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新人魔導師、後輩ができる
5月21日、努力家の後輩と
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「ひとまず、テストをしてみようと思うんだ」
翌日、始業時間になると、天音は「家」の由紀奈の部屋を訪れた。手には大量の紙の束。由紀奈が理論派か感覚派かはわからないが、知識が定着しているか、発掘調査についてどこまで知っているかを知る必要があると思ったのだ。
「ええと、これは……?」
「私のノートから作ったの。ここに配属されてから、メモすることたくさんあったし」
「それ全部……?」
「そうだよ?」
由紀奈は顔を引き攣らせ、それでも天音を傷つけないように言葉を選んでいる。
それもそのはず、天音は大学ノート4冊を抱え、そこから作ったのであろうテストの束と、復習用と思われるプリントを用意していたのだ。
「これなら、知識面で私が学んだことは全部わかるはずだよ!」
「あ……ありが、とう……」
1枚1枚は軽い紙でも、束になればそこそこ重い。天音の好意には応えたいが、やりきれるだろうか。
「これは空いた時間にやってくれればいいよ! じゃあ、今日のメニューね」
「えっと、これは今日のじゃないのかな……?」
「調査の前日までの分だから安心して。5月31日が発掘調査だから、30日までね!」
あと約1週間あるが、それでもやりきれるかわからない。天音の勉強量を甘く見ていた由紀奈は軽く気絶しそうになった。これにプラスして休日は語学学習をしていたというのだから、恐ろしい。
しかし、天音からしてみれば、これはまだ優しい方であった。昇級して魔導航空免許取って体力育成して……という先月を思い出せば、まだ楽なはずだ。
「由紀奈ちゃんは医療班だから、多分武村さんと一緒にテントで待機だと思うの」
「あ、ええと、負傷者が出たときに備えてるんだよね……」
「そう。それで、万が一襲撃されたときのために、自衛の手段だけ覚えておこう」
「どうやって……?」
「え? 実践」
さらりと流すように言われたそれに、由紀奈はまた軽く気絶しそうになった。この一月で天音に何があったのだろう。発言が完全に脳筋になっている。
天音はそれに気づかず、夏希から支給されたジャージ2人分を取り出した。
「これが由紀奈ちゃんのね。副所長が作ってくれたから後でお礼言っておいて」
「あ……私の高校のときのジャージだ……」
デザインは苦手、という夏希は、今回もそれぞれの学生時代のジャージを参考に作ったらしい。天音の先代のジャージは訓練でお亡くなりになったので、中学バージョンから高校バージョンに進化した。
「私、紙無しで発動練習するから、由紀奈ちゃんは防御の術使いながら走ってみよう。安全なところまで逃げるにはそれが必要だと思うの」
「走るって……どれくらい?」
「うーん……私最初は、身体強化の術使いながら走ったらトレーニングルーム8周でダウンしたなぁ。だから由紀奈ちゃんは7周目指そう!」
「トレーニングルームって、どれくらいの大きさ……?」
「体育館よりちょっと小さい感じかな」
ちなみに、今の天音は発動しながら15周は走れる。その半分を目標にしよう、と軽めのメニューを伝えたつもりだが、由紀奈は俯いていた。初めての実践訓練が不安なのかもしれない。元気づけようと、
「今日はそれとプリントだけでいいからね!」
と声をかけたが、由紀奈の表情が晴れることはなかった。
その日の夕刻、医務室に入っていく由紀奈を見かけた。筋肉痛が酷いのだろうか。声をかけようとしたが、雅の怒声が聞こえてきたので思わず固まる。
「そなたのせいじゃぞ!」
「や、まあ、それは反省してるって、ホントに……」
叱られているのは夏希だった。どちらかと言うと叱られることの多い雅と、叱る側の夏希のはずだが、今日はそれが反転している。
「ドクターストップじゃ、明日は休ませるように!」
「ごめん、由紀奈……」
「い、いえ……天音ちゃんも、一生懸命教えてくれただけですし……私がそれについていけなかっただけなので……」
「いいや、夏希のせいじゃ。こやつの規格外の体力と魔力を見てしまったが故に、天音の感覚がおかしくなっとるのじゃ。気づいてはおらんが、あやつは最早すっかりうちに馴染んで色々と価値観が壊れているところもあるからの」
……私、価値観壊れてるの?
思わず1人小さく呟いてしまったが、少しして納得する。確かに、超のつく一流の魔導師が近くにいるのだ。基準がそこになってしまっているのかもしれない。
「天音もまた適性値上がってきてるしなぁ。抜かされる日も近い」
「流石にそれはないわ、自身の適性値を思い出せ」
由紀奈の処置をしているのか、ピンク色の魔力が光った。ほう、と楽になったように息をついているのが聞こえる。
「私……適性値、上がってるんだ……」
嬉しさのあまり小躍りしそうだった。
だった、と言うのも、天音が医務室近くで固まっているのに気配で気づいた夏希が、瞬間移動して目の前に現れたからである。
「よう、入りづれぇのはわかるが立ち聞きはどうかと思うぜ」
「す、すみません」
「ほら入んな」
ぐい、と押されて室内へ入った。医務室のベッドに、由紀奈が腰かけている。
「ごめんね由紀奈ちゃん! 明日からはもっと軽いメニューにするからね!」
「う、うん!」
そういう天音だったが、雅の、
「明日は座学以外は禁止じゃ!」
という一言でかき消されるのだった。
後輩育成というのも、楽ではない。天音はそのことを学んだ。
翌日、始業時間になると、天音は「家」の由紀奈の部屋を訪れた。手には大量の紙の束。由紀奈が理論派か感覚派かはわからないが、知識が定着しているか、発掘調査についてどこまで知っているかを知る必要があると思ったのだ。
「ええと、これは……?」
「私のノートから作ったの。ここに配属されてから、メモすることたくさんあったし」
「それ全部……?」
「そうだよ?」
由紀奈は顔を引き攣らせ、それでも天音を傷つけないように言葉を選んでいる。
それもそのはず、天音は大学ノート4冊を抱え、そこから作ったのであろうテストの束と、復習用と思われるプリントを用意していたのだ。
「これなら、知識面で私が学んだことは全部わかるはずだよ!」
「あ……ありが、とう……」
1枚1枚は軽い紙でも、束になればそこそこ重い。天音の好意には応えたいが、やりきれるだろうか。
「これは空いた時間にやってくれればいいよ! じゃあ、今日のメニューね」
「えっと、これは今日のじゃないのかな……?」
「調査の前日までの分だから安心して。5月31日が発掘調査だから、30日までね!」
あと約1週間あるが、それでもやりきれるかわからない。天音の勉強量を甘く見ていた由紀奈は軽く気絶しそうになった。これにプラスして休日は語学学習をしていたというのだから、恐ろしい。
しかし、天音からしてみれば、これはまだ優しい方であった。昇級して魔導航空免許取って体力育成して……という先月を思い出せば、まだ楽なはずだ。
「由紀奈ちゃんは医療班だから、多分武村さんと一緒にテントで待機だと思うの」
「あ、ええと、負傷者が出たときに備えてるんだよね……」
「そう。それで、万が一襲撃されたときのために、自衛の手段だけ覚えておこう」
「どうやって……?」
「え? 実践」
さらりと流すように言われたそれに、由紀奈はまた軽く気絶しそうになった。この一月で天音に何があったのだろう。発言が完全に脳筋になっている。
天音はそれに気づかず、夏希から支給されたジャージ2人分を取り出した。
「これが由紀奈ちゃんのね。副所長が作ってくれたから後でお礼言っておいて」
「あ……私の高校のときのジャージだ……」
デザインは苦手、という夏希は、今回もそれぞれの学生時代のジャージを参考に作ったらしい。天音の先代のジャージは訓練でお亡くなりになったので、中学バージョンから高校バージョンに進化した。
「私、紙無しで発動練習するから、由紀奈ちゃんは防御の術使いながら走ってみよう。安全なところまで逃げるにはそれが必要だと思うの」
「走るって……どれくらい?」
「うーん……私最初は、身体強化の術使いながら走ったらトレーニングルーム8周でダウンしたなぁ。だから由紀奈ちゃんは7周目指そう!」
「トレーニングルームって、どれくらいの大きさ……?」
「体育館よりちょっと小さい感じかな」
ちなみに、今の天音は発動しながら15周は走れる。その半分を目標にしよう、と軽めのメニューを伝えたつもりだが、由紀奈は俯いていた。初めての実践訓練が不安なのかもしれない。元気づけようと、
「今日はそれとプリントだけでいいからね!」
と声をかけたが、由紀奈の表情が晴れることはなかった。
その日の夕刻、医務室に入っていく由紀奈を見かけた。筋肉痛が酷いのだろうか。声をかけようとしたが、雅の怒声が聞こえてきたので思わず固まる。
「そなたのせいじゃぞ!」
「や、まあ、それは反省してるって、ホントに……」
叱られているのは夏希だった。どちらかと言うと叱られることの多い雅と、叱る側の夏希のはずだが、今日はそれが反転している。
「ドクターストップじゃ、明日は休ませるように!」
「ごめん、由紀奈……」
「い、いえ……天音ちゃんも、一生懸命教えてくれただけですし……私がそれについていけなかっただけなので……」
「いいや、夏希のせいじゃ。こやつの規格外の体力と魔力を見てしまったが故に、天音の感覚がおかしくなっとるのじゃ。気づいてはおらんが、あやつは最早すっかりうちに馴染んで色々と価値観が壊れているところもあるからの」
……私、価値観壊れてるの?
思わず1人小さく呟いてしまったが、少しして納得する。確かに、超のつく一流の魔導師が近くにいるのだ。基準がそこになってしまっているのかもしれない。
「天音もまた適性値上がってきてるしなぁ。抜かされる日も近い」
「流石にそれはないわ、自身の適性値を思い出せ」
由紀奈の処置をしているのか、ピンク色の魔力が光った。ほう、と楽になったように息をついているのが聞こえる。
「私……適性値、上がってるんだ……」
嬉しさのあまり小躍りしそうだった。
だった、と言うのも、天音が医務室近くで固まっているのに気配で気づいた夏希が、瞬間移動して目の前に現れたからである。
「よう、入りづれぇのはわかるが立ち聞きはどうかと思うぜ」
「す、すみません」
「ほら入んな」
ぐい、と押されて室内へ入った。医務室のベッドに、由紀奈が腰かけている。
「ごめんね由紀奈ちゃん! 明日からはもっと軽いメニューにするからね!」
「う、うん!」
そういう天音だったが、雅の、
「明日は座学以外は禁止じゃ!」
という一言でかき消されるのだった。
後輩育成というのも、楽ではない。天音はそのことを学んだ。
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