32 / 140
新人魔導師、特訓する
同日、反復訓練終了
しおりを挟む
残り3回。
それが天音に残された挑戦回数である。
これまでの97回、天音の術は発動一歩手前で止まっていた。つい先ほど、ノートがちらりと姿を現したが、手元には残らずに部屋へ戻っていってしまった。
「落ち込んでるヒマないですよー。ほら、集中。普段より魔力を多く流すイメージで。3割増しドバッてカンジで」
一応恭平はアドバイスはくれるが、正直何を言っているかよくわからない。感覚でできるタイプの人間は、理論重視の天音と相性が悪かった。
とは言え、今回は珍しく具体的な数字が出ている。3割増す気持ちで魔力を流す。それがわかるだけでかなりやりやすい。
98回目。いい加減手が疲れてきた。古代の魔法ならば文字を書く必要はなく、呪文を唱えるだけで済むが、発音方法がわかっていない現代ではひたすら書くしかない。そのせいか、魔導師には高確率でペンだこがある。
「あー今度は入れすぎ」
込めた魔力に耐えきれず、魔導文字の書かれた紙が燃えていった。青みがかった紫の炎があがる。
「はい、もう1回」
「す、すみません、少し、休ませてもらえませんか……」
魔力量も限界に近い。あと2回発動できるか怪しいところだ。床に倒れ込むように体勢を崩した天音だが、恭平は表情一つ変えることなく言い放つ。
「ダメです。たくさん魔力使って、今の生成量じゃ足りないんだって体に気づかせないと、生成値上がりませんよ」
両手でバツ印まで作って天音の頼みを断ったが、ただの鬼というわけではないようで、きちんと理由を説明した。
そこまでしっかりした理由があるなら仕方ない。
元来、天音は典型的な真面目ちゃんなので、上の人間が言うことに逆らえないタイプなのだ。例え、それが年下であろうと。
「じゃ、99回目行きましょー。ちなみに、100回以内にできなかったら午後の体力育成の時間が伸びまーす」
「それ先に言ってくださいよぉ……」
もう泣きそうだ。必死に文字を書き、魔力を流す。もう限界に近いので普段より多く流せているかわからない。最早考えることはやめた。
すると、自室にあったはずのノートが姿を現して、天音の手元に落ちてきた。
「あ!?」
「はい、成功。ギリギリですねー」
「や、やった! え、でも、なんで……」
こう言ってはいけないかもしれないが、先ほどは何も考えずにただひたすら発動しただけだった。だというのに、何故成功したのだろうか。
「んー、天音サンって、普段話すときとかに文法とか考えてます?」
「文法? いえ、流石にそこまでは考えてないです」
「ま、そーですよね。そーゆーコトです」
「すみません詳しい説明をお願いします」
天才節再び。凡人にもわかるように1から説明して欲しい。
恭平は上手く言語化できないのか、眉間に皺を寄せて考え込みながら話しだした。
「研究には思考って必要なんですよ」
「は、はい」
「でも発動にはいらないんですよ。これでいいですかね?」
「もうちょっとお願いします」
「えー」
駄目だ、この人説明向いてない。教師だったら生徒が泣くレベルで説明が下手だ。よくある、「なんでわからないかわからない」タイプ。名選手が必ず名監督になれるわけではないことを体現している。
「昔、魔法は生活の一部だったわけです」
「はい、それはわかります」
それは養成学校で習った。古代の社会にとっての魔法は現代社会の電気と同じようなもので、なくてはならないモノ。それくらいは知っている。
「魔導もその延長線上にあるって考えてください。してるコトは大体同じでしょ?」
「確かに……そうですね」
発動方法や威力は異なれど、魔法も魔導もしていることは同じだ。つまり、魔導も生活の一部として捉えればいい。
「天音サンは色々余計なコト考えすぎなんですよね。だから失敗する」
「うっ……」
確かに、失敗したらどうしようとか、魔力量はこれでいいのかとか、ずっと考えていた。それがいけなかったのか。
「夏希までとは流石に言わないけど、せめてカラシくらい自然に使えるといいですねー」
「何も考えず、自然に……」
「いや多少は考えてください。なんにも考えないで発動できるほど慣れきってないですよ。あーいや、考えるっていうとダメなタイプか。うん、それなら成功した自分の姿でもイメージしててください」
成功した自分の姿のイメージ。今までしたことがない。高位の魔導師は皆そうしているのだろうか。
「小森さんは、何を考えて発動してるんですか?」
「なんにも考えてないです。勝手に手が動く」
駄目だ、他の人に聞こう。
諦めていると、恭平がよいことを教えてくれた。
「夏希は確か、『したいコト考えんだよ』って言ってました」
「したいこと……」
「さっきなら、『ノートを持ってくる』、ですかね? 手を伸ばすのとおんなじって言ってましたよ」
それなら少しはわかりやすくなったかもしれない。近くにあるノートを取るために手を伸ばすのと同じ。実際にその動作をするとき、それ以外のことは考えていないだろうから他の雑念が入ることもない。
「なんだか、少し掴んだ気がします……」
「はい、じゃあ午前の部終了です。立てます?」
「なんとか……」
ぐったりとしながらも天音は立ち上がった。こんなに魔力を使ったのは初めてだ。
「あ、無理そうですね」
生まれたての小鹿のようになった天音を見て、恭平が食堂まで魔導で送ってくれた。
その顔が笑っているように見えて悔しかったが、彼との距離が少し縮まったように思えた。
それが天音に残された挑戦回数である。
これまでの97回、天音の術は発動一歩手前で止まっていた。つい先ほど、ノートがちらりと姿を現したが、手元には残らずに部屋へ戻っていってしまった。
「落ち込んでるヒマないですよー。ほら、集中。普段より魔力を多く流すイメージで。3割増しドバッてカンジで」
一応恭平はアドバイスはくれるが、正直何を言っているかよくわからない。感覚でできるタイプの人間は、理論重視の天音と相性が悪かった。
とは言え、今回は珍しく具体的な数字が出ている。3割増す気持ちで魔力を流す。それがわかるだけでかなりやりやすい。
98回目。いい加減手が疲れてきた。古代の魔法ならば文字を書く必要はなく、呪文を唱えるだけで済むが、発音方法がわかっていない現代ではひたすら書くしかない。そのせいか、魔導師には高確率でペンだこがある。
「あー今度は入れすぎ」
込めた魔力に耐えきれず、魔導文字の書かれた紙が燃えていった。青みがかった紫の炎があがる。
「はい、もう1回」
「す、すみません、少し、休ませてもらえませんか……」
魔力量も限界に近い。あと2回発動できるか怪しいところだ。床に倒れ込むように体勢を崩した天音だが、恭平は表情一つ変えることなく言い放つ。
「ダメです。たくさん魔力使って、今の生成量じゃ足りないんだって体に気づかせないと、生成値上がりませんよ」
両手でバツ印まで作って天音の頼みを断ったが、ただの鬼というわけではないようで、きちんと理由を説明した。
そこまでしっかりした理由があるなら仕方ない。
元来、天音は典型的な真面目ちゃんなので、上の人間が言うことに逆らえないタイプなのだ。例え、それが年下であろうと。
「じゃ、99回目行きましょー。ちなみに、100回以内にできなかったら午後の体力育成の時間が伸びまーす」
「それ先に言ってくださいよぉ……」
もう泣きそうだ。必死に文字を書き、魔力を流す。もう限界に近いので普段より多く流せているかわからない。最早考えることはやめた。
すると、自室にあったはずのノートが姿を現して、天音の手元に落ちてきた。
「あ!?」
「はい、成功。ギリギリですねー」
「や、やった! え、でも、なんで……」
こう言ってはいけないかもしれないが、先ほどは何も考えずにただひたすら発動しただけだった。だというのに、何故成功したのだろうか。
「んー、天音サンって、普段話すときとかに文法とか考えてます?」
「文法? いえ、流石にそこまでは考えてないです」
「ま、そーですよね。そーゆーコトです」
「すみません詳しい説明をお願いします」
天才節再び。凡人にもわかるように1から説明して欲しい。
恭平は上手く言語化できないのか、眉間に皺を寄せて考え込みながら話しだした。
「研究には思考って必要なんですよ」
「は、はい」
「でも発動にはいらないんですよ。これでいいですかね?」
「もうちょっとお願いします」
「えー」
駄目だ、この人説明向いてない。教師だったら生徒が泣くレベルで説明が下手だ。よくある、「なんでわからないかわからない」タイプ。名選手が必ず名監督になれるわけではないことを体現している。
「昔、魔法は生活の一部だったわけです」
「はい、それはわかります」
それは養成学校で習った。古代の社会にとっての魔法は現代社会の電気と同じようなもので、なくてはならないモノ。それくらいは知っている。
「魔導もその延長線上にあるって考えてください。してるコトは大体同じでしょ?」
「確かに……そうですね」
発動方法や威力は異なれど、魔法も魔導もしていることは同じだ。つまり、魔導も生活の一部として捉えればいい。
「天音サンは色々余計なコト考えすぎなんですよね。だから失敗する」
「うっ……」
確かに、失敗したらどうしようとか、魔力量はこれでいいのかとか、ずっと考えていた。それがいけなかったのか。
「夏希までとは流石に言わないけど、せめてカラシくらい自然に使えるといいですねー」
「何も考えず、自然に……」
「いや多少は考えてください。なんにも考えないで発動できるほど慣れきってないですよ。あーいや、考えるっていうとダメなタイプか。うん、それなら成功した自分の姿でもイメージしててください」
成功した自分の姿のイメージ。今までしたことがない。高位の魔導師は皆そうしているのだろうか。
「小森さんは、何を考えて発動してるんですか?」
「なんにも考えてないです。勝手に手が動く」
駄目だ、他の人に聞こう。
諦めていると、恭平がよいことを教えてくれた。
「夏希は確か、『したいコト考えんだよ』って言ってました」
「したいこと……」
「さっきなら、『ノートを持ってくる』、ですかね? 手を伸ばすのとおんなじって言ってましたよ」
それなら少しはわかりやすくなったかもしれない。近くにあるノートを取るために手を伸ばすのと同じ。実際にその動作をするとき、それ以外のことは考えていないだろうから他の雑念が入ることもない。
「なんだか、少し掴んだ気がします……」
「はい、じゃあ午前の部終了です。立てます?」
「なんとか……」
ぐったりとしながらも天音は立ち上がった。こんなに魔力を使ったのは初めてだ。
「あ、無理そうですね」
生まれたての小鹿のようになった天音を見て、恭平が食堂まで魔導で送ってくれた。
その顔が笑っているように見えて悔しかったが、彼との距離が少し縮まったように思えた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
没落港の整備士男爵 ~「構造解析」スキルで古代設備を修理(レストア)したら、大陸一の物流拠点になり、王家も公爵家も頭が上がらなくなった件~
namisan
ファンタジー
大陸の南西端に位置するベルナ子爵領。
かつては貿易で栄えたこの港町も、今は見る影もない。
海底には土砂が堆積して大型船は入港できず、倉庫街は老朽化し、特産品もない。借金まみれの父と、諦めきった家臣たち。そこにあるのは、緩やかな「死」だけだった。
そんな没落寸前の領地の嫡男、アレン(16歳)に転生した主人公には、前世の記憶があった。
それは、日本で港湾管理者兼エンジニアとして働き、現場で散った「整備士」としての知識。
そして、彼にはもう一つ、この世界で目覚めた特異な能力があった。
対象の構造や欠陥、魔力の流れが設計図のように視えるスキル――【構造解析】。
「壊れているなら、直せばいい。詰まっているなら、通せばいい」
アレンは錆びついた古代の「浚渫(しゅんせつ)ゴーレム」を修理して港を深く掘り直し、魔導冷却庫を「熱交換の最適化」で復活させて、腐るだけだった魚を「最高級の輸出品」へと変えていく。
ドケチな家令ガルシアと予算を巡って戦い、荒くれ者の港湾長ゲンと共に泥にまみれ、没落商会の女主人メリッサと手を組んで販路を開拓する。
やがてその港には、陸・海・空の物流革命が巻き起こる。
揺れない「サスペンション馬車」が貴族の移動を変え、「鮮度抜群の魚介グルメ」が王族の胃袋を掴み、気性の荒いワイバーンを手懐けた「空輸便」が世界を結ぶ。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる