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新人魔導師、3回目の発掘調査に参加する

6月30日、後輩と飛行訓練の日

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 由紀奈が魔導航空免許を取ったらしい。発掘調査の前日、疲れきった、けれど達成感に満ちた顔をして免許を見せてきた。

「これで私も飛んで行けるよ!」

 嬉々とした表情の由紀奈の後ろで、珍しくぐったりした様子の清水夫妻が座り込んでいた。一体、何回飛行訓練に付き合ったのだろうか。天音からは考えられないほどの数かもしれない。手本として2人で80回は飛んでいるのは確実だ。零はずっと酷使した右手を押さえていた。

「魔導師の職業病、腱鞘炎じゃな」

 雅がピンク色の魔力を光らせると、途端に零の顔が穏やかになった。魔導文字の書きすぎで手や手首が辛かったらしい。両利きの夏希は交互に手を使うことで負担を減らすことができたが、零はそうもいかずに苦しんでいたというわけだ。普段の物腰が浮世離れ(人間離れとも言う)しているせいか、その反応が新鮮だった。魔力量が底なしだと、先に体が限界を迎えるのだと天音は知った。

「おめでとう、由紀奈。よく頑張ったな」
「おめでとうございます。思っていた以上に早く取得することができましたね」
「ありがとうございます、お2人のおかげです!」

 疲れ果てていても、免許を取った由紀奈にお祝いの言葉をかけている2人を見て、天音は魔導師としても、人間としても尊敬した。そうそうできることではない。

「ねえ、一緒に飛んでみない?」

 祝われ、褒められた由紀奈はにこにこと楽しそうだ。今日は休日、仕事もないので飛びに行っても問題はないが、万が一由紀奈が落下したら助けてやれる自信がない。どうしようかと悩んでいると、和馬が気を利かせて、

「俺もいいですか?」

 と言ってくれた。夕飯のメニュー考えたくて、などと言っているが、実際は何日も前からしっかり考えられているのを、天音は知っている。

「はい、ぜひ!」

 普段より元気な由紀奈は、明るく応えた。清水夫妻の気力を吸い取ったのかと思うほどに明るい声だ。

「じゃ、じゃあ、3人で……」

 そうして3人で食堂を出ていく際、夏希と零が由紀奈には聞こえないように術を使ってこっそりと、

「葵よりは上手いぜ……葵よりはな……」
「彼女が急降下したら、1人は地上に降りて様子を見てくださいね……」

 掠れた声でそう呟いた。おかげで対処法はわかったが、不安要素が増えた。始まる前からもう怖い。和馬だけが、2人の言葉にしっかりと頷いた。











 「家」を出ると、由紀奈は紙に文字を書いて、魔力を流した。体がゆっくりと浮かび上がる。心配なのか、和馬も彼女のペースに合わせて飛び上がった。天音は目を閉じて、空を飛ぶ姿をイメージしながら固有魔導を発動させる。

「やっぱり、空を飛ぶのは魔導師の憧れだよね!」
「そうだね。私もそうだったよ」
「わかります。俺もそうでした。免許取るまで苦労しましたよ」
「私は最初箒無いと安定しませんでしたよ」
「あれはあれで素敵だったよ!」

 由紀奈が落ちないようにしっかりと見ながら、3人は空での会話を楽しんだ。ふらつきはあるものの、由紀奈の飛行がさほど問題なかったからできたことだ。本当に、急降下さえしなければ大丈夫なのだろう。そう安心したとき、強めの風が吹いてきて、由紀奈がバランスを崩した。

「うわあああああ!」

 本人より先に叫んだのは和馬だった。叫びながらも由紀奈に浮遊の術をかけているあたり、流石である。

「あ、あはは……すみません」
「びっくりしましたよおおおおお!」
「私は今山口さんにびっくりしてます」

 あ、この人こんなに大声出せたんだ、という驚きが勝った。一周回って冷静ですらある。

「風が吹いた時って、バランス保つの難しいですね……」
「そこは慣れですけど! もう本当にびっくりしましたよ! 今日はもうやめです、やめ!」

 怖くなったのか、和馬は地上に降りるまで由紀奈の手を放さずに繋いでいた。

「慣れるまでは誰かと一緒に飛んでくださいね!」
「は、はい、すみません……」

 和馬はそう言うと、食堂へ戻っていった。恐らく、夏希に明日の配置について意見を言うのだろう。言わなくても、あの様子なら夏希は由紀奈を飛ばせたりしないとは思うのだが。

「まだまだだね、私……」
「そんなことないよ。補助具無しで合格してる時点で凄いよ」
「うーん……」

 少し落ち込み始めた由紀奈を見て、天音は話題を変えようと、適当な話を振った。

「きょ、今日のご飯なんだろうね。最近スパイスの香りするし、山口さん何か仕込んでるのかな」
「……え? スパイス?」

 きょとんとした顔で由紀奈が繰り返した。話題が急すぎただろうか。上手く話を続けようと考えていると、由紀奈が不思議そうに言った。

「山口さんの魔力の、スパイスみたいな香りはするけど。それ以外はしないよ? 天音ちゃん、色で魔力が見えるタイプだよね?」
「あ、あれ? 気のせい……?」
「天音ちゃん、カレー食べたいの?」
「まあ最近食べてないし……どっちかって言うと食べたい、かな」
「食べたすぎて勘違いしちゃった?」
「うーん、そうかも」

 前にも同じようなことがあった気がする。天音はそう思いながらも、気のせいかと呟いて歩き出した。
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