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新人魔導師、配属される
同日、10時17分
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ホワイトボードに、やや癖のある右上がりの文字が書かれていく。
夏希が天音の名前を書いていた。
「ある程度案内し終わったら戻ってくるからご飯お願いしていい?」
「あ、は、はい、任せてください……歓迎会用のメニューに変えておきます」
「まあでも大半は部屋に籠っちゃってるだろうけどね!」
「あ、そっか……別の日にします?」
「その方がいいかもー」
歓迎会。喜ぶべきなのだろうけれど、天音はそう言ったものが苦手だった。まずその喜ばなくてはいけないような雰囲気自体が嫌いだったし、まださほど親しくない人と食事をしなければならないのも苦痛だ。
できればすぐにここよりもよい研究所に転属したいと考えている今なら、なおさら。
「じゃ、じゃあ、予定どおりのメニューにしておきますね……」
案内終わったころに転属願出されてても悲しいし……。
泣きそうな声で言われて思わず「転属しません!」と言いそうになった。和馬を見ていると実家で飼っていたチワワを思い出すのだ。
「よーし、じゃあ次は書斎ね」
食堂を出ていく夏希を追う。
背後で、和馬が小さく手を振っていたのが見えた。
「初めて後輩できそうだからかなぁ、和馬もテンション上がってんね」
「あれでですか……?」
「あれでかなり。何しろ、今まで食堂の案内まで済んだ子はキミで初めてだし」
養成学校は3か月間、卒業試験の上位3人ほどが国立魔導研究所所属として配属される。学校自体は東西南北にそれぞれ必ず1校以上あり、すなわち最低でも3か月に1度、12人は5つの研究所のどこかに配属されるはずだと言うのに、この研究所の少なさは異常である。
「案内はいつも、副所長が?」
「ううん。普通の会社とかと違って人事とかいないから、その時手の空いてる子かな。所長の時もあるよ。まあでも、あたしのことが多いけど」
突然研究所のトップが現れたその新人はさぞ驚いたことだろう。
ナンバー2の人間が、空から降ってきた天音もかなり驚いたが。
「所長も、今は研究室にいらっしゃるんですか?」
「今アイツここにいないよ。学会に呼ばれて発表中」
上司であるにもかかわらず、夏希は所長を「アイツ」と表現した。かなり親しい仲なのかもしれない。
「所長はどんな方なんですか?」
洋館や薔薇は所長の趣味だと言っていたが、どのような人物なのだろうか。
天音の中だと、所長というのは落ち着いていて、魔導に精通した一流の研究者であり、多くの魔導師をまとめるカリスマ性のある人物、というイメージである。
しかし、最短1分で転属希望を出されてしまうような研究所ともなると、想像ができなかった。
「変人」
「は……え?」
「所長とかより悪の組織の黒幕の方が似合う。デスゲームとか主催して楽しんでそう。顔は穏やかそうに見えるけど何考えてるかわかんないカンジ。自称紳士のド変人」
さんざんな言いようである。
天音の脳内の所長像が一瞬で砕け散った。やっぱり転属しようかな。
そんな天音の顔を見て、夏希は慌ててフォローを入れ始める。
「趣味はアレだけどさ! 実力は確かだよ、魔導復元師だし! 魔導研究界希望の星って言われてるし! 彼がいる今なら魔法も復活させられるんじゃないかって評判だし! ちょっと趣味はアレだけど!」
2回も言った……。
何を言われても信じられない。明らかにこどもの見た目の上司とド変人上司がいるのだ。もうどうしたらいいのかすらわからない。
「この間の『現代魔導』にも論文載ったし! 後で見せたげるね!」
『現代魔導』は世界中の魔導師が書いた論文が載る雑誌だ。そこに掲載されるということは、世界にその実力を認められているということ。実力は確か、という言葉だけは、この研究所は信じられる。
「そーだ、空気を変えよう。質問ターイム! 何でも聞いていいよ! スリーサイズと体重でも!」
「流石にそれは聞きませんよ!?」
何でも聞いていいからといって、そんなことを聞く者がいるのだろうか。いや、こんな研究所だ、過去にいてもおかしくはない。
「そ、その……」
「うん」
「副所長って、おいくつなんですか……?」
妙齢の(そうなのかもすらわからないが)女性に年齢を聞くのはタブーである。しかし、門前で会った瞬間からずっと気になっていたことを、天音はついに聞いてしまった。
「いくつに見えるー?」
この世で最も答えに困る質問が来た。
素直に答えるか。いや少し上にしておくのも手だ。同い年くらい?
よし、それで行こう!
「わ、私と同い年くらいですかね……?」
正直、19歳で副所長などありえないのだが、人手不足のこの研究所ならばありえるかもしれない。どうみても13、4歳の少女相手に、天音はそう言った。
「わーお、そんな風に見えるんだ、ウケるー」
ミスったか!?
彼女の反応からは怒りは感じられないが、正解とも思えない。
「せ、正解は……?」
「正解はー、今年で24歳でしたー!」
「は!?」
証明するように魔導復元師免許を見せられる。
そこに書かれた西暦から計算すると、確かに今年24歳になることがわかった。
それにしても若い副所長ではある。
「でもまあ、ここじゃ年齢とかあんま関係ないし。敬語とか気にしなくていーからね。ってか、あたしに敬語使ってくる子の方が少ないし」
それはそれでどうなのだろうか。
少なくとも、第一印象に「真面目」が挙げられる天音には難しい話だった。
「善処します……」
「返答に国民性が出てるねぇ」
タメ口は慣れてきたとしても無理だろう。
気まずさを誤魔化すように、とりあえず笑みを浮かべるのだった。
夏希が天音の名前を書いていた。
「ある程度案内し終わったら戻ってくるからご飯お願いしていい?」
「あ、は、はい、任せてください……歓迎会用のメニューに変えておきます」
「まあでも大半は部屋に籠っちゃってるだろうけどね!」
「あ、そっか……別の日にします?」
「その方がいいかもー」
歓迎会。喜ぶべきなのだろうけれど、天音はそう言ったものが苦手だった。まずその喜ばなくてはいけないような雰囲気自体が嫌いだったし、まださほど親しくない人と食事をしなければならないのも苦痛だ。
できればすぐにここよりもよい研究所に転属したいと考えている今なら、なおさら。
「じゃ、じゃあ、予定どおりのメニューにしておきますね……」
案内終わったころに転属願出されてても悲しいし……。
泣きそうな声で言われて思わず「転属しません!」と言いそうになった。和馬を見ていると実家で飼っていたチワワを思い出すのだ。
「よーし、じゃあ次は書斎ね」
食堂を出ていく夏希を追う。
背後で、和馬が小さく手を振っていたのが見えた。
「初めて後輩できそうだからかなぁ、和馬もテンション上がってんね」
「あれでですか……?」
「あれでかなり。何しろ、今まで食堂の案内まで済んだ子はキミで初めてだし」
養成学校は3か月間、卒業試験の上位3人ほどが国立魔導研究所所属として配属される。学校自体は東西南北にそれぞれ必ず1校以上あり、すなわち最低でも3か月に1度、12人は5つの研究所のどこかに配属されるはずだと言うのに、この研究所の少なさは異常である。
「案内はいつも、副所長が?」
「ううん。普通の会社とかと違って人事とかいないから、その時手の空いてる子かな。所長の時もあるよ。まあでも、あたしのことが多いけど」
突然研究所のトップが現れたその新人はさぞ驚いたことだろう。
ナンバー2の人間が、空から降ってきた天音もかなり驚いたが。
「所長も、今は研究室にいらっしゃるんですか?」
「今アイツここにいないよ。学会に呼ばれて発表中」
上司であるにもかかわらず、夏希は所長を「アイツ」と表現した。かなり親しい仲なのかもしれない。
「所長はどんな方なんですか?」
洋館や薔薇は所長の趣味だと言っていたが、どのような人物なのだろうか。
天音の中だと、所長というのは落ち着いていて、魔導に精通した一流の研究者であり、多くの魔導師をまとめるカリスマ性のある人物、というイメージである。
しかし、最短1分で転属希望を出されてしまうような研究所ともなると、想像ができなかった。
「変人」
「は……え?」
「所長とかより悪の組織の黒幕の方が似合う。デスゲームとか主催して楽しんでそう。顔は穏やかそうに見えるけど何考えてるかわかんないカンジ。自称紳士のド変人」
さんざんな言いようである。
天音の脳内の所長像が一瞬で砕け散った。やっぱり転属しようかな。
そんな天音の顔を見て、夏希は慌ててフォローを入れ始める。
「趣味はアレだけどさ! 実力は確かだよ、魔導復元師だし! 魔導研究界希望の星って言われてるし! 彼がいる今なら魔法も復活させられるんじゃないかって評判だし! ちょっと趣味はアレだけど!」
2回も言った……。
何を言われても信じられない。明らかにこどもの見た目の上司とド変人上司がいるのだ。もうどうしたらいいのかすらわからない。
「この間の『現代魔導』にも論文載ったし! 後で見せたげるね!」
『現代魔導』は世界中の魔導師が書いた論文が載る雑誌だ。そこに掲載されるということは、世界にその実力を認められているということ。実力は確か、という言葉だけは、この研究所は信じられる。
「そーだ、空気を変えよう。質問ターイム! 何でも聞いていいよ! スリーサイズと体重でも!」
「流石にそれは聞きませんよ!?」
何でも聞いていいからといって、そんなことを聞く者がいるのだろうか。いや、こんな研究所だ、過去にいてもおかしくはない。
「そ、その……」
「うん」
「副所長って、おいくつなんですか……?」
妙齢の(そうなのかもすらわからないが)女性に年齢を聞くのはタブーである。しかし、門前で会った瞬間からずっと気になっていたことを、天音はついに聞いてしまった。
「いくつに見えるー?」
この世で最も答えに困る質問が来た。
素直に答えるか。いや少し上にしておくのも手だ。同い年くらい?
よし、それで行こう!
「わ、私と同い年くらいですかね……?」
正直、19歳で副所長などありえないのだが、人手不足のこの研究所ならばありえるかもしれない。どうみても13、4歳の少女相手に、天音はそう言った。
「わーお、そんな風に見えるんだ、ウケるー」
ミスったか!?
彼女の反応からは怒りは感じられないが、正解とも思えない。
「せ、正解は……?」
「正解はー、今年で24歳でしたー!」
「は!?」
証明するように魔導復元師免許を見せられる。
そこに書かれた西暦から計算すると、確かに今年24歳になることがわかった。
それにしても若い副所長ではある。
「でもまあ、ここじゃ年齢とかあんま関係ないし。敬語とか気にしなくていーからね。ってか、あたしに敬語使ってくる子の方が少ないし」
それはそれでどうなのだろうか。
少なくとも、第一印象に「真面目」が挙げられる天音には難しい話だった。
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