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第13話 強くなりたい
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狐虎 ―転移無力者―13話目
第13話 強くなりたい
―都市開発
ナージャの死から約一カ月程経った街の様子は見違えるほどに一転していた。一体何処から派遣されたのか、多くの工夫達が次々に新しい道を整備し、古い家を建て替え、そのままに放置されていた瓦礫を撤去していく、今や誰がそこをかつての貧困街などと言おうかと戸惑う程に・・・。
だが、狐虎の傷心は癒える事など無い。寧ろそうした変化はかつてそこに居た大切な人への思い出まで何処か遠くへ消えていきそうな気になり、とても無下に喜べるような気分にはなれなかった。
あれからよろず屋の親父は娘と共にひっそりと姿を消した。そして、よろず屋は取り壊され、また新たに様々な店が作り上げられていく。街の治安は警備隊らによって向上し、ナージャの訴えていた自警団という言葉でさえ人々の記憶から消えようとしていた。
(皆がもうナージャの事など忘れようとしている・・・)
それが狐虎が直感的に感じた感想だった。それが世の流れなのかもしれない。ポーション騎士団のおかげでこの街は救われた。大勢の人が喜び、彼らを歓迎した。たった一人の少女の死など然したるものでも無いかと言う様に・・・。
「おい、なんだお前・・・まだへこたれてるのか」
狐虎はただ一人、いつものように同じ場所に座り込んだまま動かず心を閉ざしたままだった。誰に声をかけられてもその声は彼の心には届かない。
「へっ、見てみろココ。あの坊ちゃんが来たお陰でこの街はすっかり変わっちまった。全く、異世界人というのは本当にあっという間に何でも変えちまうよなぁ」
酒のみの親父の口ぶりはどこか皮肉めいている。
「・・・ナージャはきっとお前に感謝しているぜ。お前が見つけてくれなければあの子は誰にも知られないままきっと奴隷市場の中でひっそりと冷たくなっていたはずだ」
久々に聞いた友の名に、狐虎の耳がかすかに動く。
「だが今のお前は最低だな。ナージャがもし生きていたならきっと呆れかえるか笑い飛ばしているだろうさ」
「・・・・・・・・・」
それは叶わない夢であった。だが親父の言う事もけして間違ってはいない。狐虎はその長い黒髪に覆われた闇の中で、只管にどうすればナージャを救えたのだろうか、その事だけをずっと自問自答し続けていたのだ。
街は大きく変わりゆく。
グラス一家も薬草屋は廃業し、新たな職を見つける事が出来たようだった。
「・・・・全く嬉しいけど素直に喜べないというか」
プランタンは最後の調合をしながらソレルに話しかける。
「次の働き口がまさかポーション製造プラントの研究員だなんて・・・」
ソレルも同じことを思っていたようだった。
「アステラ様の先見の明は本当に素晴らしいよ、今やこの街で職に炙れるような人間なんて殆どいない、新たな商売に、新たな建物、それに私のようなしがない薬草売りにさえ手を差し伸べてくださる、そこに文句を言えば罰が当たるだろうな」
「あの方もココと同じ異世界人らしいわ、きっと前世で色々と知識を深めての事なのでしょうね」
「・・・この事はココ君には内緒にしておこう、彼にとっては大切な人の辛い思い出が蘇るだけだ」
「ええ、皆新たな道へ向かって歩き始めている・・・あとはあの子だけ」
二人は少しため息をついた後、また残った薬草の整理を始めた。
アネはあれから毎日狐虎の様子を見守り続けていた。家にすら帰ろうとしない狐虎にかけるものを持っていき、食事も毎日運び続けた。だが、狐虎はそれには手をつけず、ほんの少しの水を飲むのみ。体が見る見るうちに窶れこけ、伸び続けた髭は完全に顔を覆い始める。目は窪みそこに光は無く、アネにさえ問いかけられても反応を示さない日々が続いた。
アネはそんなココを見る度にとても悲しい気持ちになった。
どれだけの覚悟だったのだろう、どれだけ必死だったのだろう、それなのに大切な人を救えなかった悲しみ、絶望、その反動が今のココの姿だとアネは感じていた。
「・・・お兄ちゃん、ちゃんと食べないと体壊しちゃうよ」
「・・・・・・・・」
アネはたまらずココに抱きつく。
「おにいちゃん!!!食べないと死んじゃうよ!!!」
「・・・・・・・・・」
もうあの頃の兄と呼べた人は戻ってこないのかもしれない。しかし、それでもアネは必死にココを元に戻そうとした。
その声が心に響いたのか、狐虎の手がかすかにアネの体に触れた。
「お、おにいちゃん・・・?」
「・・・・・・・・・・」
狐虎は相変わらず言葉を発しようとはしない。だが、その代わりアネの持ってきていたパンを手に取りゆっくりと口へ運んでいく。それを見たアネの曇った顔は瞬く間に笑顔になっていく。
(すまないアネ、もう少しだけ、もう少しだけ時間をくれ・・・)
自らもいつか立ち直らなければならない・・・。
狐虎が強く心に描いたのは、『誰かを守れる力』であった。
―強くなりたい
それからさらに数週間後、狐虎は新たなる旅路の支度を始めていた。もう特に急く事も無く、ゆっくりと必要になりそうなものを色々と考え、袋に詰めていく。それからベッドで仰向けになり、この世界に降り立って初めて迎え入れられた我が家をじっくりと眺める。
(もうここへ戻ってくる事は無いだろうな・・・)
それは、己が立ち直る過程に置いて決めていた事だった。
― その日の昼 ―
「冒険者になる・・・?」
狐虎はプランタンに思い切って自分の胸の内を話す。
「はい、プランタンさん俺・・・強くなりたいんです」
「ココ君、気持ちは分かるが・・・」
「知ってます、もう冒険者なんて仕事も無くなる。ですよね?」
「うん、もう魔物による脅威は殆ど無くなってきている。だからココ君、もう君が強くなる必要は・・・」
「分かってます、でも、それでも俺は強くなりたいんです」
「・・・・・・・・」
「それに、魔物討伐だけが冒険者の仕事じゃないでしょう?俺なら薬草の知識もある、肉や皮だってまだまだ需要はあると思うんです!!」
それはマタギを目指していたかつての自分を取り戻すかのような衝動でもあった。あの日見た夢、それは新たなる切欠を示す暗示だったかもしれないと。
だが、プランタンは簡単に首を縦に振る気持ちにはなれなかった。自分達が薬品製造のプラントで働く事は狐虎には言ってない。この世界が平和になるという事は、いずれ狩猟の分野に置いても畜産業が発展すれば、それもまた斜陽の陰りを見せるという未来図が見えているような気がしたからだ。
しかし、かといって今の狐虎に何を目指すべきか最適な答えも浮かんでこない。アネが狐虎の事を実の兄のように慕っている事もあり、出来ればこのままずっと一緒に居て欲しいと願うが・・・。
狐虎の決意の裏にナージャの一件があるとすれば、無下に反対する気にもなれないのであった。
「ココ君、君がそこまで言うなら」
「ダメよ!!」
「ダメだよ!!!」
突然、ドアが開くと同時にソレルとアネがプラタンの言葉を遮る。
「ココ・・・確かにナージャちゃんの件は悲しい事件だったわ。でも、もうこれ以上皆が苦しむ事もない。これからはきっと理不尽な暴力に怯える日々だって無くなるわ」
「そうだよお兄ちゃん、やっと立ち直ったばかりなのになんでまた出て行こうとするの?アネ、もうお兄ちゃんが悲しむ姿見たくないよぅ」
そう言って泣き出すアネの前に座り込み、狐虎は小さく「ごめん」と呟く。
「ごめん・・・俺は、こうでもしないと・・・」
狐虎にとって今の気持ちを有耶無耶にして新しい生活など到底受け入れられない、少なくとも自分自身で強くなったと実感し、その力で誰かを助けられるまでは・・・。
「お願いよココ、どうかこの家に残って・・・今は無理かもしれないけど時間た経てば」
「『ナージャの事も思い出に変わる』ですか・・・」
「そんな・・・違う、違うわココ」
「違わないですよ、ソレルさん。確かにソレルさんの言う通りこれから街の治安は良くなるかもしれない。でも、そうなっていく度に俺は・・・いや、誰もがナージャの存在を忘れようとする気がして・・・」
「ソレルさん、教えてください!ナージャは、ナージャはなんで生まれて、どうして死ななければならなかったんですか?」
「ココ・・・・」
ソレルはそれ以上何も言えずに涙を滲ませる。狐虎の中でどうして助けてほしい時に誰も声を上げず、何もかも失った時に助けがくるのだ、という理不尽による蟠りが爆発していた。
「俺は、もうこんな思いはしたくない。何かあった時は絶対に助けたいんです・・・強くなりたいんです・・・・・」
その強い意志の宿った目を見て、ソレルはもうこの子を止める事は出来ないと悟った。その後、狐虎は泣き続けるアネの傍に寄り添い、ゆっくりとアネを介抱する。もうしばらく、いや、どれくらいになるか・・・。
この家に戻る事は無いのだから。
次の日の朝、グラス一家は狐虎の門出を見送りするべく、旅立つ狐虎を見送った。前とは違い、今度はいつ帰ってくるかなどもう分からない。見送る言葉も少なく、だが、それでいて彼の返ってくる場所だけはずっと待っていてあげようという気持ちだけは変わらずに。
「あの子にとって、私たちって一体何だったのかしら・・・」
「ソレル、ココ君はきっと僕らの事を大事な家族だと思ってくれてるよ」
「・・・・・」
「・・・お兄ちゃん、必ず帰ってきてね」
狐虎が去った後、それぞれ思いを打ち明ける。
狐虎はポケットに入れていた地図を何度も確認していた。目指すは南方、オールドレールという港町。そこから船に乗り、南海を渡って古都、ヘンプルトバールが目的地である。
早ければ半年、遅くても1年の旅になる。
そこまで遠方の目的地になった理由は『異世界人の影響が少ない』地方が望ましかった事。そう言った辺境ならばまだ冒険稼業でも生計を立てられそうだ、と言うプランタンの助言を受けて決めたのだった。
だが、今の狐虎にとって強くなれる場所ならばどこでも良かったのかもしれない。ちょっと外にいけばあれだけ沢山いたジェムも騎士団が街を占拠する頃には全く出て来なくなってしまった。
ナージャさえ生きてくれさえすれば、狐虎も訪れた平和を素直に喜べたのかもしれない。だが、彼女が唱えた理想や平和はその全てが後の祭りへと帰した。
ナージャの想いを忘れない為にも、狐虎は強くならなければならないと心に誓うのだった。
第13話 強くなりたい
―都市開発
ナージャの死から約一カ月程経った街の様子は見違えるほどに一転していた。一体何処から派遣されたのか、多くの工夫達が次々に新しい道を整備し、古い家を建て替え、そのままに放置されていた瓦礫を撤去していく、今や誰がそこをかつての貧困街などと言おうかと戸惑う程に・・・。
だが、狐虎の傷心は癒える事など無い。寧ろそうした変化はかつてそこに居た大切な人への思い出まで何処か遠くへ消えていきそうな気になり、とても無下に喜べるような気分にはなれなかった。
あれからよろず屋の親父は娘と共にひっそりと姿を消した。そして、よろず屋は取り壊され、また新たに様々な店が作り上げられていく。街の治安は警備隊らによって向上し、ナージャの訴えていた自警団という言葉でさえ人々の記憶から消えようとしていた。
(皆がもうナージャの事など忘れようとしている・・・)
それが狐虎が直感的に感じた感想だった。それが世の流れなのかもしれない。ポーション騎士団のおかげでこの街は救われた。大勢の人が喜び、彼らを歓迎した。たった一人の少女の死など然したるものでも無いかと言う様に・・・。
「おい、なんだお前・・・まだへこたれてるのか」
狐虎はただ一人、いつものように同じ場所に座り込んだまま動かず心を閉ざしたままだった。誰に声をかけられてもその声は彼の心には届かない。
「へっ、見てみろココ。あの坊ちゃんが来たお陰でこの街はすっかり変わっちまった。全く、異世界人というのは本当にあっという間に何でも変えちまうよなぁ」
酒のみの親父の口ぶりはどこか皮肉めいている。
「・・・ナージャはきっとお前に感謝しているぜ。お前が見つけてくれなければあの子は誰にも知られないままきっと奴隷市場の中でひっそりと冷たくなっていたはずだ」
久々に聞いた友の名に、狐虎の耳がかすかに動く。
「だが今のお前は最低だな。ナージャがもし生きていたならきっと呆れかえるか笑い飛ばしているだろうさ」
「・・・・・・・・・」
それは叶わない夢であった。だが親父の言う事もけして間違ってはいない。狐虎はその長い黒髪に覆われた闇の中で、只管にどうすればナージャを救えたのだろうか、その事だけをずっと自問自答し続けていたのだ。
街は大きく変わりゆく。
グラス一家も薬草屋は廃業し、新たな職を見つける事が出来たようだった。
「・・・・全く嬉しいけど素直に喜べないというか」
プランタンは最後の調合をしながらソレルに話しかける。
「次の働き口がまさかポーション製造プラントの研究員だなんて・・・」
ソレルも同じことを思っていたようだった。
「アステラ様の先見の明は本当に素晴らしいよ、今やこの街で職に炙れるような人間なんて殆どいない、新たな商売に、新たな建物、それに私のようなしがない薬草売りにさえ手を差し伸べてくださる、そこに文句を言えば罰が当たるだろうな」
「あの方もココと同じ異世界人らしいわ、きっと前世で色々と知識を深めての事なのでしょうね」
「・・・この事はココ君には内緒にしておこう、彼にとっては大切な人の辛い思い出が蘇るだけだ」
「ええ、皆新たな道へ向かって歩き始めている・・・あとはあの子だけ」
二人は少しため息をついた後、また残った薬草の整理を始めた。
アネはあれから毎日狐虎の様子を見守り続けていた。家にすら帰ろうとしない狐虎にかけるものを持っていき、食事も毎日運び続けた。だが、狐虎はそれには手をつけず、ほんの少しの水を飲むのみ。体が見る見るうちに窶れこけ、伸び続けた髭は完全に顔を覆い始める。目は窪みそこに光は無く、アネにさえ問いかけられても反応を示さない日々が続いた。
アネはそんなココを見る度にとても悲しい気持ちになった。
どれだけの覚悟だったのだろう、どれだけ必死だったのだろう、それなのに大切な人を救えなかった悲しみ、絶望、その反動が今のココの姿だとアネは感じていた。
「・・・お兄ちゃん、ちゃんと食べないと体壊しちゃうよ」
「・・・・・・・・」
アネはたまらずココに抱きつく。
「おにいちゃん!!!食べないと死んじゃうよ!!!」
「・・・・・・・・・」
もうあの頃の兄と呼べた人は戻ってこないのかもしれない。しかし、それでもアネは必死にココを元に戻そうとした。
その声が心に響いたのか、狐虎の手がかすかにアネの体に触れた。
「お、おにいちゃん・・・?」
「・・・・・・・・・・」
狐虎は相変わらず言葉を発しようとはしない。だが、その代わりアネの持ってきていたパンを手に取りゆっくりと口へ運んでいく。それを見たアネの曇った顔は瞬く間に笑顔になっていく。
(すまないアネ、もう少しだけ、もう少しだけ時間をくれ・・・)
自らもいつか立ち直らなければならない・・・。
狐虎が強く心に描いたのは、『誰かを守れる力』であった。
―強くなりたい
それからさらに数週間後、狐虎は新たなる旅路の支度を始めていた。もう特に急く事も無く、ゆっくりと必要になりそうなものを色々と考え、袋に詰めていく。それからベッドで仰向けになり、この世界に降り立って初めて迎え入れられた我が家をじっくりと眺める。
(もうここへ戻ってくる事は無いだろうな・・・)
それは、己が立ち直る過程に置いて決めていた事だった。
― その日の昼 ―
「冒険者になる・・・?」
狐虎はプランタンに思い切って自分の胸の内を話す。
「はい、プランタンさん俺・・・強くなりたいんです」
「ココ君、気持ちは分かるが・・・」
「知ってます、もう冒険者なんて仕事も無くなる。ですよね?」
「うん、もう魔物による脅威は殆ど無くなってきている。だからココ君、もう君が強くなる必要は・・・」
「分かってます、でも、それでも俺は強くなりたいんです」
「・・・・・・・・」
「それに、魔物討伐だけが冒険者の仕事じゃないでしょう?俺なら薬草の知識もある、肉や皮だってまだまだ需要はあると思うんです!!」
それはマタギを目指していたかつての自分を取り戻すかのような衝動でもあった。あの日見た夢、それは新たなる切欠を示す暗示だったかもしれないと。
だが、プランタンは簡単に首を縦に振る気持ちにはなれなかった。自分達が薬品製造のプラントで働く事は狐虎には言ってない。この世界が平和になるという事は、いずれ狩猟の分野に置いても畜産業が発展すれば、それもまた斜陽の陰りを見せるという未来図が見えているような気がしたからだ。
しかし、かといって今の狐虎に何を目指すべきか最適な答えも浮かんでこない。アネが狐虎の事を実の兄のように慕っている事もあり、出来ればこのままずっと一緒に居て欲しいと願うが・・・。
狐虎の決意の裏にナージャの一件があるとすれば、無下に反対する気にもなれないのであった。
「ココ君、君がそこまで言うなら」
「ダメよ!!」
「ダメだよ!!!」
突然、ドアが開くと同時にソレルとアネがプラタンの言葉を遮る。
「ココ・・・確かにナージャちゃんの件は悲しい事件だったわ。でも、もうこれ以上皆が苦しむ事もない。これからはきっと理不尽な暴力に怯える日々だって無くなるわ」
「そうだよお兄ちゃん、やっと立ち直ったばかりなのになんでまた出て行こうとするの?アネ、もうお兄ちゃんが悲しむ姿見たくないよぅ」
そう言って泣き出すアネの前に座り込み、狐虎は小さく「ごめん」と呟く。
「ごめん・・・俺は、こうでもしないと・・・」
狐虎にとって今の気持ちを有耶無耶にして新しい生活など到底受け入れられない、少なくとも自分自身で強くなったと実感し、その力で誰かを助けられるまでは・・・。
「お願いよココ、どうかこの家に残って・・・今は無理かもしれないけど時間た経てば」
「『ナージャの事も思い出に変わる』ですか・・・」
「そんな・・・違う、違うわココ」
「違わないですよ、ソレルさん。確かにソレルさんの言う通りこれから街の治安は良くなるかもしれない。でも、そうなっていく度に俺は・・・いや、誰もがナージャの存在を忘れようとする気がして・・・」
「ソレルさん、教えてください!ナージャは、ナージャはなんで生まれて、どうして死ななければならなかったんですか?」
「ココ・・・・」
ソレルはそれ以上何も言えずに涙を滲ませる。狐虎の中でどうして助けてほしい時に誰も声を上げず、何もかも失った時に助けがくるのだ、という理不尽による蟠りが爆発していた。
「俺は、もうこんな思いはしたくない。何かあった時は絶対に助けたいんです・・・強くなりたいんです・・・・・」
その強い意志の宿った目を見て、ソレルはもうこの子を止める事は出来ないと悟った。その後、狐虎は泣き続けるアネの傍に寄り添い、ゆっくりとアネを介抱する。もうしばらく、いや、どれくらいになるか・・・。
この家に戻る事は無いのだから。
次の日の朝、グラス一家は狐虎の門出を見送りするべく、旅立つ狐虎を見送った。前とは違い、今度はいつ帰ってくるかなどもう分からない。見送る言葉も少なく、だが、それでいて彼の返ってくる場所だけはずっと待っていてあげようという気持ちだけは変わらずに。
「あの子にとって、私たちって一体何だったのかしら・・・」
「ソレル、ココ君はきっと僕らの事を大事な家族だと思ってくれてるよ」
「・・・・・」
「・・・お兄ちゃん、必ず帰ってきてね」
狐虎が去った後、それぞれ思いを打ち明ける。
狐虎はポケットに入れていた地図を何度も確認していた。目指すは南方、オールドレールという港町。そこから船に乗り、南海を渡って古都、ヘンプルトバールが目的地である。
早ければ半年、遅くても1年の旅になる。
そこまで遠方の目的地になった理由は『異世界人の影響が少ない』地方が望ましかった事。そう言った辺境ならばまだ冒険稼業でも生計を立てられそうだ、と言うプランタンの助言を受けて決めたのだった。
だが、今の狐虎にとって強くなれる場所ならばどこでも良かったのかもしれない。ちょっと外にいけばあれだけ沢山いたジェムも騎士団が街を占拠する頃には全く出て来なくなってしまった。
ナージャさえ生きてくれさえすれば、狐虎も訪れた平和を素直に喜べたのかもしれない。だが、彼女が唱えた理想や平和はその全てが後の祭りへと帰した。
ナージャの想いを忘れない為にも、狐虎は強くならなければならないと心に誓うのだった。
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