【完結】国立第5魔導研究所の研究日誌

九条美香

文字の大きさ
14 / 140
新人魔導師、配属される

同日、9時15分

しおりを挟む
「すみません、これでも一応、片付けはしたんですが……それがすぐ散らかすもので」

 透は機材やら資料やらで散らかった部屋を見て、再び溜息をついた。
 「それ」とは勿論、葵のことである。

 どうにかスペースを作って、彼は天音に椅子を出してくれた。少し埃っぽいが、壊れてはいないようだ。

「今日の研修は僕と班長で行います。午前中に簡単な座学、午後は実際に僕たちが作ったものや研究について話したいと思っています」
「ま、そんなに難しい内容じゃないんで安心して欲しいッス!」

 透が紙に文字を書きつけている。
 淡い黄色の魔力が紙に流され、瞬く間にホワイトボードが現れた。幻像魔導だろう。薄れたり掠れたりする部分もなく、実物と変わらないように見える。透のレベルの高さが伝わってくる完成度だ。

「よっ、流石ギリギリ解読師!」
「アンタが上司じゃなければぶっ飛ばしてましたね」
「いやぁ、適性値79はツラいッスよねぇ~、わかるぅ~」
「何がわかるんだこのギリギリ研究員」

 目の前でコントのように行われる会話についていけない。
 天音はいつ座学が始まるのだろうかと、そっと気配を殺して待っていた。

「ああすみません、今始めますね。まったく、班長がいると話が進まない……」

 はあ、とまた深い溜息。この数分間で、彼がかなりの苦労人であることがわかってしまった。

「んじゃ、始めるッスよ! まずは確認ってことで、技術班について知ってることを言ってみて欲しいッス」

 知識ならば、全て頭に入っている。
 教本を丸暗記するくらい、天音の記憶力なら容易いことだ。

「正式には国立魔導考古学研究所技術研究員、他の研究員と区別するべく灰色の耐魔力素材の作業着が支給されます。魔導補助具や魔導衣など、研究所内で必要とされる魔導器具の作成が主な仕事です」

 すらすらと答えた天音に、葵たちは一瞬驚いたような表情を浮かべた。

(あれ……?)

 その表情を見て、天音は不安になった。
 なぜなら、葵たちの表情は、答えの正確さに驚くというよりも、「ドン引き」と言った方がよいものだったからだ。

 しかし、それも僅か一瞬。
 すぐに透が拍手をして褒めてくれる。

「はい、そのとおりです。加えて、教本に載ってないようなことで言うと、前職で何かの職人だったり、エンジニアだったり、そういった人が多かったりします。うちは違いますけど」
「第1とかのオッサンどもと違って、自分たち若いんで! 研究員が初めての仕事ッス」
「すみません、班長の言うことは8割無視してください」

 2割は真面なことを言うのか。
 メモをとりながら、基本的には透の言うことに集中することに決めた。

「ここからは第5研究所に焦点を当てて話しますね」

 ホワイトボードに、透の文字が書かれていく。
 真面目に板書する彼の横で、葵が猫かウサギかよくわからない生き物の落書きをしていた。気づかれると同時に叩かれていた。

「僕たちは、ここでは魔導衣を中心に作っています。というのも、皆さん適性値が高い方が多いので、サポートのための補助具が必要ないんです。かつて、ファンタジーと呼ばれるジャンルでよく魔法使いが持っているあの杖。あれは魔導生成値や構築値が低いがゆえに必要とされているものであって、現代魔導においてはさほど必要ありません。中には、遠距離での発動を可能にするために似たようなものを使っている方もいらっしゃいますけどね」
「箒とかもいらないッスからね。飛びたいならその魔導文字書けばいいだけッス。あ、ちなみに、私有地以外での飛行は魔導航空免許が必要なんで、取るまでやっちゃダメッスよ」

 天音の夢がどんどん壊されていく。
 正直、天音にとって最も魔法への夢を壊していったのが歴代の国立魔導考古学研究所技術研究員たちなので、話を聞けば聞くほど悲しくなってくる。

「逆に、魔導抑制装置を作ったりもします」
「魔導抑制装置とはなんですか?」

 聞き慣れない単語に首を傾げた。律儀に手を挙げる天音に、透は少し笑いながら答えてくれた。

「魔導適性を測るとき、最大値は100までしか表示されません。ですが、実際は100を超える力を持っている人もいます。極稀に、ですけどね。他の数値に比べて、一部分だけ異常に高い。そのせいで苦労している人もいます」
「うちにいるんスよ、魔導探知がヤベーヤツ」
「その方は魔力が音で聞こえるタイプでして……ようするに、研究所のような場所では常にとてつもない爆音やノイズが流れている状態なんです。それを緩和するために、特殊なヘッドフォンを作ったりしましたね」
「あれ大変だったけど楽しかったッスね。アイツも喜んでたんでよかったッス」

 その後、自身の発明品について触れてテンションが上がってしまったのか、2人に詳しく構造や製造過程を語られたが、専門的過ぎてついていくことができなかった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

没落港の整備士男爵 ~「構造解析」スキルで古代設備を修理(レストア)したら、大陸一の物流拠点になり、王家も公爵家も頭が上がらなくなった件~

namisan
ファンタジー
大陸の南西端に位置するベルナ子爵領。 かつては貿易で栄えたこの港町も、今は見る影もない。 海底には土砂が堆積して大型船は入港できず、倉庫街は老朽化し、特産品もない。借金まみれの父と、諦めきった家臣たち。そこにあるのは、緩やかな「死」だけだった。 そんな没落寸前の領地の嫡男、アレン(16歳)に転生した主人公には、前世の記憶があった。 それは、日本で港湾管理者兼エンジニアとして働き、現場で散った「整備士」としての知識。 そして、彼にはもう一つ、この世界で目覚めた特異な能力があった。 対象の構造や欠陥、魔力の流れが設計図のように視えるスキル――【構造解析】。 「壊れているなら、直せばいい。詰まっているなら、通せばいい」 アレンは錆びついた古代の「浚渫(しゅんせつ)ゴーレム」を修理して港を深く掘り直し、魔導冷却庫を「熱交換の最適化」で復活させて、腐るだけだった魚を「最高級の輸出品」へと変えていく。 ドケチな家令ガルシアと予算を巡って戦い、荒くれ者の港湾長ゲンと共に泥にまみれ、没落商会の女主人メリッサと手を組んで販路を開拓する。 やがてその港には、陸・海・空の物流革命が巻き起こる。 揺れない「サスペンション馬車」が貴族の移動を変え、「鮮度抜群の魚介グルメ」が王族の胃袋を掴み、気性の荒いワイバーンを手懐けた「空輸便」が世界を結ぶ。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

処理中です...