孤狐 ―転移無力者―

ほまりぃ

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第14話 南方諸島

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世界は異世界人達の活躍により魔物の数は大きく減少した。

では、そこで平和が訪れたのだろうか?



否、魔物の脅威が無くなった今日、人類は互いに争い始めようとしていた。文化や価値観の違い、自らが優秀であると疑わず他国を見下し認めない国々が、それぞれに武器を手にし新たな国土を広げんとする。そうれば人も異世界人もただの手段でしかなくなり、より強い国のみが生き残れる構造になろうとしていく。


かつては『冒険者ギルド』と呼ばれるような組合も、その大きな変化に対応すべくその名を『傭兵ギルド』と変え、来るべき争いに備える構えを見せ始めていた。


世界は今、不穏な空気を漂わせ始めていく・・・。




―航海の末に


グラス家から離れて約一年と少し、山本狐虎はその旅路の中で歳を跨いだ。身長は大きく伸び、髪は相変わらず目が見えない程に覆われ、細身の体がより彼を華奢に見せる。左手は無く、右手の指も何本かは無い。足の指も無くなっていたが、それは見かけにはあまり影響が無い。




山本狐虎17歳 彼はようやく目指していた土地、ヘンプルトバールへ降り立ったのである。



ヘンプルトバールとは南方諸島群にある小国家の一つ。その規模も小さく、大した資源も無い、人民の殆どが第一次産業で生計を立てている。まさに辺境と言うにふさわしい土地であった。そういった場所なので異世界人達の整備も乏しく、また魔物の脅威もそこまで大きく無い。


そうした場所であるならばと、人もさぞ心優しい多いなどという者がいるが、実際には人の本心がむき出しになる場所でもある。つまり、良きものはより良く、悪しきものはより醜悪に色に濃く染まるのがこの地方の特徴とも言えた。


そこで狐虎は初めての冒険者ギルドで洗礼を受ける事になる。


港からその足ですぐに冒険者ギルドへと向かった狐虎。だが、そこは既にならず者のたまり場と化し、一見が入り込めない雰囲気を醸し出していた。


狐虎が中に入ると、それを見た者からの陰口が一斉に騒めき始める。


(・・・なんだありゃ、手のねぇガキがこんな所へ何の用だか)

(久々の新入りか?でも、あれじゃきっと大したことねぇなぁ)

(こんなご時世に夢見て冒険者ってか?いっその事傭兵にでも志願しりゃいいのにさ、まぁあの手じゃそこも門前払いか)


そんな声にはとっくに慣れている。狐虎は聞こえないフリをして窓口にいる男に話しかけた。


「冒険者ギルドに登録したいのですが」

「あぁ!?まだ若いな、何歳だ?」

「17です」

「じゃあ『ステータスカード』を見せろ」

「・・・・!?」

「ステータスカードだよ!まさか知らねぇってんじゃねぇだろうな?」

ステータスカード?聞いたことのない言葉だったが、狐虎は過去に自分のステータスを調べた事があるので何となくそれ関連の物かと推測する。


「どうやって作れるんですか?」


「はぁ?お前そんな事も知らねぇで冒険者ギルドに来たのか?まぁカードはここでも作れる、そこにある機械があるだろ、アレに触れて自分のステータスをカードに記憶させな。それを見てこっちはお前のランクを決める。まずまずならさっそくモンスター討伐、要人の護衛とか、仕事ならいくらでも紹介してやるよ」


窓口の男が指を差す方向に、この場に相応しくない比較的新しい機械が置いてある。前の施設で見たものと比べると大分コンパクトではあるが、恐らく用途は同じなのだろう。狐虎は案内されるがままに、その機械に手をかざす。



レベル1 魔力量0 スキル『無し』


あの時は何も感じなかったが、こうして改めて見ると悲しくなるぐらい酷い結果だと思う。だが、そこから少しずつ上に積み重ねていけばいい、強くなれば良いと考える事にした。そして、窓口の男に作成されたカードを渡す。


「・・・・えー・・・ココ・ヤマモト 魔力量0 スキル無し?」


まるで全てが聞き耳を立てているかのような静寂、だが次の瞬間そこにいる全ての者が大声を上げて笑う。中にはあまりの面白さに転げ回る者もいた。


「あっはっは!!こいつは超傑作だな!!魔力ゼロ?スキルもねぇ?俺は長い事この仕事をしてるがお前のような奴は初めてだぜぇアッハッハ!!」


何処へ行っても誰かを馬鹿にしたり、見下したりする態度は変わらないものだ。好きでこうなった訳でも無い者をどうしてそうやって馬鹿にしたりできるのだろうか?さらに質が悪いのはこういう連中のこういった思考回路にはまるで悪意が無い事だろう。そこに善悪の判断も何も無い、あるのはただただ純粋な感情のみ。


「さすがにこれじゃあ冒険者ギルドの登録も無理だなぁ、お前のような雑魚はその辺の乞食のアレでもしゃぶってろよ、口はまだ動くんだろ?ん?」


窓口の男がそう言うとまたその場にいる連中が一気に大笑いする。さすがの狐虎もその言動には我慢ならないと思ったのか、右手に力が入る。そんな時だった。


「みんないい加減にしろよ!」


入口の方から男の怒鳴る声、場が一瞬静まる。


「誰かと思ったら万年低ランクのケルプじゃねぇか?相変わらずブスの妹と一緒に仲良くドブさらいでもしてきたかぁ?ええ?」


狐虎が振り返るとそこには褐色肌で白銀の髪をボサボサに生やした中肉中背の男が、その脇に似たような体系の小柄な女の子が男の背中越しで窓口の男を睨んでいた。


「最近、皆荒れすぎだよ!昔はもっと助け合っていたじゃないか、せっかく入ってきてくれた新人をもっと歓迎すべきだ!」

「・・・ケッ!相変わらず生真面目で洒落の効かねー男だなおめぇはよ」

「誰のせいだか、この所すっかり魔物の数も減っちまって皆商売上がったりでよ。全く、残ったのは金持った成金どもの護衛とかそんなんばっかになっちまった」

「こんな状況で馬鹿真面目に仕事してるのなんざ、お前ら兄弟ぐらいなもんだ」

「まー、そのうちこのギルドも遅かれ早かれ終わりだ。ま、お前らのようなドブネズミにゃギルドなんか無くたって生きていけるかもだけどな!」

窓口の男は暴言を吐くと奥の方に消えた。それが合図になったのか白けたように他の連中も狐虎への興味が失せたように雑談を開始する。

「・・・・災難だったね。僕の名前はケルプ、ケルプ・ディバ、この子は妹のアルガだ」

「ココと言います。さっきはありがとうございました」

「ステータスカードは発行したんだよね?じゃあ、登録はそれで十分さ。僕たちも今から依頼を探しにきたんだ、良かったら一緒にやってみない?」

「いいんですか?」

「うん、大丈夫。どうせ大した仕事なんて無いよ、でも君だって稼がないとだろ?」

「はい、実はここまでの旅路で資金はとっくに底をついてしまって」

「ハハハ、それは大きく出たね。でも、こんな事言うと気を悪くしそうだけど君ってスキルが無いんだよね?どうして冒険者なんかになりたいと思ったんだい?」

「・・・・強くなりたい、強くなって誰かを守る力が欲しいんです」

「そうか・・・良いね。そういうのすごい良いと思うよ」

「じゃあ、ココ。良かったら僕たちと一緒にパーティーを組まないかい?と、言っても僕と妹しか居ないんだけど・・・・」

「良いんですか!是非、お願いします!!」


最初の顛末でここも結局一人でコツコツする事になるかと思っていた狐虎にとってそのケプルの誘いはとてもありがたいものだった。


「ああ、そうだ、南方じゃあ敬語を使われると逆に距離を取られていそうで慣れないから、これからは普通に話してくれよ、な、アルガ」

「うん・・・お兄ちゃん」

ケルプは相変わらず後ろでじっとしているアルガにも了承を取る。そういう姿はかつて最初に出会った時のアネとの記憶が重なり思わず懐かしさが込み上げてくる。


(・・・・アネ、元気にしているだろうか?)


アネだけじゃない。プランタンさん、そしてソレルさんにも無理を言ってしまったと少し後悔している。だが、この南方ヘンプルトバールで少しでも強くならなければ彼らに合わせる顔は無い。何よりナージャの意思さえ継げない・・・。


「それじゃココ!さっそく仕事の依頼を探しに行こう」

「は・・・ああ!行こう!」



―冒険兼雑務


ディバ兄弟と行動を共にする事になった狐虎、ケルプはありがたい事に狐虎を自分の住む家に住まわせてくれた。


「まぁ、冬はそこまで冷え来ないし家が無くても暮らしていけるのが南国の強みなんだけどね」

「いや、さすがにずっと野宿という訳にも行かなかったから、本当にありがとうケルプ」


それから狐虎は共に様々な仕事をしていく。だが、それは冒険稼業とは程遠い民家の手伝いや、薬草、薬藻などの採取、貝などの食料の調達などが殆どだった。


「ケルプ、そういえばケルプもアルガも首に巻き付けているそれ、もしかして階級を示すものなの?」

「ああ、これか。僕のが石でアルガのが骨。冒険者で一番ランクの低い者の印みたいなものさ」

「他にもあるの?それってギルドから?」

狐虎の問いにケルプは首を横に振る。

「いや、まぁ他には木とか・・・要するに何の価値の無い物ならそれがそのまま低ランクを示すみたい。ちなみに僕のもアルガのもお手製さ」

「なるほど・・・階級が上がれば身に着ける物も高価なものになっていくのかな?」

「うん、確か石・骨・木の次が銅と青銅、次が鉄、その次が琥珀、珊瑚、銀、黄金という順、それ以上行くなら宝石を授与されると聞いたことがある」

「へぇ、色んな階級があるんだな」

「まぁ、僕らには縁のない話だね、ハハハハ」

「うん・・・」


その話はそれで途切れる。


それからしばらくは雑用の仕事が続くが、たまにモンスター討伐の仕事も舞い込んで来た。


「ココ!今日はサハギン討伐の仕事が出ていたよ」

「本当!?いよいよ本格的なモンスター退治か」

「いつもなら僕とアルガで何とか倒せたぐらいだから、ココが加わると大分安定するんじゃないかな」


「俺・・・頑張るよ」


ケルプが受けたのは南方では比較的多く生息するサハギン族の討伐だった。サハギンは弱いモンスターではあるが、単体で居る事はあまりなく、2、3体で組んでいる事が多い。それに弱いからと言って低ランクが簡単に狩れる相手でも無く、時には命を落とす者もいると言う。


狩場に到着した狐虎達は念入りに準備に取り掛かった。装備している武器に不備は無いか、防具に解れ等は無いか、薬草・毒消し草は持ったかなど。敵の発見や、勝てない相手に遭遇しない術はケルプが持つコモンスキル『警戒』が大いに役に立つ。


「・・・ここはダメだな、向こうに行こう」


結局慎重に慎重を重ねた結果、自分達が狩れそうなサハギンには出会えず、安全地帯でしばらく休憩を取る事になった。


「ケルプの『警戒』スキル、すごいね」

ココはその精度の高さを賞賛した。

「いや、本当は戦闘スキルが欲しかったけど、こればっかりはね・・・」


「ちなみにアルガは『薬草採取』だから、僕らもココみたいにスキルがあって無いようなもんさ」

「なぁ、ケルプ」

「うん」

「『スキル』ってそんなにすごいものなの?」

「・・・すごいね、この世界はスキル至上主義といっても言いぐらい」

「・・・そうか」

「ちょっと良い戦闘スキルさえ持っていれば、それだけで今から僕らが狩るサハギンなんて一人で3、いや4匹ぐらいなら容易く狩れるよ」

・・・狐虎は昔出会った通りすがりの戦士の事を思い出す。確かあの人も簡単にジェムを狩っていた。


「じゃあ『魔力量』は?」

「そのままの意味、と、言いたい所だけど今じゃあその人の強さを示す数字みたいな扱いになっているね」

「魔力量が無い人間なんているの?」

「・・・聞いたことがないな、でも、あのステータスを計る装置って割と適当でさ。あれだけで本当の強さを差し計る事なんて出来ないと僕は思う」

「そうだよね、実際に戦ってみないと・・・」

ケルプの言葉で狐虎は少し救われたような気がしたのだ。

そして初めてのパーティー戦。それは拍子抜けするほどあっさりとしたものだった。

「アルガは分かってるよね?ココ、サハギンはそこまで動きは早くない。でも確実にやるなら武器を持ってる手を狙うんだ」

ケルプは静かに皆に指示を出す。狐虎は初めてサハギンという魔物を見たが、それは狐虎の足膝しかない程小さく、持っている武器も枝の先端に石器を付けたような貧相な物でしかなかった。それを奇襲して一気に叩く、叩いたらエラを引き千切り、すぐにその場から離れるというものだった。


だが・・・


「あっ!」


最も素早く動けるアルガが初手で攻撃をミスした。


「ギッ!!」

「ギッ!ギッギギ」


二匹がそこで奇襲に気づき、一斉にアルガを槍で貫こうとした。背中を突かれれば致命傷になりかねない。


「アルガ!!!」


だが、アルガに視線が向けられた事でココとケルプが飛び出し、一気にサハギンの腕を切り落とし、同時に致命傷を負わせて一気に倒す。


「アルガ!早く!!」


ケルプが急いでアルガを立ち上がらせ、その後はとにかく全力疾走でその場から全員で逃げる。ケルプのあまりの急ぎようにエラを剥ぐ時間さえも無かった。


「はぁはぁはぁ・・・」

「・・・・ご、ごめんなさい」

「いいよ、アルガ。ケガは無いか?」

「うん・・・でもエラが・・・」

「いいさ、生きているだけでマシさ」


ケルプが言うには、サハギンは特殊な緊急信号のようなものがあるらしく、モタモタしてると一気に取り囲まれて全滅させられるようだ。とにかく、一度狩ったらその日はもうそこから離れ、最低でも次の日まで持ち越した方が良いとの事だった。


初めてのパーティー戦は残念な結果になってしまったが、狐虎にとってはこういう経験は初めてであり貴重であった。奇襲を狙ったとはいえ、あんなにもあっけなく倒せてしまった事、それを差し引いても自分が今まで戦ってきた敵ほどの強さは無いという事。


「ココもすまない。せっかくの依頼が達成できなくて」

「いや、魔物ってもっと強いと思ってたけど、案外いけるんだな」

「人間だっていきなり襲われたら危ないだろ?サハギンだってそうさ、ただあいつ等はあまり頭が悪くないから警戒を怠りやすい。でも、僕たちが狙うのは外に出て偵察しているサハギンだけだ。それ以上は危険すぎる」

「サハギンにも強さがあるの?」


「ああ、サハギン討伐で洞窟まで行ってそのまま帰ってこなかったなんてよくある話だよ。それも鉄階級の連中でだ」

それを聞いた時、狐虎は思わず唾を飲み込んだ。ただ戦う事だけでは無い、こう言った情報やそれを自分達の力を照らし合わせて初めて安定した攻略が得られるのだと。無謀に走る、それはすぐさま死に直結するという事を。


「自分の力を見間違わないよう気を付けるよ」


「うん、生きてこそだよ、ココ」



こうして、ヘンプルトバールによる狐虎の冒険生活が始まった。




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