絵のない怖い絵本1

aoi

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「そして、あきらめた」

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結果からいうと友達はその車を手放した。
学生としては相当奮発して購入した外車だったが
「行きたいところに自分の意思で行けない」
というのでは意味がないからね。

友達との恐怖のドライブ、それも真っ昼間、
の体験は解放されるまでにかなりの時間を擁した。

初めの「何か」のあと、ほんのわずか休める所を探していたら
また「乗ってきた」。

すると友達はまた無言で車を走らせる。
僕も隣からのおどろおどろしい圧に耐えて座っていた。
どんな意図を持って走ってるのか全くわからなかったが、
ある閑静な住宅街に入ったところで「降りた」のがわかった。

「おい、どうして停まらないんだ」 
「…わからない、停まれないんだ…」
「ここは何処なの」
「わからない、わからない、わからない!」
泣き出した。
「勝手に、勝手にうご…動く、んだ」
 …怖くて怖くて怖くて…停まること怖くて…」

とりあえず友達をそこで降ろした。
ちょうど近くにカフェがあったのでそこで休ませ、
僕は車を駐車しに行くことにした。

そして、友達の言った意味がまたしてもわかった。
乗ってくるのだ。勝手に。

そして、僕の意思とは関係なく、車を運転して、
その何かを何処かに降ろす。

それを繰り返し、気づいた。

タクシーだ。
この車はタクシーなので。
それも「何か怖いもの専用タクシー」

ある大型施設の駐車場が目的地だったとき、やっと解放された。
僕はそのまま駐車場に車を置き去りにして逃げた。

友達を降ろしてから既に五時間をすぎ、辺りは薄暗くなっていた。
僕は友達に連絡して、僕たちの町で落ち合った。
そして、僕は本日初の食事にありついた。

その後、友達はその車を売って、新車の原付を買った。
友達いわく「新車は安心だね!」
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