87 / 140
新人魔導師、2回目の発掘調査に参加する
同日、副所長の固有魔導
しおりを挟む
固有魔導を使いこなす訓練をする。天音はそれを選択した。夏希はそれに驚いたのか、天音の肩を掴んでいた手から力が抜けていった。
「本気か……?」
「はい」
天音はまっすぐに夏希の目を見た。普段何を考えているかわからない幼い顔は、こぼれそうなほどに目を見開いて、口まで開いている。なんだかそれが愉快で、思わず笑ってしまった。
「笑いごとじゃねぇんだぞ!」
「わかってます。ただ、副所長のそういう顔、珍しいなって思ってしまって」
「お前なぁ……」
天音が笑うせいか、夏希は力が抜けてしまったようだ。溜息までついている。
だが、天音にも言いたいことがあった。
「副所長、私を信じていないんですか?」
「は?」
「私、言いましたよね。この手で憧れを形にしてみせるって。つまり、魔法を復活させてみせるってことですよ。そのチャンスを逃すはずがないでしょう?」
2ヶ月前を思い出す。ここに残ることを決めた日、天音はそう宣言したのだ。忘れたとは言わせない。
「お前には……お前たちには、あたしみたいな思いはさせたくない」
「何弱気なこと言ってるんですか。私のこと、守ってくれるんですよね?」
「はぁ~……お前、すっかりウチに染まりやがって……」
夏希は再び溜息をついた。そして、諦めたように手元の紙を見る。
「そう言うんじゃねぇかって、ちょっと思ってたんだよな。外れて欲しかったぜ……」
しぶしぶといった様子で、夏希は何かを準備し始めた。2枚ほど紙が渡される。
「お前が固有魔導を発動させたと思われる日の監視カメラの映像をプリントアウトした。確かに、口が動いているのは見える。問題は、何を言っていたか、何を考えていたかだ。固有魔導の発動は、始めこそ制御できずに暴走させるコトもあるが、コツを掴めば魔導を使うイメージだけで発動できる。雅のカルテみたいにな。だから、お前に必要なのはイメージだ。それを見て思い出せ」
「うっ……」
「お、おい、どうしたんだよ?」
呪文を唱えていた黒歴史を思い出し、胸元を押さえた。夏希が焦っている。それに対し、気にしないでと言うように手を振った。
「なんというか……その、ええと、好きだったファンタジー小説に出てくる呪文を唱えていました」
「なるほどなぁ。『こうしたい、こうだったらいいのに』って想像か」
雅で中二病に慣れているのか、はたまたよい方に捉えてくれたのか。夏希は引くことなく言ってくれたので少し安心した。
「副所長は何を考えて発動されてるんですか? どんな固有魔導か知りたいです」
そういえば、夏希のものだけは聞いたことがない。常時発動タイプではないのは先ほどの説明でわかったが、どんなものなのだろうか。
「……あー」
彼女の表情を見た瞬間、天音は全てを悟った。以前双子が言っていたことを思い出す。第1研究所の人間に利用されたのかもしれない、よい思い出がないのかもしれないと言っていたことを忘れていたのだ。
「す、すみませんっ! 忘れてください!」
「……悪ぃな。言いたくねぇんだ」
低く、苦しそうな声で夏希はそう言った。それを聞き、天音はもう聞かないことを心に決めた。そうだ、他の人の話題を振ろう。
「山口さんは……ええと、透明になれるんですよね?」
「あぁ。隠れたい、見られたくない、恥ずかしいって思うと発動できるらしいぞ」
咄嗟に出てきたのが、紅茶を淹れてくれたであろう和馬だった。姿を消し、おまけに魔力まで探知しにくくなる彼の固有魔導は非常に強力だ。
「零は『これになりたい』って思えば発動できるらしいし、葵は急がねぇといけねぇときに使えるって言ってたな。透はウチに来てから使えるようになったんだが、葵を見て、『この人なんとかしないと!』って思ったときに葵の固有魔導の力をさらに底上げしてた。雅は第1にいるときから使えてたんだが、あれは『人を助けたい』って気持ちがないと発動できないらしい」
話し疲れたのか、夏希はカップを手に取ってぬるくなりかけていた紅茶を飲み干してしまった。温度を上昇させる術を使い、2杯目を注いでいる。再びカップから湯気が立ち上った。
「なんだか……固有魔導って、その人の願いを叶える力みたいですね」
話を聞いていて思ったことを、天音は素直に伝えた。どの固有魔導も、使用者の想いが発動のきっかけになっている。それこそ、魔法そのもののように感じた。
「……そう、かもな」
天音の言葉に、夏希は感情の読めない顔で応えた。いつもの考えの読めない顔とは異なる、まるで仮面のような表情だ。感情をそぎ落としてしまったとも言える。天音が違和感を覚えたと同時に元の表情に戻ったので、気のせいかもしれないと忘れることにした。
「んじゃ、お前、明日からは同じタイプの固有魔導の使い手と訓練だからな。明日は……葵と透が空いてるな。よし、2人にしっかり教えてもらえ」
「はい!」
「今日はもう自由にしていいぞ。明日に備えとけ」
言い終わると同時に、真っ白な光が夏希を包んだ。何処かへ移動したらしい。
天音は残った紅茶を飲みつつ、持ってきた本のページを捲り始めた。
「その人の願いを叶える力、か……」
明かりもつけられていない私室で、夏希は黒手袋に包まれた自身の手を見つめていた。
「これが、あたしの願いだったのか……?」
か細いその声に応える者は、誰もいなかった。
「本気か……?」
「はい」
天音はまっすぐに夏希の目を見た。普段何を考えているかわからない幼い顔は、こぼれそうなほどに目を見開いて、口まで開いている。なんだかそれが愉快で、思わず笑ってしまった。
「笑いごとじゃねぇんだぞ!」
「わかってます。ただ、副所長のそういう顔、珍しいなって思ってしまって」
「お前なぁ……」
天音が笑うせいか、夏希は力が抜けてしまったようだ。溜息までついている。
だが、天音にも言いたいことがあった。
「副所長、私を信じていないんですか?」
「は?」
「私、言いましたよね。この手で憧れを形にしてみせるって。つまり、魔法を復活させてみせるってことですよ。そのチャンスを逃すはずがないでしょう?」
2ヶ月前を思い出す。ここに残ることを決めた日、天音はそう宣言したのだ。忘れたとは言わせない。
「お前には……お前たちには、あたしみたいな思いはさせたくない」
「何弱気なこと言ってるんですか。私のこと、守ってくれるんですよね?」
「はぁ~……お前、すっかりウチに染まりやがって……」
夏希は再び溜息をついた。そして、諦めたように手元の紙を見る。
「そう言うんじゃねぇかって、ちょっと思ってたんだよな。外れて欲しかったぜ……」
しぶしぶといった様子で、夏希は何かを準備し始めた。2枚ほど紙が渡される。
「お前が固有魔導を発動させたと思われる日の監視カメラの映像をプリントアウトした。確かに、口が動いているのは見える。問題は、何を言っていたか、何を考えていたかだ。固有魔導の発動は、始めこそ制御できずに暴走させるコトもあるが、コツを掴めば魔導を使うイメージだけで発動できる。雅のカルテみたいにな。だから、お前に必要なのはイメージだ。それを見て思い出せ」
「うっ……」
「お、おい、どうしたんだよ?」
呪文を唱えていた黒歴史を思い出し、胸元を押さえた。夏希が焦っている。それに対し、気にしないでと言うように手を振った。
「なんというか……その、ええと、好きだったファンタジー小説に出てくる呪文を唱えていました」
「なるほどなぁ。『こうしたい、こうだったらいいのに』って想像か」
雅で中二病に慣れているのか、はたまたよい方に捉えてくれたのか。夏希は引くことなく言ってくれたので少し安心した。
「副所長は何を考えて発動されてるんですか? どんな固有魔導か知りたいです」
そういえば、夏希のものだけは聞いたことがない。常時発動タイプではないのは先ほどの説明でわかったが、どんなものなのだろうか。
「……あー」
彼女の表情を見た瞬間、天音は全てを悟った。以前双子が言っていたことを思い出す。第1研究所の人間に利用されたのかもしれない、よい思い出がないのかもしれないと言っていたことを忘れていたのだ。
「す、すみませんっ! 忘れてください!」
「……悪ぃな。言いたくねぇんだ」
低く、苦しそうな声で夏希はそう言った。それを聞き、天音はもう聞かないことを心に決めた。そうだ、他の人の話題を振ろう。
「山口さんは……ええと、透明になれるんですよね?」
「あぁ。隠れたい、見られたくない、恥ずかしいって思うと発動できるらしいぞ」
咄嗟に出てきたのが、紅茶を淹れてくれたであろう和馬だった。姿を消し、おまけに魔力まで探知しにくくなる彼の固有魔導は非常に強力だ。
「零は『これになりたい』って思えば発動できるらしいし、葵は急がねぇといけねぇときに使えるって言ってたな。透はウチに来てから使えるようになったんだが、葵を見て、『この人なんとかしないと!』って思ったときに葵の固有魔導の力をさらに底上げしてた。雅は第1にいるときから使えてたんだが、あれは『人を助けたい』って気持ちがないと発動できないらしい」
話し疲れたのか、夏希はカップを手に取ってぬるくなりかけていた紅茶を飲み干してしまった。温度を上昇させる術を使い、2杯目を注いでいる。再びカップから湯気が立ち上った。
「なんだか……固有魔導って、その人の願いを叶える力みたいですね」
話を聞いていて思ったことを、天音は素直に伝えた。どの固有魔導も、使用者の想いが発動のきっかけになっている。それこそ、魔法そのもののように感じた。
「……そう、かもな」
天音の言葉に、夏希は感情の読めない顔で応えた。いつもの考えの読めない顔とは異なる、まるで仮面のような表情だ。感情をそぎ落としてしまったとも言える。天音が違和感を覚えたと同時に元の表情に戻ったので、気のせいかもしれないと忘れることにした。
「んじゃ、お前、明日からは同じタイプの固有魔導の使い手と訓練だからな。明日は……葵と透が空いてるな。よし、2人にしっかり教えてもらえ」
「はい!」
「今日はもう自由にしていいぞ。明日に備えとけ」
言い終わると同時に、真っ白な光が夏希を包んだ。何処かへ移動したらしい。
天音は残った紅茶を飲みつつ、持ってきた本のページを捲り始めた。
「その人の願いを叶える力、か……」
明かりもつけられていない私室で、夏希は黒手袋に包まれた自身の手を見つめていた。
「これが、あたしの願いだったのか……?」
か細いその声に応える者は、誰もいなかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
没落港の整備士男爵 ~「構造解析」スキルで古代設備を修理(レストア)したら、大陸一の物流拠点になり、王家も公爵家も頭が上がらなくなった件~
namisan
ファンタジー
大陸の南西端に位置するベルナ子爵領。
かつては貿易で栄えたこの港町も、今は見る影もない。
海底には土砂が堆積して大型船は入港できず、倉庫街は老朽化し、特産品もない。借金まみれの父と、諦めきった家臣たち。そこにあるのは、緩やかな「死」だけだった。
そんな没落寸前の領地の嫡男、アレン(16歳)に転生した主人公には、前世の記憶があった。
それは、日本で港湾管理者兼エンジニアとして働き、現場で散った「整備士」としての知識。
そして、彼にはもう一つ、この世界で目覚めた特異な能力があった。
対象の構造や欠陥、魔力の流れが設計図のように視えるスキル――【構造解析】。
「壊れているなら、直せばいい。詰まっているなら、通せばいい」
アレンは錆びついた古代の「浚渫(しゅんせつ)ゴーレム」を修理して港を深く掘り直し、魔導冷却庫を「熱交換の最適化」で復活させて、腐るだけだった魚を「最高級の輸出品」へと変えていく。
ドケチな家令ガルシアと予算を巡って戦い、荒くれ者の港湾長ゲンと共に泥にまみれ、没落商会の女主人メリッサと手を組んで販路を開拓する。
やがてその港には、陸・海・空の物流革命が巻き起こる。
揺れない「サスペンション馬車」が貴族の移動を変え、「鮮度抜群の魚介グルメ」が王族の胃袋を掴み、気性の荒いワイバーンを手懐けた「空輸便」が世界を結ぶ。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる