玄武】の20メートルを最大に、残りは10メートルもある魔法生物の召喚。
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「いまにゃ! 飛び込めにゃ~~~!!」
これだけのチャンスを作ってやったのだから、勇者パーティは余裕を持って中に入れるはず。わしは焦りながら指示を出した。
「あ~……シラタマさんも来ません? 余裕で間に合いますよ??」
「……だにゃ。行こうにゃ~」
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おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
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