Money or Songs(仮)

SUNO

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第一章 美琴

8曲目 何も知らない

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 体育館の中に入ると、隣のクラスの生徒たちも集まっていた。美琴は自分のクラスの女子たちが集まっている方に向かうと内海うちうみたちと合流した。
 内海はいつもながらテンションが高い。

「球技大会バスケにしてよかった。隣のクラスの八上君も一緒だし。授業中、目の保養ができて最高だよね。大国ちゃん」

 内海は大国の腕を抱くと、興奮気味に八上の方に目をやった。
 八上は男子たち数人固まって座って談笑しているようだった。そして八上は例のごとく周りの注目を受けているようだ。
 
「別に、八上関係ないし」
「大国ちゃん八上君がバスケ選択だって知っててバスケにしたんじゃないの?」
「バレーボールの方が突き指しそうだからバスケにしたってだけ。そんなことより、及川見なかった? 更衣室にもいなかったんだけど」
「及川っちなら昼食べた後、時任に捕っちゃってた。なんか服装が乱れてるとかで時任ときとうに捕まってた」

 そう言えば、及川は朝から気合の入った化粧をしていた。
 数学教師の時任は生徒指導もやっている。時任の説教に入ると、しつこく陰湿だ。

「うわ。時任か。及川目ぇ付けられてるからな」
「及川っちも適当に受け流せばいいのにね。刺激しちゃうようなこと言うから、なんか話こじれちゃったみたいで。長くなりそうだったから、かわいそうだけど置いて行っちゃった」

 内海は悪戯っぽく笑った。

 体育の授業が始まり、パス練習を始めた。美琴は内海たちと組み、ドリブルとパスの練習を始める。
 体育館の反対側の方に目をやると、頑丈な網カーテンの向こうではバレーボールの練習が始まっていた。バレーの授業には灰島が参加していた。そして、体操服の時でも、首に変なネックウォーマーのようなものをしていた。流石に5月下旬にあれは暑いのではないだろうか。慣れない手つきでトスの練習をしていたが、飛んでくるボールをなかなか取れずに落としてばかりいた。どうやら歌以外には取り柄がないらしい。
 そもそも、あのマッチ棒みたいな青白い細腕で男子のサービスを受けたら、骨が粉砕するのではないだろうか。あれだけ下手だと、一緒に練習しているグループの男子達にも迷惑だろうと美琴は思った。

 しばらくすると、及川が体育館に入ってきた。

「4組か? 遅刻だぞ」

 体育教師は及川に声をかけた。及川は体育教師の元に行くと、事情を説明し、話終わると、不機嫌そうな顔で美琴達のところにやってきた。

「時任のやつ、マジでムカつく! あたしのこと目の敵にしやがって。化粧してくるなとか髪染めるなとか。髪は地毛だって言ってんのに」

 及川は長い手足を大きく使って怒りを表している。そばで聞いてた女子達がクスクス笑っている。

「及川っちが地毛って無理あるからっ、毛先とかほぼ金髪じゃん」
「色落ちしやすいんだよ」

 及川はむくれて言う。

「あームカつく! リップ没収されたし! 他にも髪染めたり、化粧してるやついるのに私ばっかり」
「及川、目立つからね。教師に目付けられやすいんだよ」

 美琴が言うと、及川は急に目を丸くした。

「えー、それ大国に言われるとは思わなかった。大国のほうが目立つし。髪は染めてないけどさ」
「何それ」
「ほら、大国って当たり前のように学級委員とかやっちゃうし、学祭のステージで堂々と歌ったりとか。存在感あるっていうか、遠くにいても目に付くしさ。大国に比べたらあたしなんて普通だって」
「学級委員とか関係なくない? 周りが勝手に勧めるから仕方なくなっただけだし」
「大国ちゃんも及川ちゃんもどっちも目立つよ。二人とも体格いいし、二人で一緒にいると余計に目立つよね。ねえ」

 内海がおかしそうに美琴達を見ると、他の女子と顔を見合わせて笑った。



 体育の授業が終わると、生徒達はパラパラと帰っていった。及川と内海達も更衣室へ向かうが、美琴は当番のため、バスケットボールを片付けていた。後ろから八上が声をかけてきた。

「そっちも球技大会の種目、バスケにしたんだな」
「バレーよりは突き指しなさそうだからね」
「ハハ、俺も! 交流会前にギター弾けなくなったら困るもんな。にしても、前から思ってたけど、大国って意外と運動神経いいよな、目立ってたじゃん」
「意外とってなんだよ。太ってるくせにって意味?」

 美琴は八上を睨んだ。

「そんなに気にするほどは太ってないと思うけどな」
「別に気にしてないっつの。何、なんか用?」

 八上は軽く笑うと、美琴が運んでたボールを入れてたバスケットの運搬を手伝った。

「いいよ、八上当番じゃなくない?」
「ついでだから。いくら大国でも重いっしょ。一応女子だし」

 八上はなんて事ないような顔をして答える。

「一応ってどういう意味?」

 美琴は一瞬、気になったが、八上の善意に甘えることにした。こういう事を涼しい顔してさらっとできる男子は八上くらいだろう。

「そうだ、八上がこの間言ってた、バンドの曲聞いたよ。よかった」
「まじで? やっぱな、大国好きそうだと思った」
「歌詞がいいよね。演出もよかった。歌声はもっとパワー欲しかったけど」
「大国って、オペラとかソウルとかの方が好きだもんな。なんだっけ? 大国の好きな外国人歌手の名前、デルタだっけ? あの顔の濃い、白人のおばさんの」
「アルデだって」

 体育倉庫にボールを置いて、出るとバレー選択の生徒達が片付けに残っているのが見えた。その中に灰島もいた。バレーのネットの紐が絡まってしまっているのをモタモタと解いている。程々にして適当に畳めばよいのに。灰島は不器用なくせに変に几帳面なところがある。美琴から見るとどうでもいいと思うようなことにもこだわるようだった。
 あのペースで片付けていて次の授業に遅刻しないといいが。

「大国、どうした?」
「いや、なんでもない」

 美琴は八上に声をかけられると、体育館を後にした。
 更衣室も行くと、及川達はすでに着替え終わっていた。

「ねえ、体育の後、八上といなかった? 熱いねー」

 及川がニヤけながら声を掛ける。

「大国ちゃんはいいよね、いつもあんなイケメンに構ってもらえて」
「だから、なんでもないって。っていうかウッチー、彼氏いるじゃん」
「えー、あたしの彼なんて全然イケメンじゃないし! 気が利かないしー。八上君みたいな人だったらよかったのにー」

 女子達で教室に戻ると、男子達はすでに体操服から制服に着替えが終わっているようだった。一人を除いて。

「何やってんのアイツ。ゴミ島のやつ、まだジャージじゃん」

 及川が灰島の方に目をやると美琴に話しかけた。灰島はさっきから何かを探しているようだった。何か落とし物だろうか。もう次の授業が始まる時間なのに、流石にトロすぎではないだろうか。クラスの連中が灰島を見てクスクス笑っている。
 美琴は痺れを切らし、灰島に声をかけた。

「灰島、何やってんの。もうそろそろ時任来るよ」
「うん、そうなんだけど……」

  灰島は何やら話しずらそうにしている。教室内が不自然に静まり返った。
 時任は体育の後だろうと、生徒たちが始業時に席についていないと、機嫌が悪くなる。授業態度として成績の評価にもつけると言っている。

「え、大国ちゃん、ほっときなよ」

 内海が意外そうな顔を浮かべると大国に行った。他の生徒達はそろそろと次の授業の準備を始めた。

 男子の一人が席の方から灰島に声をかけた。

「あー、すまん、ゴミ島。俺のせいだわ。なんか薄汚い服が目に入ったから、ゴミだと思って捨てたんだわ」

 いつも男子の派手なグループと連んでいる三宅が、顎でゴミ箱の方をさした。
 灰島は教室の後ろに設置されているゴミ箱を手に取ると、中から捨てられていた制服を取り出した。どうやら三宅がこっそり灰島の制服をゴミ箱に捨てていたようだ。

「三宅のやつやりすぎじゃね? いじめみたいじゃん」
「でも確かにあいつってゴミみたいだよな。さっきのバレーの時も下手すぎだし。まじでうちのクラスにいらねーよな」

 男子達が笑いながら小声で話すのが聞こえる。
 いくらなんでも、嫌われすぎではないか。美琴は思わず言葉を失っていた。
 廊下から足音がすると、ドアを開き、数学教師の時任が教室に入ってきた。それと同時に始業のチャイムがなった。

「お前ら何やってる、早く席につけ! 体育の後だからってとろとろするな。欠席にするぞ」

 クラスメイト達が席について行く。及川が親の仇のような目で時任を睨んでいたが、美琴の目には入ってなかった。後ろの方で立っている灰島が気になりながらも、自席に着いた。

「そこ、何をやってる。まだジャージじゃないか、えーっと、青島だったか? なんで着替えてないんだ」
「はい……すみません、えっと制服が」
「そのままでいいから、とっとと座れ、早くしろ。評価下げるからな」

 時任が苛立ちながら言うと、 灰島は静かに返事をし、おずおずと席についた。
 


 その日の放課後は部活動の日だったが、神崎はまた無断欠席だった。蒲川は相変わらずマイペースで週末の交流会の曲を軽く合わせると、あとは自分の好きに弾いたり、顔を出しにきた顧問の南をからかっていた。交流会は蒲川と2人で参加することになりそうだ。他の参加校にどんな目で見られるかと思うと、少し憂鬱になる。

 美琴が家に帰ると、弟と母はすでに食事を終えていたようだった。弟は自室で受験勉強をしているのだろう、姿が見えない。

「美琴、片付かないからとっとと食べちゃってよね」
「なんか食欲ないんだよね」
「ダイエットなんかやめなさいよ。きちんとバランスよく食べるのが一番なんだからね」
「別にダイエットとかじゃないって」

 ダイニングテーブル前に、毛が真っ黒な雑種犬のトラが陣取っていた。トラはお気に入りの蛸の形をしたおもちゃを噛んで遊んでいた。
 美琴がトラのおもちゃを引っ張ると、トラも負けじとひっぱり返す。つぶらな瞳が真剣で、鼻を鳴らしながら懸命におもちゃを引っ張る。そのまま少し遊んでいると、母が不機嫌そうに美琴に声をかけた。

「早く食べちゃいなさいって言ってるでしょ。まったく」
「わかったって。食べたら片付けとくから」

 洗濯機が回り終わった音がした。

「え、洗濯もう回しちゃったの? 体操着今日洗わないと次の体育に間に合わないんだけど」
「もう、あんたの帰ってくるのなんか待ってられないわよ。それに洗濯溜まってもういっぱいだったのよ」
「もういいよ、あとで回すから」

 美琴は機嫌悪く答えると、電子レンジで覚めた夕食を温め始めた。夕食はいつものように具が多かった。あまり料理が得意ではない母の手料理はなんとも形容し難い味付けで、美琴は余計に食欲が下がった。食べきれずに少し残すとこっそりと残飯を捨てて、食器を洗った。
 母は家事を終えると、テレビのバラエティ番組に夢中になっている。
 美琴は自室に戻ると、書きかけの楽譜を開いた。灰島と蒲川の協力もあり、曲はほぼ完成していた。音を抑え、ギターをひくと、それに合わせるように灰島の歌声が頭の中で聞こえるようだった。灰島の声を思い出しながら旋律をひく。

「私の声じゃ、あんな音楽にはならないよな」

 灰島の声や雰囲気に合わせ、歌詞や曲調も最初の頃とはだいぶ変わっていた。灰島の歌声を聞く度に新しい音が溢れてくる感覚を感じ、色々試したくなったからだった。

 美琴はギターを置くと、教室であったことを思い出した。なぜ、夜の店サンドリヨンのステージで歌う勇気があるのに、学校ではいつもおどおどしていて、目立たない様子なのだろうか。そもそも、夜の店でバイトしていて、美琴のバイトより時給もずっといいはずなのに何故いつもボロ切れみたいな服を着ているのだろうか。
 美琴は灰島がクラスで浮いているのをいつももどかしく思っていた。



 次の日、美琴は早朝バイト後、学校に着くと駐輪場に自転車を止めた。駐輪用の金属製のフレームの間に前輪を収めると、カゴの中に入れていたコンビニ弁当がバランスを崩し、斜めになった。美琴は中身が崩れてないか中身を確認したが、大丈夫そうだった。今日は曲の完成のお礼も兼ねて期限切れではなく、自腹で灰島の弁当を買っていた。
 コンビニの袋を手に持ち、下駄箱に向かうと、花壇前で偶然灰島と目があった。

「灰島」
「……あ、おはよう」

 灰島は小さい声で、挨拶をすると、立ち去ろうとするので、美琴は灰島を呼び止めた。

「灰島! やっぱりうちの部で歌う気にはなれない?」

 美琴は急に大声で呼び止めたので、灰島は一瞬振り向くが、答えない。いつものように下を向いている。

「この曲は、灰島の歌い方に合わせて作ったようなもんだし。灰島じゃなきゃ歌えないって」
「大国さん、歌上手いじゃん」

 灰島は戸惑ったように小声で答えた。

「灰島の歌とは全然違うよ。それに、灰島の歌聴いたら、周囲の目も変わるよ」

 灰島は無言に戻る。

「あのさ、あの店で灰島が時給いくらもらってるか知らないけどさ、夜にあんなとこで歌うより、灰島はちゃんとしたステージに立って大勢の前で歌った方がいいと思うよ」
「あんなところ?」

 灰島は怪訝そうな表情を浮かべ、美琴の顔を見た。怒っているのだろうか?声が震えている。灰島のいつもと違う雰囲気に美琴は戸惑った。

「あの店に置いてもらえてなかったら、俺生活できないし、高校にも通えてなかったんだけど」
「え……」

 灰島は俯くと、美琴に背をむけ玄関に向かった。まずかったかもしれない。美琴は灰島に発言を撤回しようと声を掛けようとしたが、クラスメイトの女子に声をかけられ言いそびれてしまった。



「どうした? なんだか顔色が悪そうだけど」

 教室に入り、席に着くと、前の席の及川が心配そうな顔で声をかけてきた。

「大丈夫、なんでもない」
「なんでもなくないって様子だけど」



 4時限目が始まる頃、スマホを見ると美海からラインの返事が返ってきていた。

『う~ん、私も詳しいことはよく分からないんだけどね。シロの家って母子家庭らしいんだよね。私も美也と二人だけどね』

 美海からラインの返事が来ていた。仕事が夜中なので、起きるのはいつも11時ごろらしい。本人の知らないところで灰島の家庭事情を詮索するのはよくないとは思ったが、気になって美海に聞いてみたのだ。

『シロって、小さい時から、生活のこととか家庭のこととか、ミチルママに助けてもらってたみたい。ママって面倒見いい人だし。シロはママのこと本当の親のように思っているのかも』

 こっそり、スマホを隠すとちょうど英語教師が教室に入ってきた。

「うわ、私今日授業で当たる日なのに、予習してこなかった」

 及川がこっそり、美琴に言った。美琴は答えを記入済みの教科書を及川の教科書と交換した。

「サンキュ!」

 及川が手を合わせる。
 思えば、灰島はここ数週間、サボらず毎日美琴の作曲に付き合ってくれていた。タダ飯目当てとは言え、せっかく協力してくれていたのに、灰島にとって言われてくないことを言ってしまったようだ。もう灰島は協力してくれないのではないか。美琴は不安になった。
 
 4時限目のチャイムがなると美琴は教科書を机にしまった。いつもならすぐに第2音楽室へ向かうのだが、今日は胸の下から足先までが鉛のように重い気がする。灰島は来てくれないのではないかと思っていた。

「すんません、灰島さんっています?」

 教室の後ろの方から聞き慣れた声が聞こえた。
 蒲川が教室の入り口付近にいたクラスメイトに声をかけていた。美琴は歩いていくと、声をかけた。

「蒲川、どうしたの? 珍しいじゃん」

 蒲川がわざわざ美琴の教室を訪ねてくるのはもしかしたら初めてかもしれない。何かあったのだろうか。

「あ、国さんは別にいいっす。授業早めに終わったんで灰島さんいるかなって思って来ただけだから」

 蒲川は美琴を野良猫を追い払うかのように手を振った。

「は?」

 美琴はムッとして蒲川に何か言おうとするが、蒲川は興味なさそうに他の方向を見ている。

「あ、いたいた。ハクさん、カモン」

 蒲川は灰島と目が合うと手招きした。
 灰島も蒲川の意図がわからないらしく、キョトンとした表情を浮かべている。

「いつも、国さんに付き合わされてストレス溜まってるだろうから、たまには男同士で飯行きません?」

 何を勝手なことを言っているんだろうか。美琴は蒲川を睨む。

「え、でも」

 灰島は戸惑うように美琴の方を見た。一応、今日も参加してくれるつもりだったらしい。美琴は内心少しほっとした。

「あ、飯のこと? 俺、今日購買のパンの気分なんすよ。よかったらお袋が作った弁当代わりに食べてくれません?」
「え、いいの?」

 灰島は思わず答えた。
 美琴は薄々気がついていたが、灰島はいささか食べ物に対する誘惑に弱いらしい。

「いいよ、行ってくれば。今日は一人でやるから」

 美琴は灰島にいった。

「え、うん」

 灰島は答えると、蒲川とともに廊下を歩いて行った。
 どこで食べるつもりなのだろうか、音楽室とは反対方向だ。美琴は思ったが、灰島が美琴のことを怒っている様子ではないことにほっとしていた。
 それに、蒲川も美琴と同じく小さい頃から長く音楽をやっている人間だ。音楽をやっているやつだったら、誰だって灰島と演奏したいと思うだろう。蒲川が灰島に興味を持つのも当然だと美琴は思った。

「何? さっきの。大国さんの知り合い?」
「ただの部活の後輩」
「よくわかんないけど、ゴミ島に友達なんていたんだね」
「さあね」

 不思議そうな顔をしているクラスメイトに美琴は興味なさそうな顔を装って答えた。

 美琴はギターを持つと、音楽室に向かった。灰島と作っていた曲の他にも、いくつか次の曲のアイディアがあった。一人でゆっくり曲の構想を練るのも良いだろう。
 音楽室までの廊下を歩いていると、小柄な少女が美琴の迎えから歩いてきた。体格のいい美琴より頭ひとつ分くらい小さい少女は美琴を呼び止めた。

「大国先輩」

 神崎だった。

「あ、神崎さんどうしたの?」

 神崎のいきなりの出現に美琴は一瞬驚いたが、神崎は意を決したように、勢いよく頭を下げた。

「ごめんなさい! 2回も部活を無断で休んでしまって、交流会前の大事な時なのに。私、自分が下手なのが恥ずかしくて、人前で演奏する勇気がなくて」

 神崎はうわずった声で話す。

「怒ってないよ」

 美琴は驚いていたが、神崎に対して怒りなどなかった。何も言わずに辞めていった他の1年たちを思ったら、退部の意思を自分で伝えにきた神崎はずっと誠実だろう。
 美琴が怒ってないことを知ると、神崎は少しだけほっとした表情になった。

「私、またギター部に参加していいですか」
「へ?」

 美琴は思わず聞き返してしまった。

「課題曲、家でずっと練習してたんです。まだまだ全然上手くできてないんだけど、でも頑張りたいです」
「え、それはもちろん……。神崎さんも大事な部員だし」

 美琴が言うと、神崎は安堵したように「よかった」と小さく答えた。

「神崎さん、交流会まであと数日しかないし、しばらく練習付き合うよ。放課後とか時間ある時に。そのよかったらだけど」
「え、いいんですか」

 神崎の顔が驚くような表情を浮かべた。
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