【悲報】レベル1の妹。兄の装備でダンジョン配信を始める。(84億円相当の激レア装備で最下層スタート、未確認ドラゴンに遭遇した模様)

高瀬ユキカズ

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大統領の依頼

第259話 決意

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 お兄ちゃんはきっと私を心配してここに来たのだ。そして、迂闊にもボスに近づいてしまい、猿の姿に変えられてしまった。お兄ちゃんの姿をもとに戻すにはボスを倒すしかなかった。
 
「ごめん、湊、春日井君。2人は下へ行って。大統領のところへ。私はボスを倒す」

 湊ちゃんと春日井君を巻き込むわけにはいかなかった。ボスの正体も不明だし、能力も不明だ。おまけにここは地下170階。ボスの強さは桁違いだと思われる。猿にされてしまうかもしれないし、殺されるかもしれない。危険性は著しく高かった。

「何を言ってんだ、筑紫!」

「春菜!」

「だって……。だって……。お兄ちゃんが。お兄ちゃんが猿に変えられてしまって」

 私はボスを倒すことしか頭になく、ミスリルの大剣を鞘から抜いた。いつもより剣が重く感じられる。足にも力が入らず、ふらついてしまった。

「春菜、落ち着いて。まだお兄さんだと決まったわけじゃ……」

「あのメガネ! お兄ちゃんは勉強の時に黒縁メガネをかけている!」

 ジャングルの奥へ歩き出そうとして、私は足元の枝につまずいた。顔から勢いよく倒れてしまう。ミスリルの大剣が手から離れて落ちた。

「おい、筑紫! 大丈夫か!?」

 春日井君が慌てて私のことを起こしてくれた。私は大剣を掴み、杖のようにして立ち上がった。

「大丈夫。大丈夫だよ。ちょっと今は冷静さを欠いているだけ。落ち着いたら大丈夫だから。私はボスを倒してから下へ行く。2人は先に行っていて」

「筑紫を置いていけるわけないだろう。エリ先生が別働隊が来るって言っていただろ。それを待とう」

「あとから来る別働隊を待っていたら、お兄ちゃんが死んじゃうかもしれない。だって、猿だよ。装備もなにもない。明らかに知能も低い。私のことも理解してなかった。別働隊は数日かかるという話だったよね? 私は待つつもりはない」

「だからって、筑紫が1人で挑んでも勝てる相手じゃ……」

「お兄ちゃんが! 死んじゃうんだよ!!」

 私は春日井君の手を勢いよく払った。目には涙が滲んでいた。

「湊も春日井君も、巻き込むつもりはない。私にはダンジョンシミュレーターがある。魔法も使える。ミスリルの大剣も。何が何でも、倒してやる」

「落ち着け。とにかく冷静になれ」

「ならない!!」

 お兄ちゃんがここに来たということは、私のことを心配したからだろう。それで猿にされてしまったのだ。

 地下170階は気安く来れる場所ではない。命をかけて、私のことを見守ろうとしてくれた。だから、私も命をかける。お兄ちゃんを助ける。

「私は、お兄ちゃんを助ける。1人でも」

 涙が数滴落ちていた。湊ちゃんと春日井君が霞んで見える。

 2人の表情はよくわからなかった。困惑か、同情か。あるいは呆れか。

 手の甲で涙を拭った。2人の顔が見えた。

 そこから伝わるのは、決意の現れ。

 気持ちを固めた意思だった。

「じゃあ、倒そうか。春菜」

 湊ちゃんの声は低かった。

「ああ、そうだな。筑紫の兄ちゃんを助けよう」

 春日井君も同じだ。

 湊ちゃんはスマホの画面をこちらにむけた。
 春日井君はダンジョンデバイスをこちらに向けた。

 湊ちゃんの画面に表示されていたメッセージが見える。

――――――――――――――――――――――
『EXR覚醒の種を使用しました』

覚醒レベルが1から2になりました。
覚醒ユニークスキルを獲得。
――――――――――――――――――――――

 春日井君のデバイスに表示されたメッセージも見えた。

――――――――――――――――――――――
『EXRレベルアップシードを使用しました』

通常レベルが1あがり、レベル60になりました。
覚醒レベルが1から2になりました。
――――――――――――――――――――――

 私は思わず、口元を手で押さえた。

「え……。ちょっと、待って……。使っちゃったの……?」

 安易に使っていいアイテムではない。今まで使うことをためらっていたのだ。
 覚醒レベルを上げると後戻りはできない。

「筑紫が両方のアイテムを使って、1人で覚醒レベルを上げたほうが良かったかな? そうすれば筑紫の覚醒レベルを4から6に上げられたし」

「そういう問題じゃない!」

「私は、春菜をサポートするには、これが最適だと思ったよ。これで少しは倒せる確率が上がったんじゃないのかな?」

「だからって……」

 ダンジョンシミュレーターを稼働させてみる。ボスを倒せるような未来は期待できない。おそらく足りないものがある。ありすぎる。

「私は……2人を巻き込みたくない……」

「もう巻き込まれてるさ」

「そうだよ。ここに来るってだけで、命をかけちゃってるんだよね。わかってるのかな? 春菜は?」

「筑紫のお兄さんを助けよう。な? 本当に助けるって言うのなら、俺たちの助けは必要だと思う」

「そうだよ。本当に助けよう。私たちはその覚悟ができてるから、アイテムを使ったんだよ。だから、覚醒レベルをあげたの」

 春日井君も、湊ちゃんも、顔が変わっていた。まるで一回りも、ふた周りも大人になったような顔だ。

 私は静かに頷く。

「わかった。2人の命を預かる。絶対にボスを倒す」

 タブレットからAIの音声が流れてくる。

『主よ……。余計なことはするなと言ったはず……』

 私は声のトーンをきつめにして、AIに命令をする。

「タブさんに命令。ボスを倒すために、すべてのリソースを集中してほしい。それ以外の選択肢はとらないで」

『了解した。ボスを倒すために、すべてのリソースを回そう。あるじよ、ダンジョンシミュレーターを常時、フル可動せよ。ありとあらゆる戦略を立て、その可能性を常に計算し続けるのだ。主の負荷は大きい。覚悟せよ』

 私は納得し、深く頷く。

「ありがとう。タブさん。きっと、ボスを倒すからね」

『現在の討伐確率:0.006%。死地に向かう覚悟で挑むことだ。後戻りはできない』

「わかった。でも、湊と春日井君は? 今ならまだ……」

「筑紫の兄ちゃんを助けるよ」

「うん、絶対にね」

 2人の意思は変わらない。

「ありがとう……。全力で挑む」

 すでにダンジョンシミュレーターはフル稼働。私には負荷がかかり始めている。でも、それを顔に出すことはしない。

 私の笑顔に、春日井君も湊ちゃんも応えてくれる。

「もちろんだ」

「うん」

 湊ちゃんは抱いていたラビちゃんをぎゅっと抱きしめていた。丸まっているが、目だけをこちらに向けている。

「ラビちゃんは置いていこう」

 私が言うと、湊ちゃんは静かにラビちゃんを地面においた。丸まっていたラビちゃんは立ち上がり、2足歩行の兎の姿になった。

「じゃあ、行ってくるね、ラビちゃん」

 私が手を振ると、ラビちゃんも短い前脚を上げた。

 ラビちゃんを置いて、ジャングルの奥へと3人で歩き出した。
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