17 / 140
新人魔導師、配属される
同日、15時59分
しおりを挟む
透が仕切り直すように手を叩いた。
次は彼の番だ。そのことを察したのか、葵は後ろに下がった。天音の後ろ、扉の近くの壁に寄りかかって腕を組む、いわゆる後方彼氏面である。
「今度は僕についてですけど……正直、班長ほどお話しできることはないんですよ。同じような流れで、まずは経歴からいこうかなと思います」
透はホワイトボードに向き直り、ペンを走らせた。
「僕はここができた1年後、今から3年前に配属されました。とはいっても、ここが初めてではなく、中学卒業後すぐに研究員になり、初めは旧都の第2研究所で通常の研究員として働いていました」
研究所はまず首都に作られ、その次にかつて陰陽寮のあった旧都、そして独自の文化を残していた北部、南部に作られていった。研究員の誰もが望むのが第1研究所への配属である。首都にあるそこは、いわばエリートたちの集まりであり、「第2研究所の所長より第1研究所の研究員がよい」と言われるほどだ。
「初めは技術班への配属ではなかったんですか?」
「まあ、希望は技術班だったんですけどね。僕、魔導耐久が強くって。そのせいで、罠がある遺跡の調査とか、技術班が作ったものの実験台とか、そんな仕事ばかりさせられていました」
遺跡の中には、魔法技術を盗まれないためか、罠が仕掛けられていることがある。そのため、魔導探知の高い者がそれを探し、魔導耐久が高いものが突破して発掘することが多い。魔導耐久が高ければ、受けるダメージを減らすことができるからだ。
「新人が必ず希望どおりに配属されるわけないし、仕方ない。そう思って働いていました。けれど、やっぱり疲れてしまって。あの人たち、僕のことを陰で『壁』って呼んでたんですよ。それ聞いた瞬間、ああもうここ辞めようって思いました」
本人の意思など関係なく、ただその魔導耐久値の高さを求められているだけ。都合のいいバリア代わり。それがわかったその日に転属願を出していたのだと言う。
「で、次に配属されたのがここです。驚きましたよ、『ぜーんぜん人いないから好きなトコ選んでだいじょーぶ! 何したい?』って言われましたからね」
「カラシお前、今どっから夏希の声出したんスか?」
爽やかなイケメンの顔と可愛らしい少女のような声が合っていない。
やけに上手い物真似に、葵が驚きの声を上げた。
それを流して、透は話を続ける。
「まあ副所長にそう言われたので、裁縫がしたいと伝えたら技術班の配属がすぐに決定しました。基本こっちの好きにさせてくれるし、皆服装にこだわりないみたいなので、僕の独断と偏見でその人に似合う魔導衣を作ってます」
「山口さんの魔導衣は確かに特徴的でした」
「夏希のヤツはもっとヤベーッスよ。今は修理中なんで予備の普通のヤツ着てるッスけど」
「ちゃんと似合うもの作りましたよ」
「あれカラシの趣味ッスよね?」
「そうですが何か?」
開き直る透。一体、どんな魔導衣を作ったのだろうか。非常に気になるところである。
「正式配属が決定したら、第5研究所の印が入った魔導衣を貴女にも作るので楽しみにしててくださいね。希望があったら言ってください。なければ僕が似合うものを作ります」
「ちゃんと言った方がいいッスよ。似合うからって理由でゴスロリ風にされたヤツらもいるんで」
「作ってしまえばこっちのものです。希望を出さない方が悪い」
堂々と言い放つ透に、少し引いた。もし転属できず、着なくてはいけなくなったとしたらしっかり希望を言わないととんでもないことになる気がする。
(この人、真面だと思ってたのに……)
ここに配属される時点で真面ではない、ということか。なんだか悲しくなってきた。自分もそう思われて配属されていたとしたら全力で抗議したい。
「えー、大まかにまとめますと、僕は服飾関係の研究をしています。気分で色が変えられる洋服とかですね。裁縫自体にも古代は魔法を使っていたようなので、それについても調べています。こんな感じかな?」
まとめだけ聞けばごく普通の研究内容である。そこを切り取ってメモをとった。
「じゃあ、これで説明は終わりです。何か質問はありますか?」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございました」
「なら残りの時間は夏希に出すレポート書く時間にしていいッスよ。終業の18時までにアイツのトコに出してきてください。んな長くなくていいんで感想文的にやっときゃへーきッスよ。夏希がいなかったら預かるんで、自分たちのどっちかに声かけて欲しいッス」
「はい、これが預かっていたレポート用紙です。これの半分以上うまっていれば大丈夫ですよ。電気魔導と相性が悪いので、ここパソコン置いてなくて……大変かもしれないですけど、手書きでお願いします」
渡された紙は罫線の入ったB5サイズほどのものだ。これなら手書きでもすぐに終わるだろう。
「はい。ありがとうございます」
「お疲れッスー」
「お疲れさまでした。明日は医療班へ行くそうですよ、お楽しみに」
「お疲れ様でした。お先に失礼します」
綺麗に一礼した天音が扉の向こうへと消えた瞬間。
にこやかだった2人の表情が険しいものになる。
「こりゃすぐに夏希に報告ッスね」
「想像以上に重症ですね……」
夏希が戻ってきたら、すぐに報告に行かなくては。
頷きあうと、彼女が戻るまで自身の研究を再開するのだった。
次は彼の番だ。そのことを察したのか、葵は後ろに下がった。天音の後ろ、扉の近くの壁に寄りかかって腕を組む、いわゆる後方彼氏面である。
「今度は僕についてですけど……正直、班長ほどお話しできることはないんですよ。同じような流れで、まずは経歴からいこうかなと思います」
透はホワイトボードに向き直り、ペンを走らせた。
「僕はここができた1年後、今から3年前に配属されました。とはいっても、ここが初めてではなく、中学卒業後すぐに研究員になり、初めは旧都の第2研究所で通常の研究員として働いていました」
研究所はまず首都に作られ、その次にかつて陰陽寮のあった旧都、そして独自の文化を残していた北部、南部に作られていった。研究員の誰もが望むのが第1研究所への配属である。首都にあるそこは、いわばエリートたちの集まりであり、「第2研究所の所長より第1研究所の研究員がよい」と言われるほどだ。
「初めは技術班への配属ではなかったんですか?」
「まあ、希望は技術班だったんですけどね。僕、魔導耐久が強くって。そのせいで、罠がある遺跡の調査とか、技術班が作ったものの実験台とか、そんな仕事ばかりさせられていました」
遺跡の中には、魔法技術を盗まれないためか、罠が仕掛けられていることがある。そのため、魔導探知の高い者がそれを探し、魔導耐久が高いものが突破して発掘することが多い。魔導耐久が高ければ、受けるダメージを減らすことができるからだ。
「新人が必ず希望どおりに配属されるわけないし、仕方ない。そう思って働いていました。けれど、やっぱり疲れてしまって。あの人たち、僕のことを陰で『壁』って呼んでたんですよ。それ聞いた瞬間、ああもうここ辞めようって思いました」
本人の意思など関係なく、ただその魔導耐久値の高さを求められているだけ。都合のいいバリア代わり。それがわかったその日に転属願を出していたのだと言う。
「で、次に配属されたのがここです。驚きましたよ、『ぜーんぜん人いないから好きなトコ選んでだいじょーぶ! 何したい?』って言われましたからね」
「カラシお前、今どっから夏希の声出したんスか?」
爽やかなイケメンの顔と可愛らしい少女のような声が合っていない。
やけに上手い物真似に、葵が驚きの声を上げた。
それを流して、透は話を続ける。
「まあ副所長にそう言われたので、裁縫がしたいと伝えたら技術班の配属がすぐに決定しました。基本こっちの好きにさせてくれるし、皆服装にこだわりないみたいなので、僕の独断と偏見でその人に似合う魔導衣を作ってます」
「山口さんの魔導衣は確かに特徴的でした」
「夏希のヤツはもっとヤベーッスよ。今は修理中なんで予備の普通のヤツ着てるッスけど」
「ちゃんと似合うもの作りましたよ」
「あれカラシの趣味ッスよね?」
「そうですが何か?」
開き直る透。一体、どんな魔導衣を作ったのだろうか。非常に気になるところである。
「正式配属が決定したら、第5研究所の印が入った魔導衣を貴女にも作るので楽しみにしててくださいね。希望があったら言ってください。なければ僕が似合うものを作ります」
「ちゃんと言った方がいいッスよ。似合うからって理由でゴスロリ風にされたヤツらもいるんで」
「作ってしまえばこっちのものです。希望を出さない方が悪い」
堂々と言い放つ透に、少し引いた。もし転属できず、着なくてはいけなくなったとしたらしっかり希望を言わないととんでもないことになる気がする。
(この人、真面だと思ってたのに……)
ここに配属される時点で真面ではない、ということか。なんだか悲しくなってきた。自分もそう思われて配属されていたとしたら全力で抗議したい。
「えー、大まかにまとめますと、僕は服飾関係の研究をしています。気分で色が変えられる洋服とかですね。裁縫自体にも古代は魔法を使っていたようなので、それについても調べています。こんな感じかな?」
まとめだけ聞けばごく普通の研究内容である。そこを切り取ってメモをとった。
「じゃあ、これで説明は終わりです。何か質問はありますか?」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございました」
「なら残りの時間は夏希に出すレポート書く時間にしていいッスよ。終業の18時までにアイツのトコに出してきてください。んな長くなくていいんで感想文的にやっときゃへーきッスよ。夏希がいなかったら預かるんで、自分たちのどっちかに声かけて欲しいッス」
「はい、これが預かっていたレポート用紙です。これの半分以上うまっていれば大丈夫ですよ。電気魔導と相性が悪いので、ここパソコン置いてなくて……大変かもしれないですけど、手書きでお願いします」
渡された紙は罫線の入ったB5サイズほどのものだ。これなら手書きでもすぐに終わるだろう。
「はい。ありがとうございます」
「お疲れッスー」
「お疲れさまでした。明日は医療班へ行くそうですよ、お楽しみに」
「お疲れ様でした。お先に失礼します」
綺麗に一礼した天音が扉の向こうへと消えた瞬間。
にこやかだった2人の表情が険しいものになる。
「こりゃすぐに夏希に報告ッスね」
「想像以上に重症ですね……」
夏希が戻ってきたら、すぐに報告に行かなくては。
頷きあうと、彼女が戻るまで自身の研究を再開するのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
没落港の整備士男爵 ~「構造解析」スキルで古代設備を修理(レストア)したら、大陸一の物流拠点になり、王家も公爵家も頭が上がらなくなった件~
namisan
ファンタジー
大陸の南西端に位置するベルナ子爵領。
かつては貿易で栄えたこの港町も、今は見る影もない。
海底には土砂が堆積して大型船は入港できず、倉庫街は老朽化し、特産品もない。借金まみれの父と、諦めきった家臣たち。そこにあるのは、緩やかな「死」だけだった。
そんな没落寸前の領地の嫡男、アレン(16歳)に転生した主人公には、前世の記憶があった。
それは、日本で港湾管理者兼エンジニアとして働き、現場で散った「整備士」としての知識。
そして、彼にはもう一つ、この世界で目覚めた特異な能力があった。
対象の構造や欠陥、魔力の流れが設計図のように視えるスキル――【構造解析】。
「壊れているなら、直せばいい。詰まっているなら、通せばいい」
アレンは錆びついた古代の「浚渫(しゅんせつ)ゴーレム」を修理して港を深く掘り直し、魔導冷却庫を「熱交換の最適化」で復活させて、腐るだけだった魚を「最高級の輸出品」へと変えていく。
ドケチな家令ガルシアと予算を巡って戦い、荒くれ者の港湾長ゲンと共に泥にまみれ、没落商会の女主人メリッサと手を組んで販路を開拓する。
やがてその港には、陸・海・空の物流革命が巻き起こる。
揺れない「サスペンション馬車」が貴族の移動を変え、「鮮度抜群の魚介グルメ」が王族の胃袋を掴み、気性の荒いワイバーンを手懐けた「空輸便」が世界を結ぶ。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる