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新人魔導師、3回目の発掘調査に参加する

7月1日、第3回発掘調査の日

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 ついに発掘調査当日となった。副所長である夏希の誕生日を迎えたとも言える。帰ったら彼女の好物でいっぱいの食卓と、祝うために張り切る零が見られることだろう。

 天音は前回、前々回よりはゆっくりと眠ることができた。体も心も慣れてきたようで、さほど緊張もしていない。由紀奈も、前回に比べればマシだ。

 とは言え、朝に弱い人物が多い第5研究所。まだ天音と由紀奈、そして和馬以外は食堂に現れていない。零は大抵、夏希を起こすのに忙しくてなかなか出てこないらしい。半分は起こすというより寝顔を見てるだけ、と透が言っていた。当の本人は、葵が遅刻しそうなときは、自身も朝が強くないというのに上司を起こすためにひたすら部屋の扉をノックしている。一応、女子寮のようになっている地下4階だが、あまりにも葵が起きないときは、彼は入ってもいいことになっている。今日も起こしに行くかもしれない。

「ねえ、今日行く遺跡ってどんな感じ?」

 やや緊張した面持ちの由紀奈が質問してきた。県内丙種遺跡を発掘していたころ、彼女は「白の十一天」に囚われていたのだ。天音にとっては行ったことのある場所でも、彼女は不安だろう。

「地下にあった遺跡だったよ。副所長が地面吹き飛ばしたからもう地上みたいなものだけど」
「ふ、吹き飛ばしたんだ……」
「凄かったよ。遺跡は傷つけずに、土だけ飛ばしてたの。あれだけの魔力量なのにあんなに細かく調整できるなんて、流石だと思った」
「そ、そうなんだ」
「で、ええと、遺跡は……かなり新しい時代のもので、科学技術の発展で追いやられた魔法使いが隠れ家として作った場所……だったかな。古くて200年くらい前の、他の研究所じゃ調査しないようなところらしいの。石板とか装飾品とか、資料があることはわかってるんだけど、途中で襲撃されちゃって……」

 もう少し調査できれば、何か手がかりが掴めたかもしれない。天音としても、第1回発掘調査は悔しいものだった。研究テーマが決まった今、もう1度行ってみれば見方が変わるかもしれないという思いがある。

「今回は何もないといいね」
「それは多分大丈夫。和泉さんや早乙女さんもいるし。高木さんも、成功するって言ってるから」

 夏希が信じる彼女たちなら、きっと大丈夫。ここでの生活で、天音はそのことがわかっていた。

 ただ、気がかりなのが―

〈第3回発掘調査は成功するだろう……だが、その後、真実を知り、『黒を纏う者』は深い悲しみに襲われるだろう……〉

 美織の詩的で意味深なこの言葉。これが意味することはわからないが、成功の代償に何かが起こるのだと、天音はそう捉えていた。

 だが、あえてそのことは誰にも言わなかった。零は知っているかもしれないが、他の研究員たちは知らないようだった。夏希が「言わない」ことを選択するのならば、天音はそれに従う。そうすべきだと、自分がそう判断するからこそ、夏希は予言を全て聞かせてくれたのだと、天音は思っている。

「その人たち……お役人さんっていうのは聞いたけど、強いのかな」
「副所長が信頼してるくらいだし、強いんじゃない?」
「副所長さんより?」
「……それは……どうだろう……」
「所長さんくらいだよね、そんな人」

 あんなに強い人間が何人もいたら世界が滅びそうだ。流石に夏希ほどとは言わないが、2人ともかなりの実力者なのだろうとは思う。

「って言うか、早乙女さんって人は厳しいんでしょ……私、怒られたりして……」

 表向き、出世のためなら手段を選ばないことになっている秋楽について、天音は本来の性格には触れず、第一印象のまま伝えておいた。嫌がらせではなく、夏希のためである。彼が夏希側の人物だとバレてしまえば、夏希は今のように動くことができなくなってしまう。由紀奈を信じていないわけではないが、何処かに漏れてしまう可能性は潰しておきたい。

「大丈夫だよ、調査で忙しいだろうから、そんなことしてきたりしないでしょ」
「そ、そうだよね!」
「そうそう、それに怒られるようなこと、由紀奈ちゃんがするわけないし」

 少し嫌味っぽい言い方はするが、基本秋楽は善人なので意味もなく怒鳴ったりはしない。というか、彼が怒っているところをほとんど見たことがないと夏希が言っていた。ほとんど、というのが気になるところである。何があったか気になるが、流石にそこまでは聞けなかった。

 会話が終わりかけたころ、ふわりとパンを焼くような香りがした。時計を見ると、朝食の時間になっている。

「あ、そろそろ朝ごはんかな」
「そうだね」

 和馬を手伝うため、1度会話を止めて立ち上がった。

 焼きたてのパンのような香りがしたというのに、その日の朝食は何故か和食だった。最近、鼻の調子がよくないのかもしれない。調査が終わったら雅に診てもらおう、と天音は配膳をしながら考えた。
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