86 / 140
新人魔導師、2回目の発掘調査に参加する
6月17日、自分の固有魔導
しおりを挟む
その日、天音は1人で書斎に籠っていた。研究テーマに使えそうな本を探していたのだ。由紀奈も本を読もうとしていたが、雅に呼び出されていた。恐らく、医療魔導の特訓だろう。
書斎にある個人の趣味で置かれていた本には、かつてファンタジー小説と呼ばれるジャンルだった本も多くあった。読んだことのないものを探していると、白い魔力がふわりと漂ってきて、夏希の声を伝えてくる。
「手が空いてたら、食堂に来てくれ。次の発掘調査までにやっておきたいことがある」
天音はそれを聞くと、2、3冊の本を抜いた後、食堂へ移動した。そこには、和馬が用意してくれたであろう2人分のティーセットが置かれている。夏希は何枚かの紙を持って、食堂のホワイトボードの前に立っていた。
「早かったな」
「書斎にいたので。あの、一体、何をするんですか?」
テーブルの上に本を置きながら、天音は不安げにそう問うた。何かの訓練だろうか。だとしたら、スパルタの気配がする。
「ま、そう身構えんな。まずは話だけだ、座って茶でも飲めよ」
夏希が指を振って文字を書き、魔力を流すと、ティーポットが浮いてカップに温かな紅茶を注ぎだした。天音の分、とでも言うように近くに置かれたカップから湯気が立っている。
「さて、今日お前に話しておきたいコトだが……」
「は、はい」
「お前の固有魔導についてだ」
「固有魔導、ですか? でも私、使える自覚がなくて……」
「初めてのときなんてそんなモンだ。お前の固有魔導を、『魔法の復活』だと仮定して、話を続けるぞ」
ホワイトボードの余白に、「固有魔導」と書かれた。今日の議題はこれらしい。夏希は一呼吸おいて、ゆっくりと、天音が理解できるように話し始めた。
「固有魔導にも色々ある。強力なものもあれば、よくわからねぇものまで多種多様だ。今んトコ、あたしが知ってるので愉快なのは、『自分が次の瞬間に転ぶかわかる』とか、『靴紐が解ける前にわかる』とか、『くしゃみをとめられる』ってのだ。な? 色々あるだろ?」
あまりにも限定的すぎる力に、天音は何と言ってよいのかわからなくなった。くしゃみがとめられるのは少しいいかもしれない。
「で、だ。そんな固有魔導だが、大きく分けて2つある。真子の話、覚えてるか?」
「はい。常時発動する方と、そうでない方がいると……」
「そうだ。わかりやすくすると、こうだな」
食堂にある、その日の食事がいるのかを示すマグネット(天音と由紀奈の分も作られた)を使って、夏希が簡単な表のようなものを作った。
常時発動と書かれた側には、はるか、かなた。その下に手書きで真子、秋楽の名がある。
反対に、自身の意志で発動と書かれた側には、零、夏希、葵、雅、恭平、透、由紀奈。そして、手書きで美織。
「天音、お前も恐らく零たちと同じ側だな。魔導災害のあった日、あれはお前の意志に反応して火が出たんだから」
「常時発動する方は意外と少ないんですね」
「いや、半々だと思うぞ。人に固有魔導を話さねぇヤツもいるから正確な数値はわからねぇが」
先ほど夏希が話した3人の固有魔導は常時発動タイプだったらしい。要するに、たまたまこの研究所では意志で発動するタイプが多かっただけだということだ。
「常時発動するなら、魔力を余計に使わないようにする訓練だけで済む。ただ、お前は自分で発動をコントロールしなきゃいけねぇから、その訓練が必要だ。ここまで、質問は?」
「いえ、ありません。ありがとうございます」
「よし。お前には実践より先に座学がいいと思ってな……よかった、合ってたな」
天音のことを考えて講義をしてくれていたのか。夏希の気遣いに、天音は心から感謝した。やはり、この人は相手をよく見ている。
「じゃ、話を戻すぞ。今日からお前は固有魔導の訓練をする。けど、その前に1つ、質問だ」
「はい」
「お前はどうしたい?」
「え……と、言いますと?」
どうしたい、とは何のことなのだろうか。特訓をする、その難易度でも聞いているのか。はたまた教官を選べということなのか。あれこれ考えている天音に、夏希が覚悟を決めたような表情で聞いてきた。
「こんな強力な固有魔導、第1研究所や魔導考古学省のヤツらにバレたら利用されるに決まってる。最悪の場合、強制的に転属させられて、死ぬまでこき使われるぞ! だから選べ、固有魔導を『使わない』訓練をするか、『使いこなす』訓練をするか! どっちを選んでもあたしは、あたしたちは責めたりしねぇ! 安心しろ、1度ここの研究員になったからには、あたしが絶対に守ってやる!」
「『使わない』訓練を選んだ場合、どうなるんですか……?」
「お前には固有魔導は発現しなかった、そういう風になる。大丈夫だ、皆必ず発現するワケじゃねぇから誰も疑わねぇ」
夏希の目は、暗に「そうしろ」と言っているように見えた。自分のように、天音が利用されていく姿が見たくないのだろう。説得するように天音の肩を掴んでいる。珍しく力加減を間違えたのか、肩が痛かった。物理攻撃も多少防いでくれる魔導衣を着ていなかったら、痣ができていたかもしれない。
「……『使いこなす』訓練をします」
天音の言葉に、夏希は目を見開いた。
書斎にある個人の趣味で置かれていた本には、かつてファンタジー小説と呼ばれるジャンルだった本も多くあった。読んだことのないものを探していると、白い魔力がふわりと漂ってきて、夏希の声を伝えてくる。
「手が空いてたら、食堂に来てくれ。次の発掘調査までにやっておきたいことがある」
天音はそれを聞くと、2、3冊の本を抜いた後、食堂へ移動した。そこには、和馬が用意してくれたであろう2人分のティーセットが置かれている。夏希は何枚かの紙を持って、食堂のホワイトボードの前に立っていた。
「早かったな」
「書斎にいたので。あの、一体、何をするんですか?」
テーブルの上に本を置きながら、天音は不安げにそう問うた。何かの訓練だろうか。だとしたら、スパルタの気配がする。
「ま、そう身構えんな。まずは話だけだ、座って茶でも飲めよ」
夏希が指を振って文字を書き、魔力を流すと、ティーポットが浮いてカップに温かな紅茶を注ぎだした。天音の分、とでも言うように近くに置かれたカップから湯気が立っている。
「さて、今日お前に話しておきたいコトだが……」
「は、はい」
「お前の固有魔導についてだ」
「固有魔導、ですか? でも私、使える自覚がなくて……」
「初めてのときなんてそんなモンだ。お前の固有魔導を、『魔法の復活』だと仮定して、話を続けるぞ」
ホワイトボードの余白に、「固有魔導」と書かれた。今日の議題はこれらしい。夏希は一呼吸おいて、ゆっくりと、天音が理解できるように話し始めた。
「固有魔導にも色々ある。強力なものもあれば、よくわからねぇものまで多種多様だ。今んトコ、あたしが知ってるので愉快なのは、『自分が次の瞬間に転ぶかわかる』とか、『靴紐が解ける前にわかる』とか、『くしゃみをとめられる』ってのだ。な? 色々あるだろ?」
あまりにも限定的すぎる力に、天音は何と言ってよいのかわからなくなった。くしゃみがとめられるのは少しいいかもしれない。
「で、だ。そんな固有魔導だが、大きく分けて2つある。真子の話、覚えてるか?」
「はい。常時発動する方と、そうでない方がいると……」
「そうだ。わかりやすくすると、こうだな」
食堂にある、その日の食事がいるのかを示すマグネット(天音と由紀奈の分も作られた)を使って、夏希が簡単な表のようなものを作った。
常時発動と書かれた側には、はるか、かなた。その下に手書きで真子、秋楽の名がある。
反対に、自身の意志で発動と書かれた側には、零、夏希、葵、雅、恭平、透、由紀奈。そして、手書きで美織。
「天音、お前も恐らく零たちと同じ側だな。魔導災害のあった日、あれはお前の意志に反応して火が出たんだから」
「常時発動する方は意外と少ないんですね」
「いや、半々だと思うぞ。人に固有魔導を話さねぇヤツもいるから正確な数値はわからねぇが」
先ほど夏希が話した3人の固有魔導は常時発動タイプだったらしい。要するに、たまたまこの研究所では意志で発動するタイプが多かっただけだということだ。
「常時発動するなら、魔力を余計に使わないようにする訓練だけで済む。ただ、お前は自分で発動をコントロールしなきゃいけねぇから、その訓練が必要だ。ここまで、質問は?」
「いえ、ありません。ありがとうございます」
「よし。お前には実践より先に座学がいいと思ってな……よかった、合ってたな」
天音のことを考えて講義をしてくれていたのか。夏希の気遣いに、天音は心から感謝した。やはり、この人は相手をよく見ている。
「じゃ、話を戻すぞ。今日からお前は固有魔導の訓練をする。けど、その前に1つ、質問だ」
「はい」
「お前はどうしたい?」
「え……と、言いますと?」
どうしたい、とは何のことなのだろうか。特訓をする、その難易度でも聞いているのか。はたまた教官を選べということなのか。あれこれ考えている天音に、夏希が覚悟を決めたような表情で聞いてきた。
「こんな強力な固有魔導、第1研究所や魔導考古学省のヤツらにバレたら利用されるに決まってる。最悪の場合、強制的に転属させられて、死ぬまでこき使われるぞ! だから選べ、固有魔導を『使わない』訓練をするか、『使いこなす』訓練をするか! どっちを選んでもあたしは、あたしたちは責めたりしねぇ! 安心しろ、1度ここの研究員になったからには、あたしが絶対に守ってやる!」
「『使わない』訓練を選んだ場合、どうなるんですか……?」
「お前には固有魔導は発現しなかった、そういう風になる。大丈夫だ、皆必ず発現するワケじゃねぇから誰も疑わねぇ」
夏希の目は、暗に「そうしろ」と言っているように見えた。自分のように、天音が利用されていく姿が見たくないのだろう。説得するように天音の肩を掴んでいる。珍しく力加減を間違えたのか、肩が痛かった。物理攻撃も多少防いでくれる魔導衣を着ていなかったら、痣ができていたかもしれない。
「……『使いこなす』訓練をします」
天音の言葉に、夏希は目を見開いた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
5
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる