異世界ライフは山あり谷あり

常盤今

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 落ち着くんだ……深呼吸して……スーハー、スーハー。
 砦の奪還自体は(やろうと思えば)自分一人でもできるんだ。
 もっとも占領した砦を維持していくことは一人ではできないけど……

 あっ。
 金髪ねーちゃん(ビグラム子爵)だ。こちらにやって来る。
 ナナイさん達と一緒に軽く頭を下げて礼をする。
 金髪ねーちゃんはロイター子爵と何やら話し始めた。

「帝国軍もこの作戦に参加するのですか?」

「はい。もっとも砦の奪還は王国単独で行う方針でして、帝国軍はバルーカの守備を担うことになっています」

「そうなんですか……」

 帝国軍は後方支援的な役回りが多いみたいだな。
 この前のバルーカに夜間魔物が襲って来た時も激戦区の南門ではなく西門を守っていたし。
 はるばる帝国から援軍として来てもっと華々しく活躍したいとか思わないのだろうか?
 仮にそう思っているとしても王国(ベルガーナ)側の意向は無視できないか。
 王国としても損害が出て帝国軍に撤退されるよりは後方に置いておいて長期間戦力として計算できるほうがプラスな訳か。
 実際問題王国が魔物に蹂躙されれば次は帝国に危機が及ぶ訳だから派遣軍にいくら損害が出ても援軍を送らないなんて選択はないだろうけど……
 そうか! ここで帝国内の過激派がどうとかの問題が絡んで来るのか。
 誰だって他国の為に近しい人や隣人が犠牲になるのなんて望まないのだから派遣軍の撤退を主張するには絶好の口実になる。


「ツトム、そなたもこの作戦に参加するのですか?」

 ロイター子爵との話を終えた金髪ねーちゃんが俺に話し掛けて来た。

「はい。ロイター子爵の直属としてお手伝いすることになります」

「なるほど。打てる手は打っておくということですか」

 金髪ねーちゃんはロイター子爵のほうを見ながらしきりに頷いている。

「あの……」

「私達はバルーカの守りとして残るけど、そなたの活躍が聞こえてくるのを楽しみにしていますね」

「今回はあくまでもお手伝いですので派手に動くつもりはありませんよ?」

「さて、果たしてそうそなたの思惑通りに事が運ぶかしら?」

 意味深なセリフを残して金髪ねーちゃんは自分の席に行ってしまった。
 そうやって変なフラグを立てるのは勘弁して欲しい。ホントに……

「ビグラム子爵ともお知り合いなのですか?」

「以前にバルーカが襲撃を受けた際に共に戦ったのです」

 知り合いではあるのだろうけど何だろう?
 それを素直に認めてしまうと危ういような……??
 意外にもちょくちょく会ってはいるんだよな。いや、遭遇していると言うべきか……

「ビグラム子爵ほどの方に名前を憶えてもらえるなんて凄い事ですよ!」

「そんな凄いお方なのですか?」

 ずっと心の中で金髪ねーちゃん呼ばわりしているからなぁ。
 初対面時のやり取りから厄介なお貴族様という印象が強い。

「そりゃあもう!
 女だてらに騎士団長として前線で剣を振るわれているのですから!!
 女性達の憧れの的なんです!!
 先のバルーカ防衛戦においては少数の兵を率いて西門から討って出て南門に殺到する魔物の側面を突いて魔物を撃退するきっかけを作り、最後に現れたオークキング相手に互角の戦いを演じて見せた正に生きる英雄なの……です…………から?」

 流暢に金髪ねーちゃんの魅力について語っていたナナイさんだったが、最後に疑問に思うところがあったらしい。
 そういえば帝国軍の手柄にするって言ってたよ!
 ということはここで金髪ねーちゃんを持ち上げとかないとマズイ感じか?

「さすがはあの白鳳騎士団を率いておられるビグラム子爵ですね!」

「じぃーーーーーー」

 何が『あの』なのかさっぱりわからないが……
 ロイターのおっさんもナナイさんに話を通しておけば現在進行形で疑惑の眼差しを向けられることもなかったのに。


「揃っているな」

 伯爵が入って来た。
 あちこちで作られていた小集団が解散して各々が自分の席に散らばっていく。

「イリス様、御入室!」

 全員が立ち上がるので慌てて追随する。
 こういう段取りは予め教えておいてもらいたいが、習うより慣れろということらしい。
 奥の扉が開いて姫様がマイナさんを引き連れ登場して奥にある1段上の豪華な席に座った。

「楽にせよ」

 全員が再び着席する。
 今日の姫様はドレス姿ではなく文官が着るような控えめな服装だ。
 それでも胸部を盛り上げるお山の大きさは隠しようもなく、見ようによっては非常にエロい。

「正式な発表は出陣当日になるが、内々に此度の奪還軍における総大将に私エルスト・グレドールが命じられることとなった」

 伯爵が総大将か。
 てっきり姫様が名目だけの総大将に祭り上げられるのかと思っていたけど……

「(姫様はこの度新国王に即位される弟君と表向き政敵だった関係上総大将にはなれないのです。
 今回の作戦は新国王の武威を内外に知らしめる目的もありますので)」

「(なるほど)」

 隣に座るナナイさんが解説してくれたのだが、なぜ俺が疑問に思っていることをピンポイントで当てて来るのだろうか?
 顔に書いてある的なことなのかねぇ。
 ヒソヒソ声で話し掛ける為に俺に密着してきたのは大変素晴らしい事なのだが……
 つかナナイさんって結構…………

「当初の予定では出陣は20日後だったのだが、皆も知っての通り王都から作戦参加予定だった第3騎士団が此度のアルタナ王国の危機に援軍として赴いた為にこちらへの参加が大幅に遅れることとなった。
 第3騎士団並びにアルタナ王国の状況に関しては後ほど騎士団を代表してこの軍議に参加しているコーネル男爵に報告してもらうが……
 幸いと言っていいのかわからんが参加兵力が大幅に減ったことによって物資の蓄積や輸送に関する負担も相応に減ることとなった。
 よって予定を5日早めて15日後を作戦開始日とすることを正式に布告する」

「閣下、よろしいでしょうか?」

「ゲルテス男爵、構わんぞ」

「ハッ! 予定を早めるのは兵站の問題だけが理由でしょうか?」

「無論それだけが理由ではない。
 第一にアルタナ王国の混乱が我が国に波及する前に魔族に対して軍事的に勝利することによって人心を安堵させておきたい思惑がある。
 二番目にオーガによる投石や集団転移など魔族側が新戦法を繰り出してくる前に砦を奪還して王国南部の守りをより強固なものとしたい。
 改めて申すまでもない事だが此度の作戦……失敗は断じて許されぬのだ」
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