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新人魔導師、発掘調査に参加する
同日、大会議室室内
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ずらりと並ぶ役人たちを見て、夏希は退屈そうに欠伸をした。
「変わってねぇなぁ、ココ」
「ええ、本当に」
いつものように夏希の横で控えている零が、穏やかにそう答えた。これから尋問される人物とは到底思えない。
その姿を見て、役人の1人が痺れを切らしたように声を荒げた。
「黙れ、この裏切り者が!」
「何のコトかわかんねぇな、はっきり言ってくれ。ああそうそう、あたしらはお前らたちと違って年食ってないからそんなにデカい声じゃなくても聞こえるぜ」
「この……っ!」
今にも殴り掛かりそうな男を止めたのは秋楽だった。しかし、意外と力がないのか、背後に回っていきなり腕を掴むという奇襲のような方法でどうにか止められた、という感じではあった。
「どうかお静まりください。話が進みません。相手はただの魔導師、貴方が気にすることはないのですから」
「くっ……」
しぶしぶ、といった様子で拳が下ろされた。疲れたのか、秋楽は手を振って息をついている。
「で? 話は?」
どこまでもマイペースに夏希は話し続けた。自分が煽ったというのに、それすら忘れたように見える。退屈なのだろう。癖なのか、毛先を弄っていた。
「昨日の発掘調査についてだ」
答えたのは別の役人だった。集まった役人の中では一番若い。40代ほどの男だ。落ち着いていて、夏希の挑発を気にした様子もない。
「第5研究所は発掘調査中、『白の十一天』に襲撃された。その襲撃犯の中に、和泉真子魔導解析師の部下であり、伊藤天音魔導解析師の同期の姿に化けたものがいた。反魔導主義団体の侵入に気づかなかった和泉及び第5研究所職員、ならびに同期で関与が疑われる伊藤について、話を聞きたい」
「ほーん」
明らかに小馬鹿にした夏希の返事にも、彼は眉一つ動かさなかった。
「虎太郎くらい静かに話してくれてたらこっちも答える気になるわ」
若い男―とは言っても、夏希より二回り近く年上だが―は、「そうか」と呟き、魔導で椅子を出した。
「長くなるだろうし、かけてくれ」
「こりゃどーも」
椅子を出した虎太郎に、噛みつくように反対する者もいたが、軽く手を挙げただけで黙らせる。どうやらなかなかに高位の人物らしい。
「けど多分もう真子が話しただろ? あたしも真子も、研究員たちも気づいてた。零はその時学会でウチにいなかった。天音が気づかなかったのは、まあ、言っちゃアレだが、そもそも同期のコトを覚えてなかったから気づけなかっただけだ。後は実践不足。もう少し後に来てりゃ、天音でも気づいたさ」
「気づいたのに報告しなかったと?」
「真子」
「はいはい」
真子は着物のようになっている魔導衣の袷から、小さな機械が取り出された。ボイスレコーダーだ。魔導考古学省内で壊れることなく形を保っているので、魔導式のものだろう。
「それは?」
「採用面接及び清水夏希魔導復元師の会話を録音したものです。再生いたします」
〈今の……阿部由紀奈さん、異様な魔力が漂っていました。まるで、常に発動しているかのような……採用は控えた方がよいかと〉
〈君の気のせいだろう〉
〈そうだ、お前は黙って上の言うことを聞け!〉
「続けて再生いたしますね」
〈真子が連れてきた……阿部由紀奈? アイツヤバいな。ずっと何かの術を使ってる。どっかのスパイか、反魔導主義団体か……今すぐクビにして監視つけた方がいいぜ〉
〈黙れ、辺境の魔導師が!〉
〈育ててやった恩を忘れたのか!〉
〈そっちこそ、研究結果渡してやった恩忘れたのかよ。まあいい、覚えてろよ〉
「以上です」
真子の美しい笑みが、いやに恐ろしく感じた。役人の内何人かは冷や汗をかいている。それもそうだろう、パワハラで訴えられてもおかしくない内容だ。
「以前からあまりにも酷い態度をとられていましたので、こうして録音しておりました。そうしたら、たまたま、私どもの無実を証明する内容が録音できたものですから、こうして持ってまいりました」
「なるほど。確かに、君たちは無実を証明できそうだ……私もいくつか仕事が出来たな」
虎太郎は声の主を探すように周囲を見渡し、深い溜息をついた。きっと、この後人事異動が行われるのだろう。
「だが、伊藤天音魔導解析師の無実は、どうやって証明する?」
「ウチの監視カメラの映像、虎太郎に送っといた。必要ならメッセージのやりとりも提出する。いいか? 天音」
「は、はい。と言っても、ほとんど無視してしまっていて、内容はありませんが……」
「……そうだな、夏希、君から私に送って欲しい。伊藤さん、君は面倒だろうが夏希にメッセージの内容を送ってくれ」
「あ、ええと、魔導考古学省で電子機器は使えるんですか?」
「一部の部屋では使えるよ。そうでないと、メールの返信もできないからね」
虎太郎の口調が砕け始めていた。天音たちを信頼してくれた、ということか。
「早乙女」
「はっ」
「この4人は、嘘をついていたかな?」
「いいえ」
(役人どもハゲだしてきたなーって夏希が思ってたのと、夏希は今日も可愛らしいって清水が思ってた以外は普通でした)
嘘はついていない。ただ場にそぐわないことを考えていただけだ。言う必要もない。というか、夏希のは言ったら最後、自身が社会的に死ぬ。
「なら、これにて解散……」
「お待ちください」
零が静かに前に出た。
「僕たちにも、聞きたいことがあります。それと、お願いしたいことが1つ」
白手袋に包まれた右手が、まっすぐに人差し指を立てた。
「変わってねぇなぁ、ココ」
「ええ、本当に」
いつものように夏希の横で控えている零が、穏やかにそう答えた。これから尋問される人物とは到底思えない。
その姿を見て、役人の1人が痺れを切らしたように声を荒げた。
「黙れ、この裏切り者が!」
「何のコトかわかんねぇな、はっきり言ってくれ。ああそうそう、あたしらはお前らたちと違って年食ってないからそんなにデカい声じゃなくても聞こえるぜ」
「この……っ!」
今にも殴り掛かりそうな男を止めたのは秋楽だった。しかし、意外と力がないのか、背後に回っていきなり腕を掴むという奇襲のような方法でどうにか止められた、という感じではあった。
「どうかお静まりください。話が進みません。相手はただの魔導師、貴方が気にすることはないのですから」
「くっ……」
しぶしぶ、といった様子で拳が下ろされた。疲れたのか、秋楽は手を振って息をついている。
「で? 話は?」
どこまでもマイペースに夏希は話し続けた。自分が煽ったというのに、それすら忘れたように見える。退屈なのだろう。癖なのか、毛先を弄っていた。
「昨日の発掘調査についてだ」
答えたのは別の役人だった。集まった役人の中では一番若い。40代ほどの男だ。落ち着いていて、夏希の挑発を気にした様子もない。
「第5研究所は発掘調査中、『白の十一天』に襲撃された。その襲撃犯の中に、和泉真子魔導解析師の部下であり、伊藤天音魔導解析師の同期の姿に化けたものがいた。反魔導主義団体の侵入に気づかなかった和泉及び第5研究所職員、ならびに同期で関与が疑われる伊藤について、話を聞きたい」
「ほーん」
明らかに小馬鹿にした夏希の返事にも、彼は眉一つ動かさなかった。
「虎太郎くらい静かに話してくれてたらこっちも答える気になるわ」
若い男―とは言っても、夏希より二回り近く年上だが―は、「そうか」と呟き、魔導で椅子を出した。
「長くなるだろうし、かけてくれ」
「こりゃどーも」
椅子を出した虎太郎に、噛みつくように反対する者もいたが、軽く手を挙げただけで黙らせる。どうやらなかなかに高位の人物らしい。
「けど多分もう真子が話しただろ? あたしも真子も、研究員たちも気づいてた。零はその時学会でウチにいなかった。天音が気づかなかったのは、まあ、言っちゃアレだが、そもそも同期のコトを覚えてなかったから気づけなかっただけだ。後は実践不足。もう少し後に来てりゃ、天音でも気づいたさ」
「気づいたのに報告しなかったと?」
「真子」
「はいはい」
真子は着物のようになっている魔導衣の袷から、小さな機械が取り出された。ボイスレコーダーだ。魔導考古学省内で壊れることなく形を保っているので、魔導式のものだろう。
「それは?」
「採用面接及び清水夏希魔導復元師の会話を録音したものです。再生いたします」
〈今の……阿部由紀奈さん、異様な魔力が漂っていました。まるで、常に発動しているかのような……採用は控えた方がよいかと〉
〈君の気のせいだろう〉
〈そうだ、お前は黙って上の言うことを聞け!〉
「続けて再生いたしますね」
〈真子が連れてきた……阿部由紀奈? アイツヤバいな。ずっと何かの術を使ってる。どっかのスパイか、反魔導主義団体か……今すぐクビにして監視つけた方がいいぜ〉
〈黙れ、辺境の魔導師が!〉
〈育ててやった恩を忘れたのか!〉
〈そっちこそ、研究結果渡してやった恩忘れたのかよ。まあいい、覚えてろよ〉
「以上です」
真子の美しい笑みが、いやに恐ろしく感じた。役人の内何人かは冷や汗をかいている。それもそうだろう、パワハラで訴えられてもおかしくない内容だ。
「以前からあまりにも酷い態度をとられていましたので、こうして録音しておりました。そうしたら、たまたま、私どもの無実を証明する内容が録音できたものですから、こうして持ってまいりました」
「なるほど。確かに、君たちは無実を証明できそうだ……私もいくつか仕事が出来たな」
虎太郎は声の主を探すように周囲を見渡し、深い溜息をついた。きっと、この後人事異動が行われるのだろう。
「だが、伊藤天音魔導解析師の無実は、どうやって証明する?」
「ウチの監視カメラの映像、虎太郎に送っといた。必要ならメッセージのやりとりも提出する。いいか? 天音」
「は、はい。と言っても、ほとんど無視してしまっていて、内容はありませんが……」
「……そうだな、夏希、君から私に送って欲しい。伊藤さん、君は面倒だろうが夏希にメッセージの内容を送ってくれ」
「あ、ええと、魔導考古学省で電子機器は使えるんですか?」
「一部の部屋では使えるよ。そうでないと、メールの返信もできないからね」
虎太郎の口調が砕け始めていた。天音たちを信頼してくれた、ということか。
「早乙女」
「はっ」
「この4人は、嘘をついていたかな?」
「いいえ」
(役人どもハゲだしてきたなーって夏希が思ってたのと、夏希は今日も可愛らしいって清水が思ってた以外は普通でした)
嘘はついていない。ただ場にそぐわないことを考えていただけだ。言う必要もない。というか、夏希のは言ったら最後、自身が社会的に死ぬ。
「なら、これにて解散……」
「お待ちください」
零が静かに前に出た。
「僕たちにも、聞きたいことがあります。それと、お願いしたいことが1つ」
白手袋に包まれた右手が、まっすぐに人差し指を立てた。
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