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新人魔法師の成長
同日、ただの魔法師
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長い髪を靡かせ、夏希はふわりと建物の中に戻った。直と朱音もそれに続く。
「おや、魔法保護課の方ですか。足元、気を付けてくださいね」
「あ、は、はい……」
直は先程からずっと呆然としている。無理もない。教科書に載っている偉人とまったく同じ顔をした人物が目の前にいるのだから。
「すみません、貴方の部下を守れなくて」
「えっ!? あ、いえ……」
「ああ、自己紹介が遅れましたね。僕は清水零。彼女の夫です」
「清水……零様……?」
「……余計混乱しちまったぞ、多分」
「これは失礼いたしました」
胸に手をあて、優雅に一礼する彼を見て、朱音はやはりと頷いた。夏希の結婚した相手は彼だったのだ。
「さて、どっから手を付ける?」
「発表内容はおおよそ決まっています。あとは……私が話している間、暴動が起きないようにしていただきたいんです」
「なるほどな」
「お任せください」
清水夫妻は窓の外を確認する。また人が増えていた。あちこちから魔法師も集まりだしたようで、魔力の気配を感じる。
「外はあたしたちに任せろ。んで、直。お前は朱音を守りつつ、全国に朱音のスピーチが届くように魔法をかけてくれ。スクリーンが用意されてれば大丈夫なんだよな? 最新の魔法はあたしらそこまで詳しくねぇんだ、頼む」
「あ、はい!」
「んじゃ、よろしく」
そう言うと、夏希は近くの窓から飛び降りた。こちらに向かって飛んできた魔法師を蹴り飛ばしている。零はそんな妻の姿を愛おしそうに眺め、階下へと下りていった。
「あ、朱音ちゃん。あの人たちって……」
「支部長の言う、最強の魔法師夫婦ですよ。それ以上でも、それ以下でもありません」
今、外で戦っているのは、「悲劇の子」ではない。ただの「清水夏希」だ。
朱音の答えに、直は不思議そうな顔をしながらも、それ以上問うことはなかった。
「この部屋が1番安全かしら」
直はまだ窓が割られていない1室に入った。施錠の魔法や防御の魔法をかけ、侵入されないようにしている。
「あとはこれね」
1回目のスピーチの際に使用した、魔法のカメラを取り出す。第5支部から持ってきたものだ。スイッチを押せば、すぐに放送が始まるように設定されている。
「……怖い?」
震えながらその場に座り込む朱音を見て、直が優しく声をかけた。
「……本当は、そうです。私はただの子どもで、魔法師としても半人前で……なのに、こんな急に色々なことがあって。正直、どうしたらいいかわからないくらいです」
「そうね……たくさんのことを、背負わせちゃったわね」
「やると決めたのは自分なんです。でも、いざそのときになったら、どうしても怖くて……」
外からは、再び始まった戦いの音が聞こえてくる。ほんの少し前までは聞くことのなかった音だ。
「……『俺』も怖いよ」
「え、副支部長……?」
「今まで、ずっと平和だったんだから。その時代しか生きてなかった俺たちが、すぐに今の状況を受け入れて戦えるわけがないんだよ」
普段より低い声。いつもと違う一人称。直は朱音の目線に合わせて屈み、語り掛けた。
「皆怖いんだ。だから、一緒」
こちらに差し伸べられた手は、僅かに震えていた。
(副支部長も、怖いんだ……私だけじゃ、ない……)
直の手を取って立ち上がる。朱音は己を鼓舞するように、自身の両頬を叩いた。やるしかない。力強く拳を握りしめる。
「……準備できました。お願いします」
「わかった。その間は、俺を信じて」
「はい」
直が、カメラのスイッチを押した。
「お! 始まったな」
魔法考古学省の前にあったスクリーンに、朱音の顔が映った。夏希は適当に魔法師の攻撃を避けながら耳を傾ける。恐らく、建物内に侵入した敵を倒しながら零も聞いているだろう。
「お集まりの皆様。度々申し訳ありません。もうご存じの方がほとんどだとは思いますが、改めて自己紹介をさせてください。私は伊藤朱音。伊藤天音の子孫です」
朱音の声が聞こえた瞬間、攻撃が止まった。皆、朱音の話に聞き入っている。手の空いた夏希は、ゆったりと飛びつつスクリーンを眺めた。
「今、世間では私を大臣にという声が上がっています。その結果、魔法考古学省や私の所属する支部、さらには大臣までが襲撃されました」
大臣――夏希の母、舞子は今、清水家にいる。魔法で治療したとは言え心配なので、秋人に付き添ってもらっている。母を傷つけた相手を、夏希は絶対に許せなかった。
「私は、自由と平和を……100年前の偉大な魔導師たちが命を懸けて作り上げたこの時代を守って欲しいと……どうか争いをやめて、武器を置いてほしいと願いました」
スクリーンに映る朱音の目には、うっすらと涙が浮かんでいるように見えた。
「ですが、私の声は届かなかった。今この瞬間にも、多くの魔法師が争い、傷ついています」
握りしめた拳が震えている。血が出そうなほどの力だ。
「……数多くの方が、私を大臣にと言う理由はわかります。私が、伊藤天音の子孫だからでしょう。ですが、はっきりと申し上げます。私は朱音であって、天音ではありません」
カメラが顔だけでなく、朱音の全身を映した。伊藤天音とは異なるデザインの魔法衣だ。
「私は、ただの新人の魔法師。先祖の作り上げた平和な時代に生まれ、今まで碌に戦いもせず、先祖の思いすら、願いすら知らずにただ生きていた、平凡な人間です」
この台詞に、集まっていた人々が騒ぎ出した。そんなことはないと、朱音こそ伊藤天音の再来だと口々に言う。
「うっせぇな、話は最後まで聞けよ」
苛立った夏希が、鎮静効果のある魔法を周囲にかける。
(……頑張れ、朱音)
静かになった魔法考古学省の門の前。夏希はまっすぐにスクリーンを見つめた。
「おや、魔法保護課の方ですか。足元、気を付けてくださいね」
「あ、は、はい……」
直は先程からずっと呆然としている。無理もない。教科書に載っている偉人とまったく同じ顔をした人物が目の前にいるのだから。
「すみません、貴方の部下を守れなくて」
「えっ!? あ、いえ……」
「ああ、自己紹介が遅れましたね。僕は清水零。彼女の夫です」
「清水……零様……?」
「……余計混乱しちまったぞ、多分」
「これは失礼いたしました」
胸に手をあて、優雅に一礼する彼を見て、朱音はやはりと頷いた。夏希の結婚した相手は彼だったのだ。
「さて、どっから手を付ける?」
「発表内容はおおよそ決まっています。あとは……私が話している間、暴動が起きないようにしていただきたいんです」
「なるほどな」
「お任せください」
清水夫妻は窓の外を確認する。また人が増えていた。あちこちから魔法師も集まりだしたようで、魔力の気配を感じる。
「外はあたしたちに任せろ。んで、直。お前は朱音を守りつつ、全国に朱音のスピーチが届くように魔法をかけてくれ。スクリーンが用意されてれば大丈夫なんだよな? 最新の魔法はあたしらそこまで詳しくねぇんだ、頼む」
「あ、はい!」
「んじゃ、よろしく」
そう言うと、夏希は近くの窓から飛び降りた。こちらに向かって飛んできた魔法師を蹴り飛ばしている。零はそんな妻の姿を愛おしそうに眺め、階下へと下りていった。
「あ、朱音ちゃん。あの人たちって……」
「支部長の言う、最強の魔法師夫婦ですよ。それ以上でも、それ以下でもありません」
今、外で戦っているのは、「悲劇の子」ではない。ただの「清水夏希」だ。
朱音の答えに、直は不思議そうな顔をしながらも、それ以上問うことはなかった。
「この部屋が1番安全かしら」
直はまだ窓が割られていない1室に入った。施錠の魔法や防御の魔法をかけ、侵入されないようにしている。
「あとはこれね」
1回目のスピーチの際に使用した、魔法のカメラを取り出す。第5支部から持ってきたものだ。スイッチを押せば、すぐに放送が始まるように設定されている。
「……怖い?」
震えながらその場に座り込む朱音を見て、直が優しく声をかけた。
「……本当は、そうです。私はただの子どもで、魔法師としても半人前で……なのに、こんな急に色々なことがあって。正直、どうしたらいいかわからないくらいです」
「そうね……たくさんのことを、背負わせちゃったわね」
「やると決めたのは自分なんです。でも、いざそのときになったら、どうしても怖くて……」
外からは、再び始まった戦いの音が聞こえてくる。ほんの少し前までは聞くことのなかった音だ。
「……『俺』も怖いよ」
「え、副支部長……?」
「今まで、ずっと平和だったんだから。その時代しか生きてなかった俺たちが、すぐに今の状況を受け入れて戦えるわけがないんだよ」
普段より低い声。いつもと違う一人称。直は朱音の目線に合わせて屈み、語り掛けた。
「皆怖いんだ。だから、一緒」
こちらに差し伸べられた手は、僅かに震えていた。
(副支部長も、怖いんだ……私だけじゃ、ない……)
直の手を取って立ち上がる。朱音は己を鼓舞するように、自身の両頬を叩いた。やるしかない。力強く拳を握りしめる。
「……準備できました。お願いします」
「わかった。その間は、俺を信じて」
「はい」
直が、カメラのスイッチを押した。
「お! 始まったな」
魔法考古学省の前にあったスクリーンに、朱音の顔が映った。夏希は適当に魔法師の攻撃を避けながら耳を傾ける。恐らく、建物内に侵入した敵を倒しながら零も聞いているだろう。
「お集まりの皆様。度々申し訳ありません。もうご存じの方がほとんどだとは思いますが、改めて自己紹介をさせてください。私は伊藤朱音。伊藤天音の子孫です」
朱音の声が聞こえた瞬間、攻撃が止まった。皆、朱音の話に聞き入っている。手の空いた夏希は、ゆったりと飛びつつスクリーンを眺めた。
「今、世間では私を大臣にという声が上がっています。その結果、魔法考古学省や私の所属する支部、さらには大臣までが襲撃されました」
大臣――夏希の母、舞子は今、清水家にいる。魔法で治療したとは言え心配なので、秋人に付き添ってもらっている。母を傷つけた相手を、夏希は絶対に許せなかった。
「私は、自由と平和を……100年前の偉大な魔導師たちが命を懸けて作り上げたこの時代を守って欲しいと……どうか争いをやめて、武器を置いてほしいと願いました」
スクリーンに映る朱音の目には、うっすらと涙が浮かんでいるように見えた。
「ですが、私の声は届かなかった。今この瞬間にも、多くの魔法師が争い、傷ついています」
握りしめた拳が震えている。血が出そうなほどの力だ。
「……数多くの方が、私を大臣にと言う理由はわかります。私が、伊藤天音の子孫だからでしょう。ですが、はっきりと申し上げます。私は朱音であって、天音ではありません」
カメラが顔だけでなく、朱音の全身を映した。伊藤天音とは異なるデザインの魔法衣だ。
「私は、ただの新人の魔法師。先祖の作り上げた平和な時代に生まれ、今まで碌に戦いもせず、先祖の思いすら、願いすら知らずにただ生きていた、平凡な人間です」
この台詞に、集まっていた人々が騒ぎ出した。そんなことはないと、朱音こそ伊藤天音の再来だと口々に言う。
「うっせぇな、話は最後まで聞けよ」
苛立った夏希が、鎮静効果のある魔法を周囲にかける。
(……頑張れ、朱音)
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