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新人魔導師、特訓する
4月16日、会議に出席
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毎日ギリギリまでしごかれること早数日。天音は焦り始めていた。
「発掘調査までもう時間がない……」
すぐそこに迫ってきた期限。もし天音が昇級できなければ、第5研究所は発掘調査が出来なくなってしまう。そのことにプレッシャーを感じていた。
地下5階の夏希の部屋に向かいながら、天音は1人悩んでいた。やはり生成値がネックか、それとも得意分野を伸ばすべきなのか―考えていると、階段を踏み外しかけた。危ない、考え事は後にしよう。
「おはようございます、副所長。伊藤天音です」
夏希の部屋をノックするが返事はない。研究室にも姿はなかった。9時前なのに彼女が動き出しているのは珍しい。零のところだろうか。そう思って階下も覗くが、そこにもいなかった。
「あ、武村さん。おはようございます。副所長って今どちらにいらっしゃるかご存じですか?」
足音がして上を見ると、雅が手すりにつかまりながら階段を降りてくるところだった。今の雅の身長では、地下の階段は少し一段一段が高いのかもしれない。
しかし、身体の小ささとは正反対に、彼女は威厳たっぷりに胸を張って天音に挨拶を返した。見た目だけなら、背伸びしたいお年頃の子どもに見えるので可愛らしい。
「ちょうどそのことで呼びに来たのじゃ、会議室へ向かうぞ」
「会議室? え、今日何かありましたっけ?」
「何か『あった』訳ではないな。やらねばならぬことが『出来た』のじゃ」
先導する雅の歩幅に合わせて歩く。妹がいたら、こんな感じなのだろうか。天音の肩にも届かない小さな体がとことこ歩いている。
雅は会議室に到着すると、ノックもせずに扉を開けた。この研究所でノックはさほど意味を持たないらしい。
会議室には、技術班の2人以外のメンバーが揃っていた。恐らく、天音の魔導衣作りで忙しいのだろう。葵はここ数日別のものを作っているらしく、姿を見ていない。
それ以外のメンバーはそれぞれ魔導衣を着た仕事のときの姿で天音を待っていた。
夏希は会議室の最奥の席に座っていて、その横に零が立っている。和馬は全員にお茶を淹れて回っていて、はるかと恭平はクッキーをつまんでいた。かなたは眠そうにボーっとしている。
一体、何が始まるのだろうか。立ち尽くす天音だったが、雅に手を引かれて手前の席まで連れて行かれる。
「早う座らんか」
「あ、はい……」
もしかして、天音が知らないだけでこうして会議があるのだろうか。普通の会社なら、確かに定期的に会議を行ったりするものだが、研究所でもそうなのか。社会経験がまだ数週間の天音にはよくわからない。
だが、雅はやらなくてはいけないことが出来た、と言っていた。すなわち、普段はしないことだが必要になった、ということである。
「ええと、これから何が始まるんですか?」
「知りたい?」
そう言ったのはかなただった。いつもはるかが先に話しだすので、なかなかに珍しい。
「気になる?」
「はい。はるかさんは知ってるんですか?」
「うん。知ってる」
「お、双子のコトちゃんと見分けられてる」
恭平が言うのを聞いて、天音も気づいた。そう言えば、話しだす前からはるかとかなたを見分けていた。双子は嬉しそうに天音を見ている。わかってもらえるのは嬉しい、と口にしたのはかなただ。
「水を差すようで悪いが、始めるぞ」
夏希の低い声が響いた。その瞬間、ピタリと会話が止まる。
「天音、いい話と悪い話がある。どっちから聞きたい?」
この聞き方は癖なのだろうか。真子と似た話し方だ。
ひとまず、今回はいい話から聞くことにする。内容を聞けば、こうして集まっている理由もわかるかもしれない。
「いい話からでお願いします」
「お前今日から魔導解析師な」
「は、え……?すみません、もう一度お願いします」
「お前、今日から、魔導解析師な」
聞き取りやすいようにはっきりと言ってくれたが、そういう訳で聞き返したのではない。あまりにもあっさり言われすぎて理解できなかったのだ。
「基準を満たしましたので、本日付で伊藤天音魔導解読師を魔導解析師に認定します。こちらをどうぞ」
零が魔導解析師と記された免許証を差し出した。確かに天音の顔写真と、生年月日が載っている。
「元々、お前の魔導生成値が低かったのは、やる気がなかったせいだ。特定魔導現象の対象者でもない限り、適性値と生成値は同じくらいの数値になるモンなんだよ。あとはひたすら魔導に慣れれば、お前の場合ならすぐに基準は満たせる」
天音は震える手で免許証を受け取った。何かを言おうとしたが、上手く言えない。視界がかすんでいる。涙がこぼれそうになっていた。
「感動しているところ申し訳ないんじゃが」
「お前ホントにそういうトコ直せよ」
「必要なことじゃろう。話が進まぬ。夏希、悪い話とはなんじゃ?」
「あー……」
意外とムードを大事にするタイプの夏希は、言いづらそうに答えた。
「解析師昇級のために後回しにしちまったんだが、現場に出るには魔導航空免許取っとかないと大変でな……明日からはそっちの訓練だ」
「あ、ワサビが3回落ちたヤツ?」
「俺も1回落ちましたね……」
「私たちもそう」
「難しいよね」
茶化す恭平、落ち込む和馬。フォローするように言う双子。
昇給のための訓練が終わったと思ったら次は難関、魔導航空免許取得のための訓練が始まる。一難去ってまた一難とはこのことか。
不安そうな表情を浮かべる天音に、夏希は笑って、
「悪い、まずはこっちを言うべきだったな……おめでとう。よく頑張ったな」
穏やかに笑う彼女に続いて、あちこちから天音を祝い労う声が上がった。
「おめでとうございます。今日はゆっくりしてくださいね。勉強も無しですよ」
「おめでとーございます。言ったでしょ、すぐなれるって」
「頑張ったね」
「ね。階級私たちより上だね」
「おめでとうございます。今日の夕飯は天音ちゃんの好きなもの作りましょうね」
「うむ、よくやったな、褒めて遣わす」
「普通に褒めろよ」
会議室は歓声に包まれていた。ありがとうございます、とあちこちに向けて言っていると、雅と目が合った。
「……おめでとう」
歓声に消えてしまいそうなほどの小さな声だが、彼女は確かにそう言った。素直に祝うのが恥ずかしいのか、耳まで赤くなっている。
「ありがとうございます、武村さん」
「……ふん」
雅はそのままそっぽを向いてしまった。明らかに照れている。それに気づいた夏希が大笑いするまで、あと少し。
「発掘調査までもう時間がない……」
すぐそこに迫ってきた期限。もし天音が昇級できなければ、第5研究所は発掘調査が出来なくなってしまう。そのことにプレッシャーを感じていた。
地下5階の夏希の部屋に向かいながら、天音は1人悩んでいた。やはり生成値がネックか、それとも得意分野を伸ばすべきなのか―考えていると、階段を踏み外しかけた。危ない、考え事は後にしよう。
「おはようございます、副所長。伊藤天音です」
夏希の部屋をノックするが返事はない。研究室にも姿はなかった。9時前なのに彼女が動き出しているのは珍しい。零のところだろうか。そう思って階下も覗くが、そこにもいなかった。
「あ、武村さん。おはようございます。副所長って今どちらにいらっしゃるかご存じですか?」
足音がして上を見ると、雅が手すりにつかまりながら階段を降りてくるところだった。今の雅の身長では、地下の階段は少し一段一段が高いのかもしれない。
しかし、身体の小ささとは正反対に、彼女は威厳たっぷりに胸を張って天音に挨拶を返した。見た目だけなら、背伸びしたいお年頃の子どもに見えるので可愛らしい。
「ちょうどそのことで呼びに来たのじゃ、会議室へ向かうぞ」
「会議室? え、今日何かありましたっけ?」
「何か『あった』訳ではないな。やらねばならぬことが『出来た』のじゃ」
先導する雅の歩幅に合わせて歩く。妹がいたら、こんな感じなのだろうか。天音の肩にも届かない小さな体がとことこ歩いている。
雅は会議室に到着すると、ノックもせずに扉を開けた。この研究所でノックはさほど意味を持たないらしい。
会議室には、技術班の2人以外のメンバーが揃っていた。恐らく、天音の魔導衣作りで忙しいのだろう。葵はここ数日別のものを作っているらしく、姿を見ていない。
それ以外のメンバーはそれぞれ魔導衣を着た仕事のときの姿で天音を待っていた。
夏希は会議室の最奥の席に座っていて、その横に零が立っている。和馬は全員にお茶を淹れて回っていて、はるかと恭平はクッキーをつまんでいた。かなたは眠そうにボーっとしている。
一体、何が始まるのだろうか。立ち尽くす天音だったが、雅に手を引かれて手前の席まで連れて行かれる。
「早う座らんか」
「あ、はい……」
もしかして、天音が知らないだけでこうして会議があるのだろうか。普通の会社なら、確かに定期的に会議を行ったりするものだが、研究所でもそうなのか。社会経験がまだ数週間の天音にはよくわからない。
だが、雅はやらなくてはいけないことが出来た、と言っていた。すなわち、普段はしないことだが必要になった、ということである。
「ええと、これから何が始まるんですか?」
「知りたい?」
そう言ったのはかなただった。いつもはるかが先に話しだすので、なかなかに珍しい。
「気になる?」
「はい。はるかさんは知ってるんですか?」
「うん。知ってる」
「お、双子のコトちゃんと見分けられてる」
恭平が言うのを聞いて、天音も気づいた。そう言えば、話しだす前からはるかとかなたを見分けていた。双子は嬉しそうに天音を見ている。わかってもらえるのは嬉しい、と口にしたのはかなただ。
「水を差すようで悪いが、始めるぞ」
夏希の低い声が響いた。その瞬間、ピタリと会話が止まる。
「天音、いい話と悪い話がある。どっちから聞きたい?」
この聞き方は癖なのだろうか。真子と似た話し方だ。
ひとまず、今回はいい話から聞くことにする。内容を聞けば、こうして集まっている理由もわかるかもしれない。
「いい話からでお願いします」
「お前今日から魔導解析師な」
「は、え……?すみません、もう一度お願いします」
「お前、今日から、魔導解析師な」
聞き取りやすいようにはっきりと言ってくれたが、そういう訳で聞き返したのではない。あまりにもあっさり言われすぎて理解できなかったのだ。
「基準を満たしましたので、本日付で伊藤天音魔導解読師を魔導解析師に認定します。こちらをどうぞ」
零が魔導解析師と記された免許証を差し出した。確かに天音の顔写真と、生年月日が載っている。
「元々、お前の魔導生成値が低かったのは、やる気がなかったせいだ。特定魔導現象の対象者でもない限り、適性値と生成値は同じくらいの数値になるモンなんだよ。あとはひたすら魔導に慣れれば、お前の場合ならすぐに基準は満たせる」
天音は震える手で免許証を受け取った。何かを言おうとしたが、上手く言えない。視界がかすんでいる。涙がこぼれそうになっていた。
「感動しているところ申し訳ないんじゃが」
「お前ホントにそういうトコ直せよ」
「必要なことじゃろう。話が進まぬ。夏希、悪い話とはなんじゃ?」
「あー……」
意外とムードを大事にするタイプの夏希は、言いづらそうに答えた。
「解析師昇級のために後回しにしちまったんだが、現場に出るには魔導航空免許取っとかないと大変でな……明日からはそっちの訓練だ」
「あ、ワサビが3回落ちたヤツ?」
「俺も1回落ちましたね……」
「私たちもそう」
「難しいよね」
茶化す恭平、落ち込む和馬。フォローするように言う双子。
昇給のための訓練が終わったと思ったら次は難関、魔導航空免許取得のための訓練が始まる。一難去ってまた一難とはこのことか。
不安そうな表情を浮かべる天音に、夏希は笑って、
「悪い、まずはこっちを言うべきだったな……おめでとう。よく頑張ったな」
穏やかに笑う彼女に続いて、あちこちから天音を祝い労う声が上がった。
「おめでとうございます。今日はゆっくりしてくださいね。勉強も無しですよ」
「おめでとーございます。言ったでしょ、すぐなれるって」
「頑張ったね」
「ね。階級私たちより上だね」
「おめでとうございます。今日の夕飯は天音ちゃんの好きなもの作りましょうね」
「うむ、よくやったな、褒めて遣わす」
「普通に褒めろよ」
会議室は歓声に包まれていた。ありがとうございます、とあちこちに向けて言っていると、雅と目が合った。
「……おめでとう」
歓声に消えてしまいそうなほどの小さな声だが、彼女は確かにそう言った。素直に祝うのが恥ずかしいのか、耳まで赤くなっている。
「ありがとうございます、武村さん」
「……ふん」
雅はそのままそっぽを向いてしまった。明らかに照れている。それに気づいた夏希が大笑いするまで、あと少し。
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