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新人魔導師、2回目の発掘調査に参加する
同日、所長、副所長、戦闘開始
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「外は片付いた頃ですかねぇ」
目の前に武器を構えた男がいるというのに、零はのんびりと言った。浮かぶ表情は穏やかなもので、まったく恐怖を感じていないようだ。
「第5研究所所長、清水零だな」
「ええ」
にっこりと微笑み、いつものように胸に手をあてながら、零は隠すことなく答えた。さりげなく利き手である右手だけは空けている。
「いや、西沢零といったほうがいいか」
男がその名を口にした瞬間、零の纏う雰囲気が変化した。目にもとまらぬ速さで男の持つ剣を蹴り飛ばし、その喉元に右手の指を突き付ける。魔導師にとって、それは銃口を突き付けるのと同じ力を持つ。それほどまでに零は怒り、同時に、珍しいことだがひどく焦っていた。
「……僕の父を、知っているのですか? だとしたら、気安くその名を呼ばない方がいい。僕は親しい人物以外に父の話をされるのが嫌いなんです」
そこまで言って、一度深呼吸をする。冷静さを失ってはならない。自分には守るべき妻と部下たちがいるのだ。激情に駆られて役目を忘れてはいけない。そう自分に言い聞かせて、男を尋問する。
「……貴方のお仲間が第1研究所にいるのでしょうか? 魔導考古学省以外にもいると?」
零の父が、あの西沢健一だと知る者は少ない。第1研究所でも高位の者しか知らなかった。雅でさえ、零が話すまで知らなかったのだ。また、魔導考古学省では、過去の過ちが公表されることを恐れ、資料は厳重に保管されている。そのため、西沢と零の関係を知る者は片手で数えられるほどになっていた。
「……さてな。これ以上は喋るなとボスに言われている」
「貴方が話したくなれば別でしょう」
見せつけるように、ゆったりとした動きで零の右手が魔導文字を書く。しかし、相手は恐れることなく、むしろそれを受け入れるように体の力を抜いた。抵抗する気はないようだ。その代わり、零を睨みつけて叫んだ。
「これだから魔導は! 他者を傷つけ、自由を奪う! 何が研究だ、魔法復活だ! 魔導文字も読めない俺たちを見下して、自分は選ばれた人間だと言いたいだけだろう!」
「そう思いたければどうぞご勝手に。ですが最期の言葉がそれでよろしいので?」
「魔導破壊のために死ねるなら本望だ、殺れよ!」
覚悟を決めたように男が叫んだ。
一瞬、ほんの一瞬だけ、零の腕に力が入ったように見えた。だが、脳裏に愛する妻を思い浮かべる。「やめろ」と。落ち着いたアルトは、零を止めた。その瞬間に、零の手から力が抜けていく。
「殺しはしませんよ。貴方がたと同じところにまで堕ちたくないので。ただ、僕の許可なく話せなくなるだけです」
男の喉に書かれたのは、零に質問されたこと以外のことが話せなくなる魔導文字だった。
「終わった頃か」
夏希もまた、夫と同じような台詞を口にしていた。目の前には、真っ白な衣装と仮面を身に着けた敵。体型からして女。こちらは魔導が使えるらしく、利き手なのであろう右手を突き出している。こちらに向けられた指先は、紅く色づいていた。夏希はそれを気にした様子はなく、面倒臭そうにポケットに手を入れたままだ。
相手はそれを有利と感じ取ったのか、魔導文字を書き始めた。が、その瞬間。
「遅ぇ。あたし相手に隙がありすぎなんだよ」
隠されていた手は、魔導文字を書いていたらしい。鎌鼬のような風が吹き、相手の衣装を切り刻んだ。そちらに意識を向けた瞬間、身体強化された夏希の右拳が女を後方に吹き飛ばす。
だが、相手もやられたままではない。なかなかにタフなようで、氷の術を使ってきた。あたれば即冷凍だろう。しかし、夏希の防御の術で防がれる。術はあちこちに跳ね返り、そのうちの1つが遺跡の外の木を凍らせた。魔導の腕前もそう悪くない。真っ当に過ごしていれば、魔導解析師にはなれたかもしれない腕だ。
しかし、清水夏希ともあろうものが、その程度の敵を恐れるわけがない。夏希はニヤリと笑みを浮かべた。表情のせいで、どちらが悪役かわからない。
「いいコト教えてやるよ」
「……何を」
「あたし、両利きなんだわ」
魔導での戦いに慣れていればいるほど、相手の利き手を気にしてしまう。文字を書く手、すなわち攻撃してくるかもしれない手だからだ。
夏希はここまで右手しか使わなかった。そのせいで、女は夏希の右手以外をさほど見ていなかったのだ。
夏希の左手は、爆発の文字を書いていたというのに。
「さーて、そのお顔を見せてもらおうか。もっとも、想像はできてるけどな。まったく、二番煎じもいいトコだぜ」
女の仮面だけを狙った夏希の爆発の術は、狙いどおりそれを破壊していた。現れたのは、夏希の母代わりといっても過言ではない、真子の顔。紅い爪の時点で、夏希はあの手が「真子のもの」だと気づいていた。
「夏希……私は……」
「聞きたくねぇな」
何かを言おうとする真子を遮り、夏希は汚らわしいものを見るような目で言った。ハイヒールの踵で、思い切り真子を踏みつける。
「気安くあたしの名前を呼んでんじゃねぇよ」
夏希の左手が拘束の術の文字を書いた。真っ白なロープが現れて、しゅるしゅると真子を縛っていく。
「夏希、お願いだ、話を聞いてくれ……私は君の親のようなものじゃないか」
「聞こえなかったのか? 気安く名前を呼ぶな」
夏希の苛立ちと比例して、拘束がきつくなった。真子は藻掻くが、逃げられるわけがない。夏希は逃がすつもりがないのだから。
「ったく、ムカつくヤツだぜ」
黒手袋に包まれた手が、魔導文字を書き始めた。
目の前に武器を構えた男がいるというのに、零はのんびりと言った。浮かぶ表情は穏やかなもので、まったく恐怖を感じていないようだ。
「第5研究所所長、清水零だな」
「ええ」
にっこりと微笑み、いつものように胸に手をあてながら、零は隠すことなく答えた。さりげなく利き手である右手だけは空けている。
「いや、西沢零といったほうがいいか」
男がその名を口にした瞬間、零の纏う雰囲気が変化した。目にもとまらぬ速さで男の持つ剣を蹴り飛ばし、その喉元に右手の指を突き付ける。魔導師にとって、それは銃口を突き付けるのと同じ力を持つ。それほどまでに零は怒り、同時に、珍しいことだがひどく焦っていた。
「……僕の父を、知っているのですか? だとしたら、気安くその名を呼ばない方がいい。僕は親しい人物以外に父の話をされるのが嫌いなんです」
そこまで言って、一度深呼吸をする。冷静さを失ってはならない。自分には守るべき妻と部下たちがいるのだ。激情に駆られて役目を忘れてはいけない。そう自分に言い聞かせて、男を尋問する。
「……貴方のお仲間が第1研究所にいるのでしょうか? 魔導考古学省以外にもいると?」
零の父が、あの西沢健一だと知る者は少ない。第1研究所でも高位の者しか知らなかった。雅でさえ、零が話すまで知らなかったのだ。また、魔導考古学省では、過去の過ちが公表されることを恐れ、資料は厳重に保管されている。そのため、西沢と零の関係を知る者は片手で数えられるほどになっていた。
「……さてな。これ以上は喋るなとボスに言われている」
「貴方が話したくなれば別でしょう」
見せつけるように、ゆったりとした動きで零の右手が魔導文字を書く。しかし、相手は恐れることなく、むしろそれを受け入れるように体の力を抜いた。抵抗する気はないようだ。その代わり、零を睨みつけて叫んだ。
「これだから魔導は! 他者を傷つけ、自由を奪う! 何が研究だ、魔法復活だ! 魔導文字も読めない俺たちを見下して、自分は選ばれた人間だと言いたいだけだろう!」
「そう思いたければどうぞご勝手に。ですが最期の言葉がそれでよろしいので?」
「魔導破壊のために死ねるなら本望だ、殺れよ!」
覚悟を決めたように男が叫んだ。
一瞬、ほんの一瞬だけ、零の腕に力が入ったように見えた。だが、脳裏に愛する妻を思い浮かべる。「やめろ」と。落ち着いたアルトは、零を止めた。その瞬間に、零の手から力が抜けていく。
「殺しはしませんよ。貴方がたと同じところにまで堕ちたくないので。ただ、僕の許可なく話せなくなるだけです」
男の喉に書かれたのは、零に質問されたこと以外のことが話せなくなる魔導文字だった。
「終わった頃か」
夏希もまた、夫と同じような台詞を口にしていた。目の前には、真っ白な衣装と仮面を身に着けた敵。体型からして女。こちらは魔導が使えるらしく、利き手なのであろう右手を突き出している。こちらに向けられた指先は、紅く色づいていた。夏希はそれを気にした様子はなく、面倒臭そうにポケットに手を入れたままだ。
相手はそれを有利と感じ取ったのか、魔導文字を書き始めた。が、その瞬間。
「遅ぇ。あたし相手に隙がありすぎなんだよ」
隠されていた手は、魔導文字を書いていたらしい。鎌鼬のような風が吹き、相手の衣装を切り刻んだ。そちらに意識を向けた瞬間、身体強化された夏希の右拳が女を後方に吹き飛ばす。
だが、相手もやられたままではない。なかなかにタフなようで、氷の術を使ってきた。あたれば即冷凍だろう。しかし、夏希の防御の術で防がれる。術はあちこちに跳ね返り、そのうちの1つが遺跡の外の木を凍らせた。魔導の腕前もそう悪くない。真っ当に過ごしていれば、魔導解析師にはなれたかもしれない腕だ。
しかし、清水夏希ともあろうものが、その程度の敵を恐れるわけがない。夏希はニヤリと笑みを浮かべた。表情のせいで、どちらが悪役かわからない。
「いいコト教えてやるよ」
「……何を」
「あたし、両利きなんだわ」
魔導での戦いに慣れていればいるほど、相手の利き手を気にしてしまう。文字を書く手、すなわち攻撃してくるかもしれない手だからだ。
夏希はここまで右手しか使わなかった。そのせいで、女は夏希の右手以外をさほど見ていなかったのだ。
夏希の左手は、爆発の文字を書いていたというのに。
「さーて、そのお顔を見せてもらおうか。もっとも、想像はできてるけどな。まったく、二番煎じもいいトコだぜ」
女の仮面だけを狙った夏希の爆発の術は、狙いどおりそれを破壊していた。現れたのは、夏希の母代わりといっても過言ではない、真子の顔。紅い爪の時点で、夏希はあの手が「真子のもの」だと気づいていた。
「夏希……私は……」
「聞きたくねぇな」
何かを言おうとする真子を遮り、夏希は汚らわしいものを見るような目で言った。ハイヒールの踵で、思い切り真子を踏みつける。
「気安くあたしの名前を呼んでんじゃねぇよ」
夏希の左手が拘束の術の文字を書いた。真っ白なロープが現れて、しゅるしゅると真子を縛っていく。
「夏希、お願いだ、話を聞いてくれ……私は君の親のようなものじゃないか」
「聞こえなかったのか? 気安く名前を呼ぶな」
夏希の苛立ちと比例して、拘束がきつくなった。真子は藻掻くが、逃げられるわけがない。夏希は逃がすつもりがないのだから。
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