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新人魔法師の調べもの

11月25日、新しい魔法衣

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 翌朝、始業時間になった瞬間。朱音は薫によってラボに引きずり込まれた。彼女の方が背が高く力も強いので、朱音は抗うこともできず、気づけばラボにいた。

 そこには、隈ができているが達成感に満ちた顔をしている恵美もいて、恐怖のあまり扉まで走って逃げそうになった。

 だが、にこにこと笑う薫からは逃げられず、朱音はラボにある椅子に座らせられる。

「ご、午後じゃなかったんですか……?」
「いえ、あれから色々考えていたら捗ってしまって。是非見ていただきたいな、と」
「こ、心の準備ができてないんですけど……」

 テンションの高い開発班と向き合うには、心の準備が欠かせない。何をするのかわからない人たちなので。

「まず魔法衣から見て欲しいんですけど」
「は、はい……」

 トルソーにかかった布を取り払い、薫は魔法衣を見せた。

「え」

 布の下から現れたのは、忍者(コスプレ)のような衣装だった。着物のような前袷の服。ただし、上下に分かれており、下はスカートではなくショートパンツになっていた。袖はなく、代わりに腕から手の甲までを覆う手甲が用意されている。長い靴下で足は一応隠されていた。腰には帯のようにベルトが巻かれており、何やら小さなポーチが付けられている。

「露出度高すぎません!? これ、魔法耐久値下がるんじゃ……」
「ご安心を! 魔法衣全体に魔法耐久値向上のための特殊な布を使いました!」
「あと結局足出てますよね」
「靴下あれば出てません!」
「ズボンがいいって言いませんでした?」
「スカートじゃないのでセーフです!」

 そうだけれども。確かに可愛いけれども。正直、自分がこれを着ると思うと恥ずかしい。それに気づいているのか、薫は支部の他の職員の名前を挙げていく。

「上野さんも同じくらいの露出度でしょう!?」
「うっ……そ、そうですけど……」
「潮崎さんなんて、人魚に戻ったときに動きやすいように、ミニスカートですよ!?」
「確かに……」

 言われてみれば皆そうだ。現場に出ることの多い職員は皆、本人にとって動きやすい格好をしている。そして、それは開発班の判断だ。彼女たちが必要だと感じたのならば、それに従うべきではないか。

 このときの自身を振り返り、朱音は、「ちょっとどうかしてた」と口にする。だが、この瞬間、朱音は頷いてしまったので、この魔法衣を着続けることになるのだった。

「お次は武器!」
「実は、こっちが先に決まったんです。それに合わせた魔法衣にしてみました」

 楽しくて仕方がない、という素振りの恵美は、机の上に細長い何かを並べ始めた。1、2、3……10本はありそうだ。

「これって……クナイですか?」
「そう! 魔力が込められるように加工した、アンタ専用の武器よ!」
「確かに近接でもないし、大鎌とかよりは軽いですけど……使い方、わからないですよ?」
「大丈夫! 投げればいいだけだから! 魔力込めて、適当に投げたら対象に刺さるように魔法かけたから!」
「刺さったらなくなっちゃいますか? 毎回補充を頼むのも申し訳ないですし……」
「ここでこの手甲が活きます!」

 朱音の目の前に手甲を突き出す薫。鼻先数センチまで近づいてきたそれを仰け反って避けつつ、どういうことか問う。

 すると、薫は低く笑いながら、「物は試しです」と朱音の腕に手甲を付けさせる。

「机から離れてください」
「は、はい」

 そのまま後ろに下がり、壁際まで行く。机からはかなり離れた。

「魔力を込めながら、クナイが戻ってくるイメージをしてください。そうすればわかるはずです」
「はあ……」

 言われたとおりに魔力を込める。クナイが手元に戻ってくるイメージをすると、あっという間に10本すべてが両手に乗った。

「わっ……すごい!」
「小森さんの魔力に反応して戻ってくるように作りました。ボクと朝比奈さんの合作です。クナイはこのポーチにいれてくださいね」

 よいものが作れた。
 2人はそんな満足げな顔をしている。

「あ、ありがとうございます!」
「一応、着てみてくださいね」

 ラボには試着室のように、カーテンで区切られた空間がある。そこに誘導され、朱音は今の魔法衣を脱いだ。支給されている魔法衣は以前薫が作ったものなので、サイズは勿論ぴったりだった。着てみると、しっかりと魔法がかけられているので寒さも感じない。これなら動きやすそうだ。

「どうでしょう?」
「ぴったりです! これなら動きやすそうです! 私も先輩がたみたいに働けるかな……」
「それなんですけど」

 薫はなにやらメモを持っていた。璃香の字で何か書かれている。

「訓練、始めるみたいです」
「できるだけ早く慣れて欲しいって言ってたからこっちも張り切っちゃった」
「……ええと?」

 メモを広げると、今日、午後。戦闘訓練。トレーニングルーム。とだけ書かれていた。

「文章でも言葉が少ない!」
「簡潔だとは思います」
「あの子らしいよね」
「うう……」

 きっと、光もいるのだろう。そして、クナイに慣れるまでひたすら投擲訓練があるに違いない。的に全てあてるまでとか、2人のどちらかにあてるまでとか、とにかく難易度の高いことを求められるに決まっている。

 しかし、行かなければならない。
 逃げたら最後、それはそれは楽しそうな顔をした光に、どこまでも追いかけられるのだから。

 覚悟を決めるように息を吐き、朱音は食堂に向かった。午後を耐える英気を養うために。
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