旅と偽薬

Meeeer_Makada

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ep.35 ユウジョウ

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 現在地は3階男子トイレの入口前。
「ふぅ……」
 と息を吐いてから、キィィと不気味な音のなる扉を開けた。


 入ってすぐ右にある鏡には、短い金髪に深い緑色の目をした男子が映っている。

「くそ~、ライムめ。一緒に来てくれたって良かったのに」
 面白そうな怪談話を持ってきたと思ったら情報だけ言ってそそくさと帰りやがった。

 ……明日一緒にと思ったが、好奇心に負けてしまった。ということで一人でウワサを試しに来たのだ。

 俺は3つ目の、1番奥の個室の前に立った。

「ふぅ……」
 覚悟を決めて、右手を軽く握った。

 こん、こん、こん、と3回ノック。

 そして……
「ハナコさん、ハナコさん、いらっしゃいますか?」


 遠くで吹奏楽部の練習の音や、運動部の掛け声がしている。
 ……まぁ要するに返事はなし。

「やっぱり、ただのウワサ話かぁ」
 俺は踵を返し、出口へと向かおうとした。

 その時だった。
「はーあーいー」
 どことなく不気味な音程で歌うように、そう、女の子の声がした。

 俺は個室の扉の方へ向き直り、期待に胸を踊らせながらそれをゆっくりと押し開いた。

 しかしその先にあったのはただの便器。 
「な~んだ、なんもいないじゃん」

 ガッカリしながら出口の方へ、一歩踏み出すと……
「ばぁっ!」
「わぁっ?!」
 すぐ目の前、鼻と鼻が当たりそうなくらいの近距離に、女の子の顔があった。

 びっくりして後ずさると、その女の子は宙に浮いて、両手両足を大きく広げていた。
 ウワサ通り、おかっぱ頭に赤い吊りスカートを履いている。

 宙に浮いているというのに"飛行"や"浮遊"といった、魔法を使った時特有の魔力の動きが見られず、彼女が幽霊であると思わずにはいられなくなっていた。

「びっくりしたぁ?」
 無邪気に笑いながら、舌っ足らずな声で聞いてくるその女の子は、ふよふよと漂いながら俺の様子を伺っている。

「キミ、ハナコさん?」
 俺がそう聞くと、彼女はこくんと頷いた。

「話しかけてくるなんて不思議な子だね。ワタシが怖くないの?」
 真っ赤な瞳を少し潤ませて、上目遣いで聞いてくるハナコさん。

「……ないよ。怖くないっ!」

 すると途端にハナコさんの表情が明るくなった。
「嬉しいなっ!」
 ニカッと笑った彼女の口元には、普通よりも長くて尖った犬歯が一つ、覗いていた。

 と、出口の前にトンと降り立つと、ハナコさんは俯いた。
「……じゃあさ?」
「ん?」
 俺が首を傾げているとハナコさんは顔を上げ、こちらに飛びかかってきた。
 その顔には狂気的な笑みをたたえている。

「一緒にイヨう!エイえンニっ!」

 ライムから聞いたウワサは、ハナコさんから声が返ったら、3秒以内にトイレを出ないと便器に連れ込まれると言うものだった。


 ……しかし逃げるなんてもったいない!
 オカルト研究部(部員は俺1人)として、会えるならば会い、連れ込まれるなら連れ込まれてみたかった!

 だからウワサは無視してトイレに留まった。本当にピンチになってしまったっぽいが。


 ……ハナコさんの目には、俺の表情はどう映っているだろうか。


 ハナコさんが俺に触れる直前、パチンッと軽快な音が鳴った。
「いたっ!なにするの……!」
 尻もちをついたハナコさんは、赤くなった左頬に手を当てている。

「なにって……ビンタだけど?ところで幽霊なのに実体があるなんて、おかしいんじゃない?」
 そう言ってから俺が指を鳴らすと、ハナコさんは驚きを露わにした。

「ラ、ラ……」
「ん?」

「ライム~?!」
 へたりこんだまま飛び退くハナコさん。

「お?俺を知ってるんだ」
 そう聞くと、ハナコさんは動揺したように目を泳がせながら震えた声で言った。
「友達に行かせたんじゃ……」
「友達はもう帰っちゃったよ」

 俺がハナコさん……いや、彼の方へと詰め寄っていくと、ついに彼の背中が出口の扉についた。

 俺は大きくため息をついてから続けた。
「何してんだ、ばかトルビー」

 ハナコさんもといトルビーは疲れたような笑みを浮かべながら"擬態"を解いて言った。
「気付いてたのかよ」
「もちろん」
 俺が得意げに笑ってみせると、トルビーは着の身着のまま、要するに赤い吊りスカートを履いたまま立ち上がった。

「いつから気付いてたの?」
「ん~と、テケン先生に概要を聞いた時かな。トルビー、先生と仲良いでしょ?仲介、頼んだんじゃないの?」
 俺が軽く言うと、トルビーは、お見通しかよ、と言って頭をかいた。

「中身が男の子じゃ、ハナコくんだな」
 俺が笑いかけると、トルビーはくるりと1周回った。

「こっちのが良かった?」
 学ランに黒い短髪……学生帽に手をかけて舌を出し、イタズラな笑みを浮かべるトルビー。

 目は辛うじて赤いままだが……
「なんかダメな気がするっ!」
 そうツッこんでから俺はトルビーをもう一度ビンタした。

「いってて、ベロ噛むって……強いんだよライムは……」
 そう言いながら頬を撫でるトルビーは、制服にパーカーという、いつもの服装に戻っていた。

 と、トルビーは目を泳がせてからこちらを見つめてきた。
「えっと……」
 そう言い淀んだトルビーに俺が首を傾げると、トルビーは頭を下げた。

「ごめん!ライムの気持ち、ちゃんと考えてなかった」
「ううん。大丈夫」
 俺が答えると、トルビーは頭を上げてはにかんだ。

「一緒に旅、行ってくれる?」
「もちろんっ!」
 ニコッと笑って元気よく返したあと、俺は真顔を作った。

「……で、旅の目的は?」
「え、え~っと……」

 少しの沈黙の後、トルビーが小さな声で言った。
「魔王様の、「呪い」の解呪……です」
「あ~、もしかして、あの時の……」
 トルビーが本部長に返した紙に書いてあった「呪い」って、これの事だったのか。

「とりあえず、それは後で詳しく聞くとして。なんで言ってくれなかったの?」
「それは……いろいろ……」
 気まずそうに下を向くトルビー。

「またそうやってっ!」
「ごめんっ……!」
 潤んだ瞳でこちらを見つめ返してくるトルビーに、俺は笑いかけた。

「うそうそ、怒ってもないし落ち込んでもないよ」
「え?」
 トルビーは眉をひそめた。

「あの時も、言うつもり無かったんだよ。確かに目的とか気になってたけど、いずれ話してくれると思ってたし」
「ほう……」

「な~んか、言わされたような気がするんだよね~」
 俺が言い終えると、トルビーがあははっ、と笑った。
「なにそれ」
「俺もわかんない」

 俺たちは二人でひとしきり笑ったあと、トイレを後にしようとした。

 その時だった。
「ラ~イム」
 と、男の子の声がしてパッと振り返った。

「どうした?」
「なんか呼ばれた気がして……」
「気のせいじゃん?」
 トルビーがそう言うなら、多分気のせいだったんだろう。

 俺たちは今度こそ、トイレを後にした。




 
「たノしかッたヨ、ライム……」
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