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第11話 異世界人
しおりを挟む―プロトリス聖教国
宗教とは何か?女神とは一体何であるのか?
答えはその世界を創生した唯一の存在であり、そして、女神が祝福した地こそがプロトリス聖教国なのだと、厳粛な聖職者達は唱えるだろう。他国が覇権を巡って欲に塗れた争いの最中、古くから存在し、多くの奇跡によって民草を救ってきた。女神の奇跡によって信仰は深まり、またそうでない者は日ごろの信心が足りないとして、より崇め奉る事を励みにさせる。こうして彼の国は大勢の信者を掌握し、信者より治められし富はより女神を神格化させる為に費やされた。
その結果、今では日々激しく変わっていく世界の情勢で大きな遅れを取り、神の名の元に汚職、横領は勿論の事、厳粛な聖職者などと言う肩書とは裏腹に己の欲望のまままだ年端の行かぬ少年少女に性的虐待を繰り返す者も出始めており、民の信心などとうの昔に離れ、形ばかりだけの洗礼と祈りを奉げる日々だけが残る。
そして近年、その形骸化に追い打ちをかけるように神の奇跡と仇名す絶対的な治療薬、『ポーション』が開発されそれが世界中で広まるようなれば、さすがの聖教国もその脅威に対応を追われる事になる。そこで、集まられたのがまことしやかに囁かれていた『異世界人召喚』であった。独自の召喚儀式により招集された異世界人達は、現存する異世界人達よりも優れた土産を付与されていたと言う。
その中で一際群を抜いたのが二人、異世界転生者であるエルラ・ハイランドと異世界転移者の吉田愛莉である。特にエルラはその一人で何十万とする兵力を持つとされる厄災級のユニークスキル『映画英雄』は他国にまでその名が広まる程である。対する吉田は広範囲に及ぶ治癒結界を張る事が可能なユニークスキル『女神の祝福』を所持しており、この二人は今や聖教国を支える二大女傑として畏怖されていた。
・・・そんな二人は今日も。
「エルラ・・・いや、ダメッ」
「別にいいじゃない、あとその『エルラ』ってのやめてよ。私の事はれいなって呼んでって言ってるでしょう?」
「んっ・・・れ、れいなちゃん・・・も・・もうこんな事・・・」
二人きりの部屋で吉田愛莉はエルラ・ハイランド、否、旧名那智れいなの執拗な愛撫に辛うじて抵抗していた。とは言っても別にそれが嫌いな訳じゃ無い、だが同性同士のこうした濃厚な愛情表現の経験が無かったことの戸惑いが己の貞操を必死に守ろうとしているに過ぎない。
れいなは愛莉の唇からその甘い舌を執拗に絡めとり、何度も自分の口へ運ぶ。時折自らの舌をも絡ませて、そしてその手を愛莉の下着の中へと滑り込ませ、ゆったりとその口使いに合わせて気持ち良くなぞっていく。その度に愛莉は全身に電気が走ったような衝撃が走り、ビクンッと体を大きく反応させる。その反応に呼応するようにエルラの指もまた激しく前後運動を繰り返して行く。そして、互いに絶頂を迎えようとした時だった。
バタンッ
突然部屋のドアが開き、初老の修道服を来た僧侶が入ってきた事により、彼女達の密会は一旦中止される。
「エルラ様、愛莉様、教皇カリメア様がお呼びで御座います」
男は上品な笑顔を保ちながら、淡々と申し伝えをした。だが、その目の奥には先ほどの隠姦行為を直前まで覗き見していた下心が見え隠れしていた。
慌てて服を正す愛莉をよそに、エルラはその言葉には返さず男の前に仁王立ちで立ちはだかる。
「・・・私、前にも言ったよね?ドアを開ける時は必ずノックしろって」
「申し訳ありません、何でも急用とのこはぐぅ!!!!」
エルラの高圧的な物言いにも動じず冷静に返そうとした男は、突然カエルが潰れたような声で自分の股間を抑えながらその場に蹲る。言葉を言い終える前にエルラの強烈な金的蹴りが男の睾丸を蹴り潰したのだ。
「あっ・・・・あっああ・・・・!!!!」
エルラは言葉にならない悲鳴で呻く男の首に剣先を置く。
「その汚い目でずっとのぞき見してたくせに、よく平気で嘘がつけるよね・・・聖職者?このゴミ野郎が!!!」
エルラは男の首に狙いを定めると一気にその首を両断しようと大きく手を振り上げる。
「だめ!!!」
チッ、エルラは軽く舌打ちをする。そうだった、愛莉の前でこんな真似をしてはいけなかった。そう自分に言い聞かせエルラはゆっくりと剣を鞘に納める。
「・・・次は殺す」
ゴミを見るような目で男にそっと耳打ちをするエルラ。そして愛莉の手を強引に引っ張り、二人はその部屋を後にした。
蹲っている男はそれなりの高位の司祭だったらしく、その惨状を見ていた司祭たちが慌てて男に駆け寄り担架で運び去った。
(全く、なんて恐ろしい女だ・・・・)
(教皇様は何故あのような下品な女をいつまでも放し飼いにしているのだ?)
(仕方なかろうて、あの女はその一つで万をも超える軍と同等の力をもっている・・・今の憂き情勢を考えれば何を以てしてもその力に頼らざる終えないのだろう)
(だが、あの女の思考は真に危険・・・事が終われば教皇様とて無慈悲にて陥れ、葬る打算であろう・・・)
(もしくは、敵国の強き異世界人どもと同士討ちで死んでさえくれれば・・・)
エルラの身に余る行動は国中の黒い噂として流布されていく。元が強烈なだけに、その吹聴は尾鰭が付き余計に凶悪なものに膨れ上がる。だが、当のエルラはそんな事は気にも留めない。彼女は前世界での最期、連続強姦殺人者の犠牲になって無念の死を遂げた。元はただ普通に進学校に通う学生だっただけに、彼女の生前の悲劇は転生しても尚、強烈なトラウマとなって己を蝕んでいる。
元から同性を好む性癖であったが、転生して意向異性に対してはその全てを犬畜生、獣の類としか見てない。この世界に無限の可能性があるならば、男という低能で強欲な生き物はその全てを排除する事こそが理想の平和であると本気で考えていた・・・。
―プロトリス聖教王
カリメア・エル・プロトリス
最もその名は彼の本当の名ではない。聖教王、法皇、教皇、法王、宗教における最上級の権威がその名に込められ、女神から宣託を受けた者だけがこの名を譲り受ける事ができる。歴代11代目である長身の老人は意外にも質素な生活を好む人物だった。
いかに聖職者が欲望に手を染めたとて、己だけは純粋に女神の教えを全うせんが為の所業。故にカリメアは素晴らしき宗教家であっても政治には疎く、その実務は殆ど評議会に任せていた。だが、そんな彼が唯一自身の権力を行使したのが『異世界人召喚』だったと言っていい。
それは女神から受けた宣託であったからだ。
―近い将来、世界は大きな混乱に見舞われます。今のままではこの国も滅びの道を選ぶ事となりましょう。世界に散らばる異世界人達を集め、国力を維持するのです―
それから彼は周りが驚く程に性欲的に異世界人の招集に精を費やす。財産に興味が無い事が逆に仇となったのか、彼は招集した異世界人達に惜しみなく金銀を振舞った。そして宣託通り異教徒や蛮族共がこの国を攻めてきた時、異世界人達によってこの国は堅固に守られた。
だが、それは同時に異世界人達の力を世に知らせる結果となってしまう。その力は用意に世界を滅ぼしかねない程であった為、今度は逆に彼らを追放し始める。国と言うものはなんと身勝手な事だろうか、だが、その中でもカリメアが制御可能であると判断された者だけは辛うじてこの国に残された。
それがエルラ・ハイランドと吉田愛莉である。
聖教国最高位の王室はその台座が立派である以外は質素な部屋であった。しかし、そこに腰かける老人の表情には微塵の曇りも無く、全てを達観したかのような精悍さがあった。側近たる者は誰もおらず、扉の外を兵が警護するのみ。そこに招かれた二人の美女、エルラ・ハイランドは母親譲りの輝かしい金髪の髪を一つに纏め、透き通るような白い肌、そして何より全てを飲み込まんとするその美しい碧眼に心を奪われる者も多い。対する吉田愛莉はどこか頼りなく、質素で飾り気のない印象を持つが、その眼鏡に隠された素顔はエルラにも負けない美貌だと言われている。
「・・・来たか」
「『来たか・・・』じゃ無いわよ!!全くアンタ達の倫理観ってどうなっているの?毎度毎度私たちの部屋覗き見したり、分かっていてノックもしないでドアを開けたり・・・今度そんな真似したら本気で殺すからね!!」
「好きにせよ」
「・・・!?まぁ、そう言うならそうさせて貰いますけど」
「教皇様、それで今日は一体何の御用でしょうか?」
「うむ、実は評議会に置いて君らの遠征が決まった」
「はっ!!ふざけないでよ!何も聞いてないし!?」
「だから今こうして説明しておる、無論、この遠征を見事果たせたのなら褒美は思いのままだ」
「・・・・あの、それで遠征の目的とは?」
「うむ、近年から噂されている『フルポーション』なるものがついに完成、これから増産の一途をたどるらしい」
「ああ、それなら知ってるわ。『ポーション坊や』でしょ?」
「その少年を担ぎ上げた勢力が近年幅を利かせつつある。先月もシルファルファ王国の南端あった黄金の宮殿があ奴らの勢力に収まったと聞く」
「それで、そいつらを皆殺しにしろと?」
「その通りだエルラ、そして出来る限りその『フルポーション』とやらを全て始末せよ」
「・・・それは宗教国家の存続に関わるから?」
「そんな簡単な問題では無い、女神の存在意義さえも奪いかねない恐ろしい薬だ」
「しかし、教皇様。あそこはシルファルファ王国の領土ですよね?南端で我が国と境界しているとはいえ、それを攻めてしまうという事は侵略行為になるかと思われるのですが・・・」
「愛莉よ、それは歴史の認識不足というものだ。元来あの地方は何方つかずの対応を取ってきた。それが近年になって向こうの貴族共が一方的に領土を主張したに過ぎん。当然平和を愛する身をしてはそれに対し抗議はするも武力で挑むつもりはなかった」
「だが、今回は違う。フルポーション、もしそんなものがこの国に流出すれば民草は女神を見失う。信仰は薄れ、今までの戒律全てが無に帰するのだ、それはさすがに看過できない」
「くだらない、まるで時代に逆行してるだけじゃない。自分達の権威が無くなるのを恐れているだけでしょ?」
「エルラ!!」
「だってそうでしょ?今まで散々女神の名を語って好き放題して、挙句の果てに幼い子達にまで手をかけて・・・ま、そういう事ばっかやっていたから女神様に見捨てられたのよ・・・いい気味だわ」
「エルラ、いや、れいな。君の前の国では宗教とは無縁だっと聞いた」
「ええ、私もそして愛莉も当然無神論者。宗教に偏っているような国はどこも争いばかり繰り返していたわ」
「エルラ、そうやって悪しき風習ばかりを見て糾弾するのはとても悲しい事だ。確かにこの国は腐敗している、だが、腐敗すると同時にまだ腐らずに生き続けている人間も確かに存在する。宗教で身を亡ぼすと同時にそれによって救われた人間も大勢いる・・・」
「私は国を大樹に例える、根が腐ればその樹は次第に枯れ果てよう、だがそこで青々と茂る葉を見て、それを見捨てる事などできようものか」
「まるで国が死ねば民も死ぬような言いぐさね、人間はそこまであま」
「もう止めようエルラ、教皇様の言う通りだよ。滅ぶかどうかなんて私たちが決める事じゃないもの」
「愛莉・・・」
「分かったわよ、それで、私たちはそのポーション坊やの率いる勢力を滅ぼせばいいのね?」
「うむ、それで褒美の事なのだが」
「あーそれね、どうせ金銀財産の類?もう、正直今までも沢山貰ったし正直もういらない」
「では、何を望む?」
その言葉を待っていたかの如く、エルラの目が爛々と輝く。
「そうね、国が欲しい」
「ほう」
「私と愛莉を頂点に、女が全てを支配する国を作るの。男は全て奴隷、それも全員去勢済みにして馬鹿な起こさせないようにね!!」
「・・・・・・」
「れ、れいなちゃん・・・・・」
「クックック・・・あっはっはっは!!!実に面白い!!!」
てっきり狼狽されるかと思っていた二人は、カリメアの意外な反応に驚く。
「ならば、彼の地を制圧した暁にはその地を其方に譲っても構わん」
「本当に!?」
「ああ、奴隷なら敵国の兵や主の意に背かんとする者を選出すればよい」
「じゃあ決まりね!ああ、そうだ国を興すんだから当然後見人が必要じゃない?」
「無論、その時は私自らが引き受けよう」
「それじゃ話は決まりね!!そうと決まればさっそく準備に取り掛かるわ!!行くわよ愛莉!!!」
「えっ?ちょ、ちょっとエルラ!!待ってってば!!!」
駆け出すエルラを慌てて追いかける愛莉。
そして、部屋にはまたカリメア一人となる。
カリメアは王座から立ち上がり、机の中から隠した酒瓶を取り出し、それをゆっくりと飲み干した。
「・・・・愚かな娘だ」
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