67 / 140
新人魔導師、後輩ができる
5月20日、後輩と魔導医師、技術班副班長と
しおりを挟む
天音が恭平の論文を理解するのに10日がかかった。ひたすら語り続ける恭平から、疑問点などを纏めたノートを作り、資料室や書斎に籠って勉強した。その頃には皆発掘調査後の研究も落ち着いていたので、あちこちに質問して回った。
「や、やっとだ……」
コピーをとっておいてよかった。書き込みやマーカーでびっしり埋められた論文を見てそう思う。
しかし、1つの論文に10日とは。勉強はしてきたつもりだが、まだまだのようだ。
以前の天音ならここで挫けるかふてくされるかのどちらかだったに違いない。しかし、今はわかること、できることが増えて清々しい気持ちですらある。成長したなあ、と他人事のように感じた。自分が思っている以上に自身の内面の成長が速い気がする。
「さて、と」
次は透の論文に取り掛かろう。そう考えていると、コンコンコンコンと忙しないノックの音の後に、
「天音ちゃん、入っていい!?」
由紀奈の早口の大声が聞こえた。珍しいこともあるものだ。驚きながらも、どうぞと返す。魔導ロックが解除されて、由紀奈が入って来た。その後ろに雅と、部屋には入ってこないが近くにはいる透が見える。女性の部屋には入らないようにしているらしい。魔導衣さえ関わらなければ、彼は本当に常識人である。
「ゆ、由紀奈ちゃん!?」
今度は天音が大声を上げる番だった。
何故なら、由紀奈は魔導衣を着ていたからである。
「あれから私、先生にいっぱい教えてもらって……ギリギリだけど、魔導解読師になれたの!」
「えええええ!? は、早! あ、いや、おめでとう!」
スピード出世が過ぎる……が、よくよく見ると由紀奈、雅、透の三者の隈がすごい。とにかく詰め込み、最短ルートでいったのだろう。
由紀奈の魔導衣はナース服のようだった。しっかりと入ったスリットは見なかったことにする。腕には魔導看護師を示す腕章があった。そちらの試験にも合格したようだ。
「実際の看護師さんはもうナースキャップを被ってないですけど、これはあくまで魔導衣なんでつけてみました。魔導耐久値が上がりますからね断じて僕の趣味だからではないですが。ノースリーブに長手袋なのは動きやすさと、やはり腕の魔導耐久値向上のためです」
一息に言い切った透を見て、ああ趣味なんだ、と納得した。似合ってはいるし、着ている本人も嬉しそうなので何も言わないことにする。
「これで調査師じゃなくて魔導師として次の発掘調査に参加できるの!」
「おめでとう! すごいね、最短記録じゃない?」
「うむ、魔導考古学省の奴ら、驚いておったぞ。ま、わらわにかかれば朝飯前じゃ!」
「頑張ったのは由紀奈さんでしょ」
魔導衣の説明が終わったからか、はたまた眠くなってきたからか、比較的落ち着いた声の透が静かに訂正した。雅は「当然、わらわの弟子じゃ!」と何故か本人より堂々としている。
「それでね、これ、副所長さんからの伝言なんだけど……」
由紀奈は折りたたまれた紙を手渡してきた。作業指示だろうか?
開いてみると、紙には何も書かれていない。首を傾げていると、紙は小さな夏希の姿をとり、話し始めた。
「スピード出世のお2人に、副所長からお祝いのメッセージと……課題をお届けするぜ」
2人して顔を見合わす。高度な術もそうだが、内容が気になって仕方がない。
「まずは、さっきも直接伝えたけど、おめでとう、由紀奈。こんなに早く出世したのは魔導元年以来2人目だそうだ。誇っていいぞ」
「副所長さん……」
由紀奈の目が潤む。嬉しそうだ。
「んで、こっからが課題のお話」
潤んでいたはずの目が瞬く間に乾いていく。不安そうに瞬きが増えている。天音もまた、「2人」と言われたことに困惑していた。一体、何があるというのだろうか。
「次回の発掘調査が決まった。場所は、第1回に希望していたトコだ。首都外れの乙種遺跡。流石に断る理由がなくなったんだろうな、今回は何の条件もなかった」
くく、と悪役じみた夏希の笑い声がする。そんなに細かなところまで再現されるのか。どういった術なのか気になった。
「さて、スピード出世した由紀奈だが、当然実践経験が足りてねぇ」
「うう、それは……」
「天音も、まだ紙なしじゃ術が発動できねぇ」
「くぅ……」
2人して俯いてしまった。雅が息ぴったりの2人を見て笑っているのと、それを窘める透の声がする。
「つーわけで、2人でひたすら実践訓練。天音は1回は現場に出てるんだ、少しだけど先輩だな。教えてやれることは教えてやれ」
「は、はい」
「由紀奈はとにかく医療魔導以外を磨け。そっちは才能あるって雅のお墨付きだ、自信もっていい。けど、最悪自分の身を守れる程度にはなっておけ。雅は医療魔導以外苦手だが、まあ自衛はできるくらいのレベルだ。そこ目指せ」
「余計なことを言いおって」
雅がふてくされたように言った。しかし、あくまで伝言の術なので何も返答はない。
「以上。質問あったらあたしのトコに来い」
言い終わると、小さな夏希は見えなくなってしまった。紙は薔薇の花びらのようにひらりと舞って、床に落ちる前に消えていく。
「……忙しくなるよ、由紀奈ちゃん」
「お、お手柔らかにお願いしますぅ……」
震える由紀奈だが、生憎、詰め込みスパルタ方法しか知らぬ天音の辞書には、「お手柔らか」という文字は存在しないことを、彼女は明日から知ることになる。
「や、やっとだ……」
コピーをとっておいてよかった。書き込みやマーカーでびっしり埋められた論文を見てそう思う。
しかし、1つの論文に10日とは。勉強はしてきたつもりだが、まだまだのようだ。
以前の天音ならここで挫けるかふてくされるかのどちらかだったに違いない。しかし、今はわかること、できることが増えて清々しい気持ちですらある。成長したなあ、と他人事のように感じた。自分が思っている以上に自身の内面の成長が速い気がする。
「さて、と」
次は透の論文に取り掛かろう。そう考えていると、コンコンコンコンと忙しないノックの音の後に、
「天音ちゃん、入っていい!?」
由紀奈の早口の大声が聞こえた。珍しいこともあるものだ。驚きながらも、どうぞと返す。魔導ロックが解除されて、由紀奈が入って来た。その後ろに雅と、部屋には入ってこないが近くにはいる透が見える。女性の部屋には入らないようにしているらしい。魔導衣さえ関わらなければ、彼は本当に常識人である。
「ゆ、由紀奈ちゃん!?」
今度は天音が大声を上げる番だった。
何故なら、由紀奈は魔導衣を着ていたからである。
「あれから私、先生にいっぱい教えてもらって……ギリギリだけど、魔導解読師になれたの!」
「えええええ!? は、早! あ、いや、おめでとう!」
スピード出世が過ぎる……が、よくよく見ると由紀奈、雅、透の三者の隈がすごい。とにかく詰め込み、最短ルートでいったのだろう。
由紀奈の魔導衣はナース服のようだった。しっかりと入ったスリットは見なかったことにする。腕には魔導看護師を示す腕章があった。そちらの試験にも合格したようだ。
「実際の看護師さんはもうナースキャップを被ってないですけど、これはあくまで魔導衣なんでつけてみました。魔導耐久値が上がりますからね断じて僕の趣味だからではないですが。ノースリーブに長手袋なのは動きやすさと、やはり腕の魔導耐久値向上のためです」
一息に言い切った透を見て、ああ趣味なんだ、と納得した。似合ってはいるし、着ている本人も嬉しそうなので何も言わないことにする。
「これで調査師じゃなくて魔導師として次の発掘調査に参加できるの!」
「おめでとう! すごいね、最短記録じゃない?」
「うむ、魔導考古学省の奴ら、驚いておったぞ。ま、わらわにかかれば朝飯前じゃ!」
「頑張ったのは由紀奈さんでしょ」
魔導衣の説明が終わったからか、はたまた眠くなってきたからか、比較的落ち着いた声の透が静かに訂正した。雅は「当然、わらわの弟子じゃ!」と何故か本人より堂々としている。
「それでね、これ、副所長さんからの伝言なんだけど……」
由紀奈は折りたたまれた紙を手渡してきた。作業指示だろうか?
開いてみると、紙には何も書かれていない。首を傾げていると、紙は小さな夏希の姿をとり、話し始めた。
「スピード出世のお2人に、副所長からお祝いのメッセージと……課題をお届けするぜ」
2人して顔を見合わす。高度な術もそうだが、内容が気になって仕方がない。
「まずは、さっきも直接伝えたけど、おめでとう、由紀奈。こんなに早く出世したのは魔導元年以来2人目だそうだ。誇っていいぞ」
「副所長さん……」
由紀奈の目が潤む。嬉しそうだ。
「んで、こっからが課題のお話」
潤んでいたはずの目が瞬く間に乾いていく。不安そうに瞬きが増えている。天音もまた、「2人」と言われたことに困惑していた。一体、何があるというのだろうか。
「次回の発掘調査が決まった。場所は、第1回に希望していたトコだ。首都外れの乙種遺跡。流石に断る理由がなくなったんだろうな、今回は何の条件もなかった」
くく、と悪役じみた夏希の笑い声がする。そんなに細かなところまで再現されるのか。どういった術なのか気になった。
「さて、スピード出世した由紀奈だが、当然実践経験が足りてねぇ」
「うう、それは……」
「天音も、まだ紙なしじゃ術が発動できねぇ」
「くぅ……」
2人して俯いてしまった。雅が息ぴったりの2人を見て笑っているのと、それを窘める透の声がする。
「つーわけで、2人でひたすら実践訓練。天音は1回は現場に出てるんだ、少しだけど先輩だな。教えてやれることは教えてやれ」
「は、はい」
「由紀奈はとにかく医療魔導以外を磨け。そっちは才能あるって雅のお墨付きだ、自信もっていい。けど、最悪自分の身を守れる程度にはなっておけ。雅は医療魔導以外苦手だが、まあ自衛はできるくらいのレベルだ。そこ目指せ」
「余計なことを言いおって」
雅がふてくされたように言った。しかし、あくまで伝言の術なので何も返答はない。
「以上。質問あったらあたしのトコに来い」
言い終わると、小さな夏希は見えなくなってしまった。紙は薔薇の花びらのようにひらりと舞って、床に落ちる前に消えていく。
「……忙しくなるよ、由紀奈ちゃん」
「お、お手柔らかにお願いしますぅ……」
震える由紀奈だが、生憎、詰め込みスパルタ方法しか知らぬ天音の辞書には、「お手柔らか」という文字は存在しないことを、彼女は明日から知ることになる。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
没落港の整備士男爵 ~「構造解析」スキルで古代設備を修理(レストア)したら、大陸一の物流拠点になり、王家も公爵家も頭が上がらなくなった件~
namisan
ファンタジー
大陸の南西端に位置するベルナ子爵領。
かつては貿易で栄えたこの港町も、今は見る影もない。
海底には土砂が堆積して大型船は入港できず、倉庫街は老朽化し、特産品もない。借金まみれの父と、諦めきった家臣たち。そこにあるのは、緩やかな「死」だけだった。
そんな没落寸前の領地の嫡男、アレン(16歳)に転生した主人公には、前世の記憶があった。
それは、日本で港湾管理者兼エンジニアとして働き、現場で散った「整備士」としての知識。
そして、彼にはもう一つ、この世界で目覚めた特異な能力があった。
対象の構造や欠陥、魔力の流れが設計図のように視えるスキル――【構造解析】。
「壊れているなら、直せばいい。詰まっているなら、通せばいい」
アレンは錆びついた古代の「浚渫(しゅんせつ)ゴーレム」を修理して港を深く掘り直し、魔導冷却庫を「熱交換の最適化」で復活させて、腐るだけだった魚を「最高級の輸出品」へと変えていく。
ドケチな家令ガルシアと予算を巡って戦い、荒くれ者の港湾長ゲンと共に泥にまみれ、没落商会の女主人メリッサと手を組んで販路を開拓する。
やがてその港には、陸・海・空の物流革命が巻き起こる。
揺れない「サスペンション馬車」が貴族の移動を変え、「鮮度抜群の魚介グルメ」が王族の胃袋を掴み、気性の荒いワイバーンを手懐けた「空輸便」が世界を結ぶ。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる