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新人魔導師、3回目の発掘調査に参加する

同日、占い師が帰った時

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 天音はまだ美織を信じきれずにいた。1人減ったテーブルの上には、まだ湯気の立っているカップが並んでいる。まだ熱いそれに息を吹きかけて冷まし、夏希はカップを傾けていた。

「副所長、あの予言を信じるんですか?」
「あぁ」

 悩むことなく夏希ははっきりと口にする。信じない、という選択肢は最初からないようだ。

「私は……まだ信じられません」

 今最も怪しいのは美織だ。それは、天音だけでなく、虎太郎も同じ意見だろう。それなのに、夏希は彼女を少しも疑うことはなかった。思慮深い夏希のすることとは思えない。そう考えていると、夏希はニヤリと笑った。

「なんだ、嫉妬か?」
「え? 嫉妬、ですか? どういう意味ですか?」

 予想外の言葉に、思わず聞き返す。嫉妬、と彼女は言った。そう思う理由がさっぱりわからない。

「自分より美織の方が信じられてるみたいで悔しいんだろ」
「なっ……」

 否定しきれない自分がいた。顔を赤くする天音を、零と夏希が愉快そうに見ている。

「美織を信じるのは、さっき言った理由もあるが……そうだな、強いて言うなら、アイツは団体行動だのルールだのは嫌いなタイプだが、魔導は大好きな人間だからだ。ここじゃやってけないってなったときも、他の仕事は選ばずに、占術魔導を使って占い師になるコトを決めた。魔導を嫌ってたり、あたしたちを殺そうとしたりしてるんならあり得ない話だろ?」
「それはそうですけど……だからと言って絶対的に信じられるわけではないですし……」

 それでも完全に信じることは難しい。自分が疑い深いだけなのか、はたまたただの嫉妬で信じたくないだけなのか。そのどちらでもあるような気がする。

「安心しろよ。あたしは天音のコトも信じてる」
「そっ、そう言えば高木さんのことを信じるわけではないです!」

 ちょっと、いや本音を言えばだいぶ心が揺れ動いたが、だからと言って意見を変えるつもりはない。

「ならちゃーんと発表会に出て裏切り者がいないか確認しないとなぁ?」
「ぐっ……」

 返す言葉もない。天音は喉の奥に何か詰まったような音を出した。夏希の掌の上で踊らされているような気持ちだ。

「でも……もし高木さんが本当に裏切っていたら、発表会に行くのは無駄になってしまうのでは?」

 研究員たちは喜んでいたものの、本来の目的は美織の疑いを晴らし、真犯人を見つけること。もし美織が犯人だった場合、研究発表会に出席するだけになってしまう。

「少なくとも、ウチがもう弱小とは言えないってのがわかるだろ」
「そうですね。賞金はいただきです。増えた予算で何をしましょうかね」
「わ、私みたいなのが出るのにですか!?」
「大丈夫だろ、お前なら」

 全面的に信頼されているとわかって、胸が熱くなった。と同時に、とてつもない不安に襲われる。

「固有魔導の特訓に語学学習、研究発表会の準備……じ、時間が足りない……」
「いや前2つは休めよ」
「これもワーカホリックに入るんでしょうか?」

 清水夫妻が、理解できないものを見る目をしていた。

「だって、私まだできないことが多すぎるんですよ! 論文も書いたことないですし!」
「まだそこまでじゃなくていいんだよ、新人は皆そうなんだよ」
「プレゼンとか学校で少しやったくらいですよ! せいぜい40人くらいの前で、5分間話すだけでも緊張したのに……全研究所が集まると300人くらいですよね?」
「んー……」

 夏希は宙を見上げ、眉を顰めた。おおよその人数を計算している。

「辞めてく人数もある程度いるしな……」
「でもまあ、それくらいだと考えていただければよいのでは?」
「1学年分くらい……」

 生徒会演説よりはマシ、ということがわかったが、それでも不安なのは変わらない。相手は高校生ではなく、一流の魔導考古学研究員なのだ。

「お前、忘れてないか? あたしらを頼っていいんだ。もちろん、雅や透も。手が空いてたら、他のヤツらだっていい。なんでも1人でやろうとするな。潰れるぞ」
「それは……そうなんですけど……」

 頼る、というのも一種の才能なのではないかと天音は思った。どう声をかけたらいいのか、どうお願いしたらいいのか。何も思いついていない状況で頼ってしまったら、相手を困らせてしまうかもしれない。そんな事ばかり考えてしまう。

「ま、まずは自分の発表の大まかな方向を決めていこうぜ。今の『旧ファンタジージャンルにおける魔法及び魔法使いについて』はまだ大きなテーマだ。その中から、今回やりたいコトを決めてみろ。それについて詳しく調べていけばいい」
「やりたいこと……」

 やりたいことはある。けれど、それを切り出して形にするというのが、どうしても上手くいかない。考えすぎて俯いてしまったとき、自身の魔導衣が視界に入った。

「あ!」
「どうしました?」

 突然声を上げた天音に、零が首を傾げた。

「なんとなく、決まった気がします! すみません、失礼します!」

 ローブの裾をはためかせながら、天音は走り出した。目指すは地下1階、ラボである。
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