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新人魔導師、2回目の発掘調査に参加する

同日、後輩と勉強

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 天音の、「ちょっと軽く勉強しよう」は信じてはいけない。由紀奈はそう心に誓った。何せ、アイリスクォーツだけを調べるはずが、どんどんと興味が出てきてしまったらしく、図鑑に夢中になってこちらの声にも反応しないほど集中してしまっているからだ。

 かれこれ1時間が経つが、天音がこちらを向く様子はない。むしろ、ますます夢中になり、ページを捲っていっている。どうしようかと悩んでいると、よく響くアルトが聞こえてきた。

「お疲れさん、配り終わったか?」
「救世主!」
「いやなんかを救った覚えはねぇけど」

 頼れる副所長、夏希が現れた。察しのいい彼女は、見ただけで状況を理解したらしい。天音の肩を叩いた。だが、天音はそれだけで気づかなかったので、夏希はニヤリと笑って首筋に指をあてる。

「実践だったら死んでたぞ!」
「ぎゃっ!?」

 どうやら、軽く静電気程度の刺激を与えたようだ。驚いて天音は本を落としかけたが、夏希が瞬時に反応して拾い上げた。

「何やってたんだ?」
「す、水晶の勉強を……」
「で、止まらなくなった、と。由紀奈が泣きそうだぞ」
「え、あ! ご、ごめんね……」
「う、ううん、いいの……」

 ただ、もう二度と一緒に勉強する約束はしない。するとしても、制限時間を設ける。もしくは、止めてくれる講師役をつける。そうでもしないと、1日中勉強していそうだと感じた。

「研究員っぽいけどな。けど、集中しすぎて反応できないんじゃ現場では命取りだ」
「副所長の足音と気配がなさすぎるんですよ……」
「あぁ」

 思わずそう言ってしまった天音の言葉を聞いて、夏希は何かに気づいたように手を叩いた。

「靴に音がしないような術をかけてるんだ。あたしの魔力は気づかれにくいしな。音も匂いもしないって、文句言われたよ」
「色は見えますけど……」
「確かに、匂いはわからないです。あと、所長さんも、ここにいるときは匂いがわからないかも……」
「気づかれにくい術の発動方法があるんですか?」

 2人に質問され、話が長くなると感じたのか夏希は適当に椅子を出すと腰かけた。黒手袋に包まれた手の人差し指を立て、話し始める。

「1つ目。零の魔力がここじゃ気づかれにくいのは、庭の花のせいだ。アイツの魔力は薔薇の香り、だからあちこちに生やして気づかれにくくしてるんだよ。まぁ、ここの異名の『薔薇の館』ってのも気に入ってるんだろうけどな」

 言われてみれば、この研究所はあちこちから薔薇の香りがする。さらに、ここに住む研究員にも、その香りは沁みついているように思う。膨大な魔力を、零はそうして誤魔化していたのか。天音は納得がいった。零が猫に化けて身代わりに講演に行かせているのにバレないのは、術の完成度の高さもあるが、そういう工夫もあったのか。

 夏希は頷くと、2本目の指を立てた。

「2つ目。相手に気づかれないようにするには、相手よりものすごく強いか弱いかのどっちかであることだな。強ければ魔導探知妨害の術が使えるだろうし、弱ければ逆に魔力が薄すぎて見えないし感じられない。当然、オススメは前者」

 ま、相手に魔力を見せつけて戦意喪失させるって作戦もあるぜ。
 夏希はさらっと難しいことを言ってきた。天音たちには不可能な方法だ。

「魔導探知妨害の術って……その、どんな感じですか……?」

 自分にも使えるだろうか。そんな期待を滲ませて、由紀奈はそっと手を挙げて質問した。いつの間にか紙とペンが用意されている。ナース服に似た作りの彼女の魔導衣は、筆記用具が取り出しやすい。天音はローブをまくって、下のスカートのポケットからメモを出さなければならないので時間がかかった。

「ほい」

 律儀にも、由紀奈と天音、両方に魔導文字を書いてくれた夏希だが、それを見るなり2人は俯いた。

「まだお前らには早いと思うぜ」
「ですね……」

 複雑かつ、かなりの魔力量を必要とすることが見てわかる。こんなもの、今の天音が使ったらそれだけで暫く魔導が発動できなくなってしまう。

「ただ、天音は覚えた方がいいかもな。魔力の色が目立つ」

 由紀奈のクリーム色に比べて、天音の青みがかった紫色は景色に馴染まない。いずれこれを使わなくてはいけないのか。天音は頭を抱えた。

「由紀奈は、魔導解析師になってから考えような。あと、魔導航空免許も」
「うぅ、はい……」
「急がなくていい。次の発掘調査は来月だから」
「……は!?」

 軽く言われて一瞬流してしまったが、大事なことを言われた。第3回発掘調査が決まったというのか。

「あんまりにも襲撃されて成果が出てないからな。真子が掛け合ってくれたんだよ。次は魔導考古学省の役人の護衛付きで発掘できるぜ。成果が出るまで何回も行っていいらしいから楽しみだな」
「それ、他の方には言いましたか?」
「これから」

 この人、私たちを驚かせるためにわざと言ったな。
 天音と由紀奈の心が1つになった。清水夏希という人間への理解が深まった気がする。

「ちなみに、護衛の方って……」
「真子と秋楽」
「ですよねー……」

 夏希が信頼する役人など、片手で数えるほどしかいない。虎太郎は現場に出るような立場ではないから、来るとしたらその2人しかいないのだ。

 由紀奈に2人のことを軽く紹介しつつ、天音は第3回発掘調査が始まることに喜びを感じていた。
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