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新人魔導師、発表会に参加する
9月12日、発表初日
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「着いたよ」
久しぶりに聞く、夏希の可愛らしい声がした。恭平が、「うわ、鳥肌立った!」と言って足を踏まれている。羨ましそうに見ている零は気にしないことにした。
「開会式して、それから発表。聞きたい人の時間以外はあっちの休憩スペースに行ってね。あたしたちは講評しなきゃだから発表を聞いてるよ。何かあったら呼んでね」
指で示した先には、いくつも椅子が並べられた場所があった。ポットや紙コップなども見える。
「それじゃ、ひとまず自由行動ね」
夏希は零を連れて会場内に入っていく。天音もそれに続いた。第1研究所、最初の発表者である雛乃の発表を聞くためだ。
「天音たちの席はあっちだよ。こっちは講評者用の席だから」
「はい、わかりました」
第5研究所にしては珍しく、全員が早起きできたので、到着も早かった(透が朝から頑張って葵の支度を手伝ったとも言う)。皆、楽しみにしていたのだろう。おかげで前の方の席をとることができた。
講評者用の席は前方にあり、発表者が立つ場所の反対側の壁に沿って並んでいた。長机の前に、それぞれの研究所の数と役職、名前が書かれている。
開会式は、魔導考古学省大臣の話で終わった。魔導の発展や技術の進歩などを延々と語っていて、校長先生の長い話に似ていた。天音は一応聞いてはいたが、夏希の顔には、はっきりと「退屈」と書かれており、さほど聞いていないようだった。
「それでは、第1研究所の発表に移ります」
天音はメモ帳を取り出し、書く準備を始めた。壇上では、第1研究所の担当職員らしき人物が何やら術を使っている。幻像魔導のようだ。
それから少しして、他の研究員に押され、ポニーテールの少女が前に出た。雛乃だ。
「え……」
大声が出そうになって、天音は慌てて口元を押さえた。それもそのはず、目の前に立つ少女は、天音の知る雛乃の姿からかけ離れてしまっていたからだ。
まず、最後に会ったときから随分と痩せた。配属されたときに作られたであろう魔導衣のサイズが合わなくなってしまっている。さらに、いつもきらきらと光が宿っていた瞳はどんよりと陰り、何も映していないように見えた。
「……それでは、発表を始めます」
以前の雛乃とは異なる、暗い声が魔導式のマイクを通して会場に響いた。背後では地図が幻像によって作り出されている。
「魔導師の人口分布についてですが……」
そうして話される内容に、天音は思わずペンを置いてしまった。
(なにこれ……)
内容自体は優れている、と思う。ただ、そこになんの感情も込められていない。誰かに言わされているといった印象だ。ロボットのように、与えられた仕事をこなすだけ。
「……以上で発表を終わります。ご清聴ありがとうございました」
発表が終わり、質疑応答の時間となった。天音は誰よりも目立つようにまっすぐに手を挙げる。司会者が天音を指名すると、勢いよく立ち上がった。
「第5研究所所属、魔導解析師の伊藤天音と申します。素晴らしい発表、ありがとうございました。発表内容について、1点質問があります。魔導師の人口分布について、というテーマでしたが、神崎さんは今後どのように変化するとお考えでしょうか。お聞かせいただけると幸いです」
「……ご質問、ありがとうございます……その点につきましては、首都を中心として発展していくと考えております……」
「……なるほど。先行研究と同じ意見ということですね。ありがとうございます」
天音もかつて、同じテーマにしていた。あのとき、魔導にまるで興味はなかったが、養成学校の教師に勧められて論文を読んだことはある。それとまったく同じ回答だった。要するに、彼女の意見がまるで入っていない。本心から同じ意見だと思っているような口ぶりではなかった。
質疑応答が終わり、休憩時間となった。天音は席を立ち、休憩スペースへと向かう。その途中、そっと肩を叩かれた。
「副所長……」
「いい質問だったと思うよ。ただ……ショックだったでしょ」
「……防音の術とか使って、普段どおりに話していただくことはできませんか?」
「悪かったな、猫かぶりで」
即座に防音の術を使った夏希が普段の低い声を出した。
「ショックでしたよ、あんなに変わって……」
「第1研究所の闇を感じるな」
「……転属とか、できないんでしょうか」
「本人の意志がなきゃ無理だ。多分、そんなコト考える暇もないんだろうな」
「……私とは、真逆でした」
魔導嫌いが、自ら魔導を勉強しようと変わった。反対に、雛乃は魔導を愛していたにもかかわらず、その情熱を失ってしまったように見えた。
「そう気を落とすな。裏切り者を捕まえられれば、『白の十一天』を倒せるかもしれない。んで、そうなったら、ソイツらと繋がってる上層部をぶっ飛ばして、今の研究所のあり方も変えられるかもしれないんだ。お前の同級生が、ホントにやりたいコトをできるような、そんな社会に」
「あ……」
「だから頑張ってみようぜ、天音」
「……はい!」
ニッと笑った夏希に、天音は力強い返事で応えるのだった。
久しぶりに聞く、夏希の可愛らしい声がした。恭平が、「うわ、鳥肌立った!」と言って足を踏まれている。羨ましそうに見ている零は気にしないことにした。
「開会式して、それから発表。聞きたい人の時間以外はあっちの休憩スペースに行ってね。あたしたちは講評しなきゃだから発表を聞いてるよ。何かあったら呼んでね」
指で示した先には、いくつも椅子が並べられた場所があった。ポットや紙コップなども見える。
「それじゃ、ひとまず自由行動ね」
夏希は零を連れて会場内に入っていく。天音もそれに続いた。第1研究所、最初の発表者である雛乃の発表を聞くためだ。
「天音たちの席はあっちだよ。こっちは講評者用の席だから」
「はい、わかりました」
第5研究所にしては珍しく、全員が早起きできたので、到着も早かった(透が朝から頑張って葵の支度を手伝ったとも言う)。皆、楽しみにしていたのだろう。おかげで前の方の席をとることができた。
講評者用の席は前方にあり、発表者が立つ場所の反対側の壁に沿って並んでいた。長机の前に、それぞれの研究所の数と役職、名前が書かれている。
開会式は、魔導考古学省大臣の話で終わった。魔導の発展や技術の進歩などを延々と語っていて、校長先生の長い話に似ていた。天音は一応聞いてはいたが、夏希の顔には、はっきりと「退屈」と書かれており、さほど聞いていないようだった。
「それでは、第1研究所の発表に移ります」
天音はメモ帳を取り出し、書く準備を始めた。壇上では、第1研究所の担当職員らしき人物が何やら術を使っている。幻像魔導のようだ。
それから少しして、他の研究員に押され、ポニーテールの少女が前に出た。雛乃だ。
「え……」
大声が出そうになって、天音は慌てて口元を押さえた。それもそのはず、目の前に立つ少女は、天音の知る雛乃の姿からかけ離れてしまっていたからだ。
まず、最後に会ったときから随分と痩せた。配属されたときに作られたであろう魔導衣のサイズが合わなくなってしまっている。さらに、いつもきらきらと光が宿っていた瞳はどんよりと陰り、何も映していないように見えた。
「……それでは、発表を始めます」
以前の雛乃とは異なる、暗い声が魔導式のマイクを通して会場に響いた。背後では地図が幻像によって作り出されている。
「魔導師の人口分布についてですが……」
そうして話される内容に、天音は思わずペンを置いてしまった。
(なにこれ……)
内容自体は優れている、と思う。ただ、そこになんの感情も込められていない。誰かに言わされているといった印象だ。ロボットのように、与えられた仕事をこなすだけ。
「……以上で発表を終わります。ご清聴ありがとうございました」
発表が終わり、質疑応答の時間となった。天音は誰よりも目立つようにまっすぐに手を挙げる。司会者が天音を指名すると、勢いよく立ち上がった。
「第5研究所所属、魔導解析師の伊藤天音と申します。素晴らしい発表、ありがとうございました。発表内容について、1点質問があります。魔導師の人口分布について、というテーマでしたが、神崎さんは今後どのように変化するとお考えでしょうか。お聞かせいただけると幸いです」
「……ご質問、ありがとうございます……その点につきましては、首都を中心として発展していくと考えております……」
「……なるほど。先行研究と同じ意見ということですね。ありがとうございます」
天音もかつて、同じテーマにしていた。あのとき、魔導にまるで興味はなかったが、養成学校の教師に勧められて論文を読んだことはある。それとまったく同じ回答だった。要するに、彼女の意見がまるで入っていない。本心から同じ意見だと思っているような口ぶりではなかった。
質疑応答が終わり、休憩時間となった。天音は席を立ち、休憩スペースへと向かう。その途中、そっと肩を叩かれた。
「副所長……」
「いい質問だったと思うよ。ただ……ショックだったでしょ」
「……防音の術とか使って、普段どおりに話していただくことはできませんか?」
「悪かったな、猫かぶりで」
即座に防音の術を使った夏希が普段の低い声を出した。
「ショックでしたよ、あんなに変わって……」
「第1研究所の闇を感じるな」
「……転属とか、できないんでしょうか」
「本人の意志がなきゃ無理だ。多分、そんなコト考える暇もないんだろうな」
「……私とは、真逆でした」
魔導嫌いが、自ら魔導を勉強しようと変わった。反対に、雛乃は魔導を愛していたにもかかわらず、その情熱を失ってしまったように見えた。
「そう気を落とすな。裏切り者を捕まえられれば、『白の十一天』を倒せるかもしれない。んで、そうなったら、ソイツらと繋がってる上層部をぶっ飛ばして、今の研究所のあり方も変えられるかもしれないんだ。お前の同級生が、ホントにやりたいコトをできるような、そんな社会に」
「あ……」
「だから頑張ってみようぜ、天音」
「……はい!」
ニッと笑った夏希に、天音は力強い返事で応えるのだった。
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