【完結】魔法保護課第5支部の業務日誌

九条美香

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新人魔法師の調べもの

同日、作戦内容

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 朱音が食堂に着くと、全員の視線が一斉に向けられた。それに気まずさを感じながらも、1歩踏み出す。

「やあやあ~」
「支部長。ありがとうございます」
「いいよ~、大事なことだからね。時間短縮のために、待ってる間に朱音の家のことは話しちゃったんだけど大丈夫?」
「はい」

 以前から気づいていた璃香と光以外、驚いた顔でこちらを見つめている。だが、誰も出自を隠していたことを責めたりはしなかった。優しい人たちだと思う。

「……今回、こうしてお集まりいただいたのは、魔法狩りを止めるためです。私に協力していただきたいんです」
「それは構わないけど……でも、策はあるのかしら?」
「はい、あります」
「どうするつもりだよ?」

 雷斗の問いに、朱音は数刻前に清水家で考えた策を話し始めた。









「……いい方法があります。多分、最短で最善の」

 朱音がそう言うと、夏希は続きを促すように上目遣いでこちらを見た。言ってみろ、そう背中を押されているようだった。

「私が、伊藤天音の子孫だということを公表します。それを、魔法考古学省が魔法で全国に流してください」
「それは……やろうと思えば映像として流すことができるけど……朱音、君はそれでいいのかい?」
「魔法狩りが止められるのなら構いません」

 以前の朱音ならば絶対に取らなかった策だ。言えば、きっと天音と比べられて、悲しくなるから。でも、それは朱音自身が、天音と比較して勝手に落ち込んでいただけ。言ってもいないのにそうに違いないと決めつけて、高祖母を妬んでいた。自分の心の弱さが原因だった。

(……ひいひいおばあさま。私、変わってみせるよ)

 舞子は困惑しているが、夏希は笑みを浮かべたままだった。朱音の言うことなど、お見通しだったのかもしれない。

「それで? 具体的にはどうすんだ?」
「100年経って、高祖母がかけた魔法が解け、記憶を手にしたことにするんです。その後は、清水さんが教えてくださったとおりの事実を伝えます」
「でも、それだけで魔法狩りが納得するとは……」
「大臣、私の顔は高祖母そっくりなんですよ」

 少し前まではコンプレックスだったそれを、今度は活用してみせる。朱音は胸を張って言った。

「増田さん……開発班の魔法衣担当の方に、高祖母と同じ魔法衣を作ってくださるようにお願いします。そうすれば、多くの人は私を高祖母と錯覚するでしょう」
「増田……ってまさか……そうか……」
「ええ。旧第5研究所の方の子孫です」
「……生足と刺繍には気を付けろよ。いやもう手遅れか……」

 夏希が溜息を吐いた。昔からそうだったのか、と思うと少し笑ってしまう。

「……内容はわかった。ただ、魔法考古学省だけじゃ全国には魔力は届かない。魔法保護課の支部に協力を仰ごう」
「んじゃ、その間、この近辺だけでも魔法狩りは大人しくさせとくよ」
「そ、そんな……危険です!」
「安心しろ。あたし1人じゃねぇよ。それに、もう魔法狩りとは戦ったコトあるしな」

 なんてことないように言う夏希だが、舞子は初耳だったようで目を丸くしている。

「まさか、前に柚子から報告があった、通報はあったけれど魔法狩りだけが倒れていたっていう件、君がかかわっていたのかい?」
「買い物に出たら巻き込まれてな。思わず吹っ飛ばしちまった」
「……怪我がなくてよかったよ」

 言いたいことは山ほどあるが、ひとまずそれ以上は何も言わないことにする。
 舞子は魔法狩りに心底同情した。

「なぁ、それより。柚子って、木の妖精の柚子か?」
「ああ……100年前から務めてくれている妖精だよ。それがどうしたんだい?」
「……いや。アイツ、元気か?」
「最近はよく眠っているようだけど……」
「はい、ほとんど寝てますけど、元気ですよ」
「……そうか」

 夏希は何かを言おうとしたが、緩く首を振った。なんでもない、と呟いている。

「……とにかく! 私は全支部に話を通して映像を流すようにしよう。朱音は戻って、柚子たちに話をしておくれ。夏希は魔法狩りをできるだけ鎮静化してほしい。やるべきことは以上だね?」
「はい」
「あぁ、そうそう。あたしのコトは言わないでくれよ。ま、柚子には言ってもいいか」
「わかりました。上野さん……リスティさんには言っても大丈夫ですか?」
「なんだ、アイツもいんのか……あー、まあいいぜ。なら伝言頼むわ」

 ただ、どっちにしろ、記憶があったのに会いに来てくれなかったのかって言われそうで怖い。
 夏希は遠い目をしていた。









 以上の話を掻い摘んで説明した。夏希のことは伏せ、このあと話すように、記憶を手にしたことにして全員に言う。さりげなく、璃香と柚子には記憶を持ったまま生まれ変わった夏希から話を聞いたと記したメモを渡しておく。

「……確かに、その方法が1番効果があるかも」

 千波がそう述べると、奏介も頷いた。

「怪我人が少なくて済むなら、それがいいと思う」
「けどそう上手くいくか?」
「……大丈夫」

 雷斗は不安なようだった。それに反応したのは、意外にも璃香だ。小さく、けれどはっきりと言う。

「朱音なら、大丈夫」
「上手くやってくれるって信じてるんだと」
「はあ? 理由になってねえだろ」
「雷斗、心配なのはわかるけど落ち着いて。私も、朱音ならやってくれるって信じてるよ」
「柚子まで何楽観的に言ってんだよ!」

 彼の言い分もわかる。いきなり後輩が魔法復活の祖の子孫だと知らされ、魔法狩りを止めるために協力して欲しいと言われているのだから。魔法狩りは今この瞬間も何処かで誰かを襲っているかもしれないのに、「大丈夫」の一言だけで朱音を信じることはできない。失敗すれば、事態はより深刻なものになるだろう。

「雷斗ちゃん。落ち着いて考えてみて。朱音ちゃんが心配なのはわかるけど、そんな言い方しちゃ駄目よ」
「違えよ! こんな、全員が全員見た目だけで伊藤天音の子孫だなんて信じるヤツばっかじゃねえって話だ! いくら顔がそっくりでも無理だろ! 似た顔の人間なんていくらでもいる! 何なら人間の顔の区別ができねえ種族だっているだろ!」
「……そのために、増田さんに魔法衣を作っていただいています。高祖母とまったく同じデザインで」
「だとしても!」
「わかっています! けれど、誰かが何かをしないと、何も変わらない!」
「なっ……」

 朱音が大声を出すとは思っていなかった雷斗は、驚いて口を噤んだ。それでも、不安そうな表情は変わらない。

「その誰かが、私なんです。私がすべきです。高祖母の思いを、願いを、苦労を無駄にしないためにも」

 まっすぐに雷斗を見つめる朱音の目。その瞳には、静かな青い炎が灯っていた。信じてくれ、と訴えかけられている。雷斗は気まずくなって目をそらした。

「……わかったよ」
「あ……ありがとうございます!」
「よし。なら全員、魔法考古学省の指示が来るまで待機ね!」

 柚子の声に、一同はそれぞれ立ち上がった。
 あとは、魔法衣の完成を待つだけだ。
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