異世界ライフは山あり谷あり

常盤今

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 ぼんやりとギルド内を見渡す。
 併設された食堂は営業しておらず誰も人はいない。
 夕方からの営業だとすると酒がメインな店なんだろうか?
 掲示板に貼られている依頼票はバルーカの城内ギルドより数は少ない。

「どうしてなのよ!!」

「そう言われましても……」

 受付のほうから赤毛さんが受付嬢に詰め寄っている声が聞こえてきた。
 何やらトラブルのようだが……
 赤毛さんとは知り合いでもない名前すら知らない他人なのだ。
 ここは知らんぷりのままで構わないだろう。

「もういいわよっ!!」

 受付嬢と口論していた赤毛さんはそう言い捨ててギルドを出て行ってしまった。

「あなたがフライヤさんとパーティーを組まれる方ですか?」

 受付嬢がカウンターから出て来て俺に聞いてくる。

「フライヤさんとは?」

 恐らくは赤毛さんのことだと思うが……

「あなたと一緒に来た女性剣士のことです」

「あの人はギルドの場所を聞いたら連れて来てくれたのです。
 ですので名前も知りませんでしたしパーティーというのもなんのことだか……」

「やはりそうでしたか。失礼しました。
 本日は当ギルドにどのような用向きで?」

 この受付嬢はあまり感情を表に出さないタイプなのだろうか。
 妙にクールだ。

「ここメルクで以前暴れていたという黒いオーガについての情報を知りたくて」

「そうでしたか。
 ゾラードさん! こちらに来てください!」

「どうしたぁ?」

 離れたところに座っていたパーティーの中の長身男性がこちらに来た。

「こちらの方が特殊個体の話を聞きたいそうですよ。
 ゾラードさんは特殊個体……黒いオーガとの交戦経験がありますので彼から話を聞くといいでしょう。
 では失礼致します」

「半年前は結構聞きに来る奴が多かったが最近では珍しいな」

「良かったら昼飯でも食べながら話を聞かせてもらえませんか?
 もちろん自分が飯代を持ちますので」

「そいつはいいな」



 ゾラードにギルドの近くにあるゆっくり話せる店に案内してもらった。

「俺のパーティーが特殊個体に遭遇したのはもう7ヶ月も前のことになる」

 互いに自己紹介した後ゾラードはおもむろに語り始めた。

「当時南の森にオークが集落を作っているのが発見されてな、ギルドの指揮の下で3つの4等級パーティー合同で討伐に向かったんだ」

 4等級パーティー3つというのは豪華だな。
 以前俺がタークさんのパーティーに臨時に加入して参加したオーク集落の討伐は、3等級の瞬烈に6等級のタークさんのとこと他の2パーティーの等級はいくつだったっけ?

「集落にいたオークの数が当初の想定より多かったものの討伐自体は順調に行われていた。
 もう少しで掃討戦に移行しようとするタイミングで奴が現れたんだ。
 特殊個体……おまえの言う黒いオーガは左翼に展開していたパーティーに襲い掛かり瞬時に全滅させた。
 比喩とかではなく言葉通りのあっという間にやられてな、援護する暇すらなかった。
 元々左翼のパーティーは火力に特化していてな、防御が弱かった。奴は瞬時にそれを見抜いて最初に狙ったんだ」

「たまたまなのでは?」

「いや、奴が最初に現れた場所に1番近かったのは中央のパーティーだ。
 それなのに最初に左翼のパーティーを襲ったのだから狙ってのことなのは明らかだ」

 俺が倒した3本角の黒オーガもこちらの罠を回避したりわざと誘ったりして高い知性があることは間違いないからな。

「それから奴が中央に襲ってくるのを中央パーティーの盾持ちがなんとか防いでな、駆け付けた右翼の俺達と共に奴を攻撃したんだが……」

「黒オーガの肌に弾かれた……」

「それは知ってるのか。奴の肌は異様に硬くてな、2つのパーティーの全力攻撃でも傷ひとつ付けられなかったよ」

 土甲弾やランテスの斬撃でも無傷だったんだ。
 4等級程度でどうにかできるレベルではない。

「俺のパーティーの盾持ちも加勢して頑張ったんだが奴の強さが圧倒的過ぎてな、中央と右翼計9人の内4人殺されて2人が重症を負ったよ。
 討伐を指揮していたギルド職員もすぐ退却の決断をしたんだが時既に遅しだった。
 俺は重傷者に肩を貸してほとんど殺されるのを覚悟して逃げ出した。
 ところが奴は何故だか逃げて行く俺達を見逃したんだ」

「どうしてなんでしょう?」

「わからない。
 当時生き残った誰もが見逃された理由がわからないでいた。
 外部からは気付かなかっただけで実際はダメージを与えていたのでは? という意見もあったが、現場にいた人間なら奴に効いた攻撃なんて何一つとして無かったのは誰もがわかっていた。
 もちろん今でもその理由はわかっていない。いくつかの推論があるだけだ」

 三本角は強者との戦いに生き甲斐を見い出すタイプだった。おそらく一本角も同じ気質だったのではないか?

「その後ギルドはメルク最強パーティーを中核として再び討伐隊を組むことにしたんだ。
 さすがに2等級パーティーの烈火の名前はバルーカにいても知ってるだろ?」

「もちろんです」

 まぁ俺は本人から直接聞いたんだが。

「その烈火に3等級パーティー2つを補助に付けた万全の布陣だった。
 そして俺もサポート役として志願した」

「凄いですね。
 手酷くやられた相手にサポート役とはいえ再び挑むなんて中々できることではありませんよ」

「当時は殺された仲間の仇を討ちたい一心だったんだけどな。
 直接奴と戦う訳ではないし、意識のどこかで仮に対峙することになっても戦う意志を示さなければまた見逃すのではないか? そんな打算もあったのかもしれない。
 ……だが、その烈火もやられてしまった。
 もちろん俺達が戦った時より勝負にはなっていたが、奴の硬い肌に攻撃が阻まれてはどうしようもなかった」

 烈火は壊滅してその後ランテスは王都の指導員になった訳だな。

「討伐に失敗したギルドは南の森への立ち入りを禁止して奴の動向を探るべく斥候を送ったが既に特殊個体は森から姿を消した後だった。
 なぜ急に姿を消したのか?
 どうして街に侵攻して来なかったのか?
 当時は多数の説が唱えられた。代表的なのをいくつか挙げると、
 あの硬い肌には何らかのリスクや制限があって長時間の戦闘には向かないのではないか?
 実は短命種なのではないか?
 魔物や魔族とは別の種族あるいは勢力なのではないか?
 噂レベルも含めれば他にも色々あったな」

「ゾラードさんはどのように考えていますか?」

「俺か……
 バカらしいと思いつつ妙に納得できる見解が一つあったな。
 特殊個体は冒険者とする説だ」

「ぼっ、冒険者ぁ?!」
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