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新人魔導師、発掘調査に参加する
同日、魔導考古学省の廊下で
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「ではまず、聞きたいこと、というのから聞こうか」
録音内容を再生されてから、虎太郎以外の役人は、顔色を悪くして黙り込んでいた。そのため、彼の声がよく響く。
「ありがとうございます。これは我々が襲撃を受けた際に感じたことなのですが、何故『白の十一天』は遺跡の場所がわかったのでしょうか? 担当の和泉魔導解析師と上層部以外、遺跡の位置は知らないはず。正式採用も決まっていない新人が知るはずがないですよね」
「和泉、君は阿部由紀奈に情報を渡したのかな?」
「いいえ」
「嘘は言っていないようです」
「ありがとう、早乙女」
すぐに秋楽が心を読んで虎太郎に伝える。発動までの速さは、同じ解析師であるはずの天音のそれを超えていた。
「……こちら側の人間が漏らした可能性があるね。もしくはスパイか」
「ええ。かも、しれませんね」
かもしれないとは言いつつも、確実にそうだと思っている口調で零が言った。虎太郎もそれに気づいているようで、さらに仕事が増えたことを憂いていた。
「それで、お願いとは?」
「本物の阿部由紀奈さんを見つけました」
「え!?」
「……伊藤さん?」
「し、失礼いたしました……」
驚きのあまり大きな声を出してしまった天音を、真子が嗜めるように名を呼んだ。
しかし、思わず叫んでしまうほど、天音にとっては重要なことだった。
「化けていたほうの方と少しお話をしまして。本物の阿部由紀奈さんはアジトであったであろう廃屋に監禁されていました。作戦が成功したら全ての罪を被ってもらうつもりだったのでしょうね、縛られてはいましたが、軽傷でした」
絶対にただのお話しじゃない。天音は小さく震えた。
だが、阿部由紀奈が軽傷であるということは嬉しいニュースだった。同期が無実の罪で裁かれるのも、亡くなるのも御免だ。
「それはよかった。それで、今彼女はどこに?」
「ウチにいるよ。んで、こっからがお願い」
「阿部由紀奈さんを、魔導調査師として第5研究所に配属させることはできないでしょうか?」
卒業順位が低い由紀奈を、国立研究所の魔導師として配属することはできない。ならば調査師として配属させられないだろうか、と零は言うのだ。
「理由は?」
「現時点で外傷は治ったものの、うちの魔導医師曰く、心の傷が治っていないようで。また同じ場所に戻るのは逆効果だと判断したようです。魔導医師は貴重ですし、阿部さんはうちの武村を慕っているようです。加えて、我が研究所は同性の研究員も多く安心しやすいでしょう。幸い、そう人数も多くありませんから、部屋も余っております」
恐らく、「家」の2階のことだろう。天音は配属されてから行ったことはないが、雅の自室とあと何部屋かあるらしい。
「なるほど。うん、それなら構わない。むしろお願いしよう」
「ありがとうございます」
綺麗に一礼して、零はこれで話は終わりだとばかりに虎太郎に背を向けた。
その背に、虎太郎が深々と頭を下げ、「申し訳ない……」と苦しそうに呟いた。きっと、彼は最初から夏希たちを信じていたのだろう。けれど、規律や権力が、彼を自由にさせてくれなかったのだ。
虎太郎は、最後に退室する天音が扉を閉めるまで、頭を下げ続けていた。
「……なんだか、虎太郎さん? が可哀そうでした」
「役人ってのは自由がなくて嫌だねぇ」
「夏希、私に言っているのかな?」
「お前にも、お前の兄貴にも」
「……兄?」
天音は目を瞬かせた。あの場に真子の兄がいたのだろうか。だとしたら、ものすごく年の離れたきょうだいだ。
「虎太郎だよ。アイツが兄貴」
「ええええ!? だ、だって、和泉さんって25、6ですよね!?」
「うんそう。兄とは20歳差でね……」
「嘘吐くな、5歳差だろ」
「はっ? え?」
混乱する天音に、夏希は腹を抱えて大笑いをした。その小さな頭を真子が叩く。
「……私は常時発動する固有魔導があってね。それが『不老』なのさ。私が適性判明したときから、容姿だけ老化が止まったんだ」
その説明を受けて、いやに納得してしまった。初めて会ったときに見せた表情、夏希を抱きしめた姿。母親のようだと感じたあれは、間違いではなかったのだ。真子は幼いころに家族と引き離された夏希の母親代わりだったのだろう。
「真子や、はるかとかなたみたいに常時発動する固有魔導も、自分で発動するタイプの固有魔導もあるってコトだ。いい勉強になったな」
「は、はい……」
驚きすぎて呆然としている天音の背中を、夏希が軽く叩いて前に進ませた。
「ほら、進め。由紀奈が待ってんぞ」
「……はい、『帰りましょう』。出土品の整理もしてみたいですし」
天音がそう言うと、夏希が目を丸くして、子どものような笑顔を浮かべた。
「そーだな。帰ろうぜ」
すたすたと歩いて魔導考古学省を出ていく。天音はようやく外せた魔封じの手袋を真子に預けて慌てて後を追った。だが、零に止められる。
「少し、待ってくださいませんか」
「え?」
「夏希は嬉しいんですよ。貴女が、第5研究所を家のように思っていることがわかって」
「どういうことですか?」
「帰りましょう、と言ったでしょう。それです」
夏希の家庭が、あまり恵まれた場所ではなかったこと、家族に愛されなかったことを、天音は少しだが知っている。その分、夏希にとって、家族とは特別なものになった。
そして。天音がその一員として、ごく自然に振舞っていたことが、夏希にとってはたまらなく嬉しかったのだ。
「きっと照れて顔が赤くなって、見られたくないんでしょう。落ち着けば止まってくれますから」
「……可愛いですね、副所長」
「は? やめてください、僕の妻ですよ」
「前も言いましたけど、そういう意味ではないです」
少しずつ、夏希たちのことがわかってきた気がする。最早実家より第5研究所の方が家のような気もしてきた。
「濃い一か月でしたね……なんだか、もう1年たった気持ちです」
「詰め込み教育からの昇級、発掘、襲撃ですからね。明日からは出土品の整理に研究、後輩育成とさらに大忙しですが」
「え、私もう先輩なんですね……困ったな……」
「頼みましたよ、伊藤天音魔導解析師?」
「うぅ……はい」
とぼとぼと天音は歩き出した。入口では、落ち着いたらしい夏希が待っている。
新しい日々に向けて、また一歩踏み出した。
録音内容を再生されてから、虎太郎以外の役人は、顔色を悪くして黙り込んでいた。そのため、彼の声がよく響く。
「ありがとうございます。これは我々が襲撃を受けた際に感じたことなのですが、何故『白の十一天』は遺跡の場所がわかったのでしょうか? 担当の和泉魔導解析師と上層部以外、遺跡の位置は知らないはず。正式採用も決まっていない新人が知るはずがないですよね」
「和泉、君は阿部由紀奈に情報を渡したのかな?」
「いいえ」
「嘘は言っていないようです」
「ありがとう、早乙女」
すぐに秋楽が心を読んで虎太郎に伝える。発動までの速さは、同じ解析師であるはずの天音のそれを超えていた。
「……こちら側の人間が漏らした可能性があるね。もしくはスパイか」
「ええ。かも、しれませんね」
かもしれないとは言いつつも、確実にそうだと思っている口調で零が言った。虎太郎もそれに気づいているようで、さらに仕事が増えたことを憂いていた。
「それで、お願いとは?」
「本物の阿部由紀奈さんを見つけました」
「え!?」
「……伊藤さん?」
「し、失礼いたしました……」
驚きのあまり大きな声を出してしまった天音を、真子が嗜めるように名を呼んだ。
しかし、思わず叫んでしまうほど、天音にとっては重要なことだった。
「化けていたほうの方と少しお話をしまして。本物の阿部由紀奈さんはアジトであったであろう廃屋に監禁されていました。作戦が成功したら全ての罪を被ってもらうつもりだったのでしょうね、縛られてはいましたが、軽傷でした」
絶対にただのお話しじゃない。天音は小さく震えた。
だが、阿部由紀奈が軽傷であるということは嬉しいニュースだった。同期が無実の罪で裁かれるのも、亡くなるのも御免だ。
「それはよかった。それで、今彼女はどこに?」
「ウチにいるよ。んで、こっからがお願い」
「阿部由紀奈さんを、魔導調査師として第5研究所に配属させることはできないでしょうか?」
卒業順位が低い由紀奈を、国立研究所の魔導師として配属することはできない。ならば調査師として配属させられないだろうか、と零は言うのだ。
「理由は?」
「現時点で外傷は治ったものの、うちの魔導医師曰く、心の傷が治っていないようで。また同じ場所に戻るのは逆効果だと判断したようです。魔導医師は貴重ですし、阿部さんはうちの武村を慕っているようです。加えて、我が研究所は同性の研究員も多く安心しやすいでしょう。幸い、そう人数も多くありませんから、部屋も余っております」
恐らく、「家」の2階のことだろう。天音は配属されてから行ったことはないが、雅の自室とあと何部屋かあるらしい。
「なるほど。うん、それなら構わない。むしろお願いしよう」
「ありがとうございます」
綺麗に一礼して、零はこれで話は終わりだとばかりに虎太郎に背を向けた。
その背に、虎太郎が深々と頭を下げ、「申し訳ない……」と苦しそうに呟いた。きっと、彼は最初から夏希たちを信じていたのだろう。けれど、規律や権力が、彼を自由にさせてくれなかったのだ。
虎太郎は、最後に退室する天音が扉を閉めるまで、頭を下げ続けていた。
「……なんだか、虎太郎さん? が可哀そうでした」
「役人ってのは自由がなくて嫌だねぇ」
「夏希、私に言っているのかな?」
「お前にも、お前の兄貴にも」
「……兄?」
天音は目を瞬かせた。あの場に真子の兄がいたのだろうか。だとしたら、ものすごく年の離れたきょうだいだ。
「虎太郎だよ。アイツが兄貴」
「ええええ!? だ、だって、和泉さんって25、6ですよね!?」
「うんそう。兄とは20歳差でね……」
「嘘吐くな、5歳差だろ」
「はっ? え?」
混乱する天音に、夏希は腹を抱えて大笑いをした。その小さな頭を真子が叩く。
「……私は常時発動する固有魔導があってね。それが『不老』なのさ。私が適性判明したときから、容姿だけ老化が止まったんだ」
その説明を受けて、いやに納得してしまった。初めて会ったときに見せた表情、夏希を抱きしめた姿。母親のようだと感じたあれは、間違いではなかったのだ。真子は幼いころに家族と引き離された夏希の母親代わりだったのだろう。
「真子や、はるかとかなたみたいに常時発動する固有魔導も、自分で発動するタイプの固有魔導もあるってコトだ。いい勉強になったな」
「は、はい……」
驚きすぎて呆然としている天音の背中を、夏希が軽く叩いて前に進ませた。
「ほら、進め。由紀奈が待ってんぞ」
「……はい、『帰りましょう』。出土品の整理もしてみたいですし」
天音がそう言うと、夏希が目を丸くして、子どものような笑顔を浮かべた。
「そーだな。帰ろうぜ」
すたすたと歩いて魔導考古学省を出ていく。天音はようやく外せた魔封じの手袋を真子に預けて慌てて後を追った。だが、零に止められる。
「少し、待ってくださいませんか」
「え?」
「夏希は嬉しいんですよ。貴女が、第5研究所を家のように思っていることがわかって」
「どういうことですか?」
「帰りましょう、と言ったでしょう。それです」
夏希の家庭が、あまり恵まれた場所ではなかったこと、家族に愛されなかったことを、天音は少しだが知っている。その分、夏希にとって、家族とは特別なものになった。
そして。天音がその一員として、ごく自然に振舞っていたことが、夏希にとってはたまらなく嬉しかったのだ。
「きっと照れて顔が赤くなって、見られたくないんでしょう。落ち着けば止まってくれますから」
「……可愛いですね、副所長」
「は? やめてください、僕の妻ですよ」
「前も言いましたけど、そういう意味ではないです」
少しずつ、夏希たちのことがわかってきた気がする。最早実家より第5研究所の方が家のような気もしてきた。
「濃い一か月でしたね……なんだか、もう1年たった気持ちです」
「詰め込み教育からの昇級、発掘、襲撃ですからね。明日からは出土品の整理に研究、後輩育成とさらに大忙しですが」
「え、私もう先輩なんですね……困ったな……」
「頼みましたよ、伊藤天音魔導解析師?」
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