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新人魔導師、発表会に参加する
9月14日、発表3日目
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そうして迎えた3日目。天音は会場内を1人歩いていた。開始までまだ時間がある。前方の席を取ろうとしていたとき、視界に長く黒い何かが過った。
「十二単……?」
長い裾と黒髪を翻しながら、1人の女性がこちらへやって来た。その容姿に見覚えがある。確か、講評役として座っていた女性だ。あんな魔導衣を着ていたんだ、と小さく呟いた。
「……未知なる星の子よ」
「はい? わ、私でしょうか」
不思議な呼び方をされた。思わず身構えてしまう。この人、変人の匂いがする!
第5研究所で鍛え上げられた天音の直感がそう言っていた。
「輝夜」
「ああ……破壊の星の子……」
「お前がそんな風に呼ぶからあたしに変な二つ名がついたんだ」
溜息を吐きながら、天音と女性の間に立ったのは夏希だった。猫をかぶっていない、普段どおりの口調で話している。
「コイツが『星視の輝夜』。第2研究所の副所長。輝夜、ウチの研究員を怖がらせるな。ただえさえ、お前何言ってんのかよくわかんねぇんだから」
「視たことのない星の並び……」
「初めまして、だと」
輝夜の言葉を訳す夏希。同じ言葉を使っているはずなのに会話が成立しない。夏希や葵が言っていたのはそういうことか、と納得した。これは説明のしようがない。
「……再生の星の子」
「は?」
今のは夏希でもよくわからなかったらしい。首を傾げて考え込んでいる。
「生まれ行く……再び、この世に現れる……」
「っ!?」
天音の固有魔導について語っているように思えたのは気のせいか。いや、そうではないようだ。夏希は表情こそ変わっていないものの、やや体に力が入っているように見えた。
「破壊の星の子よ、どうか……」
輝夜が夏希の手を取って、何かを言いかけた。その時である。
「副所長」
聞き慣れない声がした。輝夜がゆっくりと顔を上げる。今のは夏希ではなく、彼女にかけられた声だった。
「所長がお呼びです」
教本に載っていたのと同じ魔導衣を身に纏った、気の強そうな顔の女性が立っていた。夏希と天音をちらりと見る。が、会釈すらしない。仮にも他の研究所の副所長がいると言うのに、その態度はいかがなものかと天音は眉をひそめた。
「……しかし」
「そんな弱小研究所の副所長と新人を相手にするだけ、時間の無駄です」
「ひどーい!」
一瞬で猫をかぶった夏希が、口元に拳を当て、上目遣いをしながら言った。変わり身の早さに舌を巻く。
「行きましょう、副所長」
「……では、また」
強引に腕を引く部下に連れられて、輝夜は去っていった。
「なんですか、あれ。感じ悪いです」
「……そうだな」
夏希も苛立っているのか、拳を握ったままだった。力は入っていないので、少し気分を害した程度のようだ。
「天音、今日はどうする?」
「……その。人を探すために、発表を全部聞いてみようと思っています」
「そうか」
低い声で応じると、彼女は周囲を見渡した。人が集まりだしている。口角を上げて可愛らしい表情を作り、
「あたしあっちにいるから。何かあったら教えてね」
同じ人物の声とは思えないほどの甘く高い声を出して、席に向かって行った。
「天音ちゃん!」
「由紀奈ちゃん。あれ、武村さんは?」
「先生は占術に興味はないって行っちゃった」
「第2研究所は多いもんね」
リストを眺め、天音は頷いた。第2研究所は陰陽寮のあった旧都に位置する研究所なだけあって、いわゆる陰陽師の使う術のような魔導研究がほとんどだ。
「由紀奈ちゃんは興味あるの?」
「うーん、実はあんまり。天音ちゃんが入っていくのが見えたからついてきちゃった」
「まあ、興味を持つきっかけになるかもしれないし……聞いてみようか」
「うん」
第2研究所、総数9名の発表。内8名が本日中、最後の1人は明日にまわされる。その中に裏切り者がいるのだろうか。
楽しそうにしている由紀奈とは異なり、天音は不安でいっぱいだった。もし、誰も裏切っていなかったら……すなわち美織が裏切り者だということだ。彼女を信じている夏希は、酷く悲しむに違いない。
「それでは、第2研究所の発表を始めます。まずは、『古典文学と魔導文字』について……」
発表を聞いている間、天音はメモをとりながらも注意深く発表者を見つめていた。最初の人物は占術以外をテーマに選んでいる。対象から外していいだろう。
2番目、3番目も占術というよりは陰陽師についての発表だった。4番目、『魔法使いと陰陽師――文字と詠唱――』を発表したのは、先ほど輝夜を呼びに来た女性で、堂々とした態度で話していた。わかりやすい発表だと感じたが、夏希はあまりお気に召さなかったらしい。あまりメモをとっていなかった。最終日の講評に差し障るのではないかと心配してしまった。
「続きまして、『占術魔導における道具――西洋との比較――』に移ります」
壇上に現れた女性を、天音はじっと見つめた。彼女が裏切った占術魔導の使い手の可能性は高い。リストによれば、最初と4番目の女性、そして彼女以外全て男性だからだ。美織を信じるならば、犯人は女性のはず。天音はメモをとるのを控えめにして、じっと発表者を見つめた。
その様子を、どこからか見つめる2つの目があったことを、天音は気づいていなかった。
「十二単……?」
長い裾と黒髪を翻しながら、1人の女性がこちらへやって来た。その容姿に見覚えがある。確か、講評役として座っていた女性だ。あんな魔導衣を着ていたんだ、と小さく呟いた。
「……未知なる星の子よ」
「はい? わ、私でしょうか」
不思議な呼び方をされた。思わず身構えてしまう。この人、変人の匂いがする!
第5研究所で鍛え上げられた天音の直感がそう言っていた。
「輝夜」
「ああ……破壊の星の子……」
「お前がそんな風に呼ぶからあたしに変な二つ名がついたんだ」
溜息を吐きながら、天音と女性の間に立ったのは夏希だった。猫をかぶっていない、普段どおりの口調で話している。
「コイツが『星視の輝夜』。第2研究所の副所長。輝夜、ウチの研究員を怖がらせるな。ただえさえ、お前何言ってんのかよくわかんねぇんだから」
「視たことのない星の並び……」
「初めまして、だと」
輝夜の言葉を訳す夏希。同じ言葉を使っているはずなのに会話が成立しない。夏希や葵が言っていたのはそういうことか、と納得した。これは説明のしようがない。
「……再生の星の子」
「は?」
今のは夏希でもよくわからなかったらしい。首を傾げて考え込んでいる。
「生まれ行く……再び、この世に現れる……」
「っ!?」
天音の固有魔導について語っているように思えたのは気のせいか。いや、そうではないようだ。夏希は表情こそ変わっていないものの、やや体に力が入っているように見えた。
「破壊の星の子よ、どうか……」
輝夜が夏希の手を取って、何かを言いかけた。その時である。
「副所長」
聞き慣れない声がした。輝夜がゆっくりと顔を上げる。今のは夏希ではなく、彼女にかけられた声だった。
「所長がお呼びです」
教本に載っていたのと同じ魔導衣を身に纏った、気の強そうな顔の女性が立っていた。夏希と天音をちらりと見る。が、会釈すらしない。仮にも他の研究所の副所長がいると言うのに、その態度はいかがなものかと天音は眉をひそめた。
「……しかし」
「そんな弱小研究所の副所長と新人を相手にするだけ、時間の無駄です」
「ひどーい!」
一瞬で猫をかぶった夏希が、口元に拳を当て、上目遣いをしながら言った。変わり身の早さに舌を巻く。
「行きましょう、副所長」
「……では、また」
強引に腕を引く部下に連れられて、輝夜は去っていった。
「なんですか、あれ。感じ悪いです」
「……そうだな」
夏希も苛立っているのか、拳を握ったままだった。力は入っていないので、少し気分を害した程度のようだ。
「天音、今日はどうする?」
「……その。人を探すために、発表を全部聞いてみようと思っています」
「そうか」
低い声で応じると、彼女は周囲を見渡した。人が集まりだしている。口角を上げて可愛らしい表情を作り、
「あたしあっちにいるから。何かあったら教えてね」
同じ人物の声とは思えないほどの甘く高い声を出して、席に向かって行った。
「天音ちゃん!」
「由紀奈ちゃん。あれ、武村さんは?」
「先生は占術に興味はないって行っちゃった」
「第2研究所は多いもんね」
リストを眺め、天音は頷いた。第2研究所は陰陽寮のあった旧都に位置する研究所なだけあって、いわゆる陰陽師の使う術のような魔導研究がほとんどだ。
「由紀奈ちゃんは興味あるの?」
「うーん、実はあんまり。天音ちゃんが入っていくのが見えたからついてきちゃった」
「まあ、興味を持つきっかけになるかもしれないし……聞いてみようか」
「うん」
第2研究所、総数9名の発表。内8名が本日中、最後の1人は明日にまわされる。その中に裏切り者がいるのだろうか。
楽しそうにしている由紀奈とは異なり、天音は不安でいっぱいだった。もし、誰も裏切っていなかったら……すなわち美織が裏切り者だということだ。彼女を信じている夏希は、酷く悲しむに違いない。
「それでは、第2研究所の発表を始めます。まずは、『古典文学と魔導文字』について……」
発表を聞いている間、天音はメモをとりながらも注意深く発表者を見つめていた。最初の人物は占術以外をテーマに選んでいる。対象から外していいだろう。
2番目、3番目も占術というよりは陰陽師についての発表だった。4番目、『魔法使いと陰陽師――文字と詠唱――』を発表したのは、先ほど輝夜を呼びに来た女性で、堂々とした態度で話していた。わかりやすい発表だと感じたが、夏希はあまりお気に召さなかったらしい。あまりメモをとっていなかった。最終日の講評に差し障るのではないかと心配してしまった。
「続きまして、『占術魔導における道具――西洋との比較――』に移ります」
壇上に現れた女性を、天音はじっと見つめた。彼女が裏切った占術魔導の使い手の可能性は高い。リストによれば、最初と4番目の女性、そして彼女以外全て男性だからだ。美織を信じるならば、犯人は女性のはず。天音はメモをとるのを控えめにして、じっと発表者を見つめた。
その様子を、どこからか見つめる2つの目があったことを、天音は気づいていなかった。
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