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新人魔導師、配属される
同日、20時15分
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どこかに仕事で行っていたのか、夏希を見つけたのは夜になってからだった。
「どーこ行ってたんスか?」
「首都第3校」
葵の問いに、夏希は手元のレポートから目をそらさず答えた。どうやら、天音は18時までに直接渡すことに成功したらしい。
「養成学校ですか?」
「そ。あの子が卒業したトコ」
養成学校は研究所とは異なり、全国各地に作られている。入学者には伝えられないが、養成学校にもランクがあり、研究所側は、養成学校とそこの卒業順位を参考に新人を採用するのだ。
首都第3校は、中でもレベルの高い養成学校だった。その2位となれば、第1研究所からも声がかかるレベルだが、伊藤天音はなぜかこの第5研究所に配属された。
「この間言ってたコト以外にもなんか問題あったんスか?」
「ああ……見りゃわかる」
返事が途端に雑になった。
新人が見れば泣くかもしれない不機嫌そうな表情と声である。
「あっちゃー……」
「これを見に行っていたんですね」
そこにあったのは、天音の養成学校での3か月間全ての成績だった。
全ての試験で優秀な成績を残している―ペーパーテストにおいては。
「なんつーか、今日の研修もこんなカンジッスね。教本丸暗記のガリ勉タイプッス」
「教本に載っていないことになると途端にわからなくなるようですね。さらに言うと、現代魔導に関心がない……いえ、嫌ってすらいる様子でした」
「だろうな」
天音のレポートに評価を書き込みながら、夏希は当然のように言った。
やはり「勉強」となると成績はよいようで、レポート用紙にはなかなかの高得点が書かれている。
「成績表見る限り、お勉強は得意な優等生ちゃんだが実技となると平均以下。やる気のなさが現れてる。2位卒業も、ペーパーテストのおかげだな」
「酷評ッスね。じゃあなんでうちに来させたんスか?」
少数精鋭。それが第5研究所のモットーだ。
だというのに、見た目だけは真面目なやる気のない新人を配属させるなんて、夏希らしくない。
「初めは第1のクソ野郎どもが欲しがってたんだよ」
「構わないのでは? 成績だけなら優秀じゃないですか」
「やる気がねぇ、魔導も好きじゃねぇ。そんなヤツをあんな権力振りかざすしか能のないクソジジイどもの巣窟に送ってみろ、一瞬でグレて反魔導主義団体行きだ」
「配属っていうか、保護なんですね……」
「ま、そんなトコだな」
めんどくせぇ。
表情にそう書かれている気がする。
「あ」
「なんだよ」
何かを思い出したように声を上げた透を、夏希が睨むようにして見た。否、正確には睨んではいないのだが、実は目つきが悪いのでそう見えてしまうのである。
「いえ、そういえば思い出したというか、思ったというか……彼女、『魔法』は好きなんじゃないでしょうか」
「え、なんでそう思ったんスか?」
「ああ、班長は遅刻したから知らないんでしょうけど」
発言に多量の毒を潜ませながら、透は数時間前のことを思い出す。
「テレパシーみたいな術もあるって言ったら、食いつきが凄くて。逆に、僕たちの研究テーマや魔導航空免許の話になると、本人は気づいていないんでしょうけど、メモのスピードが落ちるんですよね」
「あー、魔法が好きだから魔導が嫌なタイプ?」
現代魔導が一般化して、まださほど経っていない。
天音が幼いころは魔法がファンタジーの世界のものだった。その世界に憧れていれば、現代魔導の科学的要素や、法律で雁字搦めの現状を嫌っていても仕方がないだろう。
「まさにそのとおりだよ。養成学校の担任もそう言ってた」
「なーるほど。それ聞きに行ってたってのもあるんスね」
ポン、と手を打つ葵。しかし同時に眉間に皺を寄せて、何か考え込むような顔をしている。
「自分なんかは、魔法をこの手で蘇らせてやるぞー! ってなるタイプなんスけど、そうは思わないんスかね、あの子」
「ならないだろうな」
間髪入れずに夏希が否定した。よそいきの可愛らしい声も表情も、とっくの昔にどこかに行ってしまっている。鋭い視線と低い声で話を続けた。
「あの新人が言ってたってのを担任が聞いてたんだが……」
『憧れは、憧れのままにすべき』なんだとよ。
それを聞いた葵と透は、深く溜息をついた。
「研究員、向いてねぇ~!」
純粋な(権力だのなんだの考えていない)魔導考古学研究員はいわば憧れや夢を形にするための仕事である。天音の考えは、その真逆と言ってもいい。
「僕、彼女が今週中に辞めるのに1万賭けます」
「へえ。和馬が残るに賭けてるから、お前負けたらアイツに自腹で調理器具買えよ」
「いいですよ、僕が勝つんで!」
自信満々な透を見て、夏希が低く笑う。
「まさか副所長、彼女が残ると思ってるんですか?」
「さあな」
「自分は転属に1票ッスね。カラシは転属じゃなくて退職?」
「そうですね、嫌になって適性値わざと下げて辞めるんじゃないですか」
1度魔導師となってしまえば、辞めることは非常に難しい。ある可能性は、死亡か適性値低下の2択だ。
適性値50を下回った研究員は、国立魔導考古学研究所から退職しなければならない。今の天音の数値からすればありえないことだが―
「やる気がない人間は、すぐに魔導生成値が下がっていきますよ。つられて他の数値も下がっていきますしね」
天音のように、魔導適性があっても魔導を好きになれない者は少なからずいる。そして、そういう者たちは、魔導を使いたくないと心の奥底で思ってしまう。その感情が魔力の生成を抑制し、それに伴って他の数値が下がってしまうことがあるというのは、魔導師界でよく聞く話だ。才能の無さに絶望し、魔導適性値が極端に下がってしまったという話もある。魔導と感情は連動しているのかもしれない、そう言われている。
「どっちにしろ、まだここの研究員なんだ。いる間はしっかり見てろよ、2人とも」
「ウッス」
「……はい」
葵は元気よく、透はしぶしぶといった表情でそう答えた。
「さーて、明日の準備をしないとね」
対新人モードに切り替えたのか、ぱっちりとした瞳の美少女へと変貌を遂げた夏希が、いそいそと資料を片付け始めた。
「どーこ行ってたんスか?」
「首都第3校」
葵の問いに、夏希は手元のレポートから目をそらさず答えた。どうやら、天音は18時までに直接渡すことに成功したらしい。
「養成学校ですか?」
「そ。あの子が卒業したトコ」
養成学校は研究所とは異なり、全国各地に作られている。入学者には伝えられないが、養成学校にもランクがあり、研究所側は、養成学校とそこの卒業順位を参考に新人を採用するのだ。
首都第3校は、中でもレベルの高い養成学校だった。その2位となれば、第1研究所からも声がかかるレベルだが、伊藤天音はなぜかこの第5研究所に配属された。
「この間言ってたコト以外にもなんか問題あったんスか?」
「ああ……見りゃわかる」
返事が途端に雑になった。
新人が見れば泣くかもしれない不機嫌そうな表情と声である。
「あっちゃー……」
「これを見に行っていたんですね」
そこにあったのは、天音の養成学校での3か月間全ての成績だった。
全ての試験で優秀な成績を残している―ペーパーテストにおいては。
「なんつーか、今日の研修もこんなカンジッスね。教本丸暗記のガリ勉タイプッス」
「教本に載っていないことになると途端にわからなくなるようですね。さらに言うと、現代魔導に関心がない……いえ、嫌ってすらいる様子でした」
「だろうな」
天音のレポートに評価を書き込みながら、夏希は当然のように言った。
やはり「勉強」となると成績はよいようで、レポート用紙にはなかなかの高得点が書かれている。
「成績表見る限り、お勉強は得意な優等生ちゃんだが実技となると平均以下。やる気のなさが現れてる。2位卒業も、ペーパーテストのおかげだな」
「酷評ッスね。じゃあなんでうちに来させたんスか?」
少数精鋭。それが第5研究所のモットーだ。
だというのに、見た目だけは真面目なやる気のない新人を配属させるなんて、夏希らしくない。
「初めは第1のクソ野郎どもが欲しがってたんだよ」
「構わないのでは? 成績だけなら優秀じゃないですか」
「やる気がねぇ、魔導も好きじゃねぇ。そんなヤツをあんな権力振りかざすしか能のないクソジジイどもの巣窟に送ってみろ、一瞬でグレて反魔導主義団体行きだ」
「配属っていうか、保護なんですね……」
「ま、そんなトコだな」
めんどくせぇ。
表情にそう書かれている気がする。
「あ」
「なんだよ」
何かを思い出したように声を上げた透を、夏希が睨むようにして見た。否、正確には睨んではいないのだが、実は目つきが悪いのでそう見えてしまうのである。
「いえ、そういえば思い出したというか、思ったというか……彼女、『魔法』は好きなんじゃないでしょうか」
「え、なんでそう思ったんスか?」
「ああ、班長は遅刻したから知らないんでしょうけど」
発言に多量の毒を潜ませながら、透は数時間前のことを思い出す。
「テレパシーみたいな術もあるって言ったら、食いつきが凄くて。逆に、僕たちの研究テーマや魔導航空免許の話になると、本人は気づいていないんでしょうけど、メモのスピードが落ちるんですよね」
「あー、魔法が好きだから魔導が嫌なタイプ?」
現代魔導が一般化して、まださほど経っていない。
天音が幼いころは魔法がファンタジーの世界のものだった。その世界に憧れていれば、現代魔導の科学的要素や、法律で雁字搦めの現状を嫌っていても仕方がないだろう。
「まさにそのとおりだよ。養成学校の担任もそう言ってた」
「なーるほど。それ聞きに行ってたってのもあるんスね」
ポン、と手を打つ葵。しかし同時に眉間に皺を寄せて、何か考え込むような顔をしている。
「自分なんかは、魔法をこの手で蘇らせてやるぞー! ってなるタイプなんスけど、そうは思わないんスかね、あの子」
「ならないだろうな」
間髪入れずに夏希が否定した。よそいきの可愛らしい声も表情も、とっくの昔にどこかに行ってしまっている。鋭い視線と低い声で話を続けた。
「あの新人が言ってたってのを担任が聞いてたんだが……」
『憧れは、憧れのままにすべき』なんだとよ。
それを聞いた葵と透は、深く溜息をついた。
「研究員、向いてねぇ~!」
純粋な(権力だのなんだの考えていない)魔導考古学研究員はいわば憧れや夢を形にするための仕事である。天音の考えは、その真逆と言ってもいい。
「僕、彼女が今週中に辞めるのに1万賭けます」
「へえ。和馬が残るに賭けてるから、お前負けたらアイツに自腹で調理器具買えよ」
「いいですよ、僕が勝つんで!」
自信満々な透を見て、夏希が低く笑う。
「まさか副所長、彼女が残ると思ってるんですか?」
「さあな」
「自分は転属に1票ッスね。カラシは転属じゃなくて退職?」
「そうですね、嫌になって適性値わざと下げて辞めるんじゃないですか」
1度魔導師となってしまえば、辞めることは非常に難しい。ある可能性は、死亡か適性値低下の2択だ。
適性値50を下回った研究員は、国立魔導考古学研究所から退職しなければならない。今の天音の数値からすればありえないことだが―
「やる気がない人間は、すぐに魔導生成値が下がっていきますよ。つられて他の数値も下がっていきますしね」
天音のように、魔導適性があっても魔導を好きになれない者は少なからずいる。そして、そういう者たちは、魔導を使いたくないと心の奥底で思ってしまう。その感情が魔力の生成を抑制し、それに伴って他の数値が下がってしまうことがあるというのは、魔導師界でよく聞く話だ。才能の無さに絶望し、魔導適性値が極端に下がってしまったという話もある。魔導と感情は連動しているのかもしれない、そう言われている。
「どっちにしろ、まだここの研究員なんだ。いる間はしっかり見てろよ、2人とも」
「ウッス」
「……はい」
葵は元気よく、透はしぶしぶといった表情でそう答えた。
「さーて、明日の準備をしないとね」
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