死神の館の主様

九死に一生を得る

　とにかく、この場から逃げないとまずい。
（千坂、早く階段を下りて……）
「あ、足が……動かない……？」
（えっ！？）
　しゃがんだ時に腰を抜かしてしまったらしい。
　涙目で自分の足を叩いて動かそうとしている。
「や、やだ……死にたく、死にたくないよ」
　僕は早く逃げないという気持ちでいっぱいだった。
　狙いすましたかのように今度は前方からボールペンが勢いよく飛んできた。
　この程度なら黒の力で対処する事は出来る……待てよ？
（千坂。ちょっと、目を閉じていて）
「え、え……まさか、見捨て……」
（いいから早く！）
「ひっ！」
　言われるがままに千坂は目を閉じた。
　がくがくと体を震わせて、怖がっている。
（ごめんね。ちょっと借りるよ……憑依！）
「……あっ」
　ガクンッと糸が切れたように動かなくなり……僕は再び千坂の体の中に入った。
　思った通りだ。体が触れていれば再び中に入ることができる。
　ただ、千坂の意識がだいぶ深いところまで寝てしまったが、今は気にしている場合じゃない。
「おっと」
　今度は刃が出ているカッターだった。
　一歩間違えれば……いや、死んでもおかしくない攻撃だ。
　千坂の体は足が動かない。普通に考えれば絶体絶命の状況……だけど僕は普通じゃない。
「影移動……発動」
　僕達はこの場から逃げ出した。