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もりもりさんの結婚
第447話 ラビちゃん……
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私はごくりとつばを飲み込む。
「ラビちゃん……」
対空砲の運転席にいると思われたラビちゃん。デバイスに表示された死亡の通告。
血の気が引いていく私とは対照的に、ライブ配信の視聴者たちは騒ぎ立てている。
フレイムドラゴン・ロードを倒したもりもりさんは、誇らしげに私の元へと歩いてきた。
私はもりもりさんよりも対空砲の運転席が気になり、そこに視線を向けた。召喚が解除されたモンスターは死体すら残らない。ポリゴンの粒子となって消えている。
もりもりさんは私の視線の先に気がついたようだ。
「ああ、春菜さんが召喚したスローラビットを巻き添えにしてしまいましたね」
もりもりさんは何でもないことのように言う。
「わかっていたのですか? 巻き込んでしまうことを……。わかっていて、あの攻撃を……」
「ええ。ですが、あのタイミングを逃すわけにはいきませんでした。あれが最初で最後のチャンスでしたから」
私はがくりと膝を落とし、両手を地面についた。頭はうなだれてしまう。もりもりさんは慌てて片膝をつき、私の肩に手を置いた。
「ちょ、ちょっと待ってください、春菜さん……。あのスローラビットにそこまで思い入れがあったのですか?」
「あったに決まっているじゃないですか!」
私の涙が1滴、ぽとりと落ちた。
「そんな……」
私の悲しみに同情してくれるようにもりもりさんが寄り添ってくれた。その空気を壊すように、春日井君の脳天気な声が響いた。
「おーい、筑紫~~。デバイスがあったぞ~。ラビが大事に持っていてくれた」
え?
は?
ラビちゃんが?
春日井君はすぐそばまで来ていた。
私が四つん這いの状態から顔を上げると、春日井君が私のダンジョンデバイスを顔の前に突きつけてきた。更に顔を上げると、そこには春日井君に抱かれた状態の白い毛の球があった。スイカほどの大きさの白い毛だ。
「ラビは疲れて寝てるぜ。たいして働いてもないのになあ。撮影だけで疲れたんだろう。なにせ、あれだけ激しい戦闘だったからなぁ」
春日井君はラビちゃんを大事そうに抱え、体を撫でている。ラビちゃんからはすぴすぴと寝息のような音が聞こえていた。丸まっているのでどこに頭があるのかがわからない。
「本当に、ラビちゃん……? 死んだんじゃなかったの……?」
湊ちゃんが近寄ってきて、やや呆れたような声を出した。
「死んだのはあとから召喚した方のスローラビットだよ。ラビちゃんの捜索に出していたほう」
そういえば、ラビちゃんを探すためスローラビットを召喚していた。〝A〟を騙すことができるのではないかと目論んだラビちゃんの身代わりだった。対空砲に乗っていたのは身代わりに召喚した方のスローラビットだった。
「ラビは戦車の中にいたぞ。あそこが一番安全だったみたいだな。なにしろ、頑丈な装甲に守られているからな」
一体ラビちゃんはどこまでを予測していたのだろうか? 私がもう一体のスローラビットを召喚することすら読んでいたのだろうか?
すべてはラビちゃんの予測の結果だとしたら、私たちはラビちゃんの手の中で転がされていたことになる。
私は立ち上がり、もりもりさんに謝罪した。
「もりもりさん。勘違いしてしまいました。私はラビちゃんが対空砲の中にいるとばかり……」
「それは仕方ないですよ。私は運転席に乗り込んだときにラビちゃんではないとわかりましたが、春菜さんは遠くにいましたから」
「すぐにわかったのですか?」
「ええ。パーティ登録されていませんからね。私は勢いよく飛び込みました。それがラビちゃんなら怪我をさせてしまわないようにシステムが教えてくれます」
「なるほど……」
あの一瞬の攻防であっても、もりもりさんは冷静だったのだ。
ドローンが上空から降りてくる。私たちの様子を映そうと、目線の高さを維持しながらゆっくりと近づいてくる。
もりもりさんは黄金の兜を外した。長い金色の髪が流れる。堀の深い美形の顔立ちを視聴者に向けてあらわにした。
「春菜さんがお兄さんとの結婚を諦めさせようと用意したダンジョン部屋。あそこでの対戦で敗れた私はフレイムドラゴン・ロードを倒すしかないと思っていました。あなたのお兄さんと結婚するためには――」
あのダンジョン部屋はミランダさんとの決闘のために用意したものだ。もりもりさんにはミランダさんとの戦いの前に、実験台になってもらった。
卑怯な罠が仕掛けられたあの部屋での戦いに負けたからといって、あくまでもただの実験でしかない。お兄ちゃんとの結婚には関係ないはずだった。
それでも、もりもりさんはフレイムドラゴン・ロードの討伐にこだわった。それはおそらく、私よりも実力が上なのだと示すため――
「もりもりさん。あれは、ミランダさんとの決闘用に湊が用意してくれたものです。ミランダさんを罠にはめてまで勝つという姑息な装置が仕掛けられていたわけであって――」
「わかっています。春菜さん。それでも私は負けたんですよ、あなたに。だから私はそれを挽回することを考えました。戦いが終わったら約束していましたよね、名前を告げると――」
お兄ちゃんとの結婚を宣言するだけでなく、もりもりさんは勝った暁には本名も名乗ると言っていた。
もりもりさんは私に対して、優しく微笑んだ。視聴者ではなく、私に向かって自身の名を告げようとする。
「春菜さん。私の名前は――」
「ラビちゃん……」
対空砲の運転席にいると思われたラビちゃん。デバイスに表示された死亡の通告。
血の気が引いていく私とは対照的に、ライブ配信の視聴者たちは騒ぎ立てている。
フレイムドラゴン・ロードを倒したもりもりさんは、誇らしげに私の元へと歩いてきた。
私はもりもりさんよりも対空砲の運転席が気になり、そこに視線を向けた。召喚が解除されたモンスターは死体すら残らない。ポリゴンの粒子となって消えている。
もりもりさんは私の視線の先に気がついたようだ。
「ああ、春菜さんが召喚したスローラビットを巻き添えにしてしまいましたね」
もりもりさんは何でもないことのように言う。
「わかっていたのですか? 巻き込んでしまうことを……。わかっていて、あの攻撃を……」
「ええ。ですが、あのタイミングを逃すわけにはいきませんでした。あれが最初で最後のチャンスでしたから」
私はがくりと膝を落とし、両手を地面についた。頭はうなだれてしまう。もりもりさんは慌てて片膝をつき、私の肩に手を置いた。
「ちょ、ちょっと待ってください、春菜さん……。あのスローラビットにそこまで思い入れがあったのですか?」
「あったに決まっているじゃないですか!」
私の涙が1滴、ぽとりと落ちた。
「そんな……」
私の悲しみに同情してくれるようにもりもりさんが寄り添ってくれた。その空気を壊すように、春日井君の脳天気な声が響いた。
「おーい、筑紫~~。デバイスがあったぞ~。ラビが大事に持っていてくれた」
え?
は?
ラビちゃんが?
春日井君はすぐそばまで来ていた。
私が四つん這いの状態から顔を上げると、春日井君が私のダンジョンデバイスを顔の前に突きつけてきた。更に顔を上げると、そこには春日井君に抱かれた状態の白い毛の球があった。スイカほどの大きさの白い毛だ。
「ラビは疲れて寝てるぜ。たいして働いてもないのになあ。撮影だけで疲れたんだろう。なにせ、あれだけ激しい戦闘だったからなぁ」
春日井君はラビちゃんを大事そうに抱え、体を撫でている。ラビちゃんからはすぴすぴと寝息のような音が聞こえていた。丸まっているのでどこに頭があるのかがわからない。
「本当に、ラビちゃん……? 死んだんじゃなかったの……?」
湊ちゃんが近寄ってきて、やや呆れたような声を出した。
「死んだのはあとから召喚した方のスローラビットだよ。ラビちゃんの捜索に出していたほう」
そういえば、ラビちゃんを探すためスローラビットを召喚していた。〝A〟を騙すことができるのではないかと目論んだラビちゃんの身代わりだった。対空砲に乗っていたのは身代わりに召喚した方のスローラビットだった。
「ラビは戦車の中にいたぞ。あそこが一番安全だったみたいだな。なにしろ、頑丈な装甲に守られているからな」
一体ラビちゃんはどこまでを予測していたのだろうか? 私がもう一体のスローラビットを召喚することすら読んでいたのだろうか?
すべてはラビちゃんの予測の結果だとしたら、私たちはラビちゃんの手の中で転がされていたことになる。
私は立ち上がり、もりもりさんに謝罪した。
「もりもりさん。勘違いしてしまいました。私はラビちゃんが対空砲の中にいるとばかり……」
「それは仕方ないですよ。私は運転席に乗り込んだときにラビちゃんではないとわかりましたが、春菜さんは遠くにいましたから」
「すぐにわかったのですか?」
「ええ。パーティ登録されていませんからね。私は勢いよく飛び込みました。それがラビちゃんなら怪我をさせてしまわないようにシステムが教えてくれます」
「なるほど……」
あの一瞬の攻防であっても、もりもりさんは冷静だったのだ。
ドローンが上空から降りてくる。私たちの様子を映そうと、目線の高さを維持しながらゆっくりと近づいてくる。
もりもりさんは黄金の兜を外した。長い金色の髪が流れる。堀の深い美形の顔立ちを視聴者に向けてあらわにした。
「春菜さんがお兄さんとの結婚を諦めさせようと用意したダンジョン部屋。あそこでの対戦で敗れた私はフレイムドラゴン・ロードを倒すしかないと思っていました。あなたのお兄さんと結婚するためには――」
あのダンジョン部屋はミランダさんとの決闘のために用意したものだ。もりもりさんにはミランダさんとの戦いの前に、実験台になってもらった。
卑怯な罠が仕掛けられたあの部屋での戦いに負けたからといって、あくまでもただの実験でしかない。お兄ちゃんとの結婚には関係ないはずだった。
それでも、もりもりさんはフレイムドラゴン・ロードの討伐にこだわった。それはおそらく、私よりも実力が上なのだと示すため――
「もりもりさん。あれは、ミランダさんとの決闘用に湊が用意してくれたものです。ミランダさんを罠にはめてまで勝つという姑息な装置が仕掛けられていたわけであって――」
「わかっています。春菜さん。それでも私は負けたんですよ、あなたに。だから私はそれを挽回することを考えました。戦いが終わったら約束していましたよね、名前を告げると――」
お兄ちゃんとの結婚を宣言するだけでなく、もりもりさんは勝った暁には本名も名乗ると言っていた。
もりもりさんは私に対して、優しく微笑んだ。視聴者ではなく、私に向かって自身の名を告げようとする。
「春菜さん。私の名前は――」
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