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新人魔導師、発掘調査に参加する
同日、2人きりの部屋で
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あの日、夏希が受け取った手紙は2通。便箋は計6枚。真子からの手紙は、全部で4枚あった。うち2枚は天音に見せたもの。残りは天音の、生い立ちから高校時代までを書いた経歴書だった。
天音はさほど裕福ではない家庭の生まれだった。それでもその優秀さから順調に進学し、有名な進学校に入学している。これは以前からわかっていたことだ。
問題は、その前。天音が12歳の年、すなわち小学生6年生のときのことである。
「今から7年前、首都にある魔導博物館で魔導災害が起こった」
状況を整理するように、誰に言う訳でもなく夏希は呟いた。零は黙ってそれを聞いている。
魔導災害とは、名のとおり魔導が原因の災害だ。大抵は若い魔導師が力を制御できずに起こしてしまう、些細な出来事。地方の新聞に載るか載らないか、そんなレベルだ。
だが、7年前のそれは違った。
首都で発掘され、研究が終わったはずの魔導史料を展示していた魔導博物館で、突如火災が発生したのだ。ちょうどその頃見学に来ていた小学校の児童たちは避難し、学芸員たちにも怪我はなかった。展示品も、すぐに火が消えたため大きな破損はなく、すぐに修復された。
初めはただの火災と判断された。しかし、出火元を調べると、驚くことに温度や湿度が魔導でしっかりと管理された展示ケースの内部だったのだ。
「出火元の展示ケースを火災発生時に見ていたのは、伊藤天音、ただ1人だった。これは防犯カメラの映像からわかってる」
「魔導考古学省はただちに見学に来ていた児童と学芸員の適性検査を行ったけれども、誰一人該当者は出なかった……事件は迷宮入り、と思われたそのとき、とある意見が出た。そういうことですね?」
「ああ」
伊藤天音は、魔法を使えるのではないか。彼女こそが魔法を復活させる人物なのではないか。そんな意見が出たのだと、真子からの手紙には書かれていた。
「確かに、展示品には『火』の魔導文字はありませんでした。魔力を制御できずに流してしまった、というわけでもなさそうです。ですが、それだけで魔法と判断するのは、話が飛躍しすぎているように思います」
「……口が、動いてたんだと」
「え?」
「展示品が燃える瞬間、天音の口が動いていた。1人でいたのに何故? 呪文を唱えていた? 上層部の考えはこうらしい」
吐き捨てるように言うと、夏希はどさりと椅子に座りこんだ。疲れ切った顔をしている。美織からの手紙で、これからのことを知っている彼女にとって、今日の一件は始まりに過ぎない。明日以降のことを考えると、頭が痛くなってくる。
「伊藤天音魔導解析師を『白の十一天』のメンバーである可能性が高いとして捕縛し、魔導考古学省が監視する……という名目で魔法復活の糸口を掴もうとする、というわけですね」
「そーいうコト。ついでに、第5研究所側の人間である真子も捕縛して、ウチを本格的に孤立させようとするって美織は視てる」
何もかも面倒。夏希の顔にはそう書いてある。そんな彼女を宥めるように、零はそっと頭を撫でてきた。
「あくまで、『させようとする』でしょう。この先、魔導考古学省は失敗するわけですし」
「面倒なモンは面倒なんだよ」
美織は百発百中の占術魔導の使い手。夏希も零も、彼女の占いに全幅の信頼を寄せている。そして、彼女からの手紙には、「魔導考古学省は失敗する」と書かれているのだ。
「ま、あの和泉真子がなんの手も打たずにスパイを侵入させたままにするワケないしな」
「何してたんです? あの方」
はっきりとは口にしないが、夏希の母親のように振舞う真子のことが、零は少し苦手だった。話しづらそうに言う。
「ニセ子の採用のときに、上司に意見してるらしいぞ。反対ですってな。で、相手にされなかったんだが、その時の音声を録音してあるんだと。んで、あたしも魔導考古学省に、天音の魔導航空免許取りに行ったときに辞めさせた方がいいって言ってある。これも録音済み」
「それだけでは天音さんは守れないでしょう」
零の問いに、夏希はニヤリと笑って見せた。
「そもそも、魔導考古学省は適性値低下を理由に、天音の魔導師資格を剥奪して事務員として採用、天音を監視下に置くってのが目的だった。遺跡発掘を棄却する理由にするってのもあるけどな。けど、アイツは適性値を上げて異例のスピード昇級。こんな逸材、上層部の魔導至上主義のオッサンども以外は確実に味方するだろ」
「魔導考古学省の出した条件を逆手にとった、というわけですか」
「そうだな」
「けれど、権力の大半は上層部の非紳士的な方々にあるかと」
溜息混じりの零の声。対照的に、夏希はずっと笑みを浮かべている。嫌っている上層部が負ける姿を想像して楽しくなってきたのだろう。
「反魔導主義団体に潜入されて不安だったからな。『家』には葵が作った音声までバッチリ拾える魔導監視カメラを設置しといたんだよ」
「……なるほど?」
「で、天音がニセ子と連絡をほとんどとってないうえに守秘義務はきっちり守ってたっていうのが音声データとして残されてる」
「……たまに、貴女が恐ろしくなります。いつからわかっていて、どこまで狙っていたんですか?」
「ご想像にお任せするよ」
多分、最初からわかっていて全て利用したんだな。
我が妻ながら恐ろしい。
「美しい花には棘がある、とはよく言ったものです」
第5研究所を表す白の薔薇。それはまさしく、夏希を示していた。白の魔力を持ち、美しく、そして鋭い棘を持つ。この研究所という王国に君臨する女王。
「チェスでは、キングは1マスしか動けませんから。頼みましたよ、クイーン」
「はっ、誰に向かって言ってんだ?」
ただの椅子すら玉座に見えるほど、夏希は気高く美しい笑みを浮かべていた。
天音はさほど裕福ではない家庭の生まれだった。それでもその優秀さから順調に進学し、有名な進学校に入学している。これは以前からわかっていたことだ。
問題は、その前。天音が12歳の年、すなわち小学生6年生のときのことである。
「今から7年前、首都にある魔導博物館で魔導災害が起こった」
状況を整理するように、誰に言う訳でもなく夏希は呟いた。零は黙ってそれを聞いている。
魔導災害とは、名のとおり魔導が原因の災害だ。大抵は若い魔導師が力を制御できずに起こしてしまう、些細な出来事。地方の新聞に載るか載らないか、そんなレベルだ。
だが、7年前のそれは違った。
首都で発掘され、研究が終わったはずの魔導史料を展示していた魔導博物館で、突如火災が発生したのだ。ちょうどその頃見学に来ていた小学校の児童たちは避難し、学芸員たちにも怪我はなかった。展示品も、すぐに火が消えたため大きな破損はなく、すぐに修復された。
初めはただの火災と判断された。しかし、出火元を調べると、驚くことに温度や湿度が魔導でしっかりと管理された展示ケースの内部だったのだ。
「出火元の展示ケースを火災発生時に見ていたのは、伊藤天音、ただ1人だった。これは防犯カメラの映像からわかってる」
「魔導考古学省はただちに見学に来ていた児童と学芸員の適性検査を行ったけれども、誰一人該当者は出なかった……事件は迷宮入り、と思われたそのとき、とある意見が出た。そういうことですね?」
「ああ」
伊藤天音は、魔法を使えるのではないか。彼女こそが魔法を復活させる人物なのではないか。そんな意見が出たのだと、真子からの手紙には書かれていた。
「確かに、展示品には『火』の魔導文字はありませんでした。魔力を制御できずに流してしまった、というわけでもなさそうです。ですが、それだけで魔法と判断するのは、話が飛躍しすぎているように思います」
「……口が、動いてたんだと」
「え?」
「展示品が燃える瞬間、天音の口が動いていた。1人でいたのに何故? 呪文を唱えていた? 上層部の考えはこうらしい」
吐き捨てるように言うと、夏希はどさりと椅子に座りこんだ。疲れ切った顔をしている。美織からの手紙で、これからのことを知っている彼女にとって、今日の一件は始まりに過ぎない。明日以降のことを考えると、頭が痛くなってくる。
「伊藤天音魔導解析師を『白の十一天』のメンバーである可能性が高いとして捕縛し、魔導考古学省が監視する……という名目で魔法復活の糸口を掴もうとする、というわけですね」
「そーいうコト。ついでに、第5研究所側の人間である真子も捕縛して、ウチを本格的に孤立させようとするって美織は視てる」
何もかも面倒。夏希の顔にはそう書いてある。そんな彼女を宥めるように、零はそっと頭を撫でてきた。
「あくまで、『させようとする』でしょう。この先、魔導考古学省は失敗するわけですし」
「面倒なモンは面倒なんだよ」
美織は百発百中の占術魔導の使い手。夏希も零も、彼女の占いに全幅の信頼を寄せている。そして、彼女からの手紙には、「魔導考古学省は失敗する」と書かれているのだ。
「ま、あの和泉真子がなんの手も打たずにスパイを侵入させたままにするワケないしな」
「何してたんです? あの方」
はっきりとは口にしないが、夏希の母親のように振舞う真子のことが、零は少し苦手だった。話しづらそうに言う。
「ニセ子の採用のときに、上司に意見してるらしいぞ。反対ですってな。で、相手にされなかったんだが、その時の音声を録音してあるんだと。んで、あたしも魔導考古学省に、天音の魔導航空免許取りに行ったときに辞めさせた方がいいって言ってある。これも録音済み」
「それだけでは天音さんは守れないでしょう」
零の問いに、夏希はニヤリと笑って見せた。
「そもそも、魔導考古学省は適性値低下を理由に、天音の魔導師資格を剥奪して事務員として採用、天音を監視下に置くってのが目的だった。遺跡発掘を棄却する理由にするってのもあるけどな。けど、アイツは適性値を上げて異例のスピード昇級。こんな逸材、上層部の魔導至上主義のオッサンども以外は確実に味方するだろ」
「魔導考古学省の出した条件を逆手にとった、というわけですか」
「そうだな」
「けれど、権力の大半は上層部の非紳士的な方々にあるかと」
溜息混じりの零の声。対照的に、夏希はずっと笑みを浮かべている。嫌っている上層部が負ける姿を想像して楽しくなってきたのだろう。
「反魔導主義団体に潜入されて不安だったからな。『家』には葵が作った音声までバッチリ拾える魔導監視カメラを設置しといたんだよ」
「……なるほど?」
「で、天音がニセ子と連絡をほとんどとってないうえに守秘義務はきっちり守ってたっていうのが音声データとして残されてる」
「……たまに、貴女が恐ろしくなります。いつからわかっていて、どこまで狙っていたんですか?」
「ご想像にお任せするよ」
多分、最初からわかっていて全て利用したんだな。
我が妻ながら恐ろしい。
「美しい花には棘がある、とはよく言ったものです」
第5研究所を表す白の薔薇。それはまさしく、夏希を示していた。白の魔力を持ち、美しく、そして鋭い棘を持つ。この研究所という王国に君臨する女王。
「チェスでは、キングは1マスしか動けませんから。頼みましたよ、クイーン」
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