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Ⅲ~Ⅳ 懐旧談の事
懐旧談の事 第3話
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景一の迂闊さで盛り上がる場に対し、将臣はひとつ引っかかることがあった。
「あの、景一さん。さっきおっしゃった『見守り隊』というのは──いったい?」
「え? ああ!」
すると、これまで昏かった彼の表情が一気に華やいだ。
「見守り隊ってのは、オレやうちの従姉に任命された『イッカを見守る人々』のことだ。そのなかにはこのヒロと司ちゃんも入ってるんだぜ」
「エッ。あた、あたしの見守り?」
一花が動揺した。
その手をぎゅっと握って、司が微笑む。
「方丈さんに言われなかった? “貴女がおもうより貴女の周りには、貴女を大切に想う大人で溢れている。”──って」
「あ。────アッ! ウン。言われた」
言われたらしい。一花はポッと頬を染めてうなずいた。
景一が目を細めて天井を見上げる。
「キミの父親──霧崎秋良って男はとにかく、なんというか、世界の中心にいるような存在で──俺たちはほんとうに、ヤツが、秋良がすきだった。そんなヤツの一人娘をどうしたって放っておけるわけがなかったんだ。もちろん過度な干渉は、してないつもりだろうがね」
「────」
そうだな、と景一はにっこりわらって立ちあがった。
「久しぶりの日本だし、せっかくなら挨拶にでも行こうか。いっしょに来るかい。見守り隊の奴らのところへ」
※
新宿区歓楽街から一本逸れた細い路地には、定食屋『ざくろ』がある。
宝泉寺を出てから電車で数駅。景一は迷いなくこの木造建屋にたどり着くや、準備中の札もお構いなしに暖簾をめくって引き戸を開けた。将臣が利用したのは一、二度程度だが、一花と恭太郎は以前からよくお世話になっていたという。
引き戸が開いた瞬間、中の老婦人が困り顔でこちらを見た。
が、景一の顔を見るなりあんぐりと口を大きく開けて、静止する。彼女の名は兵頭千枝子。ここ『ざくろ』の女将である。
「や、やだ──ちょっと。嘘。え?」
彼女の視線が、ゆっくりとこちらに向けられた。将臣、恭太郎を見てから一花を見たとき、とうとう千枝子が景一に詰め寄った。
「景ちゃんでしょッ。な、なんで──イッカちゃんと、ううんそれよりいったいいつ日本に戻ってきたの!」
「千枝ちゃん、久しぶり。元気そうだな」
「やだもう、ちょっと──ホントに。ねえ。なにやってたのよこの十数年!」
「いろいろあったんだよ。ああ典泰さんも、ご無沙汰してます」
「────」
奥の調理場に立つ職人気質な初老男性は、景一を見てひょいと右手のお玉をあげた。彼が寡黙なのは昔からだと将臣も聞いたことがある。とはいえ景一に対しては特別な思い入れもあるのか、すこし寂しげな微笑みも見せた。
一花と恭太郎は顔を見合わせて、女将である千枝子を見る。
「ちえママ──ちえママが見守り隊だったの? じゃあ、じゃあ知ってたの。あたしがほんとは霧崎一花だったって」
「い、イッカちゃん──」
千枝子がちらと景一を見る。
彼女の不安げな表情とは対照的に、景一はにこにこと楽しそうな笑みを崩さずうなずいた。
「ごめんね、いままで黙ってて。あなたがあんなとこフラフラ歩いてるの見かけたからもう気が気じゃなくって、あの日声をかけたのよ。アタシたちだって誰彼かまわず親切なわけじゃないんだから」
「へ。──」
ぽかん、と口を開けてから一花はうつむいた。かつてこの夫婦と出会った日のことをおもい出しているらしい。
当時のことは、将臣も聞いた話でしかない。おまけに説明下手な一花から聞いたものだから、ろくな脈絡もない。とはいえ断片的に聞きかじった話を要約すると、こうだ。
一花が当時中学生に上がりたてだった頃。
彼女は古賀両親と折り合いがわるく、家に帰りたくないからという理由で、よく一本向こうの歓楽街をフラフラと歩いていた。時間帯が夕方だったとはいえ、夜の街にはとんと似つかわしくない女児は当時から異質な存在で、どうやら歓楽街付近に店を構える者たちも何かと気にしていたらしい。一花の記憶のかぎりでも、数人の大人に心配の声をかけられたという。
そのうちのひとりが、ここ『ざくろ』の兵頭千枝子だった。
腹を空かせていた自分を不憫に思ってか、無償で飯を食わせてくれた──と、以前一花がそう言っていたが、千枝子が語る真実はすこしちがうようだった。
「ほんとうは、アタシたちが声をかけるべきじゃなかったのよ。あくまで遠くから見守るだけの立場であるべきだった。でも、当時イッカちゃんったら空腹のあまりフラフラしちゃって、もう怪しい大人にもついて行きかねない様子だったから。たまらず声をかけちゃったの」
「────」
「でも、アナタとお話しするのはその一回こっきり、もうこの辺りには来ないようにって説得したらサヨナラしようと思ってた。でもそしたらうちの常連──当時少年刑事課だった沢井さんが、しょっちゅうイッカちゃん連れてご飯食べにくるようになったんで、もうしょうがないから知らぬふりしてお話ししてたの」
「声をかけるべきでないという、見守り隊のルールがあるんですか」
と、将臣が口を挟む。
すると彼女はすこし悲しそうに微笑み、首をかしげた。
「ルールというか、なんというか。タブー視されていたのはイッカちゃんに秋良くんたちの話をするってことくらいで、べつに話しちゃいけないってわけじゃなかった。でもアタシたちは知っているから──秋良ちゃんのこと。イッカちゃんに声をかけでもしたら、きっと秋良ちゃんのことを伝えてしまうとおもったから」
だから遠くから見ていたかったの、と。
そういった千枝子はふたたび一花を見る。
「でも、その様子だともう知ったのね?」
「──ウン」
「そう。そうなのね……」
「ほかに、だれがいるの?」
一花は問うた。今度はうつむきはしなかった。
問われた千枝子が困ったように首を振る。
「知らない。ぜんぶ知ってるのは景ちゃんと、ちーちゃんくらいじゃないかしら」
「ちーちゃん?」
「俺の従姉。千歳ってのがいるんだ」
と、景一が控えめに言った。
将臣も名前は知っている。黒須千歳といえば、世が世なら財閥御三家に並んだであろう通称新星財閥御三家のひとつ、黒須家の次期当主。経済紙などでたまに顔を出しているのを見たことがある。御年五十でありながらその美貌は二十年以上変わらない、として美容界からも注目を集める御婦人でもある。
景一がカウンター席に腰かけながら、つづけた。
「全員を把握してるのは千歳くらいじゃないか。俺も、十数年日本から離れていたから詳しくは知らない。でも──千枝ちゃんがずいぶんイッカを見てくれていたって話は聞いていたから、早く会いに来たかったんだよ」
「────なつかしいねえ。みんなで、卓囲んで麻雀やって。あの頃がいっちゃんたのしかったよねえ」
「はははっ。だなァ、あの頃はまだみんないたから。みんな──」
言いながら、景一は愛しげに目を細めて一花を見る。
「ああいや。まだイッカは生まれてなかったか。……」
「麻雀やってたの。みんなで? あたしのお父さんも?」
「ああ。俺と秋良がグレていた頃、うちの千歳によく連れ回されては雀荘に入り浸っていたんだよ。千枝ちゃんたちとはそこで知り合った。ほかの見守り隊も、みんな元々は雀仲間だ」
「ふうん。なかなかアウトローだったのねエ」
「──なあ、恭太郎くん」
「んあ」
抜けた声だった。
これまで彼にしては不気味なほどに静かだったため、なんとなく察するところはあったが、やはりというか恭太郎は卓につくなりうたた寝をしていたらしい。話を聞いていたのかいないのか、目をしばたたかせながらぼんやりと景一を見つめる。
「キミ、麻雀は打てるか?」
「麻雀? 打てるよ。打てるけど──」
言いながら徐々に彼の口角があがっていく。
「そっちの手は僕に筒抜けになるんだけど。それでもいいなら」
「おっと、そういやそうだった。それはフェアじゃないな……」
といって、景一はカウンター席から立ち上がると、ゆっくり恭太郎のもとへ歩み寄った。そのまま恭太郎が座る卓の向かい席へと腰を下ろす。
「キミは、アイツとよく似てる。べつにルックスが似ているわけじゃないけれど、その存在感はそっくりだ。キミが面会室に入ってきたあのとき──俺はどきっとした」
「アイツってコイツのチチオヤ?」
と、恭太郎がくいと親指で一花を示す。
景一はこくりとうなずいた。それから千枝子を横目に見ながら、
「藤宮恭太郎という、」
とつぶやいた。
「イレギュラーの存在に、幾度助けられたか知れない。オレたちは君に感謝してるんだ。ほんとうに」
「どっかで聞いたなそんなこと」恭太郎はぷいとそっぽを向く。
「千歳だろ。彼女も、心からそう思ってる」
「…………」
「そうね」
千枝子がにっこりわらって、一花の肩を抱いた。
「いつからか恭くんが、ここでご飯を食べたイッカちゃんを毎度迎えに来てくれるようになって、初めは──こんな幼い子も見守り隊のひとりなのかと思ったのだけど。でも、長らく見ているうちにそうじゃないと気付いた。恭くんはほんとうに、ただ友だちを迎えに来ただけなんだなって」
「アッハ……」
一花はうれしそうに目を細めて、恭太郎を見る。
そのあたたかい視線を受けた彼はうっとうしそうに、なぜか将臣をにらみつけてきた。
「なんだよ」
「これ、なんの時間?」
「照れたか」
「話が長いから腹が減った。ちえママ、カツカレー!」
「また? なんでいつもカツカレーばっかり──ほかのも食べてちょうだいよ」
「だってうまいんだもん」
「ちえママ、あたしもカツカレー!」
と、一花がかぶせる。
そういえば昼飯はまだだった。気付いた途端に腹が減る。将臣もつづいた。
「じゃあおれはさばの味噌煮定食と──食後にカツカレーを」
エッ、と景一が目を剥く。
「食後にカツカレー? まアくん。本気か?」
「胃袋は母に似たんです」
「あア──」
司の大食っぷりを知る景一は、閉口した。
「あの、景一さん。さっきおっしゃった『見守り隊』というのは──いったい?」
「え? ああ!」
すると、これまで昏かった彼の表情が一気に華やいだ。
「見守り隊ってのは、オレやうちの従姉に任命された『イッカを見守る人々』のことだ。そのなかにはこのヒロと司ちゃんも入ってるんだぜ」
「エッ。あた、あたしの見守り?」
一花が動揺した。
その手をぎゅっと握って、司が微笑む。
「方丈さんに言われなかった? “貴女がおもうより貴女の周りには、貴女を大切に想う大人で溢れている。”──って」
「あ。────アッ! ウン。言われた」
言われたらしい。一花はポッと頬を染めてうなずいた。
景一が目を細めて天井を見上げる。
「キミの父親──霧崎秋良って男はとにかく、なんというか、世界の中心にいるような存在で──俺たちはほんとうに、ヤツが、秋良がすきだった。そんなヤツの一人娘をどうしたって放っておけるわけがなかったんだ。もちろん過度な干渉は、してないつもりだろうがね」
「────」
そうだな、と景一はにっこりわらって立ちあがった。
「久しぶりの日本だし、せっかくなら挨拶にでも行こうか。いっしょに来るかい。見守り隊の奴らのところへ」
※
新宿区歓楽街から一本逸れた細い路地には、定食屋『ざくろ』がある。
宝泉寺を出てから電車で数駅。景一は迷いなくこの木造建屋にたどり着くや、準備中の札もお構いなしに暖簾をめくって引き戸を開けた。将臣が利用したのは一、二度程度だが、一花と恭太郎は以前からよくお世話になっていたという。
引き戸が開いた瞬間、中の老婦人が困り顔でこちらを見た。
が、景一の顔を見るなりあんぐりと口を大きく開けて、静止する。彼女の名は兵頭千枝子。ここ『ざくろ』の女将である。
「や、やだ──ちょっと。嘘。え?」
彼女の視線が、ゆっくりとこちらに向けられた。将臣、恭太郎を見てから一花を見たとき、とうとう千枝子が景一に詰め寄った。
「景ちゃんでしょッ。な、なんで──イッカちゃんと、ううんそれよりいったいいつ日本に戻ってきたの!」
「千枝ちゃん、久しぶり。元気そうだな」
「やだもう、ちょっと──ホントに。ねえ。なにやってたのよこの十数年!」
「いろいろあったんだよ。ああ典泰さんも、ご無沙汰してます」
「────」
奥の調理場に立つ職人気質な初老男性は、景一を見てひょいと右手のお玉をあげた。彼が寡黙なのは昔からだと将臣も聞いたことがある。とはいえ景一に対しては特別な思い入れもあるのか、すこし寂しげな微笑みも見せた。
一花と恭太郎は顔を見合わせて、女将である千枝子を見る。
「ちえママ──ちえママが見守り隊だったの? じゃあ、じゃあ知ってたの。あたしがほんとは霧崎一花だったって」
「い、イッカちゃん──」
千枝子がちらと景一を見る。
彼女の不安げな表情とは対照的に、景一はにこにこと楽しそうな笑みを崩さずうなずいた。
「ごめんね、いままで黙ってて。あなたがあんなとこフラフラ歩いてるの見かけたからもう気が気じゃなくって、あの日声をかけたのよ。アタシたちだって誰彼かまわず親切なわけじゃないんだから」
「へ。──」
ぽかん、と口を開けてから一花はうつむいた。かつてこの夫婦と出会った日のことをおもい出しているらしい。
当時のことは、将臣も聞いた話でしかない。おまけに説明下手な一花から聞いたものだから、ろくな脈絡もない。とはいえ断片的に聞きかじった話を要約すると、こうだ。
一花が当時中学生に上がりたてだった頃。
彼女は古賀両親と折り合いがわるく、家に帰りたくないからという理由で、よく一本向こうの歓楽街をフラフラと歩いていた。時間帯が夕方だったとはいえ、夜の街にはとんと似つかわしくない女児は当時から異質な存在で、どうやら歓楽街付近に店を構える者たちも何かと気にしていたらしい。一花の記憶のかぎりでも、数人の大人に心配の声をかけられたという。
そのうちのひとりが、ここ『ざくろ』の兵頭千枝子だった。
腹を空かせていた自分を不憫に思ってか、無償で飯を食わせてくれた──と、以前一花がそう言っていたが、千枝子が語る真実はすこしちがうようだった。
「ほんとうは、アタシたちが声をかけるべきじゃなかったのよ。あくまで遠くから見守るだけの立場であるべきだった。でも、当時イッカちゃんったら空腹のあまりフラフラしちゃって、もう怪しい大人にもついて行きかねない様子だったから。たまらず声をかけちゃったの」
「────」
「でも、アナタとお話しするのはその一回こっきり、もうこの辺りには来ないようにって説得したらサヨナラしようと思ってた。でもそしたらうちの常連──当時少年刑事課だった沢井さんが、しょっちゅうイッカちゃん連れてご飯食べにくるようになったんで、もうしょうがないから知らぬふりしてお話ししてたの」
「声をかけるべきでないという、見守り隊のルールがあるんですか」
と、将臣が口を挟む。
すると彼女はすこし悲しそうに微笑み、首をかしげた。
「ルールというか、なんというか。タブー視されていたのはイッカちゃんに秋良くんたちの話をするってことくらいで、べつに話しちゃいけないってわけじゃなかった。でもアタシたちは知っているから──秋良ちゃんのこと。イッカちゃんに声をかけでもしたら、きっと秋良ちゃんのことを伝えてしまうとおもったから」
だから遠くから見ていたかったの、と。
そういった千枝子はふたたび一花を見る。
「でも、その様子だともう知ったのね?」
「──ウン」
「そう。そうなのね……」
「ほかに、だれがいるの?」
一花は問うた。今度はうつむきはしなかった。
問われた千枝子が困ったように首を振る。
「知らない。ぜんぶ知ってるのは景ちゃんと、ちーちゃんくらいじゃないかしら」
「ちーちゃん?」
「俺の従姉。千歳ってのがいるんだ」
と、景一が控えめに言った。
将臣も名前は知っている。黒須千歳といえば、世が世なら財閥御三家に並んだであろう通称新星財閥御三家のひとつ、黒須家の次期当主。経済紙などでたまに顔を出しているのを見たことがある。御年五十でありながらその美貌は二十年以上変わらない、として美容界からも注目を集める御婦人でもある。
景一がカウンター席に腰かけながら、つづけた。
「全員を把握してるのは千歳くらいじゃないか。俺も、十数年日本から離れていたから詳しくは知らない。でも──千枝ちゃんがずいぶんイッカを見てくれていたって話は聞いていたから、早く会いに来たかったんだよ」
「────なつかしいねえ。みんなで、卓囲んで麻雀やって。あの頃がいっちゃんたのしかったよねえ」
「はははっ。だなァ、あの頃はまだみんないたから。みんな──」
言いながら、景一は愛しげに目を細めて一花を見る。
「ああいや。まだイッカは生まれてなかったか。……」
「麻雀やってたの。みんなで? あたしのお父さんも?」
「ああ。俺と秋良がグレていた頃、うちの千歳によく連れ回されては雀荘に入り浸っていたんだよ。千枝ちゃんたちとはそこで知り合った。ほかの見守り隊も、みんな元々は雀仲間だ」
「ふうん。なかなかアウトローだったのねエ」
「──なあ、恭太郎くん」
「んあ」
抜けた声だった。
これまで彼にしては不気味なほどに静かだったため、なんとなく察するところはあったが、やはりというか恭太郎は卓につくなりうたた寝をしていたらしい。話を聞いていたのかいないのか、目をしばたたかせながらぼんやりと景一を見つめる。
「キミ、麻雀は打てるか?」
「麻雀? 打てるよ。打てるけど──」
言いながら徐々に彼の口角があがっていく。
「そっちの手は僕に筒抜けになるんだけど。それでもいいなら」
「おっと、そういやそうだった。それはフェアじゃないな……」
といって、景一はカウンター席から立ち上がると、ゆっくり恭太郎のもとへ歩み寄った。そのまま恭太郎が座る卓の向かい席へと腰を下ろす。
「キミは、アイツとよく似てる。べつにルックスが似ているわけじゃないけれど、その存在感はそっくりだ。キミが面会室に入ってきたあのとき──俺はどきっとした」
「アイツってコイツのチチオヤ?」
と、恭太郎がくいと親指で一花を示す。
景一はこくりとうなずいた。それから千枝子を横目に見ながら、
「藤宮恭太郎という、」
とつぶやいた。
「イレギュラーの存在に、幾度助けられたか知れない。オレたちは君に感謝してるんだ。ほんとうに」
「どっかで聞いたなそんなこと」恭太郎はぷいとそっぽを向く。
「千歳だろ。彼女も、心からそう思ってる」
「…………」
「そうね」
千枝子がにっこりわらって、一花の肩を抱いた。
「いつからか恭くんが、ここでご飯を食べたイッカちゃんを毎度迎えに来てくれるようになって、初めは──こんな幼い子も見守り隊のひとりなのかと思ったのだけど。でも、長らく見ているうちにそうじゃないと気付いた。恭くんはほんとうに、ただ友だちを迎えに来ただけなんだなって」
「アッハ……」
一花はうれしそうに目を細めて、恭太郎を見る。
そのあたたかい視線を受けた彼はうっとうしそうに、なぜか将臣をにらみつけてきた。
「なんだよ」
「これ、なんの時間?」
「照れたか」
「話が長いから腹が減った。ちえママ、カツカレー!」
「また? なんでいつもカツカレーばっかり──ほかのも食べてちょうだいよ」
「だってうまいんだもん」
「ちえママ、あたしもカツカレー!」
と、一花がかぶせる。
そういえば昼飯はまだだった。気付いた途端に腹が減る。将臣もつづいた。
「じゃあおれはさばの味噌煮定食と──食後にカツカレーを」
エッ、と景一が目を剥く。
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