【完結】国立第5魔導研究所の研究日誌

九条美香

文字の大きさ
124 / 140
新人魔導師、発表会に参加する

9月13日、発表2日目

しおりを挟む
 2日目、再び第1研究所の発表の日。天音は特に聞きたい発表もなく、休憩スペースにいた。そこには葵もいて、天音に気付くと手を振った。

「あまねんも休憩ッスか?」
「はい」
「まー、第1って言うと、成果主義のお堅いトコッスからね。興味のあるコトより今人気のテーマ、役立つコト、そんなのばっかッス」
「こ、声が大きいですよ!」
「いいんスよ。どーせ自分、『爆発魔』って渾名つけられてる変人なんで」
「副所長とかでなくても、そういう名前がつくんですね……」
「目立つとつくッス。そのうちあまねんもつくんじゃないんスか?」

 葵は置いてあるポットから珈琲を注いだ。天音の分も用意してくれている。礼を言って、1口飲んだ。和馬の淹れてくれるものとは違い、強い酸味がして天音はミルクと砂糖を足した。

「副所長は二つ名を教えてくださらなかったんですけど、北山さんはご存じですか?」
「あー、あのヤベーヤツ」
「と、言いますと?」
「『純白の破壊者』ってヤツッスね」

 思っていたよりも中二病的センスだった。隠したくなるのも当然である。知ってしまった気まずさから、天音は話を変えることにした。

「そういえば、他の方は発表を聞きに行ってるんですか?」
「チビミヤとユッキーはそうッス。昔デカミヤのとき殴った上司の発表聞きに行くって言ってたッスよ。いやあ、いい度胸してるッスよねー」
「武村さんらしいといえばらしいですけど……」

 きっと、難しい質問をして答えられなくなる相手の顔を見に行くのだろう。「わらわに見下される気分はどうじゃ?」という声が聞こえてきそうだ。

「質問のときもあの口調だったらサイコーッスよね」
「流石に副所長に止められると思います」

 夏希は意外と真面目なところがある。猫かぶりのあの口調も、普段のままではふさわしい口調ではないということをわかっているからこそのものだ。あえて普段の口調で周りを挑発するようなこともあるが、根は比較的真面である。あくまで比較的、ではあるが。

「カラシは発表は聞いてないッスけど、会場にはいるッスよ。他の研究所の魔導衣を見に行くらしいッス。ただ、他のトコはお手本どおりのモンばっかでつまんないっぽいッス」

 そのことは天音も薄々気が付いていた。会場を見渡しても、あまり凝った魔導衣を着ている者がいないのだ。講評者として座っていた、所長、副所長クラスの者は個性豊かな魔導衣を纏っていたが、一般の研究員となると、軍服のようなデザインばかりだった。

「まあ、そうそうアイツみたいな変態……拘りが強いヤツはいないッスからね!」
「もう全部言っちゃってますよ」
「きゃはははは!」

 葵は腹を抱えて大笑いした。会場の方に響いていないか、天音は心配になった。ちらりと休憩スペースの外を見る。何の音もしないので、きっと防音の術が使われているはずだ。

「ほ、他の方は?」
「あ、えーと」

 笑いがおさまった葵は、休憩スペースの外を指さした。

「双子は化粧直すって言ってたッス。んで、リトモリはチビミヤと同じく、元上司のツラ拝みに行くって言ってたッスね。グッチーは律儀に発表聞いてるはずッスよ」
「純粋な気持ちで聞いてる人が2人しかいない……」

 和馬と、雅に引きずられながらではあるが真面目に聞いているであろう由紀奈の2人以外、第1研究所の発表に興味がないようだ。講評役の清水夫妻も、義務だから聞いているだけなのはわかっている。

「ウチにそんなヤツがいっぱいいると思うッスか?」
「それもそうですね……」
「ってか、自分はあまねんが聞きに行かなかったのが意外ッス」

 てっきり、全発表聞きに行くと思っていたらしい。葵はやたらと酸っぱい珈琲を飲みながら天音を見つめた。

「……昨日の発表で、ちょっと嫌になってしまいまして」
「ん? あー……夏希が言ってたッス。最初の子、同期なんスよね?」
「はい。その……」
「言わなくてもなんとなくわかるッスよ。そうッスね。嫌にもなるッス。残念なコトに、それが今の社会なんスよね……ウチが例外なだけで、大抵どこもかしこも、魔導先進国のステータス保持のために必死ッス」

 近くに別の研究所の研究員が通ったため、葵はそっと天音の耳元で言った。溜息まで吐いている。

「ま、無理に聞く必要はないッスよ。興味のあるヤツだけ聞いときましょ。明日は聞きに行く予定あるんスか?」
「あ、はい。明日は一応、全部聞こうと思ってます。旧都の魔導は気になりますから」
「そッスか。第2の新副所長キャラ濃いから気を付けるんスよ」
「新副所長?」
「2年前くらいッスかね。カラシがこっちに来てから変わったッス。公平だけどヤバいヤツッス」
「それ、副所長も言ってました……」
「面白いっちゃ面白いッスよ」

 葵は1人笑っている。彼女に「ヤバいヤツ」と言われるとは、一体どんな人物なのだろう。天音は会ってもいないのに怖くなってきた。

「……どんな方ですか?」

 覚悟を決めて質問する。夏希はあまり答えてくれなかったが、葵なら答えてくれるかもしれない。知らないより、知って対策をしておきたいのだ。

「うーん……みおりんより占い師占い師してるというか……人より星を視てるというか……そんなカンジッス」
「占い師占い師してるってなんですか!?」
「会えばわかるッス」

 結局、葵も夏希と同じように「会えばわかる」としか言わなかった。上手くイメージできず、もやもやとしたまま、天音は3日目を迎えるのだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

没落港の整備士男爵 ~「構造解析」スキルで古代設備を修理(レストア)したら、大陸一の物流拠点になり、王家も公爵家も頭が上がらなくなった件~

namisan
ファンタジー
大陸の南西端に位置するベルナ子爵領。 かつては貿易で栄えたこの港町も、今は見る影もない。 海底には土砂が堆積して大型船は入港できず、倉庫街は老朽化し、特産品もない。借金まみれの父と、諦めきった家臣たち。そこにあるのは、緩やかな「死」だけだった。 そんな没落寸前の領地の嫡男、アレン(16歳)に転生した主人公には、前世の記憶があった。 それは、日本で港湾管理者兼エンジニアとして働き、現場で散った「整備士」としての知識。 そして、彼にはもう一つ、この世界で目覚めた特異な能力があった。 対象の構造や欠陥、魔力の流れが設計図のように視えるスキル――【構造解析】。 「壊れているなら、直せばいい。詰まっているなら、通せばいい」 アレンは錆びついた古代の「浚渫(しゅんせつ)ゴーレム」を修理して港を深く掘り直し、魔導冷却庫を「熱交換の最適化」で復活させて、腐るだけだった魚を「最高級の輸出品」へと変えていく。 ドケチな家令ガルシアと予算を巡って戦い、荒くれ者の港湾長ゲンと共に泥にまみれ、没落商会の女主人メリッサと手を組んで販路を開拓する。 やがてその港には、陸・海・空の物流革命が巻き起こる。 揺れない「サスペンション馬車」が貴族の移動を変え、「鮮度抜群の魚介グルメ」が王族の胃袋を掴み、気性の荒いワイバーンを手懐けた「空輸便」が世界を結ぶ。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

処理中です...