異世界ライフは山あり谷あり

常盤今

文字の大きさ
356 / 454

353

しおりを挟む
「…………」

 おかしいと思われたのだろうか?
 ロイター子爵は疑惑の眼差しを俺へと向けて来る。
 このおっさんと見つめ合う時間はなんなんだろうと疑問に思いながらも、ここで目を逸らすと疑惑を認めてしまうような気がして動くことができないでいる。

「あ、あの…………」

 どうにかして話を逸らさないといけないのだが、上手く言葉が出てこない。

「…………君は現在の南部3国(=ベルガーナ王国・アルタナ王国・商業国家コートダール)同盟が、最初帝国(=グラバラス帝国)に対抗する目的で締結されたのを知っているかい?」

「え、ええ、ナナイさんからそれに近い説明は受けましたが…………」

「その当時イズフール川から大量の水をライン川に引き込んで、帝国の帝都ラスティヒルを水没させようという計画があったんだよ」

 あのバカデカい帝都を水没?!

 ※ライン川は商都の北・帝都の南を流れる帆船が行き来できるぐらいの大きな川で、この川を境に北は帝国、南はコートダールとなっている。

「そのようなことが可能なのですか?」

「可能性としては限りなく低かっただろうね。帝国だって防ごうとするわけだし。
 ただこの計画の真の目的は、帝都水没を喧伝けんでんすることによって帝国軍に防御姿勢を取らせて、その間にライン川を増水させて国境くにざかいの守りを強化することだった、というのがコートダール側から非公式に流れてきた情報だ」

 なるほど。帝都水没はあくまでもフェイクなわけか。
 しかしあの大河の水を他の川に移すなんて、現実的に可能なのだろうか?
 普通なら無理だが、この世界には魔法がある。
 高層建築のような技術を求められるものはできないが、逆に現代では莫大な資金と時間が必要なために諦める工事が、この世界の魔法は可能にしてしまう。

「地図に表記されていないのもその頃の名残だろう。
 当時のコートダールにとってはイズフール川の巨大さや、工事の進捗具合を帝国に知られるわけにはいかないからね。
 結局は魔族の脅威が増大したため計画は実行されることはなく、南部3国と帝国は互いに協力する方向へと舵を切ることになる。
 今日ではそのイズフール川の守りを帝国軍も担っているのだから、時代の流れというものは実に不可思議なことだ」

「な、なるほど、興味深いですね」

「…………」

 俺を疑ったわけではないのだろうか?
 非公式の情報ということは公になってないということだから、機密情報を俺に知らせてよいか悩んだとか?
 もっとも俺を疑ったところで正解には辿り着けないだろうし、こちらとしては最悪スキルの存在さえ隠せればそれでいいのだが。

「…………大分話が逸れてしまったが、問題の君が飛行中に攻撃された一件に移ろう。
 人間による攻撃なのは間違いないのだね?」

「はい、間違いありません。
 コートダール側へはそのように断言はしませんでしたが」

「ふむ…………
 君や他の誰かを狙ったにしろ、やり方が杜撰ずさん過ぎやしないかな?
 何も飛んでるところを狙わなくてもいいだろう。罠にハメて確実に仕留めるべきだ」

「そんなことをされたら自分が殺されてしまいますが…………」

 どうしてこのおっさんは暗殺する側の立場で考えているんだ??

「魔族が暗躍している可能性はありませんか?
 アルタナで遭遇した例の異形の件もありますし」

「それはないと思うよ。
 飛行魔術士を狙うために手間暇かけて人間の魔術士を操るなんて、成果に対してとてもじゃないが労力が釣り合わないよ」

「そうですか…………」

 そりゃあ普通の飛行魔術士を狙うのなら割に合わないだろうが、異世界からの転生者である俺を殺せるのならむしろお釣りが来るぐらいだろう。
 もっともそれなら確実に殺すべきで、杜撰な手段を選んだのと矛盾が生じてしまう。

「この件はコートダール軍が行うという調査の結果待ちになるかな。
 もう少し手掛かりがないとこちらとしても対処しようがない」

 手掛かりが出てくればいいのだけど。

「最後に今回の君への報酬だが、内容含めて後日とさせて欲しい」

「承知しました」

 別に金には困ってないし、軍からの報酬は信用が置けるし。

「今回の一件には中央からも褒美が出るはずだ。
 臣下の立場で陛下以上の報酬を渡すわけにはいかないからね」

「ひょっとして…………、自分は褒美を受け取るために陛下の御前に参上しなくてはいけないのでは……?」

「当り前じゃないか。
 君なら王都まですぐなんだから何も問題ないだろう?」

 問題大アリだよ!!
 国王の前でやらかしでもしたら即打ち首じゃないか!!

「報酬を辞退する……というわけには…………」

「無理に決まっているだろう。
 信賞必罰は国の根幹を為すところ。ないがしろにはできない。
 まして今回はコートダールからも注目されてるだろうからね」

 他の国も絡んでくるとなると、どうにもならないか……
 ぐむむむむ……今から胃が痛くなりそうだ……

「ご褒美が貰えるのだから、喜んで王城に行けばいいじゃないか。
 なに、失礼のないように振舞えばなんてことはないよ」

 その失礼のないようにってのが一番難しいんだよ!!
 まったく、これだから貴族というヤツは庶民の気持ちを何もわかってないんだ!!

 あっ!? 忘れるところだった。

「コートダールのクリュネガー軍司令と司令部の皆さんが伯爵様に御礼申し上げます、との伝言を頼まれましたよ」

「そうか。閣下には私からお伝えしておこう」




……

…………


「コートダールから帰還した旨、ご報告に参上致しました」

 ロイター子爵との面会後に再び受付で姫様への謁見手続きをした。
 順番待ちをしてる人が多く、かなり待たされることを覚悟したが、意外にもすぐに案内された。
 優先してくれたのだろうか?

「ツトム、ご苦労でした。
 無事なようで何よりです」

 この2日間の出来事を簡単に説明する。

「そなたの武勲、このイリス・ルガーナ、大変誇らしく思いますよ」

「ありがたきお言葉にございます」

「今回の働きに際して何かほう……」
「殿下、他の謁見希望者が待っております。そろそろ…………」

 側に控えていたマイナさんからの横槍が入った。
 つか、姫様は今褒美くれようとしてなかったか?

「……仕方ありませんね。
 ツトム、次の機会にゆっくりと話しましょう」

「ははぁ。その機会を楽しみにしております」

 まぁ姫様の美しいお姿を拝見できただけで良しとするかな。
しおりを挟む
感想 51

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の身代わりで追放された侍女、北の地で才能を開花させ「氷の公爵」を溶かす

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の罪は、万死に値する!」 公爵令嬢アリアンヌの罪をすべて被せられ、侍女リリアは婚約破棄の茶番劇のスケープゴートにされた。 忠誠を尽くした主人に裏切られ、誰にも信じてもらえず王都を追放される彼女に手を差し伸べたのは、彼女を最も蔑んでいたはずの「氷の公爵」クロードだった。 「君が犯人でないことは、最初から分かっていた」 冷徹な仮面の裏に隠された真実と、予想外の庇護。 彼の領地で、リリアは内に秘めた驚くべき才能を開花させていく。 一方、有能な「影」を失った王太子と悪役令嬢は、自滅の道を転がり落ちていく。 これは、地味な侍女が全てを覆し、世界一の愛を手に入れる、痛快な逆転シンデレラストーリー。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!

くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作) 異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

器用貧乏な赤魔道士は、パーティーでの役割を果たしてないと言って追い出されるが…彼の真価を見誤ったメンバーは後にお約束の展開を迎える事になる。

アノマロカリス
ファンタジー
【赤魔道士】 それは…なりたい者が限られる不人気No. 1ジョブである。 剣を持って戦えるが、勇者に比べれば役に立たず… 盾を持ってタンクの役割も出来るが、騎士には敵わず… 攻撃魔法を使えるが、黒魔道士には敵わず… 回復魔法を使えるが、白魔道士には敵わず… 弱体魔法や強化魔法に特化していて、魔法発動が他の魔道士に比べて速いが認知されず… そして何より、他のジョブに比べて成長が遅いという… これは一般的な【赤魔道士】の特徴だが、冒険者テクトにはそれが当て嵌まらなかった。 剣で攻撃をすれば勇者より強く… 盾を持てばタンクより役に立ち… 攻撃魔法や回復魔法は確かに本職の者に比べれば若干威力は落ちるが… それを補えるだけの強化魔法や弱体魔法の効果は絶大で、テクトには無詠唱が使用出来ていた。 Aランクパーティーの勇者達は、テクトの恩恵を受けていた筈なのに… 魔物を楽に倒せるのは、自分達の実力だと勘違いをし… 補助魔法を使われて強化されているのにもかかわらず、無詠唱で発動されている為に… 怪我が少ないのも自分達が強いからと勘違いをしていた。 そしてそんな自信過剰な勇者達は、テクトを役立たずと言って追い出すのだが… テクトは他のパーティーでも、同じ様に追い出された経験があるので… 追放に対しては食い下がる様な真似はしなかった。 そしてテクトが抜けた勇者パーティーは、敗走を余儀無くされて落ち目を見る事になるのだが… 果たして、勇者パーティーはテクトが大きな存在だったという事に気付くのはいつなのだろうか? 9月21日 HOTランキング2位になりました。 皆様、応援有り難う御座います! 同日、夜21時49分… HOTランキングで1位になりました! 感無量です、皆様有り難う御座います♪

一人、辺境の地に置いていかれたので、迎えが来るまで生き延びたいと思います

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
大きなスタンビートが来るため、領民全てを引き連れ避難する事になった。 しかし、着替えを手伝っていたメイドが別のメイドに駆り出された後、光を避けるためにクローゼットの奥に行き、朝早く起こされ、まだまだ眠かった僕はそのまま寝てしまった。用事を済ませたメイドが部屋に戻ってきた時、目に付く場所に僕が居なかったので先に行ったと思い、開けっ放しだったクローゼットを閉めて、メイドも急いで外へ向かった。 全員が揃ったと思った一行はそのまま領地を後にした。 クローゼットの中に幼い子供が一人、取り残されている事を知らないまま

処理中です...