18 / 58
二章 魔の森の秘密
15話 連れて行かれた先は
しおりを挟む何と言う事でしょう。光る光る、まあ光る。研けば研くほど輝くではないか。
わかってはいたけど、これ程までとは思っていなかった。
勇者がメキメキ強くなっている。
トムさんと演習を始めたのが昨日の事。そして今やほぼ互角まで成長していた。
「トムさんの速さに慣れてきたようですね。チッ。今日中には追いつくでしょう。次からはパールさんに依頼しましょうか」
何故か勇者が気に入らない様子のトーマと勇者御一行の戦闘を眺める。また舌打ち出てるから!
パールさんに声をかけなきゃいけないのはわかっている。
でもそれは困るよね!だって勇者と一緒に過ごさないといけないんだもの!すごく困る!
「ぇあー、そうなんだけどね。でもパールさんの都合もあるだろうし……。その……やっぱもぅ今日でトムさん卒業になっちゃう感じ?」
「何かご不満ですか?であれば明日も……いや、アーシェさんが納得するまでトムさんと戦闘させましょう!」
トーマがガッツポーズで提案してくれたけど、それだとトムさんの負担が大きい……。
ちょいちょい腰痛の為にライフクリームを買いに来るトムさんの姿が脳裏に過ぎる。
「いや、トムさんに無理はさせられない。次回からパールさんに依頼しよう。演習が終わったら勇者様御一行にも都合を確認しておいて」
「わかりました。でも、別にアーシェさんの為なら誰も負担だなんて思いませんよ?」
うぁー。変な事言ったせいでトーマにも気を遣わせてしまった……。ごめんよぉ。
「ありがとう。みんなには本当に感謝してるよ」
「それはこちらの台詞です」
トーマのニッコリ笑顔は本当に癒しだ。
この街……正確には元村の住人には頭が上がらない。感謝の気持ちと、罪悪感は十五年経った今も変わらないんだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
オレは、生まれた時から膨大な魔力を持っていて、あまりの多さにうまく扱う事が出来なかった。
生まれてすぐに魔力暴走を起こし、両親に捨てられ、孤児院に預けられたが、孤児院でもオレを持て余して、ついにはどこかの深い森の奥に捨てられてしまった。
生まれた時から意識があったオレは、ここで死ぬんだと悟った。
死んだらまたあの空間に行けるだろうか……。女神に一言文句を言わなければ気がすまない。いや、一言ですむ訳がない。
色々言いたい事を考えていて、ふと気がついた。
待って。捨てられてから数日経ったよね?
赤ん坊のオレは当然の事ながら一人では飲み食いできない。軽く一週間は経ったでしょ。赤ん坊でなかったとしても、それ程の間、水分すら摂らないで生きている今の状況はおかしい。
これ、もしや女神が自殺できん様にするとか言ってたやつ?嘘だろう……?
この状況で成長するまで過ごせと?いや、栄養すら摂れていないのに成長できるのか?
途方に暮れるを通り越して絶望感すら漂い始めた頃、それは突然訪れた奇跡だった。
「おや?こんな所に赤ん坊とは。うーむ……この魔力。であれば原因はお主かのぉ」
真っ黒い影がオレを覆う。よく見ると人型ではあるが、とても大きい。
長いローブに顔はフードで隠れて明らかに怪しいけど、ここを逃したらオレはここで終わる!
「あぶ!ばぶ!ばぶぶー!」
ですよねー。オレ赤ん坊だわ。しゃべれる訳なかった。
それでもオレは必死に訴え続けた。形振り構っていられない。赤ん坊だからか、感情が溢れて涙が止まらないが知った事か!
助けて!こんな所はもう嫌だ……お願いだからオレを置いて行かないで!
「うー!ぶぁっびぇーっ!!」
「ふむ、わかった。ここから動けなくて困っとるんじゃな。お主、家はどこじゃ?連れてってやろう」
えっ?話しかけてきた?
オレの言葉がわかっている様な台詞に、ピタリと涙が止まる。
「ばぶ、ばぶあぶぶー。ばぶぶあぶぶばぶ」
(オレ、捨てられたの。だから家はない)
「そうじゃったか。確かにその魔力は人族には手に負えんじゃろうて。ならうちに来るか?年寄りの家じゃから、若者はつまらんかもしれんがのぉ」
やっぱりオレの言葉がわかるのか!?
一も二もなくブンブンと首を縦に振る。いつの間にか首座ってたよオレ。
「そうかそうか。これからは賑やかになりそうじゃのぉ。ワシはアーデルファルトじゃ。アーデで良い。お主、名前は?」
そう言えばオレ、名付けられる前に捨てられた。前の名前も知らない。
「ばぶ。あぶぶばびー」
(ない。わからない)
「ふむ。では帰りながら考えるとするか。お主が好きな名前を名乗るが良いぞ」
見た目に似合わず、優しい手付きでオレをふわりと抱き上げる。チラリと見えたフードの中身は、少し強面だが年寄りらしいシワで柔らかい印象のお爺さんだった。
しゃべると見える大きな犬歯はその印象に反してとても凶悪である。
もしや優しいフリして持って帰って食べられるってやつ?
でもここにずっといるよりいい。齢〇歳にして悟ったのだ。人は死ぬより孤独と暇が辛いのだと。何度も死にたいと願ったのだ。丁度良かったじゃないか。
そんな予想に反して、家に着くなりアーデは甲斐甲斐しくオレの世話を焼き始めた。
一人では寂しい想いをさせるだろうと、どこからか色々な人を呼んでくれて、話し相手もできた。そう、本当に色々。人数的な意味じゃなくて……。
昨日は角の生えたお姉さんが、今日は耳の尖った大きなお兄さんがオレと遊んでくれている。
アーデの言う家は、それはそれは立派な魔王城なのでした。
24
あなたにおすすめの小説
冷酷無慈悲なラスボス王子はモブの従者を逃がさない
北川晶
BL
冷徹王子に殺されるモブ従者の子供時代に転生したので、死亡回避に奔走するけど、なんでか婚約者になって執着溺愛王子から逃げられない話。
ノワールは四歳のときに乙女ゲーム『花びらを恋の数だけ抱きしめて』の世界に転生したと気づいた。自分の役どころは冷酷無慈悲なラスボス王子ネロディアスの従者。従者になってしまうと十八歳でラスボス王子に殺される運命だ。
四歳である今はまだ従者ではない。
死亡回避のためネロディアスにみつからぬようにしていたが、なぜかうまくいかないし、その上婚約することにもなってしまった??
十八歳で死にたくないので、婚約も従者もごめんです。だけど家の事情で断れない。
こうなったら婚約も従者契約も撤回するよう王子を説得しよう!
そう思ったノワールはなんとか策を練るのだが、ネロディアスは撤回どころかもっと執着してきてーー!?
クールで理論派、ラスボスからなんとか逃げたいモブ従者のノワールと、そんな従者を絶対逃がさない冷酷無慈悲?なラスボス王子ネロディアスの恋愛頭脳戦。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる