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新人魔導師、3回目の発掘調査に参加する
同日、占い師が来た時
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指名手配されたはずの美織が何故ここにいるのか。天音は淹れた茶を差し出しながらも、彼女を注意深く見つめていた。天音は夏希ほど彼女のことを知らない。美織が無実だと断定できるほどの信頼関係を築けていない。怪しむのも当然だった。
「よぉ。どうやって来たんだ?」
「『幸運なことに』、誰にも会わなかったから。普通に歩いてきたよ」
「固有魔導サマサマだな」
「本当にね」
どうやら、自身の運気を最大限まで上げて見つからないようにしていたようだ。
今の美織は、以前見た占い師の姿ではなく普段着だった。店での彼女の姿しか知らなかったら気づかないかもしれない。
「大事なことを伝えに来たの」
「そうか」
「今指名手配されててー」
「軽いな」
今ちょっと手が放せなくて、程度の軽さで言われた。夏希が笑っている。
「襲撃されたんだけど、倒しちゃったからかな」
「争った形跡はなかったとうかがいましたが」
「うん。全員『運悪く』転んで頭ぶつけて気絶しちゃったからね」
昨日のことだったという。店に「白の十一天」の構成員が現れた。全員、美織をただの占い師だと思い込んでいたせいか、魔導を使える者は1人もおらず、銃や剣で武装したものばかりだった。美織は彼らに固有魔導をかけて運気を下げ、攻撃される前に気絶させた。そうして、荷物を纏めて逃げてきたのだ。
「流石に指名手配までされるとは思わなかったよ」
「大変だな。行くトコはあるのか?」
「うん。大丈夫。そこは安心して」
和やかに話す3人だが、天音は一言も話さずに、ただじっと美織を見つめていた。もし彼女が本当に裏切っていて、夏希たちに危害を加えるようならば容赦はしない。天音の右手は、いつでも術を発動させられるように空いたままだった。
「それで、大事な話とは?」
「そうそう、忘れるところだった」
美織は持ってきていた鞄の中から水晶玉を取り出した。どうやって持ってきていたのか、その鞄のサイズでは入らないのではないか、などとツッコミどころが多かった。
「本当の裏切り者は誰か、占ってみたんだ」
「待ってください!」
そこで、天音は初めて口を開いた。
彼女の占いの腕は確かだ。ただ、必ず真実を伝えているとは限らない。第5研究所について占うことで、「白の十一天」に情報を流しているのかもしれない。
「高木さんが本当に私たちの味方かどうかわからない今、その言葉を信じることはできません!」
「天音」
鋭い声が夏希から発せられた。怒っているというよりは、咎めるような口調だ。
「お前が美織を信じないのは好きにしろ。けど、本人の目の前で言うコトじゃねぇだろ」
「ですが! 副所長は高木さんを信じすぎているように思います!」
「ちゃんと理由がある。美織が本当に『白の十一天』で、あたしたちを殺そうとしてるなら、もう何年も前から機会があった。なのにあたしはこうして生きてる」
「それが作戦かもしれません!」
「機会を逃すのにか? あたしは基本ここから出られねぇ。美織の店によるのは、殺す絶好のチャンスだろ」
「ですが……」
「もういいよ」
天音を止めたのは、意外にも美織だった。怒った様子はなく、静かに天音を見つめている。
「夏希、信じてくれてありがとう。それと、天音さん。夏希たちを大切に思ってくれて、ありがとう」
夏希たちを思うからこそ、自身に対し疑いの目を向けているのだと、美織は理解していた。彼女にとっても夏希たちは大切な人たちだ。例え、上司と部下であった時間がほんの1分だけだったとしても。美織にとって、一生かけても返しきれないほどの恩が、夏希にはあった。
「そうやって疑うことももちろん大事。でも言わせて。私は自分の利き手である右手に、さらにはこの水晶玉にも誓って、裏切ってないよ」
「……お話は、聞きます」
利き手に誓われては、これ以上疑いづらい。おまけに占術を得意とする美織が水晶玉にまで誓っているのだから、その誓いはより強いものとなる。
「ありがとう。それで、話だけど」
「あぁ」
「第5研究所にも、ここに関わる役人にも裏切り者はいない。いるのは……」
美織は水晶玉を覗き込んだ。天音には靄のようにしか見えないが、美織には様々なものが見えているのだろう。
「第2研究所。そこに裏切り者はいる……研究発表会で、夏希に近づいてくる……その者こそが裏切り者であり、占術魔導の使い手……」
「他には視えないか? あそこは陰陽寮のあった場所だ。占星術だの卜占だの、占術魔導の使い手が多すぎる」
「……体型からして女……占術魔導だけじゃなくて、妨害の術も得意としている……ダメ、視えなくなった」
「そうか。ありがとな」
「それだけわかれば絞れますね。第2研究所は男性の方が多いので」
「むさくるしいよな」
「こら」
零が叱るように言うが、声が甘すぎて叱れていない。お説教よりも、「妻が可愛い」が優先されている。
「それじゃあ、伝えられたし私は行くよ。長居してバレて、夏希たちまで疑われるのは嫌だし」
「今、あたしらは運気アップのお守り持ちだぜ? そうそう疑われたりしねぇよ。あたしや零は疑われる理由ありすぎて無理かもしんねぇけど」
「だから心配なんだよ」
美織は荷物を持って席を立った。銀色の魔力が彼女を包む。固有魔導と、瞬間移動の術の同時発動だ。それだけで、彼女の強さがわかる。
「またね」
「あぁ」
「ええ、また」
「さよなら」は言わずに、美織は姿を消した。
「よぉ。どうやって来たんだ?」
「『幸運なことに』、誰にも会わなかったから。普通に歩いてきたよ」
「固有魔導サマサマだな」
「本当にね」
どうやら、自身の運気を最大限まで上げて見つからないようにしていたようだ。
今の美織は、以前見た占い師の姿ではなく普段着だった。店での彼女の姿しか知らなかったら気づかないかもしれない。
「大事なことを伝えに来たの」
「そうか」
「今指名手配されててー」
「軽いな」
今ちょっと手が放せなくて、程度の軽さで言われた。夏希が笑っている。
「襲撃されたんだけど、倒しちゃったからかな」
「争った形跡はなかったとうかがいましたが」
「うん。全員『運悪く』転んで頭ぶつけて気絶しちゃったからね」
昨日のことだったという。店に「白の十一天」の構成員が現れた。全員、美織をただの占い師だと思い込んでいたせいか、魔導を使える者は1人もおらず、銃や剣で武装したものばかりだった。美織は彼らに固有魔導をかけて運気を下げ、攻撃される前に気絶させた。そうして、荷物を纏めて逃げてきたのだ。
「流石に指名手配までされるとは思わなかったよ」
「大変だな。行くトコはあるのか?」
「うん。大丈夫。そこは安心して」
和やかに話す3人だが、天音は一言も話さずに、ただじっと美織を見つめていた。もし彼女が本当に裏切っていて、夏希たちに危害を加えるようならば容赦はしない。天音の右手は、いつでも術を発動させられるように空いたままだった。
「それで、大事な話とは?」
「そうそう、忘れるところだった」
美織は持ってきていた鞄の中から水晶玉を取り出した。どうやって持ってきていたのか、その鞄のサイズでは入らないのではないか、などとツッコミどころが多かった。
「本当の裏切り者は誰か、占ってみたんだ」
「待ってください!」
そこで、天音は初めて口を開いた。
彼女の占いの腕は確かだ。ただ、必ず真実を伝えているとは限らない。第5研究所について占うことで、「白の十一天」に情報を流しているのかもしれない。
「高木さんが本当に私たちの味方かどうかわからない今、その言葉を信じることはできません!」
「天音」
鋭い声が夏希から発せられた。怒っているというよりは、咎めるような口調だ。
「お前が美織を信じないのは好きにしろ。けど、本人の目の前で言うコトじゃねぇだろ」
「ですが! 副所長は高木さんを信じすぎているように思います!」
「ちゃんと理由がある。美織が本当に『白の十一天』で、あたしたちを殺そうとしてるなら、もう何年も前から機会があった。なのにあたしはこうして生きてる」
「それが作戦かもしれません!」
「機会を逃すのにか? あたしは基本ここから出られねぇ。美織の店によるのは、殺す絶好のチャンスだろ」
「ですが……」
「もういいよ」
天音を止めたのは、意外にも美織だった。怒った様子はなく、静かに天音を見つめている。
「夏希、信じてくれてありがとう。それと、天音さん。夏希たちを大切に思ってくれて、ありがとう」
夏希たちを思うからこそ、自身に対し疑いの目を向けているのだと、美織は理解していた。彼女にとっても夏希たちは大切な人たちだ。例え、上司と部下であった時間がほんの1分だけだったとしても。美織にとって、一生かけても返しきれないほどの恩が、夏希にはあった。
「そうやって疑うことももちろん大事。でも言わせて。私は自分の利き手である右手に、さらにはこの水晶玉にも誓って、裏切ってないよ」
「……お話は、聞きます」
利き手に誓われては、これ以上疑いづらい。おまけに占術を得意とする美織が水晶玉にまで誓っているのだから、その誓いはより強いものとなる。
「ありがとう。それで、話だけど」
「あぁ」
「第5研究所にも、ここに関わる役人にも裏切り者はいない。いるのは……」
美織は水晶玉を覗き込んだ。天音には靄のようにしか見えないが、美織には様々なものが見えているのだろう。
「第2研究所。そこに裏切り者はいる……研究発表会で、夏希に近づいてくる……その者こそが裏切り者であり、占術魔導の使い手……」
「他には視えないか? あそこは陰陽寮のあった場所だ。占星術だの卜占だの、占術魔導の使い手が多すぎる」
「……体型からして女……占術魔導だけじゃなくて、妨害の術も得意としている……ダメ、視えなくなった」
「そうか。ありがとな」
「それだけわかれば絞れますね。第2研究所は男性の方が多いので」
「むさくるしいよな」
「こら」
零が叱るように言うが、声が甘すぎて叱れていない。お説教よりも、「妻が可愛い」が優先されている。
「それじゃあ、伝えられたし私は行くよ。長居してバレて、夏希たちまで疑われるのは嫌だし」
「今、あたしらは運気アップのお守り持ちだぜ? そうそう疑われたりしねぇよ。あたしや零は疑われる理由ありすぎて無理かもしんねぇけど」
「だから心配なんだよ」
美織は荷物を持って席を立った。銀色の魔力が彼女を包む。固有魔導と、瞬間移動の術の同時発動だ。それだけで、彼女の強さがわかる。
「またね」
「あぁ」
「ええ、また」
「さよなら」は言わずに、美織は姿を消した。
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