27 / 47
新人魔法師の調べもの
同日、破壊された魔法
しおりを挟む
ようやく朱音の涙がおさまったころ、部屋の扉が控えめにノックされた。夏希が低い声で応じる。
「……夏希にいじめられたのかい?」
「まさか。話してただけだ」
「そう」
舞子は、娘の低い声に驚くこともなく頷いた。普段からそうやって接しているようだ。
「そろそろ私は行かないといけなくてね」
「あー、ちょっとだけ待ってくれ」
「どうしたんだい?」
去ろうとする舞子の魔法衣の袖を掴んで、夏希は彼女を引き留めた。
「大事な話がある。朱音、お前も聞いてくれ」
「……はい?」
「魔法狩りについてだよ」
「……何か、知っているのかな?」
「あぁ」
舞子は時計を確認し、まだ時間に余裕があると判断したようだ。もう1つ椅子を呼び寄せて腰かける。
「魔法狩りについてはあたしも知ってた。ただ、ここまで大きくなるとは思ってなかったんだ。12月12日を迎えて、なんにもなけりゃおさまるんじゃないかと思ってた……いや、違うな。言っても誰も信じやしないと思って、黙ってたんだ」
「……それは、私もそうだと思っていたのかな?」
母として、娘に信じられていないかもしれないということに、舞子はショックを受けたようだった。
「そう思いたくはねぇけど、もし信じられなかったらと思うと言いたくなかった」
「私は、何があろうと夏希の味方だよ」
その言葉を聞いた瞬間、夏希は目を見開いた。やがて、低く笑い始める。
「……あぁ。そうだったな」
何故か過去形だった。昔を懐かしむような声に聞こえた。以前にも、そう言われたことがあったのだろうか?
朱音にはわからなかったが、夏希にとっては大事な一言だったらしい。そうだよな、と小さく呟いている。
「……よし。じゃあ、今から言うコトを、質問せずに最後まで聞いてくれ」
夏希は覚悟を決めるように息を吸い、静かに話し始めた。
「100年前、天音が復活させなかった……正確には、復活させた後、完全に破壊した魔法があるってのは事実だ」
「まさか……」
舞子は何かを言いかけたが、夏希の言葉を思い出して口を噤んだ。朱音もまた、言いたいことはあったが、ひとまず話を聞く。
「あたしが、それをやった。天音が言うコトは正しいと思ったし、事実、今の世の中を見て、そうしてよかったと思ってる」
「らしくないね、夏希。前置きが長いよ」
「いきなり結論だけ言っても、そのあと質問攻めになるだろ」
それもそうだ、と舞子は頷いた。今、夏希が言っているのは、普通ならば到底信じられない話なのだから。100年前の人物のことを自分自身のように語り、誰も知らなかった魔法を明らかにしようとしているだなんて。
「……100年前、魔法を復活させて何日か経ったころに、天音が頼んできたんだ」
時は、100年前に遡る。
「副所長、お願いがあるんです」
「……もう、副所長じゃねぇよ」
研究所が廃止されることが決定した今、夏希はもうただの「清水夏希」だった。けれども天音は夏希を副所長と呼び続けていた。一生このやり取りを繰り返すのだろう。なんとなく、夏希はそう思っていた。悪い気はしなかった。こうして、恐れではなく純粋な尊敬の気持ちを向けられるのは少しむず痒いような気もしたが、新鮮だった。
「なんだよ。できるコトならやってやる」
「副所長の固有魔導……固有魔法は、魔法を完全に破壊することはできますか?」
「……なんでそんなコト聞くんだよ」
結論から言ってしまえば、できた。かけられた魔法を破壊するだけでなく、魔法そのものを破壊して、2度と使えないようにする。魔力の消費は激しいが、夏希にとっては大したことではない。
ただ、何故天音がそんなことをしようとしているかがわからなかった。
「……封印の魔法を、破壊したいんです」
「理由は?」
「これから、私は……私たちは、平和な時代を作っていくんです。魔法を使える人もそうでない人も、手を取り合って暮らせるような社会に。そんな社会に、封印の魔法はいりませんから」
いずれは、誰もが簡単に魔法に触れられる社会にしたい。望めば学べるようにしていきたい。
魔女狩りがあった時代とは違う。新しい、平和な時代を天音は、天音たちは作っていくのだ。
「もう、魔法は特別じゃなくていいんです。研究員ばかりが最新の資料や研究結果を知って、独占するような社会じゃなくていい。魔法は、もっと身近なものになったんです」
「……そうだな」
「ただ憧れのままに終わらせるんじゃなくて、それを叶えられる時代なんです。だから、どうか……もしできるのならば、封印の魔法を2度と使えないように破壊してはいただけませんか」
「なんだ、憧れのままにするのは終わりか?」
「そんな自分、何ヶ月も前に捨てましたよ!」
「……ったく。いいぜ、やってやるよ」
そうして、真っ白な魔力が辺りを包み、「封印」の魔法は破壊され、この世の中から完全に消え去った。
「……って言うのが、今世間を騒がせてる魔法だよ」
「そうなんだね」
「そうなんだねって……」
舞子はあっさりと受け入れた。疑うつもりなど、まったくないようだ。
「……何故だろうね。驚きはしたけど……夏希、君のことは信じたいし、守りたいと思ってしまうのさ。母親だからかな」
「……そう、か」
お前は、昔からそうだよ。真子。
夏希が何やら呟いたが、朱音や舞子にはよく聞こえなかった。だが、顔を上げた夏希が何事もなかったようにしているので、聞き返すことはなかった。
「……夏希にいじめられたのかい?」
「まさか。話してただけだ」
「そう」
舞子は、娘の低い声に驚くこともなく頷いた。普段からそうやって接しているようだ。
「そろそろ私は行かないといけなくてね」
「あー、ちょっとだけ待ってくれ」
「どうしたんだい?」
去ろうとする舞子の魔法衣の袖を掴んで、夏希は彼女を引き留めた。
「大事な話がある。朱音、お前も聞いてくれ」
「……はい?」
「魔法狩りについてだよ」
「……何か、知っているのかな?」
「あぁ」
舞子は時計を確認し、まだ時間に余裕があると判断したようだ。もう1つ椅子を呼び寄せて腰かける。
「魔法狩りについてはあたしも知ってた。ただ、ここまで大きくなるとは思ってなかったんだ。12月12日を迎えて、なんにもなけりゃおさまるんじゃないかと思ってた……いや、違うな。言っても誰も信じやしないと思って、黙ってたんだ」
「……それは、私もそうだと思っていたのかな?」
母として、娘に信じられていないかもしれないということに、舞子はショックを受けたようだった。
「そう思いたくはねぇけど、もし信じられなかったらと思うと言いたくなかった」
「私は、何があろうと夏希の味方だよ」
その言葉を聞いた瞬間、夏希は目を見開いた。やがて、低く笑い始める。
「……あぁ。そうだったな」
何故か過去形だった。昔を懐かしむような声に聞こえた。以前にも、そう言われたことがあったのだろうか?
朱音にはわからなかったが、夏希にとっては大事な一言だったらしい。そうだよな、と小さく呟いている。
「……よし。じゃあ、今から言うコトを、質問せずに最後まで聞いてくれ」
夏希は覚悟を決めるように息を吸い、静かに話し始めた。
「100年前、天音が復活させなかった……正確には、復活させた後、完全に破壊した魔法があるってのは事実だ」
「まさか……」
舞子は何かを言いかけたが、夏希の言葉を思い出して口を噤んだ。朱音もまた、言いたいことはあったが、ひとまず話を聞く。
「あたしが、それをやった。天音が言うコトは正しいと思ったし、事実、今の世の中を見て、そうしてよかったと思ってる」
「らしくないね、夏希。前置きが長いよ」
「いきなり結論だけ言っても、そのあと質問攻めになるだろ」
それもそうだ、と舞子は頷いた。今、夏希が言っているのは、普通ならば到底信じられない話なのだから。100年前の人物のことを自分自身のように語り、誰も知らなかった魔法を明らかにしようとしているだなんて。
「……100年前、魔法を復活させて何日か経ったころに、天音が頼んできたんだ」
時は、100年前に遡る。
「副所長、お願いがあるんです」
「……もう、副所長じゃねぇよ」
研究所が廃止されることが決定した今、夏希はもうただの「清水夏希」だった。けれども天音は夏希を副所長と呼び続けていた。一生このやり取りを繰り返すのだろう。なんとなく、夏希はそう思っていた。悪い気はしなかった。こうして、恐れではなく純粋な尊敬の気持ちを向けられるのは少しむず痒いような気もしたが、新鮮だった。
「なんだよ。できるコトならやってやる」
「副所長の固有魔導……固有魔法は、魔法を完全に破壊することはできますか?」
「……なんでそんなコト聞くんだよ」
結論から言ってしまえば、できた。かけられた魔法を破壊するだけでなく、魔法そのものを破壊して、2度と使えないようにする。魔力の消費は激しいが、夏希にとっては大したことではない。
ただ、何故天音がそんなことをしようとしているかがわからなかった。
「……封印の魔法を、破壊したいんです」
「理由は?」
「これから、私は……私たちは、平和な時代を作っていくんです。魔法を使える人もそうでない人も、手を取り合って暮らせるような社会に。そんな社会に、封印の魔法はいりませんから」
いずれは、誰もが簡単に魔法に触れられる社会にしたい。望めば学べるようにしていきたい。
魔女狩りがあった時代とは違う。新しい、平和な時代を天音は、天音たちは作っていくのだ。
「もう、魔法は特別じゃなくていいんです。研究員ばかりが最新の資料や研究結果を知って、独占するような社会じゃなくていい。魔法は、もっと身近なものになったんです」
「……そうだな」
「ただ憧れのままに終わらせるんじゃなくて、それを叶えられる時代なんです。だから、どうか……もしできるのならば、封印の魔法を2度と使えないように破壊してはいただけませんか」
「なんだ、憧れのままにするのは終わりか?」
「そんな自分、何ヶ月も前に捨てましたよ!」
「……ったく。いいぜ、やってやるよ」
そうして、真っ白な魔力が辺りを包み、「封印」の魔法は破壊され、この世の中から完全に消え去った。
「……って言うのが、今世間を騒がせてる魔法だよ」
「そうなんだね」
「そうなんだねって……」
舞子はあっさりと受け入れた。疑うつもりなど、まったくないようだ。
「……何故だろうね。驚きはしたけど……夏希、君のことは信じたいし、守りたいと思ってしまうのさ。母親だからかな」
「……そう、か」
お前は、昔からそうだよ。真子。
夏希が何やら呟いたが、朱音や舞子にはよく聞こえなかった。だが、顔を上げた夏希が何事もなかったようにしているので、聞き返すことはなかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
異世界で神の元カノのゴミ屋敷を片付けたら世界の秘密が出てきました
小豆缶
ファンタジー
父の遺したゴミ屋敷を片付けていたはずが、気づけば異世界に転移していた私・飛鳥。
しかも、神の元カノと顔がそっくりという理由で、いきなり死刑寸前!?
助けてくれた太陽神ソラリクスから頼まれた仕事は、
「500年前に別れた元恋人のゴミ屋敷を片付けてほしい」というとんでもない依頼だった。
幽霊になった元神、罠だらけの屋敷、歪んだ世界のシステム。
ポンコツだけど諦めの悪い主人公が、ゴミ屋敷を片付けながら異世界の謎を暴いていく!
ほのぼのお仕事×異世界コメディ×世界の秘密解明ファンタジー
転生皇女セラフィナ
秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。
目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。
赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。
皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。
前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。
しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。
一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。
「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」
そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。
言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。
それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。
転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。
※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる