絵のない怖い絵本1

aoi

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「迷子」

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わたしには妹がいる
妹は少し不思議な子だ。
いつもボーッと部屋のすみや何もない空中をみている。
そして、突然、キャッキャと笑う。

妹は5才だというのに
話すことができない。
でも、わかっていない訳でも無いようで
家族の言葉にしたがって毎日をただ過ごしている。

最近困ったことに、
妹の行動範囲が広がって迷子になることがある。

「この線から出てはいけないよ、危ないからね」
と家族はその度に言い聞かせるが
それでも幾日か過ぎると、いつの間にか居なくなってしまう。

迷子になった妹はいろいろな場所で見つかる。
初めは近くのコンビニエンスストアの陰でうずくまっていた。
そのつぎは隣町の廃校になった小学校の昇降口。
そのつぎは、もう人が住んで居ない洋館の大木の下。

仕方なく、家族は妹から目を離すときだけハーネスを着けた。
それでも居なくなった。
その時は線路脇の小屋のなかから。

そして、今日また迷子のようだ。

ふと、気づいて、住宅地図に妹の発見場所に印を付けてみた。

そして、気がついた。
星を描いていると。
妹は、この町から逃げようとしていたのだ、と。

確信を持ってこの星の真ん中にある神社に向かう。
斯くして妹はそこに居た。
「私はもう、ここにしばられていたくない、さようなら」

私に向かってニヤリと笑い、

妹は消えた。

迷子になって妹は戻らない。
明日は妹の6歳の誕生日だったのに。
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