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二章 魔の森の秘密
16話 魔王城で生活始めました
しおりを挟むアーデの家に来て数日。話し相手のできたオレは、色々気になった事を訊いてみた。
まず、アーデは魔族をまとめる長。つまり魔王様ってやつだった。
そして、この世界には人間の他に魔族やエルフ、獣人などが存在するらしい。ファンタジー生物!会ってみたい!
エルフや獣人はここから遠くに国があるため、王都では見かけるが、この辺りでは滅多に見かけないんだって。残念。
魔族は角が生えていたり、耳が尖っていたり、見た目は人それぞれだが、みんな総じて魔力量が多く、魔力の扱いに長けた種族らしい。
昔は魔族と人族が争って、それはそれは多くの血が流れた。でも、アーデが魔王になってからは停戦協定を結び、今はひっそりと人族の住処に魔物が悪さをしない様、程よく間引きながら暮らしている。
誤解してはいけないのが、魔物は自然発生するもので、決して魔族が飼い慣らしている訳ではない。魔族の住む森は自然に漂っている魔気の濃度が濃い為に、他よりも数が多く強い魔物が発生しやすくなっているだけだ。
オレが捨てられた森に住む魔物が、オレから溢れ出た魔力のせいで凶暴化していたらしく、アーデが原因を探っていた時にオレを見つけてくれたらしい。この時だけは、魔力量が多くて良かったと心から思った。
今はアーデがオレの魔力を抑えてくれているお陰で、魔力暴走を起こす事なく過ごせている。
人族は魔物と魔族を混同している節があるらしく、魔物が集団で人族の村なんか襲ってしまった日には、戦争の火種にもなりかねないらしい。なんて理不尽な。
魔族は人族と違ってとても寿命が長く、停戦したのもかなり昔の事なんだそうで、停戦協定を忘れた人族がいつ襲って来てもいい様に、魔王城にはアーデが一人で住み、魔族は更に奥深くの森を住処にしている。
結論。アーデ良い人、オレ、アーデダイスキ。
一瞬で懐いたわ。魔力の事もあるし、オレはアーデ無しでは生きていけないと言っても過言ではない。
そんなオレの名前はすぐに決まった。アーデと似た名前が良いって言ったら、アーデが付けてくれたんだ。
オレの名前はアーシェ。アーシェ=フェルゴール。
アーデのフルネームは、アーデルファルト=フェルゴール。
ふふふ。アーデの子どもにしてもらったんだよ。嬉しくて眠れなかったのは、今でも良い思い出だ。
とは言え、アーデは見た目通りかなりのご高齢らしい。いつまでも、あると思うな親と金。
魔力を自分で抑える為に毎日訓練をした。
うまく扱える様になれば、オレにも魔法が使えるらしい。
多すぎる魔力を抑える方法として、まずは身体から魔力の一部を切り離して分身を作る魔法を覚えるのが手っ取り早いらしいから、まずはそれを目指す!所謂、思念体ってやつ。
思念体は見た目も自由に作る事ができるらしく、人族の街へ買い出しに行く時は思念体で見た目を人族にして行くんだって。
それからあっという間に時間は過ぎて、オレは三歳になった。思念体で日常をおくれる程度には魔力を扱える様になり、溢れ出ていた魔力も本体と分ける事で辛うじて抑える事に成功している。魔力制御のついでに、戦闘訓練もしてもらったから、そこそこ強いはず。女神に遣わされたケイトとも無事契約して、とても順調だった。
でも、この三年で嫌な事も進行している。
アーデの容態が良くない。
高齢なのはわかっているつもりだったけど、日に日に弱って行くアーデを見るのはとても苦痛だ。
そんなある日、急にアーデから大事な話があると切り出された。
「アーシェ。お主にお願いがあるんじゃよ。苦労を掛けるが、必ず完遂してほしいんじゃ。他の者にも頼んだが、難しいじゃろうて」
「どうしたの?オレがアーデのお願いを聞かない訳ないじゃん。ドーンと任せてよ!」
胸を張って言える。アーデの為ならなんだってやっちゃうよ!
「そうか…では怒らないで聞いてくれ。魔族の最後についてじゃ」
自然と眉間にシワが寄る。一番考えたくない瞬間の事だ。怒ってないから許してほしい。
「魔族は魔力量が多いせいで、魂が抜けた後の肉体では魔力を抑えられず暴走するんじゃ。愛する者であれば魔力の影響は受けんし、一般の魔族であれば、数時間もすれば自然に魔力が還って落ち着くんじゃが、ワシには特性で魔力循環がある。抜けた魔力がすぐに補填されて、恐らく自然には朽ちんじゃろうし、止めどなく魔力を撒き散らし続ける。そうなると、どうなるかわかるじゃろ?」
三歳なオレだけど、わかっちゃうよ。その先、絶対聞きたくないやつでしょ。
言わないで。お願いだから。
じわりと目に涙が溜まる。
「アーシェ、ワシが暴走を起こしたら、この体を壊せ。ただの抜け殻じゃて、遠慮はいらんぞ。お主にしか頼めんのじゃ……お主にしか」
拾ってくれた時と同じ優しい手つきと温もりが、オレの頭を何度も撫でる。
何も答えられない。アーデの願いは何でも叶えたいけど、それでも難しい物は難しいんだ。
オレは心が決まらないままに、その瞬間を迎える事になる。
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