【完結】国立第5魔導研究所の研究日誌

九条美香

文字の大きさ
76 / 140
新人魔導師、2回目の発掘調査に参加する

同日、調査班作戦変更

しおりを挟む
 由紀奈たちが戦闘を開始し、少し経った頃。天音たちの作戦会議が終了した。双子たちと伝言の術を使いながら行った会議は、ものの数分で終わった。

 まず、零が囮として飛び出す。そこへ夏希率いる調査班がそれぞれ異なる場所から攻撃する、という非常にシンプルなものだった。飛行の得意な夏希、恭平、それと箒で飛行能力が上昇している天音は上空から、その他は地上から。それに全員が同意した。

「では、そのとおりに……ん?」

 作戦を開始しようとした途端、零が何かに気づいたようだ。不自然に言葉が止まる。夏希も同じようで、自身のやってきた方向を睨みつけている。

「作戦変更。恭平が囮、天音が上空、それ以外が地上。あたしと零には客が来た」
「客……?」
「気にすんな、行け」

 夏希たちを信じている研究員は、特に疑問を持たずに頷いて、それぞれ飛び出していった。天音もその1人だ。だが、どうしても不安が拭えなかった。あの2人は天音とは比べものにならないくらい強い。けれど、その2人を狙うくらいなのだから、よほど強い敵なのではないだろうか。心配しても仕方のないことだが、それでもやはり不安だった。

「お気をつけて!」

 そう叫ぶように言うと、天音は箒に跨って飛び出していった。

「お気をつけて、だってさ」
「ふふ、久しぶりに聞いた気がします」
「ったく、言うようになりやがって」

 悪態をつくようだが、夏希の表情は柔らかい。純粋に、心配されたことが嬉しかったのだろう。雅もそうだが、夏希もまた、ツンデレの気がある。

「お前はそっち、あたしはこっちな」
「ええ」

 夏希がお互いがやってきた方向を指し示すと、零は頷いて彼女とは正反対の方角へ歩き始めた。自身を狙う、敵に向かって。










 天音は高く飛び、杖に魔力を流し込んでは得意の炎や氷の術を発動した。石などを呼び寄せては落とす地味な方法での攻撃も試した。

 そうしていると、ふいに視界に白が入った。夏希か、そう思って下を見ると、真っ白な衣装に身を包んだ女性が、木の上に1人、立っていた。

「ひっ……」

 思わず恐怖の声が出る。それもそのはず、女性は目の前の戦闘を、とにかく楽しそうに見つめていた。傷つく第5研究所の職員や、「白の十一天」、双方の怪我人を見て、これより楽しいものはない、という風に笑っていた。

 ともあれ、彼女が「白の十一天」なのは間違いない。真っ白な衣装がそれを物語っている。だが、他の者とは異なるワンピースのような白の衣装からして、かなり高位の人物だろう。天音では勝てない相手かもしれない。増援を呼ぼうとしたとき、女性が何かを呟いた。高度差もあって、何を言っているのか正確にはわからない。だが、口の動きからして、

「み、つ、け、た……?」

 何を見つけたのだろう。まさか自分?
 いや、零と夏希を差し置いて自分が狙われるなんてあり得るだろうか。
 考えていると、女性が何か合図をした。

「なっ!?」

 合図と同時に、「白の十一天」の攻撃が天音に集中する。箒から落ちそうになった天音を救ったのは、初めてできた友人と、気だるげな先輩だった。

「天音ちゃんに、手出しはさせないんだから!」
「よっと。はい、行けます?」

 天音を支えて箒から落ちないようにしてくれたのは恭平、敵に何らかの術をかけてくれたのは由紀奈だ。一体何の術だろう、そう思っていると、恭平が笑って答えた。

「体力を奪う固有魔導らしいです」
「由紀奈ちゃん、もう固有魔導が……?」
「ね、早い」

 さらりと言われた言葉に、祝いたい気持ちと焦る気持ち、両方が生まれる。しかし、今はそんな場合ではない。気持ちを切り替えて、先ほどの女性について報告する。

「白い服の女……か。今はもう完全に逃げられてますね」
「そんな……」
「まあでも、リーダーとかかもしれませんし。後で報告しときましょ」
「はい」

 体勢を立て直して、天音は再び杖を構えた。残る敵はあと20人ほどである。ここまで残っている相手なので、なかなかの手練れのようだ。

「んじゃ、オレも本気出しますかね」

 恭平がそう言って、手元に刀を出した。研究所から呼び寄せたのだろう。遠距離であってもすぐさま呼び寄せられる彼の腕に驚く。

「オレの固有魔導はバーサーカー、まあようするに理性のリミッターを外して、100パーセントの力で戦い続ける術です。味方は攻撃しないんで安心してください。ただ、魔力が尽きるくらいまで暴れるんで、必要だったら止めて欲しいです。一応、由紀奈サンには伝えてるんですけど、それでも止まらなかったらお願いします」

 水色が光る。次の瞬間には、恭平は地上で刀を振るっていた。倒されていく敵。普段の彼からは想像できない程の荒々しい様子に、天音は目を丸くした。

 魔力が尽きかける。魔導師にとっては危険な状態だ。だが、それすら気にせずに戦い続けてしまうという彼の固有魔導は、強力だが恐ろしいものだった。みるみるうちに敵は倒され、地に伏していく。何人かは雅によって治療が施され、襲撃についての尋問を受けていた。だが、大多数が気絶し、碌に会話もできないような状態だ。

 ついに最後の1人が倒され、同時に由紀奈が恭平に術を放った。体力が奪われた恭平は暴れることができなくなり、そのまま倒れ込む。疲れ果てて眠ったようで、和馬が担いで運んでいる。

 天音は降下し、由紀奈のもとへ向かった。

「天音ちゃん! 怪我してない?」
「私は大丈夫。それより恭平さんは?」
「ちょっと切り傷があるくらい。他の皆も軽傷だって、先生が言ってた」
「そっか。よかった……あ、固有魔導、使えるようになったんだってね。おめでとう。あのときは助かったよ、ありがとう」

 悔しい気持ちもあるが、助かったのは本当のことだ。天音は由紀奈の手をとって、礼を言った。

「追い込まれたせいかな、使えるようになったの! 役に立ててよかった!」

 心の底から役に立てたことを喜んでいる由紀奈を見ていると、嫉妬している自分が恥ずかしくなってきて、天音は思わず俯いた。

「疲れたよね、こっちで休もう」

 テントへ手を引いてくれる由紀奈に、天音は何も言えなかった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

没落港の整備士男爵 ~「構造解析」スキルで古代設備を修理(レストア)したら、大陸一の物流拠点になり、王家も公爵家も頭が上がらなくなった件~

namisan
ファンタジー
大陸の南西端に位置するベルナ子爵領。 かつては貿易で栄えたこの港町も、今は見る影もない。 海底には土砂が堆積して大型船は入港できず、倉庫街は老朽化し、特産品もない。借金まみれの父と、諦めきった家臣たち。そこにあるのは、緩やかな「死」だけだった。 そんな没落寸前の領地の嫡男、アレン(16歳)に転生した主人公には、前世の記憶があった。 それは、日本で港湾管理者兼エンジニアとして働き、現場で散った「整備士」としての知識。 そして、彼にはもう一つ、この世界で目覚めた特異な能力があった。 対象の構造や欠陥、魔力の流れが設計図のように視えるスキル――【構造解析】。 「壊れているなら、直せばいい。詰まっているなら、通せばいい」 アレンは錆びついた古代の「浚渫(しゅんせつ)ゴーレム」を修理して港を深く掘り直し、魔導冷却庫を「熱交換の最適化」で復活させて、腐るだけだった魚を「最高級の輸出品」へと変えていく。 ドケチな家令ガルシアと予算を巡って戦い、荒くれ者の港湾長ゲンと共に泥にまみれ、没落商会の女主人メリッサと手を組んで販路を開拓する。 やがてその港には、陸・海・空の物流革命が巻き起こる。 揺れない「サスペンション馬車」が貴族の移動を変え、「鮮度抜群の魚介グルメ」が王族の胃袋を掴み、気性の荒いワイバーンを手懐けた「空輸便」が世界を結ぶ。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

処理中です...